怖ろしいカマキリ

 12月に2歳になる次男と、庭でトンボやバッタを探したあと、家の周りをまわってきたら、ガレージの車の向こうに、何かがいるのが見えた。なんとなく不気味なような、どきっとするような感じがして、よく見ると、一瞬木の枝のようにも見えたが、やっぱり生き物で、それは大きな茶色のカマキリだった。長い足の上に仁王立ちになって、ガレージの白いコンクリートの上に、不気味な形の陰がくっきりと落ちていた。まるでSFに出てくるロボットか宇宙船のようだった。
 カマキリは嫌いではない。好戦的なまなざしで睨んでくるといった、どことなく怖いところもあるけれど、かまを手入れする様子は、猫が顔を洗う動作に似ていなくもない気もする。
 虫が好きな次男にぜひ見せてやろうと、まだ庭にいる子供をこっちにおいでと呼んだ。
 ほかの虫ならば、目の前に人が近づくと、逃げるのが普通だろうと思う。ところがカマキリは、三角形の顔を傾けて、身をかがめて自分を見ている子供を見据えると、身体を上下に揺すりながら、じりじりと近づいてきた。それは威嚇しているようでもあり、獲物を狙っているようでもあって、なんとなく怖い気がした。
 そのとき、私は自分の足に止まった蚊を叩いていたのでよく見なかったのだが、子供が突然悲鳴を上げて跳び上がり、横に逃げて、尻餅をついて泣き出した。たぶん、カマキリが飛び掛るような動作を見せたのかもしれない。怖がって泣く次男を抱き上げて、見るとカマキリは、今度は私の方に向かってきた。
 まっすぐ靴に近寄ってくるので、まさかと思いながらもどうするのか見ていたら、よける暇もないほどの、迷いのない素早さでカマキリは私の靴にのぼり、私の足を這い上がってきた。
 カマキリは嫌いではないけれど、あまり掴みたい気もしないから、何かで払おうと手近にあった小枝に手を伸ばしているそのあいだに、カマキリは素早く私の身体から抱っこしている息子の太ももに飛び移り、息子が恐怖の叫び声をあげたので、そうもいっていられず、私はカマキリを手で払った。カマキリは、片方のかまでしつこく息子のズボンの裾しがみつきながらも、とうとう羽を半開きにして足元に落ちた。
 子供だけでなく、正直私も怖かった。それにしても、カマキリがどう頑張ったところで、人間相手に百パーセント勝ち目はないだろうに、何を思って立ち向かってくるのだろう。不思議で、怖い虫である。
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