杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

君を恋ふらん 源氏物語アンソロジー

2024年01月03日 | 
末國善己、田辺聖子、 瀬戸内寂聴、永井路子、森谷明子、澤田瞳子、永井紗耶子(著) 角川文庫

光源氏の養女は、お転婆娘だった(「やんちゃ姫 玉かつらの巻」田辺聖子)。放浪の僧侶が秘めた懊悩とは(「髪」瀬戸内寂聴)。和泉式部の奔放な恋を描く(「桜子日記」永井路子)。皇女に嫌がらせをするのは誰? (「朝顔斎王」森谷明子)。高名な巫女が召したのは、醜い少女だった(「照日鏡──葵上」澤田瞳子)。朝廷の権力闘争と、女房たちの創作の源を描く(「栄花と影と」永井紗耶子)。歴史小説の名手たちが織りなす、美麗なるアンソロジー。


・やんちゃ姫 玉かつらの巻
源氏物語に登場する「玉鬘」は源氏の愛人だった夕顔(呪い殺されてます)と頭中将(源氏の親友でライバル)の間に生まれた娘で、行方不明だったのを源氏に探し出され養女となった姫です。

田辺版玉かつらはまさに「今風」な女の子です。筑紫の田舎でのびのびと育った彼女には都の生活は性に合わないのね。皆が憧れる光源氏はイケメンで風流な都人ではありますが、彼女からみたら「オジンだと自覚してないイタい人」であり「好みじゃない」のです。都に憧れたこともあったけれど、いざ来てみればやたらと煩くて窮屈なだけ。これなら自分を好いてくれて自由にさせてくれた大夫の監の方がずっと良いとばかりに遂には出奔してしまうのでした。光源氏の話す都言葉や行動が滑稽に見えて面白かったけどイメージ崩れちゃうなぁ😓 

・髪 
こちらは宇治十帖の浮舟ですね。
薫と匂宮に愛され苦しみ身を投げた浮舟を助けた横川の僧都の弟子の阿闍梨が、濡れた衣服を脱がせた際に裸体を目にしてその美しさに囚われてしまう話で、官能的な作品でもあります。まぁ。坊主といっても生身の男だもんなぁ😒 
 
・桜子日記 
彰子の女房だった和泉式部の恋愛遍歴が、彼女に仕えた桜子の目を通して書かれます。華やかな宮中の裏で繰り広げられる政治的な駆け引きは男性に限ったものではなく、主を盛り立てるべく女房たちも一役買っていました。恋に奔放な和泉式部と親王の使いを務める桂丸に密かな恋心を抱く桜子との対比で話が進んでいきます。

・朝顔斎王
源氏物語に登場する光源氏に求愛されるも拒んだ高潔な女性「朝顔」を連想させるお話。

5歳で賀茂斎院に選ばれ、14歳で退任した娟子は不遇な運命にありながらその純真さで周囲に好かれる女性です。けれどその純真さに傷つけられ妬む者を生み出してしまいます。娟子を慕う俊房の想いに鈍感な彼女は、彼を年下の弟のようにしか見ていなかったのですが、その俊房を慕う娟子の後任の斎王・三輪が彼女に嫉妬・憎悪して事件が起こります。少納言と名乗る老婆の正体や事件の謎解きも興味を惹かれましたが、俊房への想いに気付いた娟子が少納言の粋な計らいを素直に受ける結末も良かったです。
 
・照日鏡──葵上 
源氏物語の中では、葵の上は六条御息所の生霊に苦しめられて殺されてしまいますが、実は生霊なぞ存在しないのではないかと悟る少女の話です。

葵の上は治らぬ病に苛まれながら、死後も源氏の君に消えることのない思い出を残して心を捕らえようと生霊を作り上げたのではないかという解釈は何だか新鮮です。ちなみに照日ノ前と言う巫女は源氏物語には登場しません。彼女は醜女の少女を憑坐(よりまし)として引き取りますが、醜女だからこそ美しく装わねば生きてゆけない貴人の醜い心がわかると考えてのことです。醜い者は心さえ強く持っていれば諍いに巻き込まれずに済むと少女に教えます。
う~~ん、なんか深いぞ!

・栄花と影と 
赤染衛門を語り手に、藤原道長が権力を握るまでの壮絶な宮廷陰謀檄と、清少納言の「枕草子」、紫式部の「源氏物語」、赤染衛門の「栄華物語」誕生のいきさつが書かれます。

後ろ盾を亡くした定子は出家を望みますが、一条天皇の愛は揺らがず睦まじく過ごします。第三子を産んで亡くなってしまった定子を忘れらず形代を求める天皇に擬えて「源氏物語」が書かれたという設定も興味深いです。
定子の女房である清少納言の書いた「枕草子」は、定子の暮らしの日常を温かな視線で書いていて、親王や皇子、天皇には触れず政治的な匂いもありません。そこにこそ彼女と定子の意図があると赤染衛門は考えます。
道長は彰子を入内させ中宮にして権力を得ようとします。入内時にはまだ幼かった彼女も時が経ち大人になると帝の愛を求めて苦しむことになります。
定子と彰子はライバル関係と表現されることが多いですが、このお話は違う角度から捉えられていて好感が持てました。

源氏物語を題材にしながらそれぞれ個性に溢れた物語です。
個人的にはやんちゃ姫のコミカルな雰囲気と、朝顔斎王の初々しさ、栄華と影とに描かれる定子と一条天皇の仲睦まじさが良かったです。

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