金魚の災難

 金魚の体に数箇所、おできのようなものが出来ているのを見つけたから、塩水浴をさせることにした。それで、一緒に入れていた水草を別の容器に移したから、金魚の姿が丸見えになってしまったらしい。それまでほとんど金魚に注意を払っていなかったふくちゃんが、毎日のように水槽の前に座り込むようになった。
 猫はからだが水に濡れるのを嫌がるとされるけど、遊びとなると話は別らしい。以前みゆちゃんが水を張ったバケツの中にわざとおもちゃを放り込んで、手でかき回して遊んでいたように、ふくちゃんもこの寒い中、金魚の水がめに、ひどいときには二の腕まで濡らして手を突っ込んで遊んでいた。
 その濡れた前足のまま家の中へ駆け込んでくるから、床の上で足を滑らせたりする。濡れた床を雑巾で拭いていたら、今度はその雑巾に飛びついてきた。
 ふくちゃんが水槽に手を突っ込んでいても、まさか金魚に届きはしないだろうとたかをくくっていたのだけれど、あるとき、水の中をのぞいたら、金魚の体が傷だらけになっていて、背びれが破れ、金色の鱗が、何枚も水の底に沈んでいるのが見えた。明らかに、ふくちゃんによるものであるようだった。
 よく引き揚げられなかったものだと思う。傷も致命的なものではなかったようでよかったが、金魚には本当にすまないことをした。毎回、ふくちゃんが水面に顔を覗かせるたびに、恐怖だったに違いない。
 水底に散らばった、美しい鱗がぼんやりと金色に光っているのが、痛々しかった。
 あわてて金網を買ってきて、金魚の水槽にふたをした。ふくちゃんは、しばらくのあいだその上でうろうろして、金網の向こうの金魚ににゃあとか何とか言っていたが、そのうち、もう手が届かないとわかってあきらめたようだった。
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