殿山 透明水彩
夜は窓を開けて過ごせるようになりましたね、ナツメです。本日は土曜午前クラスの殿山さんの作品をご紹介します!いつも透明水彩の作品を描かれていますが、今回は街の風景を選ばれました。
街中を照らす夏の強い日差しが印象的です。日の当たった地面の明るさと重なり合う葉が落とす陰の暗さとの強いコントラストが、日差しの強さだけでなくじりじりとした暑さまで感じさせます。近頃少し涼しくなってきたのでこんな日差しもなんだか懐かしく感じますね。
デッサンのパースはもちろんですが、手前のお店にはほぼ真っ白に近いような明るさを置き、そこから奥へ行くに従って彩度と明度差を落としているため、開けている路の距離感へと繋がっています!遠近感の表現に関して、もう一つの注目ポイントは地面です。人間の目が明るさを追う習性を利用して、暗い→明るい→暗い→明るい…と地面に影と影のない場所を交互に作るという技法があります。そうすることで目がどんどん次の明るさを追っていくため空間がより広く見えるという仕組みで、ジブリの背景美術などでも使われているそうです。
また、看板の図柄や店の窓に貼ってあるポスターに至るまで、ずっと眺めていたくなるほど非常によく観察して描かれています。絵の雰囲気を邪魔しないよう緻密にしすぎない絶妙なラインに止めており、人気のない風景ながらもここで生活している人が背景に感じられます。ここまで細部を描いているのに対して歩いている男性の描写は色分け程度の最低限に抑えてあるのにお気付きでしょうか。影などの描き込みをほとんどしないことで、物理的な人間として描くのではなく、存在感を形にするような表現としてされているようにも思えます。
風景を描くときはその場の空気が伝わると良いのはもちろんですが、今回の殿山さんの作品は、描かれていなくても別の時間帯の様子までわかる、気配が見え隠れしているような表現へと一歩踏み出している様に感じます。