ダンゴムシを持って

 弟子の家へ遊びに行った。弟子というのは、彼女が中学生だったときに私が彼女の家庭教師をしていたのでそういうふうに呼んでいるけれど、実際のところ、今ではいったいどちらが弟子だかわからない。
 前の日に、何時頃伺えばいいかメールで尋ねたら、お昼ご飯のあと適当に、それでお土産にダンゴムシを持ってきて、という返事があった。
 ダンゴムシというのは冗談かと思うけれど、そうではなくて、弟子は「がまやつ」という名前のヒキガエルを飼っているから、そのエサにするのである。弟子の家の庭では最近あまり捕れないらしいので、ひとつ、がまやつのためにダンゴムシを探してみることにした。
 もっとも、うちの庭もいまの季節はあまりダンゴムシの姿を見ない。寒さのために、土の中にもぐっているのだろう。年末の暖かかった日に草を抜いたときには何匹か見たが、いざ庭に降りて地面を見渡しても、ただしんとしている。
 夏によくダンゴムシが這い回っていた場所や、枯れずに残っているヘビイチゴの根っこのまわりを掘り返して見てみたが、一匹もいない。
 あきらめかけた頃、猫の足が土で汚れないよう庭に敷きつめてある人工芝の隅をめくってみると、その裏に張りついてじっとしている数匹のダンゴムシを見つけた。
 嬉しくなって、つぎつぎ割り箸でつまんで空き瓶に入れた。小さいのもいて、これは大きく育ってからの方がいいかしら、などと思ったけれど、うちでダンゴムシを太らせてもしょうがないので、一緒に瓶に入れた。
 人工芝の裏にはどこにでもいるというわけではなくて、比較的日のよく当たる暖かい場所の下にいるらしかった。寒さが嫌で隠れているのだから、そう考えてみると当然のことかもしれない。
 大小18匹のダンゴムシを捕まえて、弟子の家へ持っていった。
 弟子がさっそくがまやつの飼育箱の中に瓶の中身を開けた。がまやつも半ば冬眠状態で、家代わりの植木鉢の中でじっとしていたが、やがて目の前で動き回るダンゴムシを認めた。
 ぽん、と何かがはじけるような可愛い音がして、一瞬がまやつの舌が見えたと思ったら、もうダンゴムシはいなかった。
がまやつはつぎつぎにダンゴムシを食べた。ヒキガエルがエサを捕る瞬間を見るのははじめてだった。舌が出るときに、ぽんと可愛い音がするというのが意外だった。
 帰り際、弟子がまたダンゴムシ持って来てね、と言うから、庭にダンゴムシが越冬しやすいような筵でも敷いたほうがいいかしらと、半ば本気で思ってしまった。
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