「産んでくれたら最大200万円援助します」
家の跡継ぎを残すための普通養子縁組に対し、子どもの福祉のために6歳未満の子どもを戸籍上の我が子として迎え入れる制度を”特別養子縁組”という。
これをあっせんする大阪市のNPO法人「全国おやこ福祉支援センター」が「インターネット赤ちゃんポスト」と称する自身のサイトでこう呼びかけたことが波紋を呼んでいる。赤ちゃんを育てられない親と、養親希望者とのマッチングをネット上で呼びかけるこの行為に対し、「命を商品化している」「営利目的では?」などの批判が殺到しているのだ。
渦中のサイトを運営する、NPO法人「全国おやこ福祉支援センター」代表理事の阪口源太氏を直撃した。
――阪口さんは「インターネット赤ちゃんポスト」を開設されるまでは福祉に関わったことがなかったとか。
阪口:その前はIT会社の経営を13年間していました。そのあと維新政治塾にお世話になり、そこでの経験から、何か人の役に立つ仕事ができないかと考えるようになりました。そこで始めたのが特別養子縁組のあっせんです。当初は法令も何も知らないまま、「インターネット赤ちゃんポスト」をスタートさせたんですよ。厚労省から指摘されて初めて届け出が必要なことを知り、急いで出したことを覚えています。
――多くの児童相談所や民間業者を利用する場合、養親希望者は「子供が欲しい理由」などの作文を提出、さらに講座を受け、面談といったプロセスを経る必要がありますが、阪口さんの団体はどのような手続きがありますか?
阪口:我々の団体では、養親希望者から年齢、職業、年収、貯蓄などの基本情報をメールや電話で伝えてもらい、3000円の月会費を支払ってもらうだけで登録ができます。生みのお母さんにはそれらの情報を基に、養親の一覧から子供を託したい相手を選んでもらい、マッチングが完了します。昨年4月、さらに効率化をはかり、マッチングまでを自動化するアプリを作りました。
――ということは、マッチングが成立するまでの過程で、団体側は養親希望者に会うことはないのですね。
阪口:そうですね。マッチングが済んだ後に1度、家庭訪問をします。あとは家庭裁判所や児童相談所との連携が必要な部分に関しては、連携をし、手続きを行っています。
養親は生みのお母さんに、出産費用や、生活支援金を支払ってもらいます。これが「最大200万円の援助」となるということですね。そして出産をしたら、赤ちゃんとお母さんの退院の日に迎えに来てもらいます。養親と生みのお母さんは、希望があれば事前に面会しますが、赤ちゃんの引き渡しの際に挨拶だけという方がほとんどです。
――電話やネット上で特別養子縁組を行うことに、「適性のない養親希望者がフィルタリングできないのでは?」と専門家から批判の声もありますが……。
阪口:厳正に審査して、ダメな親を完全に排除するのが理想です。しかし、それでは次々と生まれる赤ちゃんに追いつきませんし、ITによる効率化が必要不可欠だと思います。僕は明らかにダメな30%程度の層を除外すればいいと思っています。
――そ、それは大胆ですね……。
阪口:親は子どもと一緒に成長していくものじゃないですか。それを親になる前から判断しようなんてそもそも無理があるんです。だから夫婦仲が悪かったり、連絡がつかない夫婦を最低限フィルタリングすればいいんです。
――アプリなどの効率化によって、実際に成立件数は伸びているのですか?
阪口:どんどん伸びています。うちの団体の養親登録者は現在130組。首都圏で赤ちゃんの募集を1件出すと、50~60件ほど手が挙がる状況です。いま、民間のあっせん団体は20団体あり、年間で約150件しか養子縁組が成立していないのが現状です。しかし、うちの団体だけで直近の数か月は月4、5件は成立していますから、今年は年間100件超えも見えています。民間団体の成立件数としては日本一でしょうね。
――「人身売買」と批判された「産んでくれたら最大200万円の援助」の文言は、行政から8回指導を受けても取り下げていませんよね
阪口:指導に対しては、「人身売買と誤解される社会的損失と、多くの人に知られることで、救われる命があるという社会的利益のどちらが大きいですか?」と返しています。まぁ、まだ回答はありませんが(笑)。そういう行政には、困っている妊婦さんを吸い上げる能力がないじゃないですか。僕らは実際に、中絶を考えている女性にインパクトのある文言でアプローチすることで、赤ちゃんの命を救っているんですよ。それに、「営利目的では?」とも言われていますけど、ありえませんね。うちの団体は役員報酬ゼロですから。
――役員報酬ゼロですか。阪口さん自身は、どうやって生活しているのですか?
阪口:友達の経営する会社を手伝ったりして、収入を得ています。実のところ「インターネット赤ちゃんポスト」は3年後に売却する予定なんです。その頃には成立件数がかなり伸びていると思うので、医療法人や宗教法人など、基盤のしっかりしているところに買ってもらい、維持していっていただきたいですね。僕はそれを元手に財団法人を作り、またなんらかの社会事業に取り組みたいと考えています。
――昨年11月21日に放送されたNHK『クローズアップ現代』で、「インターネット赤ちゃんポスト」の活動が紹介されましたが、反響はどうでしたか?
阪口:反響は大きかったです。放送後は養親希望者や妊婦さんからの問い合わせもかなり増えました。まぁ、クレームの電話も多かったですけどね。
――批判を受けてでも、メディアに出る理由はなんですか?
阪口:この国で特別養子縁組が進んでいないという問題自体、認識していない人が多いじゃないですか。この問題が多くの人に知られ、1人でも多くの命が救われるなら、喜んで出続けたいと思います。実際、僕みたいな叩かれやすい人間のほうがメディアに出やすいですから。それに僕を批判する他の民間団体も社会から注目を浴びますし、良いことしかないですよね。
――昨年末に、悪質業者の排除に向けて成立した「養子縁組あっせん法案」に関してはどう思いますか?
阪口:大きな進歩ですね。僕の動きが話題を呼び、法律を作ったのだと思います。……あ、すみません(突然、電話に出て会話をする阪口さん)。……失礼しました。今にも生まれそうな赤ちゃんの養親として決定していた方が、急にキャンセルになってしまって。今夜、再度マッチングした養親の家庭訪問に行くんですよ。
――だいぶお忙しいようですね
阪口:将来的には、年間1000組の特別養子縁組が成立する社会を作ることが僕の目標なんです。今は年間20組の養子縁組を行っていますが、まだまだ延ばしていけると思います。
その大胆なやり方が、世間のみならず国会にまで波紋を広げている阪口氏。そのやり方には賛否両論あるだろうが、そんな阪口氏に救いを求める人がいることも、また事実かもしれない。