
昨日は渡らなかった、砂の小道を進んでいく。
イソラ・ベッラは本当に小さい小さい無人島だ。
洞窟が見える島の陸地側の砂浜でひと遊びした。
海を渡る潮風の中、恋人たちが
お互いの心をとろかせるように瞳をうるわせている。
見えないものと感じるものだけで、うっとりと満たされている
カップルの前で、アジアからきた親子がきゃーきゃーと
遊びだしたのだから、たまんないよね。
しばらくしてそのカップルは、諦めたように島を離れていった。
ところで、

若い女性をひょいと持ち上げて、小道と島の間にできた
本の数歩程度の、しかも本当に浅い水たまりを渡っていったのには、
私も娘も感動した。
「イタリアの男性って、キザねえ」
と母は溜息をつく。
「親子かもよ、ママ」
「まさか、親子であんなレッド・パトラーのような抱き上げ方するもんですか。
あ、とても有名な映画でね、「風と共に去りぬ」ていうんだけど、
主人公の女性があんな風に持ち上げられて、階段を上がるシーンがあったのね・・・・、そりゃ、あれは女性の憧れよ・・・・」
と必死で説明している母の横で、
娘は石拾いを始めていた。

あ、そ。
興味ないよね。どうでもいいか、君にとっては
あの臭い芝居じみたことをする男が
あの若い子の恋人だろうと親だろうと・・・・。
映画「グラン・ブルー」と同じ場所で、深いブルーの海に
囲まれた緑が色づく島で、私も娘もかけがいのない時を刻むことが出来た。
今もそれを思い出すだけで、海の中で弾むようにきらめいていた光や、
足の裏にまとわりついた砂のざらついた感じがすっと蘇ってくるのだった。