はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

<font size="-3">そうだ、戸田へ行こう。</font>

2005-07-18 00:48:30 | 佐藤雅彦
hedagyokyou静岡県の戸田村(現在は沼津市)に来ています。
知る人ぞ知る、佐藤雅彦氏の故郷です。
昨年出版された佐藤氏の小説「砂浜」の舞台でもあります。
以前は、佐藤氏の故郷には若干の興味があったものの、わざわざ行こうとまでは思っていませんでした。
しかし、この小説を読んでからというもの、どうしても行ってみたくてたまらなくなってしまったのです。
いわば佐藤氏と「砂浜」を辿る旅。
3連休の初めに東京まで出たついで、ここぞとばかりに足を運びました。


実際に訪れてみてわかったのは、小説が戸田村の記憶をじつに忠実に描いているということです。
定期船も、としちゃんが渡船と競争した御浜から大浦への道すじも、海金魚と呼ばれる青い魚の群れも、ロシア水兵のお墓も、御浜の外洋も、牡蠣殻のついたブイも、すべてが小説世界そのままに実在しており、不思議な懐かしさすら感じました。もちろん若干の違いはあります。しかしそれも、きっと時間経過による変化。おそらく、限りなくノンフィクションに近い小説なのでしょう。佐藤氏の戸田村への想いが具象を得ていきいきと甦るような、なんとも言えず暖かな心持ちになりました。
「砂浜」出版時のインタビュー記事で佐藤氏は「御浜の砂は特別で、その砂をイメージした装幀にしてもらった」と述べていました。いったい何が特別なのか、この記事を読んだときにはピンとこなかったのですが、御浜を実際に訪れてみて砂浜を観た瞬間に「!」となりました。たしかに独特の風合いを持った砂質だったのです。即座に「砂浜」の外カバーが頭に浮かびました。
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ところで、宿泊先のご主人がたまたま佐藤氏と同級生だったそうで、ご主人曰く、「小さい頃から頭が良かった」「ここからすぐ近くのところに住んでいた」「あっちのコンビニの名前は佐藤さんが手がけた」等々。貴重な情報を教えていただきました(笑)。
umitakeyamatake02コンビニの看板はさっそく確認。「海竹山竹ストア」という印象的な名前です。看板はあのかわいらしい文字。そしてしっかりロゴキャラクターまで配置している周到さ。控え目ながら佐藤雅彦カラーは存分に発揮されていました(笑)。


今回は造船資料館と深海生物館、御浜の外洋・内海、大浦、宝泉寺、道龍川、戸田小学校、などを巡ったわけなのですが、途中立ち寄った戸田図書館で思わぬ発見がありました。
地元の図書館です。著作本がないかと探してみると、日本文学の棚に紛れるようにしてひっそりと「砂浜」がありました。図書館所蔵書籍の宿命として外カバーは外されています。せっかくなので手にとって開いてみるとそこには・・・・・ なんと、佐藤氏直筆のメッセージがあるではありませんか。
見開きの扉絵、水中眼鏡のイラストがある頁の余白にブルーグレーのインクでこうありました。
「戸田村のみなさんへ
  戸田は 僕にとって どこにも
  かえがたい場所です。
  未来の人たちに こんな素晴らしい
  ところがあったことを 伝えたくて
  この物語を書きました。
     平成十六年八月十五日
       口南にて 佐藤雅彦 」
他でもない、佐藤氏から戸田図書館への寄贈本だったのです。
佐藤氏の心の底にはきっと、ここ、戸田の風景が深く刻み込まれているのでしょう。
遠く離れていても風景は常に共にある、きっとそんな存在なのでしょう。
佐藤氏の戸田への想いがいかに深いかを垣間見たような気がしました。
決してメディアには現れない、そんな佐藤氏の素顔になぜだかむしょうに嬉しくなってしまいました。
何とも形容し難い幸福感という思わぬ収穫があった今回の戸田訪問です。

irihama