自分は猫が好きです。猫は行儀が悪くて憎たらしいけど、どこか憎めないところがありますね。それとやっぱり魚と似ていると思います(姿ではなく行動が…)。時に魚から離れ、改めて猫の習性を観察するのは楽しいですね。
ネコという生き物は面白い動物です。瞬発力が優れている一方、持久力はそれほど発達していません。ヒトは日中ずっと起きているのに対して、ネコは夜昼に関係なく寝たり起きたりを繰り返しています。睡眠―探索行動―睡眠というパターンを一日に何度も繰り返しているわけです。探索している最中に何か面白いものを見つけると、追いかけたり、捕まえたりします。飽きてくると眠くなり、寝心地がよさそうな場所を見つけるとそこで寝たりもします。ネコは、とりあえず起きると歩きたくなる、あるいは歩いたり身体を伸ばしたりせずにはいられない生き物なんだと考えたくなります。
ネコはいろいろな面で魚とよく似たところがあります。筋肉も赤身で、最も活発な魚と言われているマグロは、非常に泳ぐのが早い生き物ですが、それでも常に全速力で泳いでいるわけではありません。また泳いでいないと生きられない特殊な体をしていますけれども、やっぱり、ゆっくり泳いでいる時間の方が長いようです。休んでいる時間が長く、活発に活動している時間が短いというのは第一の共通点です。
一方で白身魚には攻撃性と戦闘能力の高いものが多く、この“攻撃性”はネコ科動物の最大の特徴となっています。
魚は基本的に、餌を見つけた最初の時点が興奮のピークで、それから徐々に通常のレベルに落ちていきます。どんな釣りでも1投目で食ってきた時はアタリの出方が大きく、2投目、3投目ではそれよりアタリが小さくなり、食いも浅くなります。ところがこれには例外があって、群をなしている魚の場合、群れ全体に興奮が波及するのには何か別な要素が必要なようで、むしろ1尾釣り上げた後の方が活性が上がるという現象をよく経験します。
ですがどちらにしても、“活性が下がる”、つまり初期の興奮の度合いをそのまま維持することはできず、興奮する前かそれ以下のレベルまで落ち込んでしまうということです。よく“ルアーを引くとスレちゃうからやめてくれ”と言われますが、餌釣りでも大なり小なりスレます。オキアミのように魚が喜ぶ(ように見える)餌ほどその落差が激しいと個人的には思います。
これまで魚を観察していて気が付いたもう一つの点は、餌を捕食しようとして失敗すると、その魚はイライラする、いらだってくるということです。人間でも基本的に同じだと思いますが、予測→行動というプロセスの過程でうまくいかない時、血圧や血糖を上げて対処しようとする、眼を有する生き物に共通の原始的な仕組みの存在をうかがわせます(1)。
と同時に、人間はおいしいものを食べると「おいしい」と感じるわけですが、魚も似たような報酬の仕組みがある、つまり、実は人間と同じように「報酬」を期待して行動しているのではないかという推測もできるかと思います。これは腹が減っているから食うという側面と、餌を獲るということ自体にも「やったぜ!」的な喜び、報酬があって、魚類の摂食行動はその二重性によって成り立っているんじゃないかということです。一度目のトライで期待した報酬が得られないと、血圧や心拍数をもっと上げて、二度目のトライを試みる、リトライする、そういった基本的な仕組みがあるのではないでしょうか。
鳥にはずっと飛び続けることができるものが結構いますし、哺乳類もそうです。これは覚醒状態が飛び続けている、あるいは歩き続けている間中維持され続けているということでもあります。ですがネコや魚の行動パターンを見れば分かりますように、「覚醒状態の維持」というのは神経システムにもともと備わっている性質ではないのだと思います。何か特別な仕組みがあって、それを可能にしているのだと思います。
私たちは、寝てばかりいる奴はグズで、睡眠状態や覚醒状態が長く続くのが当たり前だと思っていますが、それは実は特殊な機能なのかもしれない。そしてネコは典型的に、そういう覚醒状態を維持する機能が弱い生き物なのだと、言ってしまってよろしいかと思います。そしてネコはその維持機能の弱さを積極的に利用している。魚種による魚食性の強さの違いというものから類推して、“熱しやすく冷めやすい”者ほど獲物の動きに対して瞬間的に反応する能力が高い。いわば、ナイーブで涙もろく、感情の起伏が激しいということを積極的に利用して、動く獲物の動きを察知し、パッと捕まえるという芸当を可能にしているかもしれないわけです。
覚醒状態に関係のある神経伝達物質にはノルアドレナリンやアセチルコリンがあり、一方睡眠状態に関係のあるものにはγアミノ酪酸があります。これらの覚醒系の物質が活発になると動物は覚醒し、γアミノ酪酸などが活発になってくると眠ると言われています。人間はスポーツやトークをしている時は神経が高ぶっています。神経が高ぶっているから相手の言葉にパッと反応できる。この神経の高ぶりは「通常の覚醒」プラス「何か」の訳です。そのプラス「何か」の状態に切り替えるスイッチをしているのが、あの「オレキシン産生神経」ではないかと考えられるわけです。これまでそうした調整役をしているのはセロトニンではないかとか、いろんな説が飛び交っていますが、実はもっともっと入り組んだものになっている可能性があります。
相手の動きに合わせてパッと行動する、こんな当たり前の行動が、ものすごく複雑なメカニズムによって成り立っているということも意外とあるのかもしれません。
さて、ところで睡眠状態と覚醒状態の間には断絶があるかのように見えます。「そりゃあ、スイッチがあるからだろう」と考えたくなりますが、このことは生物の身体の働きが化学反応によって成り立っていることを思えばむしろ奇妙に思えます。朝、あたかもコンピューターの電源を入れてシステムが起動するように自分の意識が目覚める。どうして睡眠から覚醒へは滑らかに移行していかないのか。どうしてその中間がないのか。どうして起動の途中で落ちたりしないのか(まれにそういう時もありますね)。それにはスイッチングのような仕組みがあるとしか考えられません。
そうしたスイッチングの仕組みを上手に利用したのが高等動物における覚醒の維持なのではないでしょうか。
高等動物がひとたび目覚めると、なかなか眠りにつけない理由は、一つにはそれらの覚醒系の神経が相互依存しているため、その依存関係がそう簡単には破られない、早く言えば安定しているということにあるのではないでしょうか(詳細は次回)。
ですから、高血圧の人にしばしば「夜中目が覚めるとなかなか眠れない」という人が見られるのは、血圧が高いせいで再入眠できないのではなく、上に書いたような睡眠・覚醒を切り替えたり維持したりする神経に不都合が起きているせいで、高血圧と睡眠不足の両方が起きてしまっている、というふうに個人的には思います。
お医者さんが血圧の薬を処方したがるのは、そうした高血圧症を治療しようとしているのではなくて、その他の生活習慣病を引き起こさないために、予防的な意味で投与するんだそうです。その方が医療費を抑えられるからですね(2)。一方で高血圧を治す薬はないという話も聞きます。ところが最新の科学が示しているのは、高血圧は循環器の病気でもなく内分泌の病気でもない。神経系の病気だということ。ですからこれから神経系の仕組みが詳しくわかってくれば、高血圧はなぜ薬だけで完治しないのかという理由も解明されてくるんじゃないでしょうか。
1 人間は、眼にゴミが入った時、痛みや違和感を感じるからまばたきをしてみたり涙を流してみたりするわけです。けれども「入ってくる像にぼやけた部分が生じることによってその修正を試みるのだ」というふうに考えてみることもできます。これは例えば満員電車の中でメガネが曇った時に、特にそうする必要性がないにも関わらずメガネを拭きたくなる、気になってイライラするという状態が生じることからも確認できます。実際、それが嫌でコンタクトにするという人もいます。眼を持った生き物には、眼からの入力に「これはエラーだ」と思われる成分が含まれている場合、何らかの行動をうながして修正を試みる原始機能が備わっているという考え方も充分に成立すると個人的には思います。
2 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/kouketuatu/treatment.html
ネコという生き物は面白い動物です。瞬発力が優れている一方、持久力はそれほど発達していません。ヒトは日中ずっと起きているのに対して、ネコは夜昼に関係なく寝たり起きたりを繰り返しています。睡眠―探索行動―睡眠というパターンを一日に何度も繰り返しているわけです。探索している最中に何か面白いものを見つけると、追いかけたり、捕まえたりします。飽きてくると眠くなり、寝心地がよさそうな場所を見つけるとそこで寝たりもします。ネコは、とりあえず起きると歩きたくなる、あるいは歩いたり身体を伸ばしたりせずにはいられない生き物なんだと考えたくなります。
ネコはいろいろな面で魚とよく似たところがあります。筋肉も赤身で、最も活発な魚と言われているマグロは、非常に泳ぐのが早い生き物ですが、それでも常に全速力で泳いでいるわけではありません。また泳いでいないと生きられない特殊な体をしていますけれども、やっぱり、ゆっくり泳いでいる時間の方が長いようです。休んでいる時間が長く、活発に活動している時間が短いというのは第一の共通点です。
一方で白身魚には攻撃性と戦闘能力の高いものが多く、この“攻撃性”はネコ科動物の最大の特徴となっています。
魚は基本的に、餌を見つけた最初の時点が興奮のピークで、それから徐々に通常のレベルに落ちていきます。どんな釣りでも1投目で食ってきた時はアタリの出方が大きく、2投目、3投目ではそれよりアタリが小さくなり、食いも浅くなります。ところがこれには例外があって、群をなしている魚の場合、群れ全体に興奮が波及するのには何か別な要素が必要なようで、むしろ1尾釣り上げた後の方が活性が上がるという現象をよく経験します。
ですがどちらにしても、“活性が下がる”、つまり初期の興奮の度合いをそのまま維持することはできず、興奮する前かそれ以下のレベルまで落ち込んでしまうということです。よく“ルアーを引くとスレちゃうからやめてくれ”と言われますが、餌釣りでも大なり小なりスレます。オキアミのように魚が喜ぶ(ように見える)餌ほどその落差が激しいと個人的には思います。
これまで魚を観察していて気が付いたもう一つの点は、餌を捕食しようとして失敗すると、その魚はイライラする、いらだってくるということです。人間でも基本的に同じだと思いますが、予測→行動というプロセスの過程でうまくいかない時、血圧や血糖を上げて対処しようとする、眼を有する生き物に共通の原始的な仕組みの存在をうかがわせます(1)。
と同時に、人間はおいしいものを食べると「おいしい」と感じるわけですが、魚も似たような報酬の仕組みがある、つまり、実は人間と同じように「報酬」を期待して行動しているのではないかという推測もできるかと思います。これは腹が減っているから食うという側面と、餌を獲るということ自体にも「やったぜ!」的な喜び、報酬があって、魚類の摂食行動はその二重性によって成り立っているんじゃないかということです。一度目のトライで期待した報酬が得られないと、血圧や心拍数をもっと上げて、二度目のトライを試みる、リトライする、そういった基本的な仕組みがあるのではないでしょうか。
鳥にはずっと飛び続けることができるものが結構いますし、哺乳類もそうです。これは覚醒状態が飛び続けている、あるいは歩き続けている間中維持され続けているということでもあります。ですがネコや魚の行動パターンを見れば分かりますように、「覚醒状態の維持」というのは神経システムにもともと備わっている性質ではないのだと思います。何か特別な仕組みがあって、それを可能にしているのだと思います。
私たちは、寝てばかりいる奴はグズで、睡眠状態や覚醒状態が長く続くのが当たり前だと思っていますが、それは実は特殊な機能なのかもしれない。そしてネコは典型的に、そういう覚醒状態を維持する機能が弱い生き物なのだと、言ってしまってよろしいかと思います。そしてネコはその維持機能の弱さを積極的に利用している。魚種による魚食性の強さの違いというものから類推して、“熱しやすく冷めやすい”者ほど獲物の動きに対して瞬間的に反応する能力が高い。いわば、ナイーブで涙もろく、感情の起伏が激しいということを積極的に利用して、動く獲物の動きを察知し、パッと捕まえるという芸当を可能にしているかもしれないわけです。
覚醒状態に関係のある神経伝達物質にはノルアドレナリンやアセチルコリンがあり、一方睡眠状態に関係のあるものにはγアミノ酪酸があります。これらの覚醒系の物質が活発になると動物は覚醒し、γアミノ酪酸などが活発になってくると眠ると言われています。人間はスポーツやトークをしている時は神経が高ぶっています。神経が高ぶっているから相手の言葉にパッと反応できる。この神経の高ぶりは「通常の覚醒」プラス「何か」の訳です。そのプラス「何か」の状態に切り替えるスイッチをしているのが、あの「オレキシン産生神経」ではないかと考えられるわけです。これまでそうした調整役をしているのはセロトニンではないかとか、いろんな説が飛び交っていますが、実はもっともっと入り組んだものになっている可能性があります。
相手の動きに合わせてパッと行動する、こんな当たり前の行動が、ものすごく複雑なメカニズムによって成り立っているということも意外とあるのかもしれません。
さて、ところで睡眠状態と覚醒状態の間には断絶があるかのように見えます。「そりゃあ、スイッチがあるからだろう」と考えたくなりますが、このことは生物の身体の働きが化学反応によって成り立っていることを思えばむしろ奇妙に思えます。朝、あたかもコンピューターの電源を入れてシステムが起動するように自分の意識が目覚める。どうして睡眠から覚醒へは滑らかに移行していかないのか。どうしてその中間がないのか。どうして起動の途中で落ちたりしないのか(まれにそういう時もありますね)。それにはスイッチングのような仕組みがあるとしか考えられません。
そうしたスイッチングの仕組みを上手に利用したのが高等動物における覚醒の維持なのではないでしょうか。
高等動物がひとたび目覚めると、なかなか眠りにつけない理由は、一つにはそれらの覚醒系の神経が相互依存しているため、その依存関係がそう簡単には破られない、早く言えば安定しているということにあるのではないでしょうか(詳細は次回)。
ですから、高血圧の人にしばしば「夜中目が覚めるとなかなか眠れない」という人が見られるのは、血圧が高いせいで再入眠できないのではなく、上に書いたような睡眠・覚醒を切り替えたり維持したりする神経に不都合が起きているせいで、高血圧と睡眠不足の両方が起きてしまっている、というふうに個人的には思います。
お医者さんが血圧の薬を処方したがるのは、そうした高血圧症を治療しようとしているのではなくて、その他の生活習慣病を引き起こさないために、予防的な意味で投与するんだそうです。その方が医療費を抑えられるからですね(2)。一方で高血圧を治す薬はないという話も聞きます。ところが最新の科学が示しているのは、高血圧は循環器の病気でもなく内分泌の病気でもない。神経系の病気だということ。ですからこれから神経系の仕組みが詳しくわかってくれば、高血圧はなぜ薬だけで完治しないのかという理由も解明されてくるんじゃないでしょうか。
1 人間は、眼にゴミが入った時、痛みや違和感を感じるからまばたきをしてみたり涙を流してみたりするわけです。けれども「入ってくる像にぼやけた部分が生じることによってその修正を試みるのだ」というふうに考えてみることもできます。これは例えば満員電車の中でメガネが曇った時に、特にそうする必要性がないにも関わらずメガネを拭きたくなる、気になってイライラするという状態が生じることからも確認できます。実際、それが嫌でコンタクトにするという人もいます。眼を持った生き物には、眼からの入力に「これはエラーだ」と思われる成分が含まれている場合、何らかの行動をうながして修正を試みる原始機能が備わっているという考え方も充分に成立すると個人的には思います。
2 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/kouketuatu/treatment.html