毎日富士山へ行くとは、「恐れ入谷の鬼子母神」。でも読んでいくと、遭難寸前の話が出ていて、さすがは富士山3776m。あなどれません。まだ記憶に新しい、かの片山右京氏のご友人方も強風にテントごと飛ばされて、亡くなられている。この著者も強風にあおられて30mくらい滑落、そして肋骨にヒビが入るという傷を負っている。富士山の場合、風が強くなったら、逃げ場がない。樹林帯はないし、岩場の陰で身をひそめるというわけにもいかない。基本何もない。だからちょっとでも天候悪化が兆したら、登山は即刻やめるに越したことはない。
それにしても、えぐい。タイトルのほのぼの感、にこにこ感は、まずこの遭難事件のところを読むとすべて消し飛んでしまう。極度の濃霧で下山路を見誤り、3合目付近(もっと下か?)まで下ってしまい、日もとっぷりとくれ、道路に出て助けを呼ぶシーンもすごい。
しかしなぜにこんな天気が今いちのときに登ってしまうのだろう。だいたいにおいて、人には「欲望」が備わっていて、それが際限なく高まっていくものだ。この著者も同様に、登りたいという欲望、回数を重ねたいという欲望、すごいと言われたい欲望など、いくつもの欲望の虜になってしまったのだろう。誰しもそうだ。この欲望を振り切って断念するのは、かなりの自制心を求められ難しい。ましてや登山口まで行ってしまったら、なおさらで、後ろ髪をぐいぐい引っ張られるものだ。
欲望とは恐ろしいもので、この著者は富士山の火口にまで降りてしまっている。本の中でもお断りが入っているが、当然禁じられていて、一応知らなかったことになっている。いやはや。しかし、無謀な突撃話ばかりではなく、役に立つ体験話も出ているので、読むとためになることも多い。とはいえ、やはり面白いのは、突撃話だけどね。
一点それはないだろうと引っかかったので、最後に。
高度順化のために、「車の窓を全開にして5合目の登山口まで行くこと(時間にして1時間くらい)」はお勧めと書かれていた。高度順化については、5合目に着いてから30分以上滞在してから出発せよと一般的には言われいる。あくまでも気圧とか空気の薄さに体を慣らすのであって、窓全開では気温に慣らすということではないのだろうか。ん~、気持ちを高ぶらせるという効果もあるか。感度順化。
参考
富士山最新ガイドブック2010年http://blog.goo.ne.jp/aim1122/d/20100802
まいにち富士山 (新潮新書) | |
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