ふくちゃんのこだわり

 夏が終わったと思わせるような爽やかな秋空が広がったのは、台風が去ったあとの数日だけで、もう9月も半分過ぎたけど、真夏のような暑さがぶり返して、ぎらぎらした雲が浮かんでいる。
 ふくちゃんは、夏のあいだお気に入りだった寝場所に戻った。浴室の前に置いてある脱衣かごである。天然素材のかごなので風通しがいいのかもしれないけれど、ふくちゃんはさらに寝心地を追及して、脱衣かごの上のタオル掛けに掛かっているバスタオルをいつも引っ張りおろし、かごに敷いて眠っている(一番下の段に掛かっている、家長たる夫のバスタオルがいつも犠牲になる)。
 バスタオルがしょっちゅうかごの中に落ちているので、おかしいとは思っていた。もちろん、そういうことをやるのは誰か決まっているから、犯人(犯猫)の目星はついていたけれど、何のためにタオルを引っ張り落とすのかわからず、ただふざけてやっているだけなのかしらと思ってそのままタオル掛けに戻しておいたら、入浴後にそのタオルを使った夫が、鼻がムズムズすると訴えた。猫毛がついていたらしい。なんとなく、話が読めてきた。
 ある日、浴室の横の廊下を通ったら、まさにふくちゃんがタオルに両手を掛けて引きずりおろしているところだった。私を見ると、しまったという顔をして、そのまま向こうへ行ってしまったので、そのときはふくちゃんの真意までわからなかったが、その後、とうとう脱衣かごの中で昼寝をするふくちゃんを発見した。
 少し小さめの四角いかごなので、大きなふくちゃんの身体はかごの形に四角くなって、ぴったりと納まっている。自らタオルを敷き、気持ちよさそうに、無邪気に眠るふくちゃん。写真を撮ろうと思ってカメラを構えたら、それだけでごろごろとのどを鳴らす人(猫)の良さ。そのふくちゃんから平穏を奪ってタオルを取り上げるなんて、とても出来ない。悪いけれどバスタオルはあとで洗濯することにして、私は可愛いふくちゃんの寝顔をしばらく見てから、その場を離れた。
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