『冒険の遺伝子は天頂(いただき)へ なぜ人類最高齢で、3度目のエベレストなのか』三浦雄一郎/三浦豪太(祥伝社)
豪太さんによると、「冒険の遺伝子」というものが実際に存在するということだ。この遺伝子をもつ人は、ドーパミン受容体に変異がある。スリルを味わうと、一種の興奮、満足感を呼び覚ます神経物質であるドーパミンが分泌されるのだが、これがきちんと受容されず、長いことドーパミンが出続けるらしい。つまりこの遺伝子をもつと、興奮、愉悦状態が人より長く続く。さて、三浦家の人間にこの遺伝子はあったのか? 答えは否だった。
なんだ、話が終わってしまうではないかと思ったが、すぐに話は三浦家を離れて壮大なものになっていく。冒険の遺伝子は、注意欠陥・他動性障害(ADHD)と密接な関係がある。これもドーパミン受容に異常があるケースだ。教育現場では問題になっているが、そのまま大人になる人は60%もいて、世の中の大人の3%くらいは、このADHDであるらしい。ノースウエスタン大学で興味深い研究がある。アフリカの都会型生活者、放牧型生活者でADHDの人を比較してみると、都会型は、だいたい生活破綻者・厄介者であるのに対し、放牧型は、村のリーダーになっていることが多い。それは何を意味するのか。人類は、このADHD傾向の冒険の遺伝子をもつ人が先導して、何万年もかけてアフリカの大地から、世界各地へと移動したのだろうと結論づける。
「ジェノグラフィック・プロジェクト」という一大プロジェクトがある。IBMとナショナル・ジオグラフィック協会が共同で行っている、人類がどのように世界に広がったかを遺伝子レベルで調査しようというものだ。三浦家の父系の遺伝子をこの調査機関に送って調べてもらったところ(つまり分析するだけのデータがもう蓄積されている)、アフリカからユーラシアに入り、ヒマラヤを越え、チベット高原を抜けて日本にやってきた血筋ということ。そして母系も調べてもらうと、アフリカから中東、ユーラシア南岸を経、さらにインドから、ポリネシア、インドネシアを通り、オーストラリア、最後は島伝いに日本にやってきた血筋だということが判明した。思うに日本人は、大体この2パターンにシベリア経由という3つになるのではないか。
それと関連して興味深いのは、オーストラリアの原住民アボリジニに残る「ソングライン」といわれる、口伝を紹介していたことだ。そうした人類の旅路の記憶が口伝えに現代まで続いている。同じようにネイティブアメリカンにも口伝はあり、ポーラ・アンダーウッドによる『一万年の旅路』に詳しい。それは、火山の噴火や、洪水、ベーリング海峡をいかにして渡ったかなどの恐るべき記録だ。
以上の話は、だいぶ本筋の三浦家の話から脱線してしまっているのだが、非常に興味深く、面白く読めた。しかし、完全に脱線してしまったわけではなく、三浦家の冒険の話もきちんと出てくる。三浦家のなかで冒険といえば、人生いかに生きるべきかの目標と言い換えられるのかもしれない。この本のなかでは、その目標のことを“トキメキ”と呼んで、長寿の一要素に数えている。101歳の天寿をまっとうした敬三さんを例に出し、99歳でモンブラン山系でのスキー滑降、100歳で親子4代によるアメリカでのスキー滑降を果たしたそのバイタリティを称えながら、その根幹には、常に心ときめく次の目標(冒険)を掲げる姿勢があったと説明する。その姿勢を見て、一度は怠惰な生活を送っていた雄一郎さんも、一念発起するのだ。エベレストという目標を見出し、ついには3度も山頂を踏むことになる。
参考:
三浦雄一郎さん、エベレスト出発前の弁
http://blog.goo.ne.jp/aim1122/d/20130706
![]() |
冒険の遺伝子は天頂(いただき)へ |
クリエーター情報なし | |
祥伝社 |