小路幸也 (著) 祥伝社
逃げて辿り着いたその〈場所〉が守ってくれる
小説家になった羽見晃が入居を決めたのは、墨田区鐘ヶ淵にある築六十年、二階建ての〈マンション フォンティーヌ〉だった。真っ白いアーチの入口、中庭には噴水と少女像、花壇もあって、フランスにありそうな建物。管理人嶌谷さんの腕には本物の入れ墨があったり、大家のリアーヌさんは七十八歳のフランス人だったり色々変わっている。三十年もいる教授や生まれた国を追われたハーフの男性とかワケありな人が多く住んでいるけれど、みんな優しくて仲がいい。ガーデンパーティ中、三号室の三科さんが元DV夫から追われていることを知り、住人たちで役割分担をして守ることに。でも同時に、思わぬ人物がマンションを訪れていて……。(内容紹介より)
住むと幸せになれる不思議な場所?
ワケあり住人と強面の管理人で繰り広げられる心温まる人間ドラマ。
ワケあり住人と強面の管理人で繰り広げられる心温まる人間ドラマ。
単行本の表紙の温かな
・羽見晃 29歳 小説家
難病を発症して退職するが、初めて書いた小説が受賞して作家デビューをした晃が不動産屋の野木と下見に訪れたのがマンション フォンティーヌ です。
表紙絵からも温かで心安らぐ雰囲気が伝わってきます。
一目で気に入って即決した晃がまず紹介された管理人さんの腕には明らかに筋者と思しき刺青が・・・あらら😓
・嶌谷拓次 45歳 管理人
刑務所を出たり入ったりしていた嶌谷ですが、本当は優しい人柄のようです。
二か月前に紹介されてこのマンションの管理人になった彼は、これまでに身につけた技能を生かして殆どの修繕をこなしています。
・貫田慶一郎 33歳 海外送金所勤務・通訳
フランス生まれの慶一郎はわけあって3年前に知人の日本を訪れ、知人の紹介でこのマンション住み始めました。
彼も何だかわけありで日本に悪感情を抱いているようです。
仕事帰り、同じマンションに住む坂上麻美奈と偶然出会い夕食を共にした帰り道、トラブルに冷静に対処する嶌谷に遭遇します。空手の有段者の麻美奈は嶌谷が筋者だと見抜きます。
・坂東深雪 58歳 M大学文学部教授
日本文学兼文芸メディアの教授をしている坂東は住人歴30年。
羽見の引っ越しを手伝い仲良くなります。物書きという他に、共通の編集者の知人がいたりするので、その後の物語にも関わってきそう。
リアーヌの部屋で引っ越し蕎麦ならぬパスタをご馳走になりながら、羽見はリアーヌの家族の物語を聞くことになります。
・野木翔 44歳 花丸不動産ロイヤルホーム部長
野木は先輩からこのマンションの担当を受け継いでいます。大家のリアーヌは住人と家族のように暮らすことを望んでいるので、紹介する人間についても彼なりに責任を持って臨んでいます。実は野木は嶌谷の後輩に当たり、中学生の時に高校生に絡まれた野木を助けてくれた恩を感じており、嶌谷が決して悪人ではないことを知っていたので、管理人として再会したことを喜んでいるのです。
・鈴木幸介 35歳 大日印刷株式会社第一課営業
鈴木菜名 38歳 株式会社集円社出版校閲部
鍵を忘れて帰宅した幸介が合鍵を借りようと嶌谷の部屋を訪ねたことから一緒に夕食を共にすることになります。会話の中で嶌谷が何かわけありの過去を持つことを察しますがそこに触れて欲しくない様子。幸介も自分たち夫婦は子供ができないことを話します。合流した菜名は二人が仲良くなりそうな空気を感じて喜びます。嶌谷の話の中に出てきた「妹」「千葉」の言葉を聞いて菜名は何かに気付いた様子・・。
・一谷倫子 28歳 蓼凪建設庶務一課勤務
坂上麻美奈 23歳 ファッションブランドショップ店員
倫子と麻美奈は同性愛者です。リアーヌさんは二人の関係を知っていますが、外では公にしていません。
貫田と食事をした数日後に今度は菜名と食事をすることになり、嶌谷の話が出た時に、奈名から知り合いが嶌谷の長い間会っていないという妹なのではないかと相談され・・・
・三科百合 27歳 いとファクトリー縫製・パタンナー
三科杏 5歳 幼稚園年長さん
夫からDVを受けていた百合に友人の佐々木慈美が気付いて彼女を逃がします。慈美から相談を受けた彼女の上司の野木から弁護士を紹介してもらい離婚してこのマンションに引っ越していました。ところが、リアーヌから事情を聞かされていた嶌谷が最寄り駅で元夫が待ち伏せしているのに気付きます。
・リアーヌ・ポネ(如月理亜音) 78歳 大家
リアーヌの戸籍上の夫は彼女の父親の親友で、母娘の窮地を救い日本に連れて来た人でした。彼はリアーヌたちのためにこのマンションを建ててくれていました。如月もリアーヌの父も軍人でおそらくは二重スパイだったと思われ、彼女自身ちょっと危ない、でも悪人ではない男性に惹かれる傾向があったようです。嶌谷の過去を承知で、いえ、だからこそ彼を管理人に選んだのね。そして百合のためにマンションの住人一同に協力を求めることに・・・。
・橋本杏子 35歳 株式会社祥殿社文藝編集
羽見との次回作の打ち合わせのためにマンションを訪れた杏子は、23年前に分かれた兄が嶌谷拓次だと知ります。
彼女が訪れたこの日、百合の元夫に諦めさせるための作戦が住民一同の協力のもと決行されていました。
嶌谷の発案で彼が百合の夫として振舞う姿を元夫に見せて諦めさせる計画が進行していました。嶌谷のガタイの良さと醸し出す雰囲気に怯んでつき纏いを諦めるだろうというのです。この日、駅で元夫の姿(前もって画像を共有していました)を見かけた麻美奈が一斉ラインで知らせ、嶌谷と百合が睦まじげに改札を通って見せつけるという計画は、麻美奈がこっそり撮影していた動画を皆で検証して成功と判断されます。でももうしばらくは監視の目を続けることに。
20数年ぶりに兄妹の再会を果たし、杏子も空いている5号室に引っ越してくることになります。野木と杏子、嶌谷と百合も何だか良い感じになりそうな気が・・・
不思議な縁で繋がっていく住民たち、ちょっと出来過ぎな感もありますが、こんなアットホームなマンション、住んでみたいと思わされ、心もほっこりします。😀