あき地の向日葵

 近所の四辻の角の家に、大きな木があった。高く伸びた立派な木で、灰色の幹に細かい葉がたくさんついて風にそよそよと揺れた。ソヨゴではないかしらと思っていたけれど、ソヨゴは常緑樹らしく、その木は冬には丸裸になっていたように思うから、違うようである。あまり植木に詳しくないから、結局その木が何の木だったのかわからない。塀際に植えてあったので、敷地からはみ出した高い枝が、横の道路の電信柱の上のほうにまで掛かっていた。
 そのうち、その家は空き家になって、売りに出された。自由気ままに伸びている木はどうなるのだろうと思っていたら、家の管理会社が雇ったのか、植木屋がやってきて、長い梯子を掛けて枝を切り出した。もう切り倒されてしまうのかしらと思ったら、植木屋は電柱にかぶさっている枝だけを切って、帰っていった。少し見た目のバランスは悪くなったけれど、それからも、木は高い葉をさらさらと風にそよがせていた。
 しばらく売り家の看板が掛かっていたけれど、古そうな家で、なかなか買い手がつかないらしく、更地にして売ることに決めたらしい。ある日、重機が運ばれてきて、古家を壊しはじめた。大きな木は、解体現場を覆っているブルーシートの外側にあったから、家だけを潰すのだろうと勝手に思っていた。
 まず家がすっかり片付いて、その次の日。解体業者が引き上げていったあと、その場所は、周りを柵でめぐらされて、何もない、まったくの更地になっていた。そこに大きな木が生えていたという痕跡も何もなかった。あれだけ立派な木に育つには、数十年の月日がかかっただろうに、それがたったの一日で切り倒されてしまうのは、なんとも惜しい気がした。その土地を買う人がいらないと言ってからでも、切るのは遅くないのではないかと残念に思った。
 家が壊されたのが今年の春の終わり頃だったと思うけれど、それからあとも土地は売れなくて、きれいにならされた地面も夏には雑草だらけになった。その雑草に混じって、土地のちょうど真ん中あたりに、数本の向日葵が咲いているのが不思議だった。そこに人が住んでいた時代には、庭の花壇があった場所だったのだろうか。前の年に落ちた種が、ブルドーザーが平らにしていった地面の下で、密かに息づいていたのかもしれない。数本の向日葵は、周りの夏草から身を守るように、寄り添って、かたまり合って咲いていた。
 その向日葵の花も、秋になり、また黒い新しい種を枯れた黄色い花弁の中にたくさん実らせている。
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