小野寺文宣(著) 幻冬舎
寝坊で卒論を出しそこね、留年が決定した22歳の海平。片見里の実家に報告に戻ると、ばあちゃんからこづかいとともに頼まれた。東京に出た同級生・中林継男を探してくれと。一方、大学入学で片見里から上京して、一人で生きてきた荒川在住の75歳の継男。同郷の次郎から「オレオレ詐欺」の受け子の代役を頼まれ、老女の家を訪ねることに。同じ片見里出身ということ以外接点がなかった継男と海平が荒川で出会った。継男はある〈ヤバい〉ことを海平に相談する。当たり前に正しく生きることの大切さが、優しく染みる、長編小説。(作品紹介より)
老人と青年の荒川での出会いが、足踏みしていた自分たちと、周りの人たちの人生を少しずつ動かしていく。人生を優しく肯定してくれる物語。(紹介文より)
75歳の継男と22歳の海平(サザエさんに出て来るような名前だな😉 )の接点は片見里出身であること。で、片見里というのはどうやら架空の地名のようですが、継男が住む荒川区東尾久は実在しています。というか、都電荒川線(さくらトラム)や尾久銀座商店街は知ってるし😁
物語は、一月から十二月まで継男と海平の話が交互に語られる形式で進みます。
旧友の葬儀に出た継男は元カノの小本磨子と再会します。
海平は卒論提出締め切り当日に二度寝で出しそこねてまさかの留年となり、内定していた就職も取り消され、その翌日には彼女にも振られてしまうのですが、元はと言えば、彼のルーズさが招いたことで同情できません。前々から海平の甘さに気付いていた彼女にとって、留年自体が問題だったというより、彼の生き方が相容れなかったのよね。
この時点で海平はものすごく未熟な若者でした。
実家に帰って両親に事の次第を報告し留年の許可をもらった海平は、ばあちゃんから人探しを頼まれます。(半分は仕送りを減らされた孫への小遣いだけど。)その探し人が継男です。
荒川区東尾久に住む片見里出身の75歳の中林継男。それだけの情報で探し出すのは無理だよな~と思いつつも、東尾久に出かけて歩いてみる海平君。根は真面目で優しいのよね。でもただ歩き回るだけじゃ見つかりっこない・・のだけれど、たまたま入った焼き鳥屋であっさり情報GETしちゃうんですね。
ここから二人の交流が始まります。
継男は友人の次郎から頼まれたのが詐欺の受け子だと気付いて牛島しのい(83歳)さんが被害に遭うのを防ぎます。お金に困っていた次郎が報酬に釣られて引き込まれたのですが、一度目も失敗していたと知った継男はもう詐欺グループと手を切れと諭します。
それから二か月ほど経った頃、しのいさん宅に強盗が入ったという記事を新聞で読んだ継男は、詐欺と関連していると直感します。
しのいさんは詐欺未遂のことを警察に話していませんでしたが、強盗事件が起きたことで、刑事が継男を訪ねてきます。その翌日、継男の口の堅さや機転を評価した詐欺グループの元締めの男が勧誘に訪れます。😓 顔を曝して自ら勧誘ってちょっと?ですけど、それだけ継男を認めて仲間に欲しいと思ったということだと解釈。
次郎が脅されたりしたこともあり、このままでは済まないと感じた継男が海平に詐欺グループのことを調べて欲しいと頼んだことから、菩提寺の住職の徳弥とその友人で探偵の谷田といった片見里の「仲間」の協力の輪が広がっていくのです。結局、詐欺グループが彼らに再び接触することなく終わるのですが、捕まったわけでもないところが少しモヤモヤしますが、逆にリアルなのかもとも思いました。それにしても高齢者が被害者になるばかりでなく加害者にもなり得る現実ってなかなかシビアです。
お話に登場するお寺さんと門徒の関係は地方ならでの濃さとも思えるのですが、徳弥という住職の人間性によるところも大きい気がします。
徳弥が主人公の『片見里、二代目坊主と草食男子の不器用リベンジ』という前日譚も出ているようなので後日読んでみようかな。
妻は離婚後に亡くなり愛娘と疎遠になっていた次郎でしたが、本当は片見里に帰りたいと思っています。そんな彼の気持ちを察した継男は次郎の娘に会いに行き、さり気なく次郎の肩を押します。
海平と継男は血縁はないけれど祖父と孫のような関係になっていきます。自分の進む道が見えなかった海平でしたが、一年後、やりたい仕事を見つけてその門を叩こうとするのです。プーマのスニーカーと革靴が伏線になっていました。
うん、人生何がきっかけになるか、本当にわからないものですね。
年齢的には継男の方に親近感を持ちます。体力は若い頃と同じとは行かなくても気力は保ち続けたいなぁ😀