役職定年
2024年01月02日 | 本
荒木源(著) 角川文庫
金融系人事のエキスパートとしてキャリアを重ねてきた加納英司は、42歳にして大手生命保険会社の永和生命に転職する。「構造改革推進室長」という肩書とともに迎え入れられた加納に与えられた任務は、働かないシニア社員、通称「妖精さん」たちを絶滅させることだった。あらゆる手で追い出しを謀る加納に対抗し、シニア社員は「妖精同盟」なる組織を結成する。社会問題を多様な視点からコミカルに描いた痛快お仕事小説!(内容説明より)
会社勤めと縁がないので「役職定年」という言葉を初めて知りました。😥
役職に定年制を設けることで 人件費を抑え組織内の人事の新陳代謝を促す目的で、組織の活性化や若手の育成を図るために設けられた制度らしいですが、現実にこれまで上司だった人が部下になるので、現場は何かとやりにくいだろうなとは想像できます。😜
一方、役職を離れたシニアたちは、給料も下がってモチベーションが低下、IT化が進んでこれまでの仕事のやり方から大きく変化する現状についていけずに居場所がなくなり、暇を持て余してふらふら歩きまわる「妖精さん」になってしまう図式です。
大手生命保険会社の永和生命もそんな妖精さんを大勢抱えている設定で、常務の三枝は外資系会社から転職した加納を「構造改革推進室長」という肩書で迎え、退職を促す妖精さん退治を命じます。三枝の「妖精さん絶滅」の言葉にかすかな違和感を覚えながらも、彼らの怠惰な姿に接して加納も次第に妖精さん退治に本腰を入れるようになっていきます。
加納の補佐に着いた派遣社員の池端美紀は就職戦線をうまく乗り切れずに派遣に甘んじていて、働かずに給料を搾取しているような妖精さんに悪感情を抱いています。
それとなく退職を促す作戦は妖精さんたちからあっさり無視された加納は、PIPを実行します。PIPとは業務改善計画のことで、特定の従業員に対して目標達成や業務方法の改善を目指すものですが、一方で達成できない時に解雇通告もできます。つまり妖精さんたちに厳しい達成目標を与えて自ら退職に追い込もうというわけ。
これに猛然と反発したのが営業サポート課の毛利基・篠塚明子、人事課の奥地文則、市場運用課の高木誠司、商品開発課の溝口悟の5人で「妖精同盟」を作って対抗するんですね😁 思うように進まない妖精さん対策に失望して池端は会社を辞めてしまいます。加納もハニートラップに引っかかって脅迫を受けます。
初めは給料泥棒のような彼らを苦々しく思いながら加納頑張れ!と読んでいましたが、後半になると様子が変わってきます。
エクセルも使えなかった奥地は仲間に教えて貰って猛勉強して課題をクリアしそうになるのですが、単純なミスに気付いていながら時間切れになるまで教えないという手に引っかかり休職に追い込まれ、篠塚も昔の領収書偽造で窮地に追い込まれます。やり方が汚いぞ!と逆に妖精さんに同情したくなってきます。
ところが、生保レディの竹内ゆかりの顧客に対する不正が発覚したことで事態が変わってきます。呆けた老人を騙して保険に加入させた竹内はロシアの女帝に擬えエカテリーナと呼ばれています。この事件が社長に庇われ揉み消されたと知った池端は、自ら希望して竹内のいる支社に潜入して彼女の尻尾をつかもうとします。会社を辞めている池端ですが、弱者を食い物にする竹内が我慢ならず、加納に協力を申し出たのです。
竹内の取り巻きの一人だった安岡を味方につけて、不正の現場を押さえようとした池端でしたが、竹内の方が一枚上手で窮地に陥ります。その池端を救ったのが例の妖精同盟の5人です。それぞれ得意分野の能力を発揮して見事に竹内の犯罪を暴くのです。このエピソードはとても痛快です。
実は加納にハニートラップを仕掛けたのは三枝でした。人事課長の山瀬が三枝のやり方に愛想を尽かして反旗を翻します。三枝が社長に取り入って出世を目論む卑劣漢だったことが彼の同期だった毛利の口からも語られます。
篠塚の過去の不正も、顧客第一に考えるレディに報いようとしたためだったことがわかり、さらに安岡が尊敬する上司が篠塚だったこともわかります。
逮捕された竹内のさらなる犯罪行為も暴かれ、黙認していた社長や三枝も罪に問われます。会社は新体制となり、事件発覚に貢献した妖精さんたちへの社内の見方にも変化が生じます。妖精さんたちは新しい流れについていく努力を始め、社員たちも彼らの気持ちを汲もうとする流れができていくのです。
同盟の5人もそれぞれの選択をします。高木は退職して孫の世話を、篠塚も退職して介護に専念しグループホームの運営を始めます。他の3人は会社に残りそれぞれの部署で生き生きと働き出すのです。
正社員となった池端が贈った花は「木瓜」。その花言葉は「妖精の輝き」というラストに思わずこちらもクスっと笑ってしまいました。😁