平成5年、一人の暮らしに馴れた頃、
旅先の雑貨店で見つけた、無地の柿渋色の小さな籠、
それが一閑張りとの出会いだった。
妙に作ってみたくなり、いろいろ調べてはみたものの、
当時はこれといった資料も情報も無く、
「古い籠に和紙を張り、表面に柿渋や漆を塗った漆器の一種」
といった説明がせいぜいだった。
そのため、柿渋を求めて奈良の山中に製造元を訪ねたり、
和紙を探して問屋めぐりをしたり、
いくつかの糊を試行錯誤してみたりと、
あれこれ模索の中で作ったのがこの籠。
最初は墨の文字のみで、椿の花は後で入れたもの。
ただ作りたい!という素な想いが感じられて、
ときおり眺めては初心を思い返してみる、
原点ともいえる大切な作品だ。