馬込 油彩
冬になったり春になったりしています、体調を崩されていませんか?一平です!
本日は水曜夜クラスの馬込さんの油絵をご紹介します。
2枚とも美しい空間が広がっていますね。僕らデザイン科の学生は、受験などではアクリル絵具やデザイナースカラー(ジブリの背景にも使われている発色の良い水彩絵具)という絵具を使いながら描いているので、基本的にはマチエールを付けません。そもそも厚塗りするという文化がデザイン科にはあまり無く、絵の具を厚く塗り重ねてもこんなに清潔に光を表現できるものか…と感動しています。『透明感(薄塗)が光』ではないのですね。
左の絵の水の表現からはドボドボと流れて溜まっている、今にもこちらにはねてきそうな水の臨場感が伝わってきます。動画でもない静止画から、聴こえるはずのない水の落ちる音が聴こえてくるのは何故でしょうか?それは後ろの建築物が整理された真っ直ぐな線で描かれている人工物である事と、手前の水面の自然物特有の揺らぎの見え方の、ギャップの影響です。
水面がなく建築物だけの絵だと人の気配が感じられない閑散とした場面になってしまいますが、ここに水のような常に変化する不定形が入ってくる事で、静かだった絵に人は動きを感じるのです。「動き」は音を感じさせるのにとても効果的です。
また主役の水が目立つためには、建築物がデッサン的に狂っているとそっちに目が行ってしまうので、建築物を違和感のないように細心の注意を払い正確に描く必要があります。この建物を見ていると、馬込さんのデッサン力の高さが感じられます。光が当たる明るい所と影になる暗い所を意識し、とても見やすく整然とした佇まいです。
次に右の絵ですが、奥に続いていくレンガの道や家、手前の木、黄色いパラソルなど大量の情報を見事に捌き、一つの画面に落とし込んでいます。
朝方でしょうか?木陰の中を人が歩いている情景に、フッと爽やかな風が吹いてきそうな春の気配を感じる穏やかな冬の雰囲気を覚えます。
整然とした左の絵と打って変わりこちらは情報が多い絵で、見比べると面白いですね。先ほどの絵に動きを与える「水」の役割が、この絵では「人」に与えられています。
しかし大量の情報を盛り込む時に気を付けなければならないのは、詰め込み過ぎて見る人を食傷気味にさせないこと。馬込さんは特に「描き込めば描き込むほど川が流れてるみたいに見えてしまう…」とレンガの道に苦戦していました。
川は常に揺らいでいるものです。そこに光が当たると、白い光がチラチラと揺れるのを皆さんも見たことがあると思います。この絵の最初の方はそんな光のような明るい色が各所に使われていました。
しかしレンガの道は光は当たっていても、川が流れているような綺麗な雰囲気ではありません。馬込さんは粘り強く、長年使われたレンガ特有の汚れや壊れ方を研究しました。明度差をなくし、周りの建物の存在感を邪魔しないよう目立ちすぎず、かつ手前奥の見え方の違いを意識しながら描かれることで、見事に使用感あふれるレンガの道を描き切りました。光が当たっている部分と影の部分の描き分けも美しく、素晴らしいですね。
技術や演出などは沢山描けば誰でも身に付くというものではありません。そこに行き着くまでの情熱まで持っている馬込さん、次はどんな絵を描かれるのでしょうか!