180202 優越的地位って <フリーランス 独禁法で保護>を読みながら
「京大の入試ミス」について大きく取りあげられた横に小さな記事が載っていて、最初気づかなかったのですが、入試ミスを取りあげるのは結構肩の荷が重いなと思ってふと目をそらすと、この記事が目につきました。
毎日社会面で<フリーランス独禁法で保護 不利な条件、企業側取り締まりも 公取委検討会>という渡辺暢記者によるものです。
ただ、「フリーランス」を取り締まりの対象にするとしつつ、契約問題が話題となった主な例は芸能界やスポーツ界の有名人の話ですね。なんとなくちぐはぐな印象を感じましたので、どのような取り組みを考えているのか、公取委のホームページを探った結果、当の検討会について一定の資料は検索できましたが、その方向性を示すような報告案などもなく、この記事は委員長ないしは関係者からのブリーフィングでしょうね。
ともかく記事の内容から入りましょう。
<企業と雇用契約を結ばずフリーランスとして働く人たちの労働環境改善を議論する公正取引委員会の有識者検討会(座長=泉水文雄神戸大大学院教授)は1日、企業側によるフリーランスへの不利な条件の押しつけなどが独占禁止法違反にあたる恐れがあり、公取委の取り締まり対象になりうるとの考え方をまとめた。フリーランスは独禁法と労働基準法の間のグレーゾーンとされてきたが、独禁法の保護対象となる方向となった。>
たしかにフリーランスは、使用者と支配関係にないという前提ですから、労働基準法の保護を受けられませんね。そうなるとパワハラならぬ、取引先という力の強い相手から「優越的地位」の乱用を受けやすい、受けるおそれのある立場と言えるでしょう。
で、「優越的地位の乱用」については、独禁法が禁止していますが、具体的な基準は公取委が<優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方>というガイドラインで示しています。
まず独禁法第2条第9項第5号の規定は、つぎのとおりです。
自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして 不当に,次のいずれかに該当する行為をすること。
イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロに おいて同じ。)に対して,当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
ロ 継続して取引する相手方に対して,自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み,取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ,取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ,若しくはその額を減じ,その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し,若しくは変更し,又は取引を実施すること。
この規定を読んだだけでは、判断のしようがないともいえるでしょうから、その次に公取委の考え方を例を挙げながら示しています。ま、ざっくばらんにいえば弱い物いじめなんですが、それが資本の本質ですから、そこを微妙に「正常な商慣習」を基準にして不当な賭しているわけです。当然、この優越的地位とはなんぞやとか、正常な商慣習とはなにかとか、問題になるわけで、ガイドラインで示していても、争いの種になりますね。ただ、資本の本質的な性質を、渋沢流商いの本道みたいなものに近いものとの差もあるでしょうし、どんどんエスカレートしていく中では、公取委と業者との間のつばぜり合いは大変な物でしょう。
それはともかく、これまでフリーランスは対象外としてきた独禁法の運用を改めるわけですから、それだけフリーランスも増えたわけでしょうし、また働き方改革の条件整備をするためにも、必須の方針転換だと思います。
今回の動きは昨年夏から始まったようです。
<公取委は2017年8月、有識者検討会を設置。フリーランスが急増する中、どのような問題が起きているかなどを実態調査し、移籍・独立を巡るトラブルが多いとされる芸能人やプロスポーツ選手の問題についても聞き取りを行ってきた。>
たしかにSMAP騒動は賑やかだったですね。「のん」さんというは女優のことは知りませんでしたが、この種の例は多いのでしょうね。ラグビーやプロ野球なども当然、経営者側が一方的に定めて規約なり協約なりを選手に押しつけているわけですから、問題になって当然でしょう。他方で、アメリカでは当然のエージェント制による保護のあり方も考慮して良いかと思うのですが、日本にはなじまないのでしょうかね。ただ、最近はプロ野球選手だけでなくスポーツ選手も弁護士を代理人に立てるケースが増えてきたように思います。ま、これはアメリカのエージェントと同じではないですが、いろいろ手法を検討していい時期でしょうね。
でフリーランスについてはというと次のような記事となっています。
<検討会はフリーランスの置かれた現状について、企業側と待遇面の交渉をしにくい▽取引先の選択肢が少ない▽トラブルが起きた時に不利な情報を広められてしまう▽法律知識などに差がある--などと列挙。さらに、企業側による移籍制限や引き抜き防止、過度な秘密保持義務の強要といった乱用がみられ、>として、<検討会の報告書はこれらが独禁法が禁じる「優越的地位の乱用」に抵触し、取り締まり対象になりうるとの見解を示した。>というのです。
具体的な不当な拘束的取り扱いなどがヒアリングで明らかにされたようです。
<これまでの実態調査ではフリーランスとして働く人から「他社の仕事を受けないように強要された」「スポーツチーム間で移籍すると一定期間出場ができなくなる」といった声が寄せられた。
また、複数の芸能事務所の契約書のひな型には、芸能事務所側がフリーランスの芸能人との契約を一方的に更新できる内容になっており、引き抜きや移籍を事実上制限していた例も確認されたという。>
この内容だけからみると、どうもスポーツ選手や芸能人と言った限られた人たちのようにも見えますが、報告書が出てこないと、この記事だけで云々するのも問題でしょうね。
で<公取委報告書案 骨子 >が掲載されていますので、そのまま引用します。
・企業側がフリーランスに不利な条件を押しつけるなどした場合、独禁法の定める「優越的地位の乱用」などに触れる恐れがある。
・個別の行為が違反に該当するかは、待遇面の交渉のしにくさや、取引先の選択肢の少なさといった要素から判断できる。
・フリーランスや芸能、スポーツなどの分野は、問題となる行為が独禁法違反に当たる可能性を認識し、自浄に努める必要がある。
有名人といった人を対象とするだけだと、彼ら・彼女らは弁護士なりそれなりの防御手段をもちえますが、一般のフリーランスの人たちをきちんとカバーする報告書、そしてガイドライン作りをしてもらいたいものです。
なお、<法令・ガイドライン等(独占禁止法)>にはこの関連の法令・基準が掲載されていますので、参考のため引用しておきます。
また、当該検討会に関する情報は検索の結果www.jftc.go.jp/scs/web/sf1.wn にありました。
で、フリーランス一般に関する資料としては<フリーランス活用の背景と課題>という高橋俊介慶大教授のスライド用ファイルが、芸能界については<独占禁止法をめぐる芸能界の諸問題>という星野陽平氏のものがありましたので、関心ある方はご覧ください。
一言忘れていました。
「#MeToo」を忘れてはいけません。独禁法は対象外というかもしれませんが、ある種本質的な圧力行為でしょう。対象に組み込む工夫をしてもらいたいですね。
もう一時間経過してしまいました。業務時間も過ぎてしまいましたので、本日はおしまい。また明日。