セカンドライフ 

歳を重ねるのも悪くはない

うるおい塾 朗読講座 ⑧

2016-11-15 | セカンドライフ
  芥川龍之介1892~1927

羅生門
 ある日の暮方の事である。一人の下人ゲニンが、羅生門の下で雨やみを待っていた。
 広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗ニヌリの剥げた、大きな円柱に、蟋蟀キリギリスが一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠イチメガサや揉烏帽子モミエボシが、もう二三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいない。
 何故かと云うと、この二三年、京都には、地震とか辻風ツジカゼとか火事とか饑饉とか云う災いがつづいて起った。そこで洛中のさびれ方は一通りではない。旧記によると、仏像や仏具を打砕いて、その丹ニがついたり、金銀の箔がついたりした木を、路ばたにつみ重ねて、薪タキギの料シロに売っていたと云う事である。洛中がその始末であるから、羅生門の修理などは、元より誰も捨てて顧る者がなかった。するとその荒れ果てたのをよい事にして、狐狸コリが棲すむ。盗人ヌスビトが棲む。とうとうしまいには、引取り手のない死人を、この門へ持って来て、棄てて行くと云う習慣さえ出来た。そこで、日の目が見えなくなると、誰でも気味を悪るがって、この門の近所へは足ぶみをしない事になってしまったのである。
 その代りまた鴉カラスがどこからか、たくさん集って来た。昼間見ると、その鴉が何羽となく輪を描いて、高い鴟尾シビのまわりを啼きながら、飛びまわっている。ことに門の上の空が、夕焼けであかくなる時には、それが胡麻ゴマをまいたようにはっきり見えた。鴉は、勿論、門の上にある死人の肉を、啄ツイバミに来るのである。――もっとも今日は、刻限コクゲンが遅いせいか、一羽も見えない。ただ、所々、崩れかかった、そうしてその崩れ目に長い草のはえた石段の上に、鴉の糞クソが、点々と白くこびりついているのが見える。下人は七段ある石段の一番上の段に、洗いざらした紺の襖アオの尻を据えて、右の頬に出来た、大きな面皰ニキビを気にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めていた


 今日の課題は有名な芥川作品。彼が23歳の東大生の頃の発表した。平安時代の京都が舞台。映画化され主演は三船敏郎&京マチ子。先生はこの作品がお好きな様で「既にDVD化されているので、借りてみて下さい」と笑顔で言われた。
繰り返し、繰り返し読み込み、休憩が有ったかどうかも忘れてしまう程、熱の入った講義だった。一語一語、助詞も抑揚も漏らさずチェックされた。これがしっかり読めれば、朗読は完成です,と。確かに濃い文章であり難しいと思った。
代表作
『羅生門』(1915年) 『鼻』(1916年) 『戯作三昧』(1917年)
『地獄変』(1918年) 『藪の中』(1922年) 『河童』(1927年)
『歯車』(1927年)

[子供]
芥川比呂志(長男)
芥川多加志(次男)
芥川也寸志(三男)

親族
塚本善五郎(義父)
芥川貴之志(孫)
芥川麻実子(孫)
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  ⑨は、詩の朗読  最終回 ⑩は 自分の好きな作品を朗読(何でも可)で仕上げ。