180210 弁護士について <弁護士倫理研修>参加しての感想と<日弁連次期会長、菊地氏を内定>を読んで
弁護士の不祥事はその人数が増えるに比例して増えているような印象があります。長く法曹養成としての司法試験合格、司法研修所での研修というシステムの中で年間約500人を排出し、大半が弁護士になっていました。それが法科大学院を経て司法試験、司法研修所というコースを用意し、年間1500人を排出するようになり、同様に多くが弁護士になったわけです。以前に比べれば毎年弁護士が3倍以上増える勘定でしょうか。
アメリカや西欧に比べれば、それでも人口当たりの弁護士数はまだまだ少ないとも言われています。ま、単純な弁護士の数を比較するようなことは、不見識でしょうから、これは参考です。
ともかく私のように法曹人口が年間500人時代に弁護士になったものにとっては、就職活動も引く手あまたで、その後も弁護士会やNGOの活動をボランティアでせっせとしても、十分やっていけました。でも法曹人口が増えてからは、私の知らないところで、軒先弁護士?とか、新しい名称の弁護士像が生まれる一方、仕事量が相当減ってきたように思います。
また、弁護士の広告解禁で、いつの間にかアメリカ並みに、TVやネットでの宣伝活動が激しくなり、そういった大々的な広告をしている法律事務所に顧客が引き寄せられるのも自然な流れでしょう。
そういった弁護士事情が影響するのかはわかりませんが、弁護士の懲戒事例が相当増えてきた印象です。日弁連で発行している月刊の『自由と正義』は主として毎回テーマを決めて研究論文が掲載されていますが、私の場合、もっぱら見るのは懲戒事例です。当地にやってくるまでは見たこともなかったので、過去がどうだったかは知りませんが、ここ10年くらい見ていて、ずいぶん複雑な事案が増えてきたなと思います。
だいたい、以前から不祥事というか、弁護士過誤ともいうべき事例がありましたが、多くは上訴期限を徒過したとか、依頼を受けていたのに事件処理を放置していたとか、あってはならないですが、単純な怠慢というか、委任関係における明白な義務違反が多かったように思います。
当地にやってきて弁護士倫理研修をはじめて受けたとき驚きました。具体的な設問を用意し、どしどしと参加者に質問し、解答を求め、参加者間で議論するというものです。ま、本来あるべき姿ですが、それまで東京弁護士会や横浜弁護士会に所属してきましたが、いずれも大人数を抱えていて、講師が一方的に概論を説明するような方式だったと思います。実のところ半分あるいはほとんど寝ていましたので、あまり記憶がありません。当地にきて、一度大阪弁護士会の倫理研修を受けましたが、大弁護士会らしいやり方で緊張感を感じませんでした。
弁護士倫理といっても一般の方はなんのこっちゃと思われると思います。弁護士を対象としてその業務を規律する弁護士法があり、それは他の国家資格者と異なり、行政からの支配監督を受けません。それは弁護士が基本的人権の担い手であり、また国家や行政機関が不正違法なことを行ったとき、国民の立場、代理となって、その不正・違法を追求することが求められているからといえましょう。戦前、法務省の監督下にあったことを反省して生まれたと記憶しています。
では弁護士は自由であっていいのかというと、そこで自主規律が厳しく求められるわけですね。弁護士法にその旨記載があり、さらに具体的な基準となるべき規範は弁護士倫理規定が定められています。
ところが、長い間、この規定は有名無実化していた印象があります。私自身、長く意識したことがあります。当然のことを書いているので、職務においてやるべきことをやっていれば特段、規定を見る必要も感じなかったわけです。むろん懲戒請求を受けるようなおそれ、ないし可能性のある職務を行ったこともありませんが。
しかし、最近はややこしくなってきて、ややこしや、ややこしやと、私も言いたくなります。
当地、和歌山弁護士会での具体的設例に基づく弁護士倫理の議論は、とても参考になります。これだと一義的に決めることができないような事例で、相対立意見が成立することが多いのです。
その中で、多いのが利益相反となりうる事例です。また今回も事例でありましたが、遺言執行者や成年後見人などの地位に基づく弁護士の品位・信頼性が問われる問題です。
その中で、興味を抱いたのは、共同法律事務所の事例が初めて登場しましたので、これを少し書いてみようかと思います。和歌山弁護士くらいの小規模な地域だと、共同法律事務所の数も規模も限られていて、あまり問題にならないかなと思いつつ、首都圏では数も多く、規模も100人とか数100人ですから(多くは弁護士法人でしょうが共通する事項が多いと思います)、結構、弁護士倫理規定の扱いが大変かなと思うのです。
まず利益相反の類型はいくつかありますが、わかりやすいのは自分が依頼を受けた特定の人、法人の相手方からも事件を受けると双方代理になりますから、これはアウトですね。そうでなくても相手方から別事件の依頼を受ける場合も、事件が異なっていても、依頼人から見たら当該弁護士が自分のためにしっかり仕事をしてくれるのかと、信頼関係に溝ができる、そうでなくても弁護士に対する信頼を危うくすることになるでしょうから、利益相反として弁護士倫理規定に反することになります。
この場合でも相談を受けた場合とか、どの程度の相談内容だったかと、それに対して具体的な助言をしたかどうかとか、それがメールで行われたかどうかなど、いろいろなパターンがありえます。意外と難しく、安全圏として「李下に冠を正さず」ということで、双方の事件を受けない方法は安直かもしれません。
より丁寧に弁護士倫理規定の解釈をして、事案に応じて依頼者の利益に資する、やり方を考えることも大事でしょう。
で、今回は、ある共同法律事務所のA弁護士がX会社からY会社に対してある請求をしてもらいたいとの相談があったとき、同事務所のB弁護士がすでにY会社の依頼でZを相手にする相談ないし訴え提起をしていた場合どうするかといった問題です。
共同法律事務所の場合、私などはよく相手方がそういった多数の弁護士に依頼する事件を首都圏で担当してきましたので、なんとも思わないのですが、一般の方の中には、こんな大勢の弁護士を相手にして大丈夫かなんて気にされる方も中にいます。でも弁護士の世界では当たり前のことですが、10人なかには100人とか代理人の名前がずらずらと書かれていても、裁判所に出頭し事件を担当するのは数人くらいが一般です。むろん住民側だと弁護団も実働部隊が数十人規模になることもあるでしょうけど、希ですね。
このような共同法律事務所の実態を考えると、利益相反の範囲を事務所内弁護士すべてが対象となると、事務所の形態にもよりますが、かなり活動を制約することになりはしないかと思うのです。この点、改定された弁護士倫理規定には情報障壁を確立するなど、各弁護士において事件の独立性が担保されていれば、例外的に利益相反にならない扱いをするような規定となっていました(今日ざっと見たのでかなり適当な言い回しですが)。しかし、わが国の法律事務所の場合、インサイダー取引規制が強化される中で上場企業などがファイアウォールを整備した程度に厳しい管理ができているところは極限られるのではないかと思いますし、どの程度やれば、依頼人の信頼を確保できるか、まだ明らかでないでしょう。
共同法律事務所や弁護士法人は、これからの弁護士事務所の一つの大きな流れとなると思われる中、利益相反問題の取り扱いや、また個人情報保護法が適用されることから、情報管理の整備が外部的に把握できる制度構築が求められているように思うのです。
田舎の弁護士が思いつきで考えるようなことは、すでに都心の大法律事務所はとっくにやっているかもしれませんが、弁護士倫理規定の中で誰もが理解できるものになっているか、ちょっと気になります。
ながながと私自身がよくわかっていない共同事務所形態の情報障壁の問題を書いてみましたが、やはり思いつきにすぎず、ここまで読んでこられた方にはお疲れ様でしたというほかありません。
なお、今朝の毎日記事<法曹三者トップ「道産子」 日弁連次期会長、菊地氏を内定 /北海道>では、次年度の日弁連会長が内定したと小さく報じていました。日弁連会長選の知名度のなさでしょうか。あるいは宇都宮さんのときは大接戦の選挙になったり、話題性があったからでしょうか。
菊地くんは私と同期で、一緒に仕事をしたことはありませんが、仕事上では何度か相手方になった数少ない好敵手です。道産子と言っても、都会的で、スポーツマンシップに溢れる人材で、男女均等も自ら実践しており、柔軟で包容力があるので、適任かなと今後を期待しています。最近日弁連会長のリーダーシップが目立たない中、彼がどう日弁連の活動をもり立て、多くの弁護士の活躍の機会を増やせることができ、ひいては国民の期待に真に答えることができるか期待をもって注視したいと思います。
今日は少し弁護士倫理で時間をかけすぎました。中途半端ですがここでおしまいにします。また明日。