先日、児玉宏指揮のブルックナー演奏を聴く機会をもったので書き留めておきたい。
アジアオーケストラウィークとして今年海外(中国、韓国)のオーケストラとともにシリーズ化されていたこの催し。その中で日本からは大阪交響楽団が加わっていたという訳。ホールがオペラシティホールであるということで、時間を作って出向くことにした。個人的にブルックナーをここオペラシティで聴くことが一番響きが良く思い入っているからだ。
さて今回のオケ、大阪交響楽団だが、その前身は大阪シンフォニカ交響楽団として存続していたオーケストラということ。アントンKにとって、大阪のオケとなると、今まではどうしても大フィル(大阪フィルハーモニー交響楽団)しか考えられず、情けないことだが過去から現在まで一度も聴いたことがなかった。朝比奈時代はもちろんだが、大阪にも複数オケがあることはわかっていながら、機会がなく今回が良いきっかけになったとも言える。また同様に指揮者児玉宏氏についても同じことが言える。演奏会の資料等でお名前は認知していたが、中々足を運ぶことはなく来てしまった。
今回、何の指揮者の予備知識もなく聴いた今回のブルックナーの第9番。思いのほか良い演奏に感じたので、大変充実した気持ちになったと同時に、もっと以前からこの児玉氏の演奏を聴いておけばよかったと後悔の念をもってしまったことも事実。そうアントンKを思わせるくらい衝撃的な演奏だったと、今振り返っても考えている。
演奏が開始されまず驚いたのは、冒頭の弦楽器のピアニッシモ(pp)の音の大きいこと!各声部の音のバランスが大きくしっかり音が出ていて安定している。そこに管楽器が加わり、音楽が大きく膨れ上がって行くが、どの声部も音量がかさ上げされているようで、聴いていて重厚でありすごく安定し落ち着いて聴こえたのだ。そしてその後フォルテッシモ(fff)で第一主題が奏されるが、最初の主題提示は、圧倒的でまさにブルックナーの響きであり、この時、かつて聴いた朝比奈の音を思い出してしまった。つまり、朝比奈氏がよく語っていた「譜面に忠実」にということで、全ての声部がフォルテなら、フォルテで演奏するということを実践しているとすぐに感じてしまったのである。これは、楽曲全体に渡る演奏姿勢のようで一貫し、このスタイルが児玉氏の演奏スタイルであり、かつブルックナーに相応しいのかなとも思った。
オーケストラに対して的確に指示を出し、自己主張を明確にしてオケを引っ張る児玉氏の指揮振りにも好感がもてたが、それに喰いついていったオケのメンバーも好演していたように思う。この大阪交響楽団は、メンバーは40~50名と聞いたが、それが事実なら、今回のブルックナー演奏者の大半がトラということになる。確かに弦楽器の奏者が少なくて、音量からすれば理想的とは言えないし、管楽器についても、荒くなるところが散見できたものの、それをまとめ上げた指揮者の児玉氏の力量は素晴らしいものなのかもしれない。
実際全曲を聴き終わって感じたことは、最近一部で耳にする新時代のブルックナー演奏とは反する、本来のブルックナー演奏、響きの世界が展開されていたと言える。演奏自体は、ストレートなものというより、かなり独自に動かしていたし、フレーズをゆっくりまとめたり、演歌調になったりと、かと思えばスケルツォなどは荒々しく奏し、野人ブルックナーを思わせる内容であり、聴きどころも満載だった。
どこかで読んだことだが、もう40年以上ドイツ在住の児玉氏は、ミュンヘンでのオペラ指揮経験からか、今回のような音作りだそうで、これが本当なら、この手の指揮者は今や貴重ではないか。最もドイツ音楽に近い日本人指揮者と言えるかもしれない。2005年から続いたブルックナー全曲演奏も今回の第9番で終わりだそうで、今後の展開に今目が離せないでいる。
2015-10-07
ASIA ORCHESTRA WEEK 2015
リスト 交響詩「オルフェウス」
ワーグナー「ファウスト」序曲
ブルックナー 交響曲第9番 二短調 (ノーヴァク版1951年)