コキュートスの記憶

日々の出来事とか戦果(買い物)とか。
主にガンダムを中心にしています。

エニグマ始動 part10

2014年08月05日 | ゲームブック
前回はフェデリコに襲われましたが、
ミディの登場で危機を脱しました。

176:
ドアロックを外したキミはしかし、凄まじい力で後ろに引き戻された。
そのまま反対側の壁に叩きつけられた。頭の後ろで厭な音を立てて窓
のガラスが割れ、車輪がレールを叩く轟音が個室を満たした。
立ち上がろうとしたキミの襟をフェデリコが掴んだ。首を締め上げな
がら窓の桟にグイグイと圧しつける。キミは必死に膝でフェデリコの
腹を蹴り上げた。キミの肩から上は完全に車輌の外にあった。列車が
揺れる度にガラスの鋭い破片が肩を傷つけ、上着の布地が赤く染まる。
突然、フェデリコの体がブルッと震えた。風の音に混じって微かに銃
声を聞いたように思う。続いてもう1発。力を失ったフェデリコの体
はキミにもたれかかり、ズルズルと床に崩れ落ちた。
ドアの前にミディが立っていた。
・右手の拳銃はまだ銃口から薄く煙を立ち上らせている:190

190:
慣れた手つきでセーフティをかけ、拳銃を差し出してミディが言う。
「何者なの?狙いは私?それとも…」
「オレを殺しに来たんだよ」
虚ろな瞳が自分に銃を向けているキミとミディを認めた。
「可哀想になぁ…アンタはもう人間じゃないんだぜ。他人に自分の体
を好き勝手に弄くられて、それにテメェじゃ気づいてないとはね」
「─どういう意味だ?」
「FISTがアンタを鎖もつけずに放し飼いにしとくと思ってたのか
い?アンタは強化人間、言ってみれば歩く最高機密ってなもんだ」
フェデリコは尚も憑かれたように喋り続ける。
「FISTは強化処理のついでにアンタに深層催眠をかけたんだよ。
強化人間という機密を敵に渡さないためのセーフティロックとしてね」
「これは情報部の中でも極限られた人間しか知らない筈さ…」
虚ろな笑みを浮かべたフェデリコは、背中を壁に押しつけて上体を持
ち上げた。後ろ手に窓を一杯に開く。
「後催眠だよ…判るかい?FISTが指をひとつ鳴らす─キーワード

あるのか、それとももっと複雑なサインか、それは知らんが─すると
アンタはどんな命令でも聞く忠実なロボットになっちまうんだ。どん
なに足掻いても、アンタはFISTから逃げられないのさ」
次の瞬間、フェデリコは開いた窓を潜って外に身を躍らせた。
列車はちょうど鉄橋を渡っているところだった。遥か下の川面に墜ち
ていくフェデリコを見送りながら、キミは彼の言葉の重みを噛み締め
ていた。

ノールカップに着くと、ミディは夜になるのを待ってフィヨルドの海
辺に出て行った。キミを従え、小さな岬の陰になった入り江に立つ。
「誰もいないじゃないか」
「約束の時間迄はまだ間があるわ」
背後の足音にキミは身を硬くする。誰かが崖に刻まれた細い道を降り
て来て2人に声をかけた。
「今時分こんなところで何をやっているんです?」
「星を観ていたのよ」
身構えるミディを制してミディが答えた。
「星ですか…1週間程前迄は白夜で1日中太陽しか見えなかったんで
すがね」
「80日分の輝きを取り戻そうとしているのね、星は」
キミの嗅覚が男の放つ軍人の臭いを捉えた。今のやり取りが合い言葉
だったらしい。男はミディに頷いて見せ、ポケットから発信器らしき
物を取り出した。
静かだった水面の一角が不意に泡だった。盛り上がった海が割れ、潜
水艦の黒光りする司令塔が突き出す。
「ユーコンじゃないか…、骨董品だな」
一年戦争時、ジオンが使用した核動力攻撃型潜水艦だ。モビルスーツ
を搭載可能なこの艦は艦船攻撃のみならず、実に様々な任務に使用さ
れた。500隻近くも建造され、マ=クベの蒐集した美術品がこれで
南米のゲリラ組織に送られたとかいった伝説にも事欠かない。
ユーコンは岸の3人を乗せると外海に出るのを待たずに再び潜航した。
アイスランドのティターンズ基地迄このまま潜り続けるつもりだろう。
キミはミディとは別のキャビンに案内された。狭いキャビンのベッド
には、ティターンズの制服がキチンと畳んで置いてあった。
「これを着ろって意味なんだろうな、やっぱり」
階級章は大尉だった。着心地を確かめているとミディが入って来た。
やはり黒ずくめの制服に着替えている。閉めたドアに凭れて睨む。
「アナタにかけられている後催眠のことよ。何か企んでいるんでしょ
うけど、ティターンズの中ではアナタの上官は私よ。命令以外の行動
は謹んで貰いたいわ」
「情報部はオレを連邦の奴隷にしてしまえる方法を知っている、ティ
ターンズはそこでクーデターを起こそうとしている…これは放ってお
けんわな。しっかり見張ってないとどんな勝手をされるか判らん」
「ティターンズは甘くないわよ…もしかしたら後催眠の秘密も知って
いるかも知れない。軽はずみな行動は危険よ。増して、アナタはFI
STだった人間よ。ティターンズが敢えてアナタを受け入れるからに
は、何か裏があるに違いないわ」
5年程前、スペースノイドたちの不穏な動きに対して決定的な手を打
とうとしない行政府の弱腰に業を煮やしたティターンズが一部政界と
手を組み、内閣人事の入れ替えを謀ったことがある。この計画は事前
に発覚し、公にはされなかったが、ティターンズ内部で大幅な人事異
動が行われ、関係者全員が処分された。
この陰謀を暴いて見せたのがFISTであり、勿論キミもこの任務に
参加していた。ティターンズが笑顔でキミを迎えてくれる筈がない。
「その後催眠を機能させる方法を手に入れたら─ミディはどうする?」
「私はそんな方法は使いたくないわ」
「善人振るのは止すんだな。オマエは1人の人間の未来を餌にオレを
利用しているんだ。精々利用されてやるから下手なお為ごかしは止め
て出てってくれ」
「そうね。そうするわ」
乾いた声で言い捨て、ミディはキャビンを出て行った。後悔に似た想
いがチクリとキミの胸を刺した。

ユーコンはノルウェー海の昏く冷たい海底を進み続け、レイキャビク
の港の目立たぬドックに入った。黙々と下艦して行くクルーに混じり、
キミとミディもキャットウォークを渡った。
ドックの固いコンクリのフロアを踏んだ途端、キミは短機関銃を構え
た10名近い兵に取り囲まれた。1人が銃を向けたまま無表情に言う。
「ついてきて頂きたい」
・言われた通りにする:202
・逃げる:044
逃げると死んでしまいますので、来週は202に進みます。
コメント (2)
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