歴代2位地震で韓国大揺れ 受験生ゴミの山あさり、政治家「神様が文在寅政権に与えた警告」発言
「地震は神様が文在寅(ムン・ジェイン)政権に与えた警告だ」(野党・自由韓国党幹部)。11月15日に韓国南東部・浦項(ポハン)で発生した地震の規模は、同国で歴代2位を記録した。現地では不慣れな災害対応で住民は避難所をたらい回しにされる一方、韓国人の人生を左右する大学入試の日程変更に伴う大混乱も全国で発生。冒頭の野党幹部による舌禍や「フェイク(偽)ニュース」も飛び交い、韓国社会は大きく揺れた。(外信部 時吉達也)
■震度「4~5」、避難住民1500人超
「一概には比較できないが、日本であれば震度が『4~5強程度』となる規模の揺れだった」(気象庁担当者)。11月15日午後に発生したマグニチュード5・4の地震は死者こそ出なかったが、負傷者は90人に上り、避難を余儀なくされた住民は1500人を超えた。
韓国では昨年9月、今回の震源と同じ慶尚北道にある慶州(キョンジュ)で発生したM5・8の地震が過去最大と記録されている。今回は昨年に続き観測史上2番目の規模だったが、断層の動き方の違いなどから、体感では慶州を超える地震になったという。
震災を体験した人間はほとんどおらず、地域の耐震化も当然進んでいない。1階部分が通路や駐車場スペースになっている「ピロティ」型建築では、建物を支える柱が崩れ、鉄筋が向きだしになった様子が繰り返し報道された。
■震度とマグニチュードを混同
震災に慣れていないためか、各メディアの報道では、地震の規模を示すマグニチュードと、震度を混同し、「震度5・4」などとする表記が目立った。韓国日報は論評で、韓国が2001年まで導入していた日本の気象庁の震度基準を廃止し、米国式に改めた経過を説明した上で、「国内の地質、建築物の特性を反映しておらず、(韓国の)気象庁もその後使用しなくなった」と指摘した。
同紙は震度別に被災時の対応を判断する訓練が不可欠だとして、「すぐに韓国型震度階級の開発が難しいなら、日本のものをまず持ってこよう」と提唱。「地震がしょっちゅう起こる日本の研究と対応姿勢については、まだまだ学ぶべきものが多い」と訴えた。
■史上初の試験延期、12時間前に決定
被災の影響が最も大きかったのは、日本の大学入試センター試験に当たり、国を挙げた一大行事でもある大学修学能力試験、略称「修能(スヌン)」の受験生たちだった。地震の翌日に行われる予定だった試験は史上初めて、全国一斉に1週間延期されることが決まったのだ。
予定通りに試験を行うとした震災直後の方針の変更が政府から発表されたのは、試験開始まで約12時間後に迫った午後8時過ぎ。被災地以外の学生の反応は「当然フェイクニュースだと思った」というものだった。ある浪人生は「試験に集中するため、予備校の先生に携帯電話を渡してあった。情報が入らず、周りが知らせてくれなかったら大変なところだった」と振り返る。
■試験前日の悲劇、投げ捨てた教科書を…
翌朝、予備校の中庭には、ゴミの山の中で探し物をする生徒らの姿があった。韓国では近年、修能を受ける前日に教科書や参考書を教室の窓から投げ捨てるのがセレモニーとして定着。試験延期を受け、自分の教材を取り戻そうと慌てて駆けつけていた。
中央日報によると、この不思議な風習は、2007年ごろから流行。英語のリスニング試験中、教室会場のロッカーに置かれていた時計が鳴り出すトラブルがあったことから、受験場所となる教室を普段使っていた高3の生徒らがその後、ロッカーの中身を捨てたのがはじまりとも言われている。
受験生らは突然1週間の猶予が与えられた形だったが、すでに教材がゴミ収集されてしまったケースもあり、参考書の注文が急増。朝鮮日報はオンライン書店の集計で震災当日、前日比40倍の売り上げを記録したと報じた。
■出題者は「拘留1週間延長」
予定が狂ったのは、学生ばかりではなかった。地方某所で外部との連絡を遮断した生活を送っていた試験出題関係者も、1週間の滞在延長を余儀なくされることに。「監禁生活」(韓国日報)は過去最長の41日間に及んだ。
韓国では不正受験を防止するため、出題者のほか、出題ミスの点検担当者やリスニング教材に出演した声優らが「監禁」の対象となる。外出やメール、携帯電話での通話が制限され、インターネットの利用も監視下に置かれるといい、今回は500人超の対象者が「拘留1週間延長」の憂き目にあった。
■地震原因は「北の核実験」!?
一方、被災地住民の心情を無視した政治家の“舌禍”は、古今東西を問わないのだろうか。最大野党・自由韓国党の最高委員を務める女性幹部は、文在寅政権の人事や、過去の保守政権を標的にした検察捜査をめぐり与野党が対立する中、「地震は神様が政府に与えた警告だ」と発言。「浦項住民がなぜ天罰を受けるのか」と各方面から非難を受けたが、「『天罰』とは言っていない。フェイクニュースには厳しく対応していく」と強気を崩さなかった。インターネット上では震災発生以降、「地震発生の原因は北朝鮮の核実験」「(震災3日後の)19日に本震が来る」といった実際のフェイクニュースもあふれていた。