竹心の魚族に乾杯

Have you ever seen mythos?
登場する団体名、河川名は実在のものとは一切関係ございません。

内臓感覚とスポーツの関係

2012年02月19日 20時16分30秒 | 兵法書・鍛練編
あの、アップル前CEOスティーブ・ジョブズが生涯手放さなかったと伝わる古典的名著、オイゲン・へリゲル『弓と禅』の中に、「呼吸」というものが、弓術の最奥義として出てきます。呼吸を究めなければ、和弓を究めることは難しく、にもかかわらず弓の師範は、その呼吸の奥義を簡単には弟子に教えなかったのだそうです。

遠く離れた的を射貫くのに呼吸を調えることが必要だということは素人にも分かることであります。しかしその呼吸が“奥義”というのは一体どういうことなのでしょうか。


さて、先週末のサーフ釣行で、思いもよらずタイミングのズレによるキャスト切れが起き、自分では万全を期したつもりだったのに「何故?」という経験をしたのですが、予備のスプールで続行しながら、疲れてもいないし集中力も維持できているのにキャストミスが起きるのは何故なんだろうかとキャストしながら考えました。


要するに「へた」ということなんだろうか――先週バラしたポイントに向かう途中、自分のキャスティングフォームをチェックしながら投げました。
ところがどう見ても自分のキャスティングフォームに問題があるようには思えないし、むしろ朝一よりはスムースに投げられているような感じがしたのであります。

予備のスプールにはナイロンが巻いてあるが、これは朝一ミノーをキャストしていたものであります。ところがミノーよりも飛ぶはずの12gジグヘッドが、ミノーの半分ぐらいしか飛んでいない。どうみてもおかしい。

そんなことを考えながらキャストを繰り返していると、突然例の声が聞こえました。「呼吸に気をつけてみたら?」。
何を馬鹿な?今日だってずっと一投目から呼吸に合わせて背筋を働かせ、渾身のキャストを続けているのだ。
リールのベイルを返し、大きく息を吸い、ロッドをはね上げ、ジグヘッドのリリースタイミングにぴったり合うように背筋を瞬間的に収縮させる…さっきまでよりも一層、タイミングとベクトルに集中します。さしずめ剣術修行さながらであります。しかし、その努力とは裏腹に、飛びません。飛距離が一定しないし、方向もバラバラです。

「なんだ全然だめじゃないか」そうつぶやきながらベイルを返すのに合わせて、大きく息を吐き出している自分がいました。本当に腹の底からすべての息をすっかり吐き切っていたのであります。
「おや?」――自分の肺の中の空気がすっかり無くなる頃、腹の中の臓器が、一斉にジワジワと降りてくる様子が感じられたのです。そしてそのまま一連のキャスティング動作を続行し投げてみたところ、実に見事に勢いのないキャストに終わったのであります。「これだ!」。

そこで次のキャストでは、ベイルを返す時に息を吐き切りたくなる衝動を抑え、胸郭の緊張感を維持したままキャスティングモーションに入りいました。この時疲労感というかはやく息を吐き切って楽になりたいという感じがしました。息も若干苦しいような感じです。それを、我慢して投げてみたのです。その結果…。


ごく普通に、当たり前の手応えを残してルアーが飛びました。ロッドから放たれたルアーはグングン飛距離を伸ばし、自分の正面に着水しました。本当に朝一の一投目と同等の飛距離が出ました。これは正直まったくの驚きでした。

いつも自分はルアーの飛距離が悪くなってくると、決まってフェルールの緩みや、ラインのコーティングが残っているかどうかをチェックしていたのですが、これはとんでもない勘違いだったのであります。

爬虫類や鳥の内臓は、そのすべてが肋骨に包まれ、保持されています。それに対して哺乳類の内臓は半分程度しか肋骨に覆われておらず、残りの半分は横隔膜をはじめとする筋肉によって支えられています。これは脚や腕の多様な運動能力の獲得に寄与しているのだそうです。

とすれば、きっと何か特別な理由で、人間の臓器(これだってけっこうな重量がある)を包んでいる筋肉群は、非常にゆっくりとした収縮スピードとなっていて、それは(平滑筋で構成されている)横隔膜の収縮スピードよりもさらに遅いはず。したがって“活動的な”ポジションに臓器群を戻すためには、1呼吸ないし2呼吸さらに必要なのだ。
だから「投げるぞ」と思った時に投げていたのでは、キャスティング精度が向上するわけないのだ。そして、飛距離も。本当に○王のように投げたければ、「投げよう」と思った時すでに、臓器群が充分に持ち上がっていなければならないわけだ。

哺乳類にとって臓器群のポジションは実は2通りあり、「上」がアクティブなポジションであり、骨格筋をつかった行動に適している。一方の「下」は休息したり食事をしたりというイン・アクティブなポジションであり、この時は臓器群をフルに働かせることができる、きっとそうだと思います。そしてこの切り替えに一役買っているのが、ほかならぬ「呼吸」なのだと。呼吸は不随意筋の収縮と関係があります。

考えてみれば目の前での突然のナブラにびっくりし「投げるぞ!」と思った時は、飛距離は充分だけれどもほとんどが右か左に反れ、狙った獲物を手にすることができないという体験はよくあることであります。反対に突然ナブラが出て首尾よく獲物を獲った時というのは、さあ始めるかと浜辺にツカツカと歩いて行き、これから投げようと準備した時ちょうどたまたま近くでナブラが出る、そうした状況のことが多いです。

無意識に「上」ポジションから「下」ポジションに向かおうとしている時は、ため息が出たり、落胆したりするものですが、反対に「下」から「上」に切り替えようとしている時はワクワクする感じがあります。この切り替えに働いている筋肉群を「ワクワク筋」と名付けても良いかも知れません。また危険な状況などやむを得ず下から上への切り替えを余儀なくされる場合は「びっくりする」感覚があります。

またこのようなことも裏付けになるでしょう。すなわち、ぐったりし、肩が落ちてくると、急速に腹がへってくるという事実――上記のことを物語っていると思うのであります。



たかが釣り。しょせんは遊びです。けれども“真剣に遊ぶ”という心構えが必要なのだと痛感させられました。

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