2022年4月8日公開 139分 G
日本一不器用な男・ヤス(阿部寛)は、愛する妻・美佐子(麻生久美子)の妊娠にも上手く喜びを表せない。幼い頃に両親と離別したヤスにとって、“家族”は何よりの憧れだった。時は昭和37年、瀬戸内海に面した備後市。アキラと名付けた息子のためにも、運送業者で懸命に働くヤスだったが、ようやく手にした幸せは、妻の事故死によって脆くも打ち砕かれる。悲しみに沈むヤスだったが、人情に厚い町の人々に叱咤激励され、彼らの温かな手を借りてアキラを育ててゆく。
時は流れ、高校3年生になったアキラ(北村匠海)は、東京の大学を目指し合格を勝ち取る。だが、別居の寂しさを素直に伝えられないヤスは、「一人前になるまで帰って来るな!」とアキラを突き放す。そして昭和63年、久々に再会したヤスと大人になったアキラだったが──。(公式HPより)
重松清の親子の絆を描いた小説の実写映画化作品。監督は「糸」「護られなかった者たちへ」の瀬々敬久。
ヤスとアキラを演じる二人は、共にはっきりした顔立ちがまさに親子のよう このストーリーは記憶にあり、てっきり原作を読んでいたと思っていましたが、どうもTVドラマ(堤さんの方だったかな
)の方を見ていたようです。内容的にはほぼ変わらなかったかな。肉体労働者で感情表現の下手なヤスを阿部さんが好演しています。
素直に感情を表に出せないヤスが、彼なりに精一杯の愛情表現を見せる姿が微笑ましく、姉貴分(実姉ではないのね)のたえ子(薬師丸ひろ子)や幼馴染の照雲(安田顕)に冷やかされてむきになるのも何だか可愛く映ります。出産の際の大騒動もヤスが皆に愛されているからこそです。
「とんびが鷹を生んだ」と周囲が騒ぎ立てる中、穏やかで幸せな日々が過ぎて行きます。しかし、ある雨の日にヤスの仕事場で起きた事故が美沙子を奪っていきます。葬儀の場で、無邪気に振舞うアキラの姿が涙を誘うシーンでした。父子2人の生活が始まりますが、たえ子や照雲・幸恵(大島優子)夫婦、ヤスの同僚たち(尾美としのり、濱田岳、吉岡睦雄)、社長(宇梶剛士)ら町の人々皆が見守り手を差し伸べ、大きな愛情に包まれてアキラは育っていきます。照雲の父で、ヤスにとって父親代わりの存在の薬師院住職海雲(麿 赤兒)が、寒い冬の海で父子にかけた言葉が何とも深かった
物心ついたアキラが母の事故について尋ねた時は、はぐらかしたヤスでしたが、中学生になった時に「お母さんはお父さんをかばって死んだ」と嘘を付きます。本当は幼かったアキラを庇って亡くなっているのですが、息子が真相を知って傷つくことを恐れたのですね。
高校生になったアキラが後輩に理不尽な振る舞いをした時には拳骨が飛びます。仲直りの印にケーキを買ってくるのがまた微笑ましいヤスです。息子に非難されると自分の顔を自分で殴りボコボコになりながら理を説きます。反抗期のアキラもこれには態度を改めることになるんですね。まぁ元々優しい性格の子だものね
赤ん坊の時に別れて以来会ったこともなかった父の病の知らせを受けたヤスは、弟(田中哲司)から父がずっと自分を案じていたことを聞かされます。ヤスの父は、息子を捨てたようになってしまったことを悔やみながら生きてきたようです。弟は父の再婚相手の連れ子なんですね。自分も父親になっているヤスは父へのわだかまりを捨て最期の父子の時を過ごすのです。
地元を離れ東京の大学に進学したいというアキラに、素直に寂しさを伝えられず意固地になる姿はどっちが親やねん!ですが、この頃には既にアキラの方が「大人」な感じです。意地を張りながらも、家を離れるアキラへエールを送るヤスと、敢えて車を止めずに去っていくアキラ。切なさと温かさが交差する場面です。
たえ子が嫁ぎ先に置いてきた娘の泰子(木竜麻生)が母を訪ねてきた時のエピソードも、農家ならではの時代感覚と偏見による苛めという背景を鑑みれば、なかなか泣けるお話ではありますが、今の若者には理解共感できるのかな?とも思いました。
そして昭和63年。大学入学以来、一度も帰って来ないアキラをヤスが訪ねていきます。アキラの勤め先の出版社の守衛(嶋田久作)に止められているところを由美(杏)が通りかかって助け船を出し、編集長(豊原功補)からアキラの入社試験の作文を渡されたヤス。そこにはアキラが亡き海雲から妻の死の真相を知らされていたこと、父への感謝の気持ちが書かれていました。久々の父子の再会はしかし、アキラがバツイチ子持ちで年上の由美と交際していることを告げられ決裂します。これも、今ならそこまで受け入れられないこと?と感じてしまいますが、30年以上前の感覚なら・・・そうだったっけかなぁ??
更に一年後。由美を連れて帰郷したアキラは再びヤスに彼女と結婚すると伝えます。意固地なヤスも、照雲の機転に思わず由美を庇い本音を語ります。祭りの神輿を父子で担ぐ姿に「とんびが鷹を生んだのではなく親子鷹だ!」のセリフが生きてくるシーンです
由美と連れ子の健介とアキラと訪れた海辺は、昔幼いアキラと親子三人で出かけた場所です。ヤスの目に過去の幸せな光景が浮かび、それは現在にリンクしていきます。彼は再び「家族」を手に入れたのです。
時は流れ・・・どうやらヤスの葬儀の準備をしているらしいアキラ一家。健介(井之脇海)と、あの時由美のお腹にいた美月(田辺桃子)が遺影の写真を選んでいます。
破天荒なヤスの人生の終わりは穏やかだったかはともかく幸福だったと感じさせるラストでした。