冬のミニ台風「ポーラーロー」が日本海に出現
低気圧のほとんどは、暖気団と寒気団の境目の温度差が大きい場所(前線上)で冷たい空気が温かい空気が冷たい空気の下に潜り込むことによって生じる温帯低気圧か、水蒸気が豊富な熱帯の海上で水蒸気が凝結することによって生じる熱帯低気圧(台風)です。
図1 温帯低気圧と熱帯低気圧、極低気圧の位置関係
このため、温帯低気圧は暖気と寒気の境目の気温変化が大きい場所(気温傾度が大きい場所)、つまり、前線上で発生します。また、熱帯低気圧は水蒸気が豊富にある熱帯の海上である暖気内で発生します(図1)。
しかし、寒気内で発生する例外もあります。
それが、現在、日本海北部に出現ている極低気圧、英語で「polar low(ポーラーロー、あるいはポーラーロウ…)」です(図2)。地上天気図では、前線を伴わない小さな低気圧として描かれます。
図2 気象衛星「ひまわり」のカラー画像(平成29年2月11日12時)
図3 平成29年2月11日12時の地上天気図
ポーラーロー
気温が非常に低い寒気団が凍っていない海の上を通過する時に大気が不安定となって発生するのが、ポーラーローです。
名前の通り、多くは気象衛星以外の気象観測がほとんどない両極地方で発生し、前線を全く持たないこと、雪雲による数百キロメートルの渦巻が形成されていることが特徴的です。
近年になってようやく研究がスタートしたことから未解明な点も多いのですが、ミニ台風と呼ばれることがあるように、見かけ上は台風に似ています。大きさが1000キロメートル以上もある温帯低気圧や大型の台風と比べれば、規模が小さな低気圧ですが、時として大雪や暴風、雷など激しい気象状況をもたらすことがあります。
このポーラーローは、例外的に、北極から遠く離れた日本海でも発生します。
ユーラシア大陸からの冷たい寒気が、北極海や南氷洋に比べれば非常に温かい対馬暖流の上を移動しますので、下層と上層の温度差が極地方の海上並みに非常に大きくなることがあるからです。
冬季、きれいな渦を巻いている雲の集団が日本海にある場合は、ポーラーローの可能性が高く、この雲の通過時には、一時的に強い降水や雷、降雹、突風や竜巻などの現象を引き起こす可能性があります。
規模が小さく長続きしない場合でも、大きな災害を引き起こすことがありますので、気象衛星から見て、雲の渦が接近しているときは警戒が必要です。
平成24年1月31日に北海道南部を通過したポーラーロー
平成24年1月31日は、北海道上空約5000mには、氷点下42度以下の寒気が流入したことから、北日本では気温が上がらず、日中も氷点下で市民生活に大きな影響を与えました。
全国のアメダス観測所の約4分の1にあたる333地点で最高気温が0度未満の真冬日でした。また、最低気温が0度未満の冬日は過半数の804地点もありました。
図4 北海道江差市の気圧と風速の変化(平成24年1月31日)
このとき、日本海北部にあったポーラーローの雲の渦巻きが東進して、北海道南部の江差に上陸しています。
ポーラーローが通過した江差では、17時に気圧が1005.3ヘクトパスカルと急に低くなり、それまでの毎秒10メートル前後の西南西の風が、毎秒14メートルの北風に強まっています。最大瞬間風速が毎秒21.6メートルという突風が吹き、その後、風は弱まっています(図4)。
また、江差の自動天気計による観測記事では、瞬間の降水強度が1時間当たり1~3ミリの雪が降り続いており、15時29~39分は3ミリ以上と強くなっています。また、視程は500メートルから1キロメートルの間を変動していましたが、15時1~5分は100メートルでした。
つまり、江差では、ポーラーローの通過直前に強い雪と視程の低下、通過時には風が強くなっています。現在、秋田沖にあるポーラーローの動きに警戒が必要です。