杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

#真相をお話しします

2024年01月07日 | 
結城真一郎(著) 新潮社(刊)

私たちの日常に潜む小さな"歪み"、あなたは見抜くことができるか。
家庭教師の派遣サービス業に従事する大学生が、とある家族の異変に気がついて……(「惨者面談」)。不妊に悩む夫婦がようやく授かった我が子。しかしそこへ「あなたの精子提供によって生まれた子供です」と名乗る別の〈娘〉が現れたことから予想外の真実が明らかになる(「パンドラ」)。子供が4人しかいない島で、僕らはiPhoneを手に入れ「ゆーちゅーばー」になることにした。でも、ある事件を境に島のひとびとがやけによそよそしくなっていって……(「#拡散希望」)など、昨年「#拡散希望」が第74回日本推理作家協会賞を受賞。そして今年、第22回本格ミステリ大賞にノミネートされるなど、いま話題沸騰中の著者による、現代日本の〈いま〉とミステリの技巧が見事に融合した珠玉の5篇を収録。(内容紹介より)


・惨者面談
中学受験専門の家庭教師派遣の営業のバイトをしている大学生が、訪れた家の異変に気付くまでの様子がちょっとした緊迫感があって面白かったのですが、事件が解決した後に明かされた「事実」に驚かされます。子を喪った母の妄執も哀しいけれど今時の小6は確かに大人顔負けかも。

・ヤリモク
題名の意味がわからず調べたらマッチングアプリやSNSなどで一夜を共にすることを目的に近づいてくる男性のことを言うのだそうな。😞 
娘と同じ年頃で容姿も似ている女性を落とそうとする男と、落ちた振りをして美人局をしようとする女。どっちもどっちだけど、男の本当の目的は別にあるのね。娘を溺愛する男の異常な思考に怖気が走ります。

・パンドラ
不妊治療の末にようやく子供を授かった夫婦。自分たちと同じように子供を欲する人の力になりたいと妻の同意を得て精子提供をした男の元に現れた「娘」。彼は敢えて身元を明かして提供していました。娘との会話の中で出た血液型の話から、男は妻が生んだ娘が自分の血を引いていないことに気付きます。不妊に苦しむ妻の姿を見てきた彼はその事実を胸に秘めることにします。だって我が子と過ごしてきた年月こそが親子の確かな結びつきなのですから。
開けてはならない「パンドラの箱」に残っていたのはやはり「希望」だったのかな。

・三角奸計
久しぶりに学生時代からの親友A・Bとリモート飲みをする中で、Aの婚約者がBと関係を持っていると知ったAがBを今から殺しに行くという・・・実は男も婚約者のいる女性と関係を持っていたのですが、実はその彼女こそAの婚約者で、AとBは共謀して男の真意(Aの婚約者と知っていて裏切っていたのか)を確かめようとしていたのです。彼女が男に嘘を言っていたことが明らかになった時にAが取った行動は・・・いやいや、それはむしろホラーだぞ😱 

・#拡散希望
子供が4人しかいない島で両親と暮らす「僕」の日常は、島で生まれ育った友達がスマホを買ってもらいユーチューバーの存在を知ったことで壊れていきます。(僕と他の2人は親に連れられ移住してきた子供です。)その友達が崖から転落して亡くなったことで、彼は両親の「真実」を知ることになります。そこで彼らが取った行動は・・・一番悪いのは彼らの親たち。子供たちの人権を無視し、見世物扱いした結果が殺人であり、更なる殺人を招くのは動画のフォロワーたちというのがいかにも「今」風な結末で救いがないぞ😩 

どの話にも驚きの「真実」が隠されていて最後に明かされるのですが、後味の悪いものも多かったかな。

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高速道路家族

2024年01月07日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2023年4月21日公開 韓国 128分 G

高速道路のサービスエリアを転々としながらテントを張って暮らし、2度と会うことのない他人から2万ウォンを借りて食いつないでいるギウ(チョン・イル)と3人の家族。ある日、ギウは以前お金を借りたことのあるヨンソン(ラ・ミラン)と、別のサービスエリアで偶然にも再会してしまう。不審に感じたヨンソンはギウを警察に突き出すが、残されたギウの妻ジスク(キム・スルギ)と子どもたちを放っておけず、家へ連れ帰って一緒に暮らし始める。ヨンソンのもとで何不自由なく生活する家族を取り戻そうとするギウだったが……。(映画.comより)


ホームレスの家族と中古家具屋を営む夫婦の偶然の出会いが思わぬ事件を引き起こすサスペンスドラマで、韓国社会が抱える問題を内包しています。

一家は、高速道路を転々としながらサービスエリアにやってくる客から寸借詐欺をして生活しています。2万ウォンって約2千円くらいらしい。騙されたことに気付いても通報しないだろう程度の金額なのね。

夜はテントの中で眠り、警備員に見つかって片付けるよう言われても適当にかわします。自由気ままに毎日を楽しそうに生きているように見える一家ですが、わずか2万ウォンが彼らの命綱なのです。

ある日、サービスエリアのトイレの水道水を飲むウニを見たヨンソンが思わず「飲んじゃダメよ」と声をかけるとウニは驚いて逃げていきます。車に戻ったヨンソンにギウが近づいてお金を貸して欲しいと声をかけてきて、ウニとテクがお腹を空かせている様子を可哀相に思った彼女は2万+5万ウォンを貸します。

借りたお金で美味しそうに食事する一家ですが、ジスクは先の見えない生活に不安も感じていました。廃屋に潜り込んで一夜を明かしたり、サービスエリアを渡り歩いてその日暮らしを続ける一家でしたが、別のサービスエリアで偶然彼らを見かけたヨンソンに詐欺現場を目撃されて通報されます。
一家は逃げ出しますが、身重のジスクがヨンソンに追いつかれます。ジスクは二度としないから見逃してと懇願して逃げ家族と合流しますが、突然ギウが錯乱状態になり子供たちは脅えます。

やがてギウは警察に捕まり、ヨンソンにも確認の連絡が行きます。ギウは投資詐欺で指名手配されてもいました。途方に暮れ警察署の前に佇むジスクと子どもたちを見かねたヨンソンは、3人を中古家具店に住まわせることにします。ウニが読み書きできないと知ったヨンソンは、ノートと鉛筆を買い与えて文字を教えます。また病院で検診を受けていないジスクを産婦人科に連れて行ったり何かと面倒をみます。

ヨンソンの夫ドファン(ペク・ヒョンジン)も、3人を気にかけていましたが、ある日仕事先についていったテクが怪我をしたことで夫婦の間で諍いが起こります。夫婦はかつて息子を亡くしていました。「息子を失った喪失感を3人の面倒をみることで埋めているのだろう」と指摘し3人を追い出せと言った夫に、ヨンソンは「それならあなたが出ていって」と言います。

拘置所に入れられたギウは隙を見て逃げ出しますが、家族と離れ離れになったことで精神的におかしくなっていきます。次第に汚れやつれて行く中、かつてヨンソンに貰っていた名刺を思い出した彼は中古家具屋に向かい、ウニの前に現れてジスクへの手紙をことづけます。皆が寝静まった夜に店にやってきたギウは、ジスクに前のように家族で暮らそうと誘いますが、彼女は「ここで暮らすと決めた」と彼に別れを告げます。

ドファンが喧嘩して警察に捕まった知らせを受けたヨンソンは、大人しい彼の喧嘩した理由を知って夫も傷ついていたことに気付きます。(息子は火災に巻き込まれて亡くなったのかな?その火災の補償金のことで心無い会話をしていた客と揉めたようです。)

ドファンから生い立ちを尋ねられたジスクは、施設で育ってまともに教育を受けていないことを話します。働いていた食堂で学生だったギウと出会い、娘を授かって結婚しますが、学校を中退して職を転々としていたギウが、投資話に誘われて詐欺に遭いその罪をなすりつけられたことで、逃亡生活が始まったのね。

ウニを学校に通わせ、出産して落ち着いたら店を手伝ってと言うヨンソンにジスクは感謝します。
ヨンソンは、困っている人を放っておけないのね。
一家と出会う前のエピソードで、チベット出身(おそらくは出稼ぎ)の従業員が家賃の値上げで給料を上げてやりたいと夫から頼まれると家に住まわせたら良いと答えます。夫が仲間と住みたい彼の気持ちを思い遣って給料を上げたいというのも、形は違うけれど同じ優しさですね。

ある晩、皆で楽しく食事をしているところに錯乱したギウがやってきます。彼の異様な雰囲気に怯え慌てて警察に通報しようとしたヨンソンに怒って暴れ出したギウをドファンと従業員が抑えようと揉みあいになる中、肉を焼いていたドラム缶が倒れて中古家具に火がつき、慌てて消そうとしたジスクの服に燃え移ります。
火は燃え広がり、倒れてきた家具から咄嗟にジスクを庇ったギウ共々火に包まれてしまいます。
ヨンソンが泣き叫ぶウニとテクを必死に抑える中、消防隊により火が消し止められ、燃え落ちた家具の下から二人が見つかります。

場面が変わり、学校から帰ったウニをヨンソンとテク、赤ちゃんを抱いたジスクが出迎えますが、そこにギウの姿はありません。
 
再び場面は消し止められた火災現場に戻って終わります。

ギウが家族を愛していたのは確かですが、生き方はとても危うい。ジスクもギウを愛していますが、母として子供たちの将来を思うとこのままではいられないと思ったからこそ、彼に別れを告げたのです。
ラストの幸せな光景は現実ではなく、両親が火に呑まれる中でウニが見た「幸せの幻影」ではなかったかと思います。それだけに一層切ない結末です。

何でも揃っているサービスエリアで暮らす何も持たない家族の姿を通して、済格差や弱者救済制度の貧弱さ、人々の無関心を浮き彫りにした作品でした。

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