杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

古本食堂

2024年01月29日 | 
原田ひ香(著) 角川春樹事務所

かけがえのない人生と愛しい物語が出会う! 神保町の小さな古書店が舞台の絶品グルメ×優しい人間ドラマ。 大ベストセラー『三千円の使いかた』『ランチ酒』の著者による熱望の長篇小説。 美希喜は、国文科の学生。本が好きだという想いだけは強いものの、進路に悩んでいた。そんな時、神保町で小さな古書店を営んでいた大叔父の滋郎さんが、独身のまま急逝した。大叔父の妹・珊瑚さんが上京して、そのお店を継ぐことに。滋郎さんの元に通っていた美希喜は、いつのまにか珊瑚さんのお手伝いをするようになり……。カレーや中華やお鮨など、神保町の美味しい食と心温まる人情と本の魅力が一杯つまった幸せな物語。(内容紹介より)

.第一話『お弁当づくりハッと驚く秘訣集』小林カツ代と三百年前のお弁当
第二話『極限の民族』本田勝一著と日本一のビーフカレー
第三話『十七歳の地図』橋口譲二著と揚げたてピロシキ
第四話『お伽草子』とあつあつカレーパン
第五話『馬車が買いたい!』鹿島茂著と池波正太郎が愛した焼きそば
最終話『輝く日の宮』丸谷才一著と文豪たちが愛したビール

学生時代に足を延ばした神保町の本屋さん。といっても古書店ではなく三省堂などの新書を扱う大型書店ばかりだったけれど、軒を並べる古書店が町に独特の風情を添えています。

そんな古書店の一つ、鷹島書店の店主の滋郎さんが亡くなり、妹の珊瑚さんが後始末のために北海道から上京してきます。彼女は両親の介護をしているうちに婚期を逃しています。両親の死後、介護ヘルパーとして、東山さん宅に通ううちに彼を慕うようになりました。彼の妻の死後、東山さんから好意を打ち明けられますが、自分の思慕への罪悪感から彼を避けるように東京に出てきています。

国文科の大学院生の進路進路は大叔父の滋郎が好きで、店にもたまに顔を出していました。彼女の母の芽衣子は滋郎が遺した財産の行方が気になるようで(神保町で自社ビルですからそれなりのお値段ですね)美希喜に大叔母が店をどうするのか監視報告するよう言いつけます。芽衣子はリアリストとして描かれますが、パンのシールを集めて食器を貰うことに心血を注いでいたりとどこか可愛らしいところもあります😁 

古書店の経営は素人の珊瑚ですが、読書家の彼女は客が求める本を察することができます。
お弁当作りに悩む女性や、世の中を全部分かった気になっている青年、息子との対話に悩む父親、執筆に悩む作家志望の青年などなど・・

珊瑚を手伝うようになった美希喜は、次第に自分が本当にやりたいことに気付いていきます。ビルの階上に入っている辻堂出版の社員の建文君と作家志望の奏人が彼女を巡って密かに恋のバトルをしていたりしますが、当の美希喜は進路の悩みで全く気付いていなくて、そんな若者たちを温かく見守る珊瑚さんも、東山さんへの想いに揺れています。

滋郎兄が不倫していたのではないかと考えて、相手の女性が働く戸越銀座の総菜屋の前の喫茶店で観察したりする珊瑚さんは、自分と重ね合わせてしまいます。ところが上京してきた東山さんが意外な真相を明らかにしてくれるのね。
彼は滋郎さんとも接点があったので、その「嗜好」についても察していたわけです。
うん・・・生きにくかっただろうな~滋郎さん😲 
愛の形は様々と珊瑚さんに語り掛ける東山さん、素敵です😍 

教授の後藤田先生は美希喜に厳しい叱責をしますが、彼もまた滋郎さんと交流のある人でした。そして彼女に古書店を継ぐことを勧めます。その頃には美希喜も自分が本当にやりたいのは研究者の道ではなく鷹島古書店を継ぐことだと気付いているのね。
珊瑚さんの方も本当は美希喜に跡を継いでもらいたいと思っていて、物語は大団円。

お話に登場する神保町のボンディやランチョンといった名店に、ロシア料理店のピロシキ、揚子江菜館の上海式焼きそばなどなど、読んでいるだけでお腹が鳴りそう。
おっとりした珊瑚さんを取り巻く神保町の人々の温かさも加わりとても優しい気持ちになりました。😀 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩

2024年01月29日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2023年7月7日公開 ウクライナ=ポーランド 122分 G

1939年1月、ポーランドのスタニスワヴフ(現ウクライナ、イヴァーノ=フランキーウシク)にあるユダヤ人が住む母屋に店子としてウクライナ人とポーランド人の家族が引越ししてくる。ウクライナ人の娘ヤロスラワは音楽家の両親の影響を受け歌が得意で、特にウクライナの民謡「シェドリック」=「キャロル・オブ・ザ・ベル」は、歌うと幸せが訪れると信じ、大事な場面でその歌を披露する。第2次大戦開戦後、ソ連による侵攻、ナチス・ドイツによる侵攻、再度ソ連によって占領される。ポーランド人とユダヤ人の両親は迫害によって離され娘たちが残される。ユダヤ人の娘ディナ、ポーランド人の娘テレサの3人の娘たちをウクライナ人の母であり歌の先生でもあるソフィアが必至に守り通して生きていく。
 戦況は悪化し、子どもたちを連行しようとソ連軍が家探しを始めるが、ソフィアが機転を利かせて最悪の事態は免れる。ナチスによる粛清によってウクライナ人の父の手に及び処刑されてしまう。残されたソフィアは、ウクライナ人である自分の娘、ポーランド人の娘、ユダヤ人の娘に加えて「この子には罪はない」と言ってドイツ人の息子を匿うことになるのだった…。(公式HPより)



ウクライナ民謡をもとに生まれたクリスマスソング「キャロル・オブ・ザ・ベル」をモチーフに、ウクライナ、ポーランド、ユダヤ人の3家族が戦火に翻弄されながらも子どもたちを守り抜こうとする姿を描いた戦争ドラマ。
監督は、ウクライナ出身のオレシア・モルグレッツ=イサイェンコ。(映画.comより)
映画自体は2022年2月24日以前に撮られているので、今回の戦争に対する政治的プロパガンダっではないようですが、作品中のソ連兵の無慈悲で残虐な描写はつい現実に重ねてしまいそうです。😱 

1939年。ユダヤ人一家が暮らすアパートにウクライナ人とポーランド人の家族が引っ越してくるところから物語が始まります。
ウクライナ人のソフィアは歌の先生、夫のミハイロは演奏家で、娘のヤロスラワも歌が得意で皆が幸せになる歌”キャロル・オブ・ザ・ベル"が得意です。彼女の透き通るような歌声は本当に素晴らしかった✨
初めはぎくしゃくしていた3家族も、ヤロスラワの歌がきっかけで次第に打ち解けていきます。

戦争が勃発し、ソ連軍が侵攻してきたある日、ソ連兵によりポーランド人のワンダが連行されます。(軍人の夫は既に・・・と推察されます。)たまたまソフィアの家で眠っていた娘のテレサは、ソフィアが自分の娘だと嘘をついて守られます。ワンダが隠したテレサの出生証明書を見つけ、以後は自分の姪と偽ることになるの。

1941年。ナチスが台頭してくるとユダヤ人一家は出頭を命じられます。
ミハイロから「出頭したユダヤ人のバンドマンは帰ってきていない」と聞かされた夫婦は、娘のディナとタリヤを預けて夫婦で出頭し帰ってきませんでした。

ドイツ兵がやってくると、ユダヤ人のディナとタリヤは部屋に据えられた時計の裏の棚に隠れて息を潜めます。ミハイロは棚を取り除いて空間を広げてやります。
ソフィアは4人の子供たちに家の外に出ることを禁じますが、幼いタリヤが「外で遊びたい」と部屋を出てしまいます。タリヤを探しに出たヤロスラワ がドイツ兵に見つかって部屋に入って来られる場面では、ドアの影で息を潜めるディナに心臓バクバクです。無事に切り抜けたものの、タリヤがネズミに噛まれ、その傷がもとで亡くなってしまいます。夜間外出禁止令の出ている中、医者の家の扉を叩いて往診を求めるミハイロでしたが、すげなく追い返され、帰った時にはタリヤは・・・彼がレジスタンスに身を投じたのはこの頃からだったのかな?

アパートにはドイツ人の夫婦が越してきます。ドイツ人一家に『キャロル・オブ・ザ・ベル』を歌って「殺さないで」と頼むヤロスラワ。いや~それはダメだろ!と冷や冷やしましたが、ウクライナ語を解しなかったため事なきを得ます。
ドイツ人から貰ったお菓子を投げ捨てきつく叱るソフィアでしたが、子供たちはそのお菓子を拾って食べちゃうの。甘いお菓子なんて久しぶりだろうし何と言っても子どもだものね~。ヤロスラワの歌の上手さに感心したドイツ人の妻は息子のハインリヒの歌の練習をソフィアに頼みます。ドイツ人なんて大嫌いだけど背に腹は代えられないので引き受けるものの夫に愚痴るソフィア😁 

ある日、記念日を祝うため久しぶりに劇場に出かけたソフィアとミハイロでしたが、突然ドイツ兵が現れて女性は外に出るように言われ、男性は皆連行されます。翌朝、ミハイロは政治犯として処刑(射殺)されてしまいます。

処刑を目撃したソフィアは家に戻ると服を脱ぎ、子供たちのも脱がせて洗濯をします。何かしていないとどうにかなってしまいそうなソフィアの悲しさ・憤りが伝わってくるようでした。娘たちの存在が彼女の唯一の慰めになります。

再びソ連が侵攻してきて、ドイツは撤退します。
ドイツ人一家も逃げるようにアパートを立ち去るのですが、ボロボロになったハインリヒがソフィアの家のドアを叩きます。おそらく彼の両親は殺されてしまったのだと察したソフィアは彼も引き取ることにするのです。反対するディナに「子供に罪はない」と諭すソフィア。

町はまたまたソ連の支配下に置かれ、ソフィアは政治犯の妻として連行され子供たちは施設に入れられることになります。この時、逃げようとしたハインリヒは射殺されてしまうの。ソフィア自身も政治犯と決めつけられてシベリアに送られそこで亡くなったように描かれていました。

冒頭とこの場面の少し前に数十年後のNYが登場し、大人になったディナとテレサらしき女性が出て来るので娘たちは無事なんだなと安堵させられましたが、あれ?ヤロスラワは?

ソ連の施設に送られた3人でしたが、ヤロスラワは『キャロル・オブ・ザ・ベル』を歌ったことで別の施設に送られてしまいます。ディナとテレサは自由を与えられ(追放ともいう)ますが、それを伝える施設長?の無慈悲な酷薄さがたまらなく醜悪です。

ポーランド人のテレサは有名な歌手になっているようです。空港でディナと会い、2人でヤロスラワを待ち3人が再会して抱き合い、そこに子供時代の3人の姿がオーバーラップします。やっと彼女たちの中で戦争が終わったのだと感じられるラストでした。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする