ラニーニャ発生で今年の冬は相当寒くなる?
長いエルニーニョ現象が2016年の春に終わり、秋からはラニーニャ現象が発生しています。そのことが、11月下旬にもかかわらず東京都心部で54年ぶりに雪が降っていることとも関係があるかもしれません(本当に関係があるのかどうかは、大気の状態などを詳しく解析しないとわかりませんが…)。そもそも、ラニーニャ現象っていったい何なのか、そして日本付近ではどんな異常気象が発生するのか。気象予報士の資格を持つサイエンスライター、今井明子が解説します!
エルニーニョ現象という言葉を耳にしたことのある人は多いはずです。この現象は、東太平洋の赤道付近、つまり南米ペルー沖付近の海面水温が平年より高い状態が、だいたい1年以上続く現象のことをいいます。
昔から、ペルー沖では毎年クリスマスごろに小規模な暖流が現れ、カタクチイワシが不漁になりました。この現象のことを現地では「エルニーニョ(スペイン語で幼子イエス・キリストの意味)」と呼んでいたのですが、数年に一度、春になっても水温が下がらないことがありました。今ではこちらのほうを「エルニーニョ現象」と呼んでいます。
■ラニーニャはスペイン語で「女の子」
最近では2014年夏から2016年春までの、約2年弱もの期間に、エルニーニョが発生していました。このとき、東太平洋の赤道付近では、海面水温が基準値(前年までの30年間の海面水温を月別に平均した値)よりも3.0℃も上昇。これは、1949年以降のエルニーニョ現象の中では最も長く続き、3番目に大きな温度上昇幅だったので、史上最大級のエルニーニョといってもよいでしょう。このため海外では「ゴジラエルニーニョ」「スーパーエルニーニョ」などと呼ばれています。
そして、今年の秋からはラニーニャ現象が発生しました。ラニーニャとはスペイン語で「女の子」の意味で、エルニーニョとは反対の、東太平洋の赤道付近の海面水温が平年よりも低くなる現象のことを指します。前回のラニーニャは2010年夏~2011年春に発生していたので、約5年ぶりの発生ということになります。
エルニーニョとラニーニャは、世界中に異常気象をもたらすことで知られています。一般的に、エルニーニョが起こると冬は暖冬に、夏は冷夏になるといわれています。実際に、2016年の冬は記録的な暖冬になりました。
私は2016年の2月に豪雪地帯で知られる新潟県津南町に、気象予報士仲間と訪問したのですが、最も積雪の多くなる2月中旬に行ったにもかかわらず、訪れた日の積雪は1メートル弱で、積もった雪の上の面が道路から見える状態でした。通常だとこの時期は2~3メートルも積雪があるので、道路の横に雪の壁が立ちはだかり、積もった雪の上の面は見られないのだそうです。しかも、よりによって雨まで降ってきて、「今は2月だよね? ここは豪雪地帯だよね?」とツッコミを入れたくなったものです。
■なぜ異常気象は発生するのか
このような異常気象は、なぜもたらされるのでしょうか。それは、海と大気が相互に影響しあっているからです。近年は観測網が整備されて研究も進み、エルニーニョやラニーニャのときに、海や大気ではどのようなことが起こっているのか、なぜ異常気象が発生するのかが徐々に明らかになってきています。
それでは、エルニーニョのときにはどのようなことが起こっているのか。それを知るには、まず通常時の海と大気の状態を理解する必要があります。赤道付近には、貿易風と呼ばれる東風が吹いており、赤道付近の海面付近にある暖かい海水は、貿易風によって西側(フィリピンやインドネシア付近)に運ばれます。そして、東側のペルー沖では、下から冷たい海水が湧き上がってくるため、赤道付近なのにもかかわらず、海面水温が低くなります。
ところが、エルニーニョが発生するときは、何らかの理由で貿易風が弱まります。すると、暖かい海水も西側に運ばれにくくなり、ペルー沖も冷たい海水が湧き上がりにくくなります。だから、ペルー沖の海面水温が普段よりも高くなるのです。
海面水温が高いところでは、海水が活発に蒸発し、上昇気流が起こって積乱雲が発生しやすくなります。上昇気流が発生する場所は、気圧が低い場所ともいえます。エルニーニョでは、海面水温の高い場所が平常時よりも東側にあるため、気圧の低い場所も平常時よりも東側にずれます。
一方、ラニーニャが起こっているときは、貿易風が平常時よりも強くなり、暖かい海水がより西側へ運ばれるため、ペルー沖の海面水温が平常時よりも下がります。そして、気圧の低い場所も西側にずれるのです。
気圧の低い場所と高い場所は交互に並ぶ傾向にあるため、平常時とは違う場所の気圧が低いと、そこから遠く離れた場所の気圧も平常時と比べて高くなったり低くなったりします。こうして、赤道付近の海面水温の変動が、日本の天候にも影響を及ぼすのです。
さて、エルニーニョが起これば、暖冬・冷夏になるといわれていますが、ラニーニャが起こればその逆で厳冬・暑夏になるといわれています。たとえば、前回ラニーニャ現象が発生していた2010年12月~2011年1月にかけての冬は、たびたび強い寒波が流れ込み、1月としては1986年以来25年ぶりの全国的な低温となりました。また、2010年の12月から2011年2月にかけては、アメダスを含む22地点で積雪の深さが観測史上1位 を更新しました。
■今年の冬はどうなるの?
では、今年の冬は寒くなるのでしょうか。気象庁地球環境・海洋部気候情報課の竹川元章予報官によると、「12月~2月の平均気温は、北日本では平年並みか高く、東日本ではほぼ平年並み、西日本と沖縄・奄美地方では平年並みか低い」とのことでした。
ラニーニャが発生しているのに、気温が平年並みよりも高い地方があるというのは意外です。これは、ラニーニャが発生している影響で、太平洋の西側、すなわちフィリピン付近の海面水温が高く、上昇気流が活発になって積乱雲が発生しやすくなることが理由です。
この活発な大気の対流活動は、日本付近の上空付近を吹いている偏西風に対して、中国のあたりで北に蛇行させるように働きかけます。すると、中国よりも東の日本の東で南の方向に蛇行しやすくなるのです。これによって、冬にシベリア付近で発生するシベリア高気圧がより南側に引き込まれやすくなります。シベリア高気圧は強い寒気で構成されているので、西日本や沖縄・奄美方面にシベリア高気圧が張り出すことで、寒い冬となるのです。
一方、北日本付近は、偏西風が南に蛇行することに対応して気圧の谷となるため、低気圧が発達しやすくなります。この低気圧は、平常時よりも日本に近い場所にあり、暖かい空気を運んできます。加えて、全球規模で大気全体の温度が高い傾向もあり、北日本は平年よりも暖かくなるのです。そして、東日本は、寒い西日本と暖かい北日本の間にあるため、平年並みになりそうだというわけです。このような大気の流れは、ラニーニャが起こっているときの典型的なパターンだそうですが、ラニーニャがいつまで続くのかも、偏西風の蛇行度合いもその年によって違うので、予報は今後変わってくる可能性があります。
毎月10日頃に発表される「エルニーニョ監視速報」や、毎月25日頃に発表される3カ月予報をチェックして、最新の状況を確認することをおすすめします。