目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

山手線の怪

2016-05-03 | 山雑記

つい先ごろ、『山怪』というベストセラー本を読んだ。読むまでは、実際にあった怖い話をたくさん味わえるだろうと、いやが上にも期待感が高まっていた。もちろん、このブログでとり上げようと思っていたのだが、読了して気が変わった。狐火や人魂の類がやたら多く、短い目撃談を何の検証もなく(なくてもいいのかもしれないが)、書き連ねてしまっているから、なにか同じ話が連続して出てきているような錯覚にとらわれたのだ。冗長な感じがして、だいぶしらけた気分になってしまった。狐にばかされた話まで出てきて、さらにボルテージは下がった。また著者がこれらすべてのケースを、心底事実であると信じているような書きっぷりもまったく賛同できなかった。

極めつけは、不思議でもなんでもないカーナビの怪異話(?)が何話か挿入されていたこと。決定的にこの本を評価できないという思いに至った。カーナビにしたがって、車を走らせたら、山の奥深くに誘導されそうになったというのだが、たんに精度が低く、低機能な旧式カーナビというだけでしょう。私の車にデフォルトで付いているカーナビも似たようなものなので、まったく不思議ではない。

注:ここから先は、完全なネタばらし

唯一すごかったのは、白山の山小屋のエピソード。話はこうだ。登山道整備の作業員たちがその日の仕事を終えて、今宵の宿となる山小屋に向かう。徐々に悪天になっていく中、山小屋にたどりつくと、なんと扉が開かない。なんとか強引にこじ開けて中に入り、助かったと腰を落ち着けてご飯を食べ始めるのだが、やがて鈴のような音が近づいてくることに気づく。雨風でよく聞き取れないが、近づくにつれ、それは修験者や修行僧が使う錫杖だと判明する。近づいてきた錫杖の音は、山小屋の前でぴたりと止まる。中に入れてあげればいいものを、作業員のなかでだれも立ち上がるものはない。すると、錫杖の音が小屋の周りをぐるぐるとまわりだした。作業員たちが硬直していると、ふいに音が途切れ、立ち止まったのかと思いきや、今度は屋根をどんどん激しく踏みつける音とともに錫杖の音が鳴り響く。作業員たちが凍り付いていると、突然、あの固く閉じていたはずの山小屋の扉がバーンと開いた。恐怖と勢いよく吹き込む雨風で誰も顔を上げることができなかったという。

読んでいるときはスリリングで、かなり怖かった。しかしこれって、鈴をつけた飼い猫かもなと後から思ったりした。

前フリが異常に長くなってしまったが、こんな読書体験をしたせいか、山手線で見てしまったものは、本当にこの世のものなのか、自分を信じられなくなってしまった。それを見たのは、5/2(月)である。連休の狭間の出勤日で、有給をとっている人や会社自体がお休みの人もいて、車内はけっこう空いていた。某ターミナル駅で、山手線の車両に乗り込み、優先席付近のつり革につかまった。すると、隣の車両からわざわざ扉を開けて、こちらに移動してくる人がいた。移動してもどうせ座れないよと思っていると、後ろを通る気配がない。あれっと思って振り返ると、車両の連結のところに20代と見える女性が立っていた。なんでそんなところにいるのだろう。

それから何駅か通過し、優先席に座っていた乗客が一人降りた。私は次で降りるので、今さら座るつもりはない。そういえば、さっきの女性は座らないのかと、振り返ると、異様な姿が目に入った。ちょうど連結部のヒダヒダのところに体をすっぽり埋め込んで、顔を伏せ、膝を抱えていた。状況から見て、明らかに先ほどの女性だ。一瞬見てはいけないものを見たような気がした。そして次の瞬間こう思った。この姿は、私以外の人にもちゃんと見えているのだろうか。こんな疑念をもったのは、この『山怪』のせいかもしれない。


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