はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

<font size="-3">東京経由横浜遠征7/22。</font>

2006-07-22 23:55:17 | アートなど
本日は、東京銀座を経由し、横浜でアート関連の展示を2カ所観て参りました。
まず、銀座の「月光荘」へ。
水彩画材用ちびバッグの使い心地が良かったので、ふだんも使えるサイズのかばんを新調。
リュックにもなる肩掛けタイプを連れ帰りました。
唯一の欠点はA4版サイズの紙が入らないことですが、それを差し引いてもとても便利。
さっそく愛用しています。
これでポケットの無い服を着ることができます(笑)。
ユーモアカードの新作展示があったので、ギャラリーも拝見。
独特のトーンあふれるカードたちにニヤリ。

次に訪れたのは、横浜のみなとみらい21新港地区にある東京藝術大学大学院新港校舎。映像研究科のOPEN STUDIO Vol.2を見るためです。
横浜を舞台にした映像芸術の祭典「ヨコハマEIZONE」とタイアップする形で、催しの期間中にラボの研究成果が作品展示という形で広く一般公開されています。
正直、少々見くびっておりました。観賞時間は1~2時間あれば充分だろうと。
ところが。
フタを開けてみれば大間違い。
非常に『濃い』のです。
研究科を率いる教授陣4名と16名の学生さんたちが、科が開講されてからの3ヶ月間、どのようなことを学び、実践してきたか。授業のコンセプトや概要とともに、その成果としての作品群が惜しげも無く展示されておりました。
まず感心したのが、それぞれの教授の持ち味を活かした授業カリキュラム。
エントランスのギャラリーには、各教授の授業と演習の内容が時系列順に示されており、その概要を知ることができます。
藤幡氏→佐藤氏→桐山氏→桂氏と、順を追って呈示される授業内容は、まるで獣医学でいうところの「基礎→応用→臨床」学習プロセスのように合理的。考え抜かれた構成に納得するやら感心するやら。
その授業で生み出された作品の一部がテーマごとに展示され、中には実際に触れたり体験したりできるものもありました。藤幡氏の担当したメディアアート演習課題と佐藤氏の担当したメディアデザイン演習課題だけでも独特の面白さに満ちた作品が十数作。それに加えて圧巻なのが、桂氏の担当した「インタビュー映像を撮影しエンドユーザーに届ける」という課題。教授4名それぞれにインタビューを行い、それを1教授あたり15分間程度のインタビュー映像として編集したものが実際に公開されていたわけなのですが、そのクオリティが高いのなんの。課題作品であることも忘れて魅入ってしまい、ごくごく普通に教授たちの話を傾聴し、いろいろな感銘を受けてすっかりテンションが上がりきってしまいました。
桐山氏の担当するIT関連課題にも非常に興味をそそられました。GPSとXMLを組み合わせたシステムの持つ可能性にはただただ感心するばかり。他分野での応用も考えられそうで、いろいろと想像が広がってしまいました。
他にも、桐山研究室の中が公開されていたり、授業の様子を紹介した映像があったりと、大学院の一端を窺い知れるようなコーナーも。総じてたいへんエキサイティングな、そして、とてもフレンドリーで開放的雰囲気にあふれたラボ公開でした。
メディアアートや面白い物好きな方々には文句無くおすすめです。
加えてICCや佐藤雅彦氏に興味がある方はぜひ足を運ぶべし! と声を大にして言いたいです。
私の場合、展示を余すところなく拝見したところ、結局3時間ほどかかってしまいました。
お出かけの際はぜひ時間に余裕を持ってゆかれることをおすすめします。

今回は本当に良いものを見せていただきました。日程を追加してまで行って良かったと心底思います。
お礼がわり(笑)に、以下憶えている限りの一作一感想+勝手な解釈コメントを。
1 入射角と反射角 : 物理運動の美しさが綺麗に視覚化されていたように思います。
2 音の原理 : いっけん不明な装置ですが、よく構造を見て理解し、さらに体験して驚くことで、強烈な印象を与える作品だと思います。シンプルかつハイクオリティ。すばらしいです。
3 振り子の原理 : 着眼点が非常に面白いと思いました。ただ、実際の映像ではタイムラグが出来てしまうのが唯一かつ最大の弱点ではないかとも思いました。惜しい。ぜひ改良版を見てみたいです。
4 train : 構造の持つ面白さが遺憾なく発揮された小品だと思います。どことなく漂う可愛らしさも微笑ましい。紙と線だけでこれだけの面白さが創出できる事実に勇気づけられた気がしました。
5 太陽と地球 : 視点の変換。鳥肌が立ちました。視点が変わる時のクラクラ感(まさに、コペルニクス的回転の具現化!)もさることながら、月視点のときの星々の軌跡がもう美しくて美しくて。大好きな作品です。
6 mouself : 切り離された要素。不思議な断絶感と同時に妙なユーモアを感じました。私には完全には理解しきれていないかもしれません。
7 台直しカンナ : 論理構造の視覚化。どこか騙されたような気になるのはきっと気のせい?
8 Blank : 純粋に面白いと思いました。あれだけで何なのかがかわかってしまうという事実。人間の認識がいかに上下方向に依存しているかの実例かもしれないと、何となく考えました。
9 指 : これも純粋に面白いと思った作品。音情報で映像選択性がはたらくことに驚きました。音とのシンクロで脳が勝手に映像を抽出してしまうという現象。非常に興味深いです。
10 前のまうしろ : 理解するのに頭の中を一回転させられたような気分になった映像です(笑)。反転の前後ろ。不思議なクラクラ感がありました。
11 Artificial Light : 配置位置が絶妙。驚きとともに目を惹き付けられ、しばらく見入ってしまいました。
12 ノート : 空白と補充。相対的な意味の変化。あらかじめ仕組みは解ってはいるのだけれど、実際に体験することでたしかに新鮮な驚きを味わいました。視覚情報が身体に与える影響について考えさせられました。
13 注視する鏡 : これも、解ってはいるけれど体験するとドキッとする映像だと思います。
14 dropping shadow : 位置情報の対応が醸し出す空気が面白い。なぜだか目が離せなくなりました。
16 風景の窓 : どこにあったのでしょう? 見つけられませんでした。残念。
19 「あ」 は iPod の 「あ」 : 同じく見つけられず。残念。
20 infloat : 文化的な価値・意味もさることながら、「浮遊する情報」のイメージに感動を覚えました。すばらしい技術、すばらしい概念だと思います。
21 ことば事典 : これから求められてゆく情報のフォーマットを呈示されているようで、不思議な感慨を覚えました。
22 パネル展示 : 心拍データを記録したプロジェクトがとても面白いと思いました。生命活動の情報を取り込むことで、データの中に独特の現実感が立ち現れるような気がします。
23 彩・二式 : 分解された色情報が、遠目には混合して元の色に再現するんだなあ、と、本質とは別のところで感心してしまいました。
教授陣のインタビュー映像 : もはや課題作品ということを忘れて見ていました。メッセージ、しっかりと届いていたと思います。
学生のインタビュー映像 : まっすぐだったり微笑ましかったり。「面接で『仲間を捜しに来た』と言って先生たちに爆笑された」と述べていた方のことが忘れられません(笑)。
授業の紹介映像 : こっそりハイクオリティ。小さなモニタで流しておくのがもったいないくらいの内容だと思います。学内の日常を切り取った映像は、見ていてドキドキが止まりませんでした。

ところで、今回拝見したインタビュー映像では先生たちのお話にいろいろ感得するところが大きかったわけですが、私にはとりわけ3つの言葉が心に残りました。
まず、佐藤氏の「本当はつまらないのに笑っているような現状、嘘ばっかりになっている世の中に、納得できる何かを呈示して体制内改革してゆきたい」という趣旨の言葉。ドキッとするほどの真っ当な言葉に思わず感動を覚えました。
二つ目は桐山氏の「各教授が持つ特色を組み合わせるための技術を提供してゆきたい」という趣旨の言葉。確かな技術を持つ者の、自信と謙虚さを兼ね備えた言葉に思えました。技術屋としての我が身を振り返りハッとさせられました。
最後に、藤幡氏の「job と work」をめぐる言葉。jobに追われてworkをリタイヤしてしまった自分のことに思い至り、やはりこれではいけない、と奮い立つような気持ちになりました。
いろいろな、本当にいろいろな意味で良い刺激をもらったOPEN STUDIO Vol.2。私にとっては限りなく貴重な体験だったと思います。

さて、最後にBankARTで開催中のEIZONE参加イベントEIZONE Media ART Marketおよび「地球」展。
EIZONE Media ART Marketは映像作品の販売市です。この会場とZAIMとの共通チケット(500円)で入場することができます。販売市が有料というと違和感を覚えるかもしれませんが、チケットには500円分の商品割引券がついてきますし、「地球」展や別会場の入場料も兼ねていますので、じつはものすごくお得なのです。
また、この会場では同時に「緑陰銀行Bamboo Bank 松本秋則展」という展示も公開されています。これ、竹で作られた不思議な楽器たちが竹林のようにそびえ、ときおり繊細で心地良い音色を響かせるというもの。これが非常に面白い。かしこに休憩スペースもあり、竹林を縫って壁に向かって投影されたプロジェクター映像の陰影をぼおっと見ているだけでも楽しい時間が過ごせました。
2階と3階の「地球」展はごくごくあっさり観てしまいましたが、地球と言語と境(ボーダー)を意識させる映像作品が6点。プライベートに立脚した作品は時間がなくてじっくり観ることができませんでしたが、メディア芸術祭で展示されていた作品と、インタラクティブ要素を加えた地軸操作作品が圧巻で興味を引かれました。
ふたたびArt Marketに戻ると、オープニングパーティーが始まっていて、なんとドリンクと立食形式の軽食が無料でふるまわれていました。私も少々ご相伴にあずかりました。
最後に、児玉裕一氏が関わるクラゲの映像と、山口情報芸術センターの日常カレンダーを購入。
ようやく馬車道を後にしたのは20時近く。都合7時間ほどの、密度の濃~い横浜滞在でした。
肝心のZAIMはまだ未見。あと1日でEIZONEを制覇できるのか不安ではありますが、明日も横浜を満喫しようと思います。