小児漢方探求

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

「五臓六腑に染み渡る」の“五臓”を漢方医学的に解説

2024年12月29日 10時00分34秒 | 漢方
YouTube上の「Dr.喜多 公式チャンネル」から、
【Dr.喜多の漢方入門講座】五臓の働きとその異常シリーズ(1-6)
を見つけました。

漢方における五臓の概念は「陰陽五行説」の一部で、
西洋医学を中心に学んだ日本の医師には、
ちょっと入りにくいハードルとなっています。

でも、漢方薬を使い始めると、
この概念を理解しないと先に進めない壁でもあります。
急性熱性疾患の経過を表す六病位や、
体のバランスを表す気血水がなんとなくイメージできるようになると、
その次に現れるのが五臓論なのです。

とくにこころの不調に対する漢方を調べていると、
“心”と“肝”に作用する方剤の名前が出てくるのですが、
この心と間の違いが今ひとつイメージできなかった私です。
このシリーズの中で、
「心は精神運動機能をつかさどり、肝は心の働きをコントロールする」
という興味深いフレーズが登場しました。

また、心のシステムを肝が制御し、
肺のシステム(衛気)を腎が制御するという説明も新鮮でした。

噛みしめて理解したいと思います。

この五臓論、なんとか突破できないものか・・・
以下に講義メモを備忘録として残しておきます。

***************************

▶ 五臓は気血水を産生する
脾(消化器官) → 気の産生(エネルギー源)
肝(代謝器官) → 血の産生(有機資源)
腎(泌尿器官) → 水の産生(無機資源)

▶ 気には2つの働きがある
・パワーとしての気 → 機能を発現する働き(モーター)
・エネルギーとしての気 → 機能を維持する働き(電池)

▶ パワーとしての気は3系統に分類される
脾に宿る胃気 → 消化吸収機能発現
心に宿る神気 → 精神運動機能発現
肺に宿る衛気 → 生体防御機能発現
・・・そしてこの3つの気にエネルギーとしての気が供給されるが、
 その気は「水穀の気」「後天の気」つまり食べ物の栄養である。

▶ 身体器官の機能を超えた五臓システム
循環器官 → システム → 精神運動機能
呼吸器官 → システム → 生体防御機能
消化器官 → 脾胃システム → 栄養補給機能
代謝器官 → システム → 神気の活動制御
泌尿器官 → システム → 衛気の活動制御
つまり、心と肝は密接につながり、肺と腎も密接につながっている。

▶ 脾胃の働きと異常
・脾胃の働き
食物を消化吸収し、水穀の気を生成する。
②血の流通をなめらかにし、血管からの漏出を防ぐ。
③筋肉の形成と維持を行う。
食欲を調節し、栄養産生を制御する。
・脾胃の異常(を示唆する症候)
①食欲の低下、消化不良、悪心・嘔吐、胃もたれ、腹部膨満感、腹痛、下痢
②皮下出血
③脱力感、四肢が思だるい、筋萎縮
④考え込む、抑うつ

▶ 漢方の血液循環の中心は心臓ではなく“肝”
(西洋医学)
心臓 → 酸素(動脈血) → 全身→ 二酸化炭素(静脈血) → 心臓
(漢方医学)
肝臓 → 有機資源(営血・栄血) → 全身→ 有害物質(汚血・血毒) → 肝臓

▶ 肝の異常と血虚・瘀血の病態
有機資源の不足 → 血虚
有害物質の過剰 → 瘀血
・・・漢方医学は肝を中心に理解する。

▶ 肝と骨格筋における肝陽・肝陰の働き
肝陽(肝の陽気)
・肝臓における蛋白質代謝:分解・異化へ
・骨格筋における筋繊維トーヌス:亢進・緊張へ
肝陰(肝の陰液)
・肝臓における蛋白質代謝:合成・同化へ
・骨格筋における筋繊維トーヌス:低下・弛緩へ

▶ 肝の働き=自律神経系+内分泌系
前項の肝陽・肝陰は1日のサイクルで循環している(日内リズム)。
夜は肝陰で静的活動:睡眠、筋弛緩、たんぱく質同化
昼は肝陽で動的活動:覚醒、筋緊張、たんぱく質異化

▶ 肝陽・肝陰の日内リズムがストレスでブロックされた病態が肝気欝血
肝陽(動的活動) → 肝陰(性的活動)への移行が、
ストレスのために障害された病態。
 → 精神的・身体的な過緊張状態を呈する。

▶ 肝の働きとその異常
肝の働き
①精神活動を安定化する。
②栄養素の代謝と解毒をつかさどる。
③血を貯蔵して全身に栄養を供給する。
④骨格筋のトーヌスを維持し、運動や平衡を制御する。
肝の異常(を示唆する症候)・・・精神的・身体的過緊張
①神経過敏、易怒性、イライラ
②じんま疹、黄疸
③月経異常、貧血
④頭痛、肩こり、めまい、筋肉のけいれん、腹直筋の攣急
⑤季肋部が腫れて痛い

▶ 心の働きとその異常
心の働き
意識レベルを保ち、意識的活動を統括する。
覚醒・睡眠レベルを調節する。
③血を循環させる。
④熱の産生を盛んにし、汗を分泌し、体温を調節する。
心の異常(を示唆する症候)
①焦燥感、興奮、集中力低下
②不眠、嗜眠、眠りが浅い、夢が多い
③動悸、息切れ、徐脈、結代、胸内苦悶
④発作性の顔面紅潮、熱感

▶ 心に宿る「神気」の働き
・血液循環機能を発現する
  ↓
 酸素や栄養素を脳や骨格筋に供給する
  ↓
・精神運動機能を発現する

▶ 精神活動は漢方的には気の流れ
・気の流れとは、生命活動のプロセスを維持する情報の流れである。
・精神活動の入力から出力には、
①認知プロセス
②思考プロセス
③感情プロセス
④行動プロセス
を経て発現する。
・神気の失調により気うつ・気逆状態になると、
①認知機能障害
②思考機能障害
③感情機能障害
④行動機能障害
等が発生する。

▶ 脳の活動を制御するのは肝と心のシステム
脳がストレス(心理・社会的因子)を受けると、
①生体恒常性維持機能(自律神経・内分泌・免疫系)が障害される
  → 身体症状
②心の恒常性維持機能(認知・情動・意志のプロセス)が障害される
  → 精神症状

▶ 神気の活動を制御する肝システム
神気
脳内ドーパミン系を介して精神運動機能を発現させ、
心臓・血管系を介して血液循環機能を発現させる。
肝陽
脳内ノルアドレナリン系を介して精神運動機能発現を促進し、
交感神経系を介して血液循環機能発現を促進する。
肝陰
脳内セロトニン系を介して精神運動機能発現を抑制し、
副交感神経系を介して血液循環機能発現を抑制する
・・・以上が24時間のサイクルで日内リズムを形成している。

▶ 血・水の流れと肝・腎の働き
・血の流れは肝を中心に理解する
肝 → 有機資源(栄血・営血) → 全身→ 有害物質(汚血・血毒) → 肝
・水の流れは腎を中心に理解する
腎 → 無機資源(浄水・津液) → 全身→ 有害物質(汚水・水毒) → 腎

▶ 腎の異常と津虚・水滞の病態
前項目における、
無機資源の不足 → 津虚
有害物質の過剰 → 水滞

▶ 腎と細胞における腎陽・腎陰の働き
腎陽 → (腎臓)尿排泄
   → (細胞)アポトーシス
腎陰 → (腎臓)水液再吸収
   → (細胞)新生・増殖
さらに、
腎臓 → 浄水・津液 → 細胞 → 汚水・水毒 → 腎臓
というサイクルがある。

▶ 腎の働きとその異常
・腎の働き;
成長、発育、生殖能をつかさどる
骨・歯芽を形成・維持する
③泌尿機能をつかさどり、水分代謝を調節する。
④呼吸能を維持する。
⑤思考力、判断力、集中力を維持する。
・腎の異常(を示唆する症候)
①性欲低下、不妊
②骨の退行性変化、腰痛、歯牙脱落
③浮腫、夜間尿、目や皮膚の乾燥
④息切れ
⑤健忘、根気がない、恐れ、驚き
⑥白内障、耳鳴り

▶ 腎虚:加齢により腎の働きが低下した状態
・視力・聴力の低下
・思考力・判断力の低下
・呼吸能の低下
・生殖能の低下
・姿勢維持能の低下
・排尿する能力の低下

▶ 肺の働きとその異常
肺の働き;
①呼吸により宗気を摂取し、全身の気の流れを統括する。
②水穀の気の一部から血と水を生成する。
皮膚の機能を制御し、その防衛力を保持する。
肺の異常(を示唆する症候)
①咳嗽、喀痰、喘鳴、鼻汁、呼吸困難、息切れ、胸の塞がった感じ
②気道粘膜の乾燥
③発汗異常、かゆみ、カゼを引きやすい
④憂い、悲しみ

▶ 衛気(肺に宿る)の働きとそれを制御する腎システム
衛気の働き(免疫担当細胞、リンパ系)
①生体防御機能を発現(貪食・破壊・炎症・発熱)
②リンパ環流機能を発現する
腎陽(炎症性サイトカイン)は①と②を促進し、
腎陰(抗炎症性サイトカイン)は①と②を抑制する。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カゼは風邪(ふうじゃ)

2024年12月28日 15時01分27秒 | 漢方
YouTube上に喜多先生の漢方レクチャーを見つけました。
喜多先生は漢方薬の背景をわかりやすく解説してくれる、
私の尊敬する専門家です。

まず、カゼについてのレクチャーを視聴しました。
風邪という漢字の由来から説き起こし、
五行説を引用し、
その背景を知ることができました。

また、西洋医学的解析も併用して、
西洋医学を学んで資格を得た日本の医師も納得しやすい内容です。

風邪のレクチャーを視聴して、
発汗(発表)と解肌の概念の違いがわかり、
知識の整理ができました。

以下に講義メモを残しておきます;
※ この項目では、普通感冒をカゼ漢方用語のふうじゃを風邪と表記することにします。

****************************

カゼは漢字で風邪と書く。

これ、漢方用語が由来であり、
漢方医学では“かぜ”ではなく“ふうじゃ”と読む。

風邪の“風”は気候を表す六気(りっき)の一つで、
その六気とは、
風・寒・暑・湿・燥・火
(ふう・かん・しょ・しつ・そう・か)
から成る。

風邪の“”は邪気の略で、病気を起こす邪悪な気。
反対語は“生気”で自然治癒力・免疫力を意味する。
外から来る邪気を“外邪”と呼ぶ。

つまり、「外から風に乗って運ばれてくる邪気=風邪(ふうじゃ)」ということ。

カゼの原因になるのは主に風邪と寒邪とされ、
カゼには2種類存在することになる。

風邪によって引き起こされる病気を中風(風に当たる)といい普通感冒を意味する。
寒邪によって引き起こされる病気を傷寒(寒邪により傷(やぶ)られる)といい、
現在では悪寒・発熱が強いインフルエンザに例えられる。

さらに中風と傷寒の特徴として、
寒気があるときに汗が出ているのが中風
寒気があるときに汗が出ていないのが傷寒
という違いがある。

寒気・悪寒は熱を産生するための体の運動だが、
汗が出てしまうと気化熱で熱が下がってしまうので、
汗が出てしまう中風では熱が十分上がらず、
闘病反応が弱いという見方もできる。

▶ 傷寒の治療麻黄湯(27):発汗
・作用:体を温めて(温熱薬)発汗させ、結果的に熱を下げる。
 → 表(=肌、バリア)を傷(やぶ)って体内に侵入した寒邪を汗とともに外に追い払うイメージ。
・構成生薬
✓ 麻黄(エフェドリン):交感神経を刺激して代謝を亢進させ、熱を産生する(温熱薬)。
✓ 桂枝(シナモン):体を温める(温熱薬)。 

▶ 中風の治療桂枝湯(45):解肌(げき)
表(=肌)を守っている生気には衛気(※)と営血の2種類があり、風邪の侵入を阻んでいるが、衛気と営血がうまく働かない状態(営衛不和)になると侵入されてしまう。寒邪は強いので表が正常でもそれを傷って入ってくるが、風邪は強くないため営衛不和状態の時、つまり体調が悪いときに入ってくる
営衛不和(えいえふわ)を解決するのが解肌であり、桂枝湯(45)は体を温めながら営衛不和を整える作用がある。
桂枝湯(45)
 桂枝・生姜で温めて衛気を活性化し、
 芍薬・大棗で営血を補い(栄養補給)、
 甘草は上記2つの働きを調和させる
 (営衛不和を調和させる)。

汗が出ている中風に汗を出す麻黄湯(27)を使うと汗が出すぎてしまうので、少し作用の弱い桂枝湯(45)を使う。

※ 衛気を補う生薬が黄耆。

▶ 麻黄湯と桂枝湯の中間が葛根湯(1)
葛根湯の構成は桂枝湯+麻黄・葛根であり、
麻黄湯と桂枝湯の両方の生薬が入っている(いいとこ取り!)。
傷寒でも中風でも対応できる。

▶ 麻黄湯と桂枝湯の中間が桂麻各半湯(037)
葛根湯と桂麻各半湯の使い分けのポイント;
寒気から始まる・頭痛・肩こり → 葛根湯
咽痛から始まる(寒気は強くない) → 桂麻各半湯

▶ カゼの経過の漢方的捉え方(六病位)
陽証:強い邪気と戦っている状態、
どこで戦っているかで3つに分けられる
 表証:体表面(筋肉痛・関節痛・肩こり・頭痛)
  → 発汗・解肌汗と一緒に邪気を追い払う
 半表半裏:表裏の中間 (気管・肺・咳と痰・咽頭扁桃炎)
  → 和解
 裏証:消化管まで侵入(腹部膨満、便秘、高熱)
  → 瀉下便と一緒に邪気を追い払う
陰証:生気が弱まり反応できない、邪気と戦えない(負け戦)
 寒気はあるが熱が出ない(せいぜい微熱)、倦怠感、横になりたい
  → 温補:麻黄附子細辛湯(127)

▶ 胃腸が弱い(麻黄が使えない)人のカゼ薬
香蘇散(70):カゼの初期
参蘇飲(66):急性期以降・慢性期

▶ 風邪を引きにくくなる漢方薬:参耆剤(人参+黄耆)
生薬の人参と黄耆はともに“補気薬”。
例)
補中益気湯(41):気虚
十全大補湯(48):気血両虚
人参養栄湯(108):気血両虚:乾燥タイプに適応(気道が乾燥するとカゼを引きやすい)

▶ 「カゼを引きやすい」「治りにくい」=未病
「カゼを引きにくい」「治りやすい」=健康(自然治癒力が働いている)
“健康”な状態に気血水の異常があると“未病”状態になる
気血水の異常を改善すると未病 → 健康が手に入る。
その方法は、養生と漢方薬。

▶ 養生(健康的な生活)とは?
ふつうの生活・・・痛みを避けて快楽を求める → 短期的幸福 → 長期的苦痛(自業自得)
養生の目的は長期的幸福。
本能・欲求に身を任せるのではなく、理性でコントロールしなければ健康は手に入らない

▶ 自業自得=自因自果
自業自得:“業”とは“行い”で3種類ある。
 身:行動
 口:話す
 意:思考
自因自果:原因 → 結果(には3種類ある)
 短期結果:痛みを避け、快楽を求める
 中期結果:病気・健康、不幸・幸福に結びつく
 長期結果:病気・健康、不幸・幸福に結びつく
 → 中期・長期結果はわかりにくいので、結果が悪い場合、人は「他因自果」(自分が悪いのではなく自分以外に悪い原因を求める)に陥りがちだが、それは言い訳に過ぎない。
 → 因は自分に帰する(自分が種をまいている)、縁は他人に帰する。

▶ 健康という花を咲かせるために良い種(養生)をまこう。
種をまく(因) → 花が咲く(果)
良い花を咲かせるためには良い種をまく必要がある。
因には、太陽の光・水・空気・土・(縁 ※)などがある。
“健康”という花を咲かせるためには、良い行い(業)を心がけ、中・長期的に待たなければならない。
良い行いをしたからといって、すぐ健康になるわけではない。

※ 縁は周囲の人;
・良い縁:自分の健康に協力してくれる人。

▶ 健康の定義(WHO)
身体的+精神的+社会的な well-being(幸せ)


・悪い縁:悪い欲望へ誘導・誘惑する人。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

不眠治療と漢方

2024年12月24日 06時05分48秒 | 漢方
不眠治療と漢方…いろいろな専門家が解説していますが、
その内容は少しずつ異なります。

一番わかりやすいのは、
入眠障害
中途覚醒
熟眠障害
早朝覚醒
で使い分ける方法です。

しかし、簡便に4つに分けても、
その人その人により病態(漢方的“証”)は異なります。
そこまで追求しないと有効率は上がりません。

手元の資料では以下のように睡眠障害の種類と対応する漢方薬がまとめられています。

入眠障害+(頭がさえて眠れない、つまらないことが気になる、のぼせる)
 → 黄連解毒湯(15)
入眠障害+(イライラ、頭痛、認知症の不眠)
 → 抑肝散加陳皮半夏(83)
中途覚醒・熟眠障害+(動悸、イライラ、夢・悪夢が多い)
 → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
中途覚醒・熟眠障害+(不安感、体質虚弱、認知症)
 → 加味帰脾湯(137)
入眠障害・中途覚醒+(疲れているのに眠れない)
 → 酸棗仁湯(103)
入眠障害+(咳・痰、いろいろ考えすぎて眠れない)
 → 竹筎温胆湯(91)
不眠+(喉のつかえ、不安感)
 → 半夏厚朴湯(16)
不眠+(月経関連・更年期の不眠、イライラ)
 → 加味逍遥散(24)
不眠+(神経過敏、冷え、抑うつ)
 → 柴胡桂枝乾姜湯(11)

杵渕先生の不眠治療に関する記事が目に留まりましたので、
読んでみました。
前編では西洋医学の不眠治療の問題点、特にベンゾジアゼピン系のリスクを指摘し、
後編で漢方医学の考え方を解説しています。

漢方の使い分けのポイントを抜き出すと、

入眠障害:興奮していて眠れないもの(心熱
 → 黄連解毒湯
「不眠の原因がイライラや興奮であったりする時の症状は、入眠障害(寝つきが悪い)が多い」
熟眠障害:不安で眠れないもの(胆虚
 → 柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、加味逍遙散、半夏厚朴湯
「不眠の原因が不安の場合は、熟眠障害(ぐっすり眠れない)が多い、神経質で体格が良い人には柴胡加竜骨牡蛎湯、体力のない、華奢な虚証の人には補剤を使うことが多い」
入眠&熟眠障害
1.心熱胆虚の混在
 → 抑肝散加陳皮半夏
「イライラ・興奮と、不安が両方あって不眠の原因となっている場合もある」
2.虚労:疲れすぎ、体力低下で眠れないもの
 → 十全大補湯・補中益気湯・酸棗仁湯
「心身ともに過労の状態、入眠・熟眠ともに障害がある場合が多い」

あれ、加味帰脾湯(137)が入ってませんねえ。
でも手元の資料より、選択理由がはっきりしていて使いやすい印象もあります。
抑肝散加陳皮半夏の選択ポイントは、手元の資料では、
入眠障害+(イライラ、頭痛、認知症の不眠)
ですが、杵渕先生の解説では、
心熱と胆虚の混在(イライラ・興奮と、不安が両方あって不眠の原因となっている場合)
とイメージしやすいです。


▢ 前編:“眠れないから睡眠薬”はもう古い? 現在の不眠治療と漢方
杵渕 彰(漢方医学研究所 青山杵渕クリニック 所長)
2023.02.10:QLife漢方)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
▶ コロナ禍で「不眠」を訴える人は増えている
 多くの人が新型コロナウイルスへの不安、生活習慣の変化などから、多大なストレスを感じざるを得ない状態である昨今、不眠を訴える患者さんが増えていると杵渕先生は言います。
 「2021年に発表されたOECDの国際調査の結果1)によると、コロナ前の2013年で7.9%とだった日本国内におけるうつ病やうつ状態にある人の割合は、2020年時点では17.3%と、およそ倍増しています。それに伴って、不眠の訴えも増えているというのが現在の状況です。感染の恐怖や周囲への気遣い、外出自粛・在宅勤務による生活リズムの変化、仕事や将来への不安…このようなストレスが重なり、『疲れているのに眠れない』『すぐ目が覚めてしまう』『眠りが足りないような気がする』と訴える方は多いです」(杵渕先生)
 不眠は、寝入るのに30分以上かかってしまう「入眠障害」、夜中に何度も目覚めてしまう「中途覚醒」、通常より2時間以上早く目が覚めてしまう「早朝覚醒」、眠りが浅くて満足感のない「熟眠障害」の4つの症状に分けられます2)。このような症状が長く続くと、まず自律神経が乱れ、各臓器や分泌系に異常が起こり、さらには倦怠感、意欲低下、集中力の低下、日中の眠気、頭痛、めまいなど、多岐にわたる不調が出現します。
 このような「長期間にわたり夜間の不眠が続くこと」、「日中に精神や身体の不調を自覚して生活の質が低下すること」の2つが認められたときに「不眠症」であると診断されます。

▶ 不眠(睡眠障害)の分類
 不眠には「睡眠障害国際分類」(ICSD)という国際分類があり、最新の第3版(ICSD-3)3)では慢性不眠障害、短期不眠障害、その他の不眠障害という3つのシンプルな分類になっていますが、「不眠症については、ひとつ前の第2版(ICSD-2)4)のほうが詳細な分類がなされており、患者さんへの説明の際は、こちらを使うことが多いです」(杵渕先生)。
今回もICSD-2を用い、原因やタイプなども含めて詳しくお伺いしました。

不眠症(ICSD-2) ※特定不能な不眠症を除く
・適応障害性不眠症(急性不眠症):緊張や興奮などがある時、一時的に眠れなくなるもの。数日で解消する。
・精神生理性不眠症:睡眠に対する不安、こだわりが強く、眠ろうと意識しすぎて眠れない状態。
・逆説性不眠症:実際は長時間眠っているが、本人には眠った実感がない。睡眠状態誤認。
・特発性不眠症:ほかに原因のない原発性の不眠。
・精神疾患による不眠症:うつ病、統合失調症のそう状態などで眠れないもの。
・不適切な睡眠衛生:暑い場所、寒い場所、騒音問題などで眠れないもの。
・小児期の行動性不眠症:しつけ不足や入眠時の行動、夜泣きなどで眠れないもの。
・薬物または物質による不眠症:覚醒作用のある薬物、アルコールなどによる不眠。
・身体疾患による不眠症:呼吸器疾患、消化器疾患などが原因で眠れないもの。

 若い世代~働き盛りの年代では「精神生理性不眠症」が多く、定年を過ぎて高齢になってくると「逆説性不眠症」の人が増えると杵渕先生は解説します。
 「一度経験した『眠れなかったこと』を気にして、睡眠に対する不安が大きくなってしまい、余計に眠れなくなるのが『精神生理性不眠症』です。寝ることを過剰に意識して緊張してしまったり、ベッドに早く入りすぎたりして、なおさら不眠が悪化するという悪循環に陥ります。また、健康な人でも年齢とともに睡眠時間は減ってくるもの。『逆説性不眠症』で『もっと寝なければ』と訴える人も多いですが、昼間の活動に支障がなければ、睡眠は足りています。睡眠時間の確保にこだわらず、起床時の満足感や、日中のパフォーマンス具合で判断するといいと思います」(杵渕先生)

▶ 不眠の原因はさまざま
 このような不眠に陥る原因は、ひとつとは限らず、複数の要因が重なっていることが多いそう。大きく分けると以下のようなものがあります。

不眠を引き起こす主な原因
・環境要因:寝室の温度や湿度、騒音、明るさの影響など。
・身体要因:熱がある、かゆみがある、冷えやほてりを感じる、コリや痛みが辛いなど。加齢による体力の低下や頻尿など。
・心・精神の要因:悩み、イライラ、極度の緊張、仕事や人間関係のストレスなど。「早く寝なければ」と自分を追い詰めてしまうことも原因に。
・生活習慣要因:アルコール、カフェイン、交代勤務による体内リズムの乱れ、運動不足など。飲酒後は眠くなるものの、深い睡眠ではないのですぐ覚醒してしまう

 「コロナ禍では特に、発散できないストレスや不安、リモートワークによる生活リズムの乱れ、運動不足が原因になることが多いです。通勤・通学がなくなり、頭が疲れても身体が疲れていない状態では深い眠りに入れません。また、寝る前のパソコンやスマホも、脳が興奮するので眠れなくなってしまいがちです」(杵渕先生)

▶ 「不眠症=睡眠薬」の問題点
 現代医学での不眠治療は、睡眠薬を用いた薬物療法が中心です。そして、日本人は不眠に対する関心が非常に高く、睡眠薬の世界有数の消費国であることがわかっています。2013年に行われた調査では、年齢別の睡眠薬の処方割合は、40~44歳で4.6%、45~49歳で5.2%、50~54歳で6.3%、55~59歳 6.9%、60歳~64歳 7.5%、65~69歳で9.4%と、加齢とともに高くなることが報告されています5)。この日本における睡眠薬の処方量の多さには、杵渕先生もずっと問題意識を持っていたそうです。
 「特に依存性のある『ベンゾジアゼピン系睡眠薬』の大量処方は海外からも批判されることが多いです。本来は、患者さんからよくお話を聞いて、睡眠に関する教育や指導をしたり、仕事や生活の仕方を改善したりするのが先。睡眠薬はあくまでも補助として、必要な時に使い、必要がなくなればやめるべきお薬なのです」(杵渕先生)
 特にベンゾジアゼピン系の睡眠薬や抗不安薬は、高齢者に対しては、飲み続けると転倒や骨折、認知機能の低下を招きやすいとして、できるだけ使用を控えるべきだとされていますが、実態は65歳以上により多く処方され、ピークは80代だということも明らかになっています6)。そして、そのような状況で問題となるのは「転倒」であると杵渕先生は警鐘を鳴らします。
 「この薬には筋弛緩作用があるので、転びやすくなってしまうのが危険なのです。特に英国での転倒事故が注目され問題になったことで、スベンゾジアゼピン系睡眠薬と転倒の関連について検討する研究7)が各国で行われるようになりました。近年は日本の住居も、転倒時の衝撃を分散させる力が強い『畳』から『フローリング』に変わったことで、転倒から骨折する事案が増えています」(杵渕先生)

▶ 「もっと自然に眠れるように」という希望が多くなってきた
 最近では、オレキシン受容体拮抗薬など、非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬も開発されていますが、未だ睡眠薬の主流はベンゾジアゼピン系なのが実情です。しかし、ベンゾジアゼピン系睡眠薬への批判や健康被害が相次いでいることから、国もこれらの薬の処方を制限するような政策を導入し始めています。
 「最近は、国の政策により処方が減り始めたようですが、まだまだ多い印象です。でも、『やめられなくなる』『認知機能が低下する』ということが世間でも盛んに言われるようになり、患者さんからも、ベンゾジアゼピン系以外の治療を求められるようになりました。もっと自然に眠れるように、という希望も多いです」(杵渕先生)
 そのような希望に応えるのが漢方治療であると杵渕先生は説明します。
 「漢方薬は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬にすぐとって代わることができるものではありませんが、不眠治療にとても効果的です。睡眠薬の減量や離脱のために漢方薬を併用することはもちろん、最初から睡眠薬は服用せず漢方薬のみで治療する人も増えています」(杵渕先生)

<参考>
  • OECD│OECD Policy Responses to Coronavirus (COVID-19) Tackling the mental health impact of the COVID-19 crisis: An integrated, whole-of-society response<2023年1月12日閲覧>
  • 厚生労働省 │e-ヘルスネット 「不眠症」<2023年1月12日閲覧>
  • American Academy of Sleep Medicine. International Classification of Sleep Disorders 3rd ed, Darien, 2014
  • American Academy of Sleep Medicine. International Classification of Sleep Disorders: 2nd ed. Diagnostic and Coding Manual; American Academy of Sleep Medicine, Westchester, 2005
  • 株式会社インテージテクノスフィア│ビックデータ解析により、知られざる睡眠薬の処方実態が明らかに<2023年1月12日閲覧>
  • 朝日新聞デジタル│高齢者にリスク高い薬、80代処方ピーク 睡眠・抗不安<2023年1月12日閲覧>
  • Marron L, et al. QJM 2020; 113(1): 31-36

▢ 後編:不眠に悩む人、睡眠薬を減らしたい人に、漢方薬がおすすめの理由
杵渕 彰(漢方医学研究所 青山杵渕クリニック 所長)
2023.02.13:QLife漢方)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
▶ 不眠治療に漢方薬を使うメリット
 不眠症の治療は、睡眠薬などの薬物療法が主となっているのが現状です。しかし、前編で見てきたように、睡眠薬は倦怠感やふらつきなどの副作用が生じるリスクがあるほか、長期的に見れば耐性(だんだん効かなくなる)や依存性(やめられなくなる)が問題となることもあります。そのため最近は「なるべくお薬を使わずに治したい」「いま飲んでいる薬をやめたい」と希望する患者さんが増えてきているといいます。そして、そんなときに役立つのが漢方薬であると杵渕先生は話します。
 「漢方は不眠の原因となるストレスや不調を取り除き、自然な眠りにつく手助けをしてくれます。イライラや興奮、不安や緊張、心身の疲れなどを和らげることによって、眠りに入りやすくなる、という感じです。睡眠薬のように脳を強制的に鎮静させたり筋肉を弛緩したりする作用は持っていないので、即効性はありません。その代わり、ふらつきや転倒、せん妄や日中の眠気などの副作用を心配することなく服用できるのがメリットです」(杵渕先生)
また、依存性の高い睡眠薬においては、自己判断で薬を急に中断することなどによる「離脱症状」が出てしまうことも問題となっていますが、漢方薬にはそのような心配もありませんむしろ、睡眠薬を減らしたいときには、漢方薬を併用するとうまくいく場合もあるそうです。
「特にベンゾジアゼピン系睡眠薬は、長期間飲んでいる場合、急にやめてしまうことで不眠、動悸、イライラや不安感などの離脱症状が起きる可能性があります。ゆっくり時間をかけて少しずつ減らしていく必要があるのですが、この時に漢方薬を併用することで、離脱症状が和らぐこともあります」(杵渕先生)

▶ 不眠に対する漢方医学的分類と処方
では、不眠の治療に用いられる漢方薬は具体的にどのようなものがあるのでしょうか。以下、漢方医学的分類と、実際の処方をお伺いしました。

〇 興奮していて眠れないもの(心熱
「不眠の原因がイライラや興奮であったりする時の症状は、入眠障害(寝つきが悪い)が多くなります」
  • 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
〇 不安で眠れないもの(胆虚
「不眠の原因が不安の場合は、熟眠障害(ぐっすり眠れない)が多くなります。神経質で体格が良い人には柴胡加竜骨牡蛎湯、体力のない、華奢な虚証の人には補剤を使うことが多いです」
  • 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
  • 桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
  • 加味逍遙散(かみしょうようさん)
  • 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
心熱胆虚の混在
「イライラ・興奮と、不安が両方あって不眠の原因となっている場合もあります」
  • 抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
〇 疲れすぎ、体力低下で眠れないもの(虚労
「心身ともに過労の状態。入眠・熟眠ともに障害がある場合が多いです」
  • 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
  • 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
  • 酸棗仁湯(さんそうにんとう)
▶ 睡眠への正しい理解、生活習慣の改善も大切
しかし、いくら漢方薬を飲んでいても寝る前にカフェインを大量に摂取したり、長く昼寝をしたりするなど、不眠を悪化させるような行動をしていては症状は改善されていきません。不眠の症状を緩和させたいときは、「睡眠についての正しい知識を得て、生活改善も同時に行うことが大切」と杵渕先生は指摘します。
以下、杵渕先生が患者さんへ睡眠に関する指導を行う際に参考にしているという、睡眠障害対処の12の指針1)をご紹介します。

1. 睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分
睡眠の長い人、短い人、季節でも変化、8時間にこだわらない
歳をとると必要な睡眠時間は短くなる
2. 刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法
就床前4時間のカフェイン摂取、就床前1時間の喫煙は避ける
軽い読書、音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレーニング
3. 眠たくなってから床に就く、就床時刻にこだわりすぎない
眠ろうとする意気込みが頭をさえさせ寝つきを悪くする
4. 同じ時刻に毎日起床
早寝早起きでなく、早起きが早寝に通じる
日曜に遅くまで床で過ごすと、月曜の朝がつらくなる
5. 光の利用でよい睡眠
目が覚めたら日光を取り入れ、体内時計をスイッチオン
夜は明るすぎない照明を
6. 規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣
朝食は心と体の目覚めに重要、夜食はごく軽く
運動習慣は熟睡を促進
7. 昼寝をするなら、15時前の20~30分
長い昼寝はかえってぼんやりのもと
夕方以降の昼寝は夜の睡眠に悪影響
8. 眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに
寝床で長く過ごしすぎると熟睡感が減る
9. 睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意
背景に睡眠の病気、専門の治療が必要
10. 十分眠っても日中の眠気が強い時は専門医に
長時間眠っても日中の眠気で仕事・学業に支障がある場合は専門医に相談
車の運転に注意
11. 睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
睡眠薬代わりの寝酒は、深い睡眠を減らし、夜中に目覚める原因となる
12. 睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全
一定時刻に服用し就床
アルコールとの併用をしない

▶ 睡眠状態を自分でモニタリングしてみるのもおすすめ
 また、眠りに関して悩みを持つ人は、自分の睡眠状態を記録してみるのもおすすめだと杵渕先生は言います。最近は、眠るときにスマートウォッチを装着するタイプだけでなく、枕の横にスマホを置くだけで眠りを記録できるアプリもあり、手軽さが増しています。睡眠時間と深さが確認できるもの、呼吸音やいびきを録音するもの、眠りの浅いタイミングでアラームを鳴らすものなど、機能の種類も豊富です。
 「アプリの多くは、体の動きをスマホのセンサーが感知して、データとして記録するもの。脳波や呼吸などを細かく計測する専門機関のデータほど正確ではないですが、ある程度は信頼できると思います。私も毎日アプリを使って睡眠データをとっていますよ。グラフ化されると確認しやすいですし、睡眠を改善したい患者さんにも使ってもらっています」(杵渕先生)
 理想的なのは「“少し浅い眠りから入って、深い眠りになり、また浅い眠りになる”という1~1.5時間のサイクルを一晩に何回か繰り返す」という波形の睡眠だといいます。十分寝ているはずなのに朝起きるのがつらい、などという人は、一度自分の睡眠状態を客観的に見てみるのもよいかもしれません。

▶ 受診の目安は不眠が2週間以上続く場合
 最近は「睡眠負債」(毎日の睡眠不足が少しずつ蓄積すること)という言葉が盛んに使われていることもあり、どんな世代の人も睡眠に関するトラブルに対して過敏に反応する傾向があると杵渕先生は感じるそうです。
 「必要な睡眠時間は人それぞれ。体力がある人ならば、2~3日眠れなくても、そんなに心配することはありません。『睡眠負債が心配で…』という患者さんもいるのですが、睡眠不足はそこまで蓄積しないので心配しなくて大丈夫。むしろ、眠れないことを気にしすぎて、睡眠に対して恐怖を感じてしまうことがよくありません。夜になると緊張したり不安になったりして、さらに不眠の悪化に繋がってしまうからです」(杵渕先生)
 杵渕先生が受診の目安とするのは、不眠で日常生活に支障が出る状態が2週間以上続いたとき。眠れないことにプラスして、日中の眠気がひどくなったり、集中力が低下したり、めまいや立ちくらみが起きたりすることがあれば、迷わず受診してほしいと訴えます。
 「不眠症は精神科や心療内科で扱いますが、精神科へ行くのは気が引けるという人はまずかかりつけ医に相談してみるといいでしょう。私のような漢方医でもよいです。最近は、睡眠専門外来というのもできていて、睡眠に関する医療技術はすごく進化しています。睡眠薬だけではない、さまざまな治療方法があるので、ぜひ相談してみてください」(杵渕先生)

<参考>
・内山真編:睡眠障害の対応と治療ガイドライン第3版, じほう, 東京, 2019

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

舌を見てわかること(舌診)

2024年12月15日 09時15分11秒 | 漢方
漢方の診察では「舌診」があります。
舌の色、大きさ、形などをくわしく観察して、
その人の健康状態を把握する診察方法。

何回も解説を読むのですが、
・舌が赤いと
・舌に亀裂があると
・舌が白っぽいと
・舌の裏の静脈が太いと瘀
・舌に小さな黒点があると瘀
・舌が大きく歯痕(歯の跡)があると
・舌に白苔(白い苔)が厚くついていると少陽病
・舌に黒苔(黒い苔)がついていると陽明病
・「舌を出して」と指示し、たくさん出せると加味逍遥散証、震えて出せないと抑肝散証
・・・くらいしか思いつきません。
漢方医学的には、寒熱、気血水、六病位などが評価できることになります。
あ、ここには陰陽が入っていませんね。

舌診の概要を解説した記事が目に留まりましたので読んでみました。

<ポイント>
・舌は内臓病変だけでなく精神状態も反映する。
・舌診では「色」「形」「苔」の状態を観察し、これによりさまざまなことがわかる。
 【色】寒熱、瘀血
 【形】水滞、肝の異常、気血両虚
 【苔】脾虚、六病位、気血両虚、津液不足
・正常な舌は淡紅色で湿潤、苔はなく、あっても薄く白い程度。
▶ 舌の色
・色が白っぽい「淡白」は寒証、気虚、血虚 → 乾姜や附子といった体を温める作用のある生薬を用いる。
(例)代表的な処方は人参湯、他にも四君子湯や六君子湯、補中益気湯、四物湯など補気剤や補血剤
・赤みが強い「」は熱証、熱証には実熱と虚熱がある。
 実熱は熱がこもる状態で黄連、山梔子、石膏などの生薬を用いる。
(例)黄連解毒湯や白虎加人参湯
 虚熱は体内の血不足、刺激不足により空焚きのような状態になり体表が熱くなる。
(例)地黄などを含む六味丸や八味地黄丸など
・暗い赤みを呈する「暗紅」は瘀血の中でも特にがこもったタイプ
(例)駆瘀血剤の中でも加味逍遙散
・色が「」だと冷えのある瘀血のタイプで、
(例)駆瘀血剤の中でも当帰四逆加呉茱萸生姜湯など、温めて血行を改善するような処方
★ 瘀血の舌所見:瘀血の場合、暗紅、紫といった色の傾向のほかに、特徴的な所見が見られる。舌の縁に紫色の点が現れる「瘀点」や、まだらに紫色が浮かぶ「瘀斑」、舌下静脈怒張は瘀血の所見であり、血行不良や冷え、動脈硬化、女性であれば月経不順がある場合にこれらの所見を呈することがある。
▶ 舌の乾湿
乾いた舌熱証と考えられ、白虎加人参湯などを選択。
・舌の乾きは「少陽病期」にも現れ、この場合は柴胡剤などを用いる。
湿っていても唾液が溜まってあふれるような状態は寒証であると考えられ、人参湯などを用いる。
▶ 舌の形
・「腫大(胖大)」は水滞・気虚
(例)五苓散などの利水剤または補気剤
・・・ほかに水滞の所見として現れるのが「歯痕」である。舌の縁に歯の痕が付く状態で、舌がむくんでいる場合は利水剤
★ 最近ではそれほど舌がむくんでいなくても、歯ぎしりや食いしばりなどにより歯痕がしっかりと残ることがある。この場合は、交感神経の過緊張など自律神経の異常、漢方医学では「肝の異常」と考えられ、抑肝散や柴胡加竜骨牡蛎湯などの柴胡剤を選択する。
・舌が痩せた状態になる「痩薄(そうはく)」や、縦じわが深く入る「皺裂(すうれつ)」は体力が落ちている気血両虚、津液不足であり、参耆剤や補血剤、滋潤剤を選択する。
▶ 舌苔
・べったりと白苔が付いている「(厚)白苔」の場合、胃腸が弱っている脾虚が考えられ、六君子湯など胃の動きを改善する処方を選択。少陽病期にも白苔は厚くなるため、この場合は柴胡剤。
・黄色みのある「黄苔」は、体の内部に熱が入り込み便秘になったり、慢性期の状態では体に熱がこもったりする「陽明病期」に起こりやすく、白虎加人参湯や黄連解毒湯などの清熱剤、桃核承気湯や大黄牡丹皮湯などの大黄剤を。
・黒っぽい苔が現れる「黒苔」は発熱極期、あるいは重篤な状態に起こりやすく、大黄剤や附子剤などを選択。
・舌苔がまだらに剥がれている「地図状舌」も気虚に現れる異常で、参耆剤を処方する。臨床では抗うつ剤、ステロイドの長期服用患者によく見られる。
・表面がてかてかと光る「鏡面舌」は気血両虚津液不足と考えられ、十全大補湯や八味地黄丸を用いる。
▶ 味覚異常
・口の中が酸っぱく感じる場合は肝の異常と捉えて竜胆瀉肝湯。
・苦みを感じる場合は柴胡剤のほかに、心の異常と捉えて半夏瀉心湯を。
・味がしない場合は脾の異常と捉えて補中益気湯を。
・しょっぱく感じる場合は腎の異常と捉えて八味地黄丸を。

・・・舌を観察するだけでこれだけの情報が得られるのですね・・・多すぎて頭の中が整理できません。
ゆっくり&コツコツ学習する必要がありそうです。


▢ 漢方医学の診察法~舌診について~
第39回日本耳鼻咽喉科漢方研究会学術集会(2024年10月12日)
教育講演「漢方医学の診察法~舌診について~」
五野 由佳理 先生
北里大学医学部 総合診療医学 診療講師・外来主任
2024.12.11:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
▶ 舌は内臓病変だけでなく精神状態も反映する
 内科では、脱水、鉄欠乏やビタミンB12欠乏による貧血、麻痺、口内炎、カンジダ症の診察などの際に、また耳鼻咽喉科では舌炎や舌がんの判断などの際に舌の診察が行われる。漢方医学独自の診察方法「四診」のうち「望診」に含まれる舌診、「切診」に含まれる脈診や腹診は特徴的な診察方法であり、耳鼻咽喉科の診療においては特に舌診は普段の臨床に活かしやすい。
 舌診は古代中国医学で発展した方法で、「舌は臓腑の鏡」「舌は心の苗」といわれ、内臓病変だけでなく精神状態も反映すると考えられている。西洋医学でも1981年にFaber(ドイツ)は「舌は胃の鏡」と述べた。
 『敖氏(ごうし)傷寒金鏡録』(1341年)は中国医学の最古の舌診と脈診の専門書といわれる。日本漢方でも1835年に舌診と腹診、脈診についてまとめた専門書『舌胎図説』が発刊された。舌診は心身の状態、バランスを診るのに役立ち、重視されてきた。

舌診では「色」「形」「苔」の状態を観察する
 舌診を行う際は、自然光または明るい場所で行う。舌を出してもらう際は力を入れないことがポイントとなる。力が入ると舌の色が濃くなったり、静脈の怒張が強調されたりしてしまうためである。加えて、舌を長く出していると色が変化しやすくなるため、舌診は数秒で終えるように心がける。診察前には、舌に色が付くなどの影響が考えられるコーヒー、紅茶、牛乳、みかん、タバコなどの飲食品や嗜好品は控えてもらう。また、舌苔の状態も観察対象のため、診察当日は舌そうじを行わないように患者に伝える。
 舌診により「色」「形」「苔」の状態を観察することでさまざまなことがわかる。
 【色】寒熱、瘀血
 【形】水滞、肝の異常、気血両虚
 【苔】脾虚、六病位、気血両虚、津液不足

▶ 色の異常、鼻汁の状態で寒熱の状態がわかる
 正常な舌は淡紅色で湿潤、苔はなく、あっても薄く白い程度である。本来、漢方薬の処方は舌診だけでは決められないが、典型的な舌診の症例と色、形、苔の異常に対応する生薬や処方について紹介する。
 色の異常は大きく4つに分類される。色が白っぽい「淡白」は寒証、気虚、血虚がある状態で、乾姜や附子といった体を温める作用のある生薬を用いる代表的な処方は人参湯で、他にも四君子湯や六君子湯、補中益気湯、四物湯など補気剤や補血剤を用いることがある。
 淡紅色と比べると赤みが強い「」の場合、熱証が該当する。熱証は実熱と虚熱に分けられ、実熱は熱がこもる状態で黄連、山梔子、石膏などの生薬を用いる。具体的には黄連解毒湯や白虎加人参湯を処方する。対して虚熱は体内の血不足、刺激不足により空焚きのような状態になり体表が熱くなる。この場合、地黄などを含む六味丸や八味地黄丸などを用いる
 暗い赤みを呈する「暗紅」は瘀血の中でも特に熱がこもったタイプで、駆瘀血剤のうち加味逍遙散を用いる暗い赤みを呈する「暗紅」は瘀血の中でも特に熱がこもったタイプで、駆瘀血剤のうち加味逍遙散を用いる色が「」だと冷えのある瘀血のタイプで、駆瘀血剤の中でも当帰四逆加呉茱萸生姜湯など、温めて血行を改善するような処方を用いる
 鼻炎の寒熱の違いについても紹介する。寒証の場合、水様性鼻汁があり舌の色は淡白であることが多く、有用な処方に小青竜湯、麻黄附子細辛湯、苓甘姜味辛夏仁湯がある。熱証の鼻炎の場合、膿性鼻汁や鼻閉があり、舌の色は紅色であることが多い。有用な処方に熱を冷ますような生薬を含む越婢加朮湯、葛根湯加川芎辛夷がある。

▶ 表面が乾いている、色のむらにも注目
 舌診では舌の乾湿にも注目したい。正常だと舌は湿っているが、乾いた舌は熱証と考えられ、白虎加人参湯などを選択する。舌の乾きは、例えば風邪を引いた後、口の中が乾いて苦く感じたり、食欲がなくムカムカしたり、1日の中で熱が上がったり下がったりする「少陽病期」にも現れ、この場合は柴胡剤などを用いる。体の水分が少ない津液不足には六味丸や八味地黄丸といった地黄剤を用いる。他にも、交感神経が過緊張状態にある、ストレスの多いタイプは唾液が不足し舌が乾いたような所見が見られることがある。一方で湿っていても唾液が溜まってあふれるような状態は寒証であると考えられ、人参湯などを用いる
 瘀血の場合、暗紅、紫といった色の傾向のほかに、特徴的な所見が見られる。舌の縁に紫色の点が現れる「瘀点」や、まだらに紫色が浮かぶ「瘀斑」、舌下静脈怒張は瘀血の所見であり、血行不良や冷え、動脈硬化、女性であれば月経不順がある場合にこれらの所見を呈することがある

▶ 舌の形状に加えて舌の出し方からわかることも
 形の異常は、大きく4つに分類される。口角まで舌が腫れる腫大(胖大)」は水滞、気虚に見られ、五苓散などの利水剤または補気剤を用いる。同じく水滞の所見として現れるのが「歯痕」である。舌の縁に歯の痕が付く状態で、舌がむくんでいる場合は利水剤を用いる。しかし最近ではそれほど舌がむくんでいなくても、歯ぎしりや食いしばりなどにより歯痕がしっかりと残ることがある。この場合は、交感神経の過緊張など自律神経の異常、漢方医学では「肝の異常」と考えられ、抑肝散や柴胡加竜骨牡蛎湯などの柴胡剤を選択する。舌が痩せた状態になる「痩薄(そうはく)」や、縦じわが深く入る「皺裂(すうれつ)」は体力が落ちている気血両虚、津液不足であり、参耆剤や補血剤、滋潤剤を選択する
 舌の出し方によって、気剤を鑑別する方法もある1)。舌を出すように促した際、口唇からほんの少し舌先を出す程度、あるいは舌に力が入って震えを呈する場合は、交感神経の過緊張が考えられ、抑肝散を選択することが多い。対して、舌の先端に力を入れ逆三角形状にして鋭く出し、舌尖が赤い場合は加味逍遙散を用いる。舌はスムーズに出せるが形状がぼてっとしていて白から黄色みがかった苔がある場合は四逆散を選択する。

▶ 舌苔の量や色、付き方、舌の表面の状態を丁寧に観察
 舌苔は正常の場合はない、あるいは薄白苔であるが、べったりと白苔が付いている「(厚)白苔」の場合、胃腸が弱っている脾虚が考えられ、六君子湯など胃の動きを改善する処方を選択する。また、少陽病期にも白苔は厚くなるため、この場合は柴胡剤が適する。黄色みのある「黄苔」は、体の内部に熱が入り込み便秘になったり、慢性期の状態では体に熱がこもったりする「陽明病期」に起こりやすく、白虎加人参湯や黄連解毒湯などの清熱剤、桃核承気湯や大黄牡丹皮湯などの大黄剤を処方する。黒っぽい苔が現れる「黒苔」は発熱極期、あるいは重篤な状態に起こりやすく、大黄剤や附子剤などを選択する。臨床では抗菌薬の長期投与や抗がん剤投与の患者に見られる。
 舌苔がまだらに剥がれている「地図状舌」も気虚に現れる異常で、参耆剤を処方する。臨床では抗うつ剤、ステロイドの長期服用患者によく見られる。表面がてかてかと光る「鏡面舌」は気血両虚、津液不足と考えられ、十全大補湯や八味地黄丸を用いる

▶ 五行説と舌
 「五行説」とは、人体の機能を「五行(木・火・土・金・水)」に分類する考え方で、五行に分類された臓器、感覚器、感情、味は相互に影響・抑制し合う。五臓を舌の部位に当てはめると図のように考えられている。舌痛症や舌の違和感を訴える場合に、詳しく診察すると特に自律神経系に関連するに該当する、舌の縁に症状が現れていることが多いと感じる。また、舌尖に赤みがある場合は、睡眠不足が考えられ、症状がある舌の部位からも対応を考えることができる。


図 舌の部位と五臓

 味覚異常も五行説に当てはめて考えることができる。例えば口の中が酸っぱく感じる場合は肝の異常と捉えて竜胆瀉肝湯を用いることがある。他にも、苦みを感じる場合は柴胡剤のほかに、心の異常と捉えて半夏瀉心湯を味がしない場合は脾の異常と捉えて補中益気湯しょっぱく感じる場合は腎の異常と捉えて八味地黄丸を使っていく。・・・

【文献】

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

百日咳の咳を漢方で止められるか?

2024年12月10日 07時46分56秒 | 漢方
現在、マイコプラズマが流行しています。
小児科である当院では、
兄弟が同じような咳込みで受診される例が後を絶ちません。

私はこんな風に説明しています。
「ふつうの風邪の咳は3〜4日目がピークで、その後だんだん治まってきます」
「3〜4日目以降も咳がどんどん悪化する勢いがあるときはマイコプラズマなどを疑います」
「熱が出ない場合もありますので、咳の勢いが強いと感じたらまた来てください」
そして再診時、マイコプラズマをターゲットにした抗菌薬を処方します。

ずっとこんな感じでやってきました。
マイコプラズマの迅速診断も用意してありますが、
いかんせん陽性率が5〜6割と低いため信頼できず、
あまりお勧めしていません。
もちろん、強い希望があれば検査しています。

咳嗽が強くてつらい場合は漢方薬の併用を提案します。
乾いた咳、痰の切れない咳なら麦門冬湯
痰がらみの咳、ゼロゼロ感があるときは五虎湯

顔を真っ赤にして咳き込む、咳き込んだ勢いで嘔吐する場合は、
乾いた咳なら、越婢加朮湯+麦門冬湯
湿った咳なら、越婢加朮湯+半夏厚朴湯
を処方します。
この組み合わせは「越碑加半夏湯」と呼ばれ、
ある漢方専門家は“最強の漢方咳止め”と紹介していました。

さて、頑固な咳は百日咳の場合もあります。
“咳嗽発作”と呼ばれる止まらない連続咳嗽と(staccato)、
咳が終わった後に息を吸い込むときにヒューッと音がする(whoop)が特徴です。

実は、マイコプラズマと百日咳に有効な抗菌薬は共通しており、
マクロライド系という種類です。

百日咳の咳嗽発作に効く漢方薬の記事が目に留まりましたので紹介します。

<ポイント>
・百日咳の咳嗽を止める治療法として確立されているものは、世界的に見ても皆無で、西洋薬の気管支拡張薬、去痰薬、中枢性鎮咳薬(コデインリン酸塩など)などは無効。AZMとコデインリン酸塩の併用では咳は止まらない。
・咳が出始めてからの抗菌薬投与は、他者への感染予防にはなっても、患者本人の咳を止めることはできない。
・漢方薬治療(竹茹温胆湯を基本とし、必要に応じて麦門冬湯を併用)によって、発症1週間以内であれば1週間で、発症10日を超えた場合でも2週間以内には、百日咳の咳嗽を止めることが可能。
・漢方薬は咳が完全に止まるまで内服を継続しないと再発してしまう。
・発症1週間以内の百日咳の場合、60~70%の症例では竹筎温胆湯とAZMだけで3日以内に咳を3/10以下にすることができ、1週間以内に内服を終了させることができている。不思議なことに、麦門冬湯を最初に投与した場合には薬効を認めず、竹筎温胆湯の効果が限定的な時に麦門冬湯を追加することで、その薬効が初めて発揮される。
・発症から10日以上経過した症例では、最初から竹筎温胆湯と麦門冬湯の漢方2剤とAZMを併用する。
・2歳以上5歳未満の症例では麦門冬湯単独で治療が可能で、5歳以上~成人では竹筎温胆湯が主流。

紹介記事では、竹茹温胆湯を提案しています。
これは「咳が続いて不眠状態になったとき」に使用するイメージの方剤です。
ポイントは「気分が落ち込んで不眠状態」です。
子どもではあまり使用経験がありません。


▢ 漢方で百日咳の咳嗽を1週間以内に止める!
松田 正(みさとファミリークリニック院長)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 現在、百日咳の咳嗽を止める治療法として確立されているものは、世界的に見ても皆無です。西洋薬の気管支拡張薬、去痰薬、中枢性鎮咳薬(コデインリン酸塩など)などは無効です。カタル期のマクロライド系抗菌薬の投与がほぼ唯一の治療法ですが、咳が出始めてからの抗菌薬投与は、他者への感染予防にはなっても、患者本人の咳を止めることはできません
 現在使用されている百日咳ワクチンの効果減弱によって、百日咳は先進国においても再興感染症となっており、0歳児にとってはいまだに致死的疾患であることに留意が必要です。当院の研究では、百日咳は決して特殊な珍しい疾患ではなく、コモンディジーズといえるレベルで流行していることが判明しています(関連記事:発熱外来の受診患者、最も多いのは百日咳!)。
 当院では、百日咳抗体IgM(M抗体)と百日咳抗体IgA(A抗体)を用いて百日咳を早期診断し、早期治療に結び付けています。その際に使用する漢方薬が竹筎温胆湯で、必要に応じて麦門冬湯を併用します。漢方薬治療によって、発症1週間以内であれば1週間で、発症10日を超えた場合でも2週間以内には、百日咳の咳嗽を止めることが可能です。
 なお、百日咳は聴診上の著変がないため、咳の鑑別診断には呼吸機能検査を行います。東北大学教授の黒澤一氏らが開発した(強制)オシレーション法のモストグラフや、呼気一酸化窒素濃度測定器が有用で、これらはいずれも重宝している呼吸機能検査です。「開業医の必須アイテムは漢方薬とモストグラフ」というのが私の持論です。
・・・
 発症1週間以内の百日咳の場合、60~70%の症例では竹筎温胆湯とAZMだけで3日以内に咳を3/10以下にすることができ、1週間以内に内服を終了させることができています。・・・3日目までに十分な薬効を認めない場合には、麦門冬湯を追加すると相乗効果で咳がすぐに止まります。
 不思議なことに、麦門冬湯を最初に投与した場合には薬効を認めず、竹筎温胆湯の効果が限定的な時に麦門冬湯を追加することで、その薬効が初めて発揮されます。言わずもがな、AZMとコデインリン酸塩の併用では咳は止まりません
 発症から10日以上経過した症例では、最初から竹筎温胆湯と麦門冬湯の漢方2剤とAZMを併用します。咳嗽が1カ月以上続いている百日咳(PT-IgG抗体が100EU/mLを既に超えているような症例)では、既に百日咳菌はいないためAZMは使用せず、竹筎温胆湯と麦門冬湯のみを処方します。まれに(約5%程度の症例では)コデインリン酸塩の併用が必要な場合もあります。
 最近1年間の百日咳の漢方治療においては、2歳以上5歳未満の症例では麦門冬湯単独で治療が可能で、5歳以上~成人では竹筎温胆湯が主流となっています。5、6年前までは成人の百日咳でも、麦門冬湯単独での薬効をある程度認めていたのですが、最近の百日咳には全く効果を認めなくなっており、百日咳菌の変異(約3年ごとに起こるとされています)を疑っています。菌の変異に対しても漢方薬治療が対応できていることは、漢方薬が決して古くさい薬ではなく、現代にも十分適応できている証左かもしれません。
 家族内感染の場合、1人の確定診断が付いていれば、その後に発症した家族などには検査をせずに、AZMと漢方薬による治療をすぐに開始できます。この場合も、「漢方薬によるprobing technique(探りを入れる方法)」(関連記事:急性期こそ漢方の出番!治療的診断も可能)を用いることができ、薬効があれば百日咳と推定することが可能です。
 なお、0歳児で百日咳の疑いがある場合、開業医で診るのは難しいため、親御さんや兄弟が百日咳と診断された後に0歳児に感冒症状が出たら、すぐにその情報を基に地域基幹病院の小児科に紹介しています。0歳児の鼻汁・鼻閉には麻黄湯(まおうとう)がとても効果があり、周囲の百日咳感染が不明な場合、麻黄湯を2日間使用するというprobing techniqueを用いています。改善がなければ、ただのかぜではないという判断で病院に紹介します。0歳児への漢方の飲ませ方にも裏技があり、例えば生後1カ月で鼻が詰まっておっぱいが飲めない場合、麻黄湯を頬の内側に付けて母乳を飲ませることで強制的に内服させるという方法があります。麻黄湯の詳しい使い方は、また別の回でご紹介します。
 長引く咳の患者で百日咳の可能性が疑われる場合は、ぜひ竹筎温胆湯による診断的治療を試してみてください。読者の先生方との議論を通して漢方治療をより良いものにしていきたいと思っていますので、試してみたら奏効した、うまく使いこなせなかったなど、どんなご意見でもコメントいただければ幸いです。

▶ POINT
・発症1週間以内の百日咳の場合、竹筎温胆湯とアジスロマイシン(AZM)で1週間以内に咳を止められる。
・3日目までに十分な薬効を認めない場合には、麦門冬湯を追加する。
・発症から10日以上経過した症例では、最初から竹筎温胆湯と麦門冬湯の漢方2剤とAZMを併用。
・咳嗽が1カ月以上続いている百日咳では、竹筎温胆湯と麦門冬湯のみを処方する。

【参考文献】
1)松田正. 竹筎温胆湯を用いた百日咳のせき治療, および百日咳の早期診断法の実践. 漢方と最新治療. 2020;29(3):187-94.
2)松田正. 発熱トリアージ外来(発熱外来)における百日咳流行と「咳のない百日咳」に関する報告. 感染症学会誌第95巻臨時増刊号 2021;95:313.
3)Matsuda, T. Early Detection of Bordetella Pertussis and Bordetella Parapertussis Infection with Pertussis Antibody Ig-M, Ig-A, and IgM/IgA Ratio. Am J Respir Crit Care Med. 2019;199:A6161.
4)Matsuda, T. Kanpo medicine (Japanese Traditional Medicine) Could Terminate Coughing Induced by Bordetella Pertussis and Bordetella Parapertussis Infection Within 2 Weeks. Am J Respir Crit Care Med. 2020;201:A3908.
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

COVID-19に対する漢方治療の考え方

2024年10月04日 10時43分51秒 | 漢方
風邪に使う漢方薬の勉強をしていると、
新型コロナ感染症の成り立ちと変遷が理解できます。

漢方医学では、風邪ウイルスが侵入してきたとき、
まず体表が免疫との闘いの場と考え、これを「表証」と捉えます。
そして経過が長引き、体の奥深く(裏)まで侵入されてしまった状態を「裏証」と捉えます。
その中間を「半表半裏」と設定しています。
ウイルスに負けて対抗する熱を作り出せなくなり体が冷えた状態は「裏」です。

パンデミック発生の際、
新型ウイルスは勢いが強いため、免疫との闘いの場が「表」をたやすく突破し、
「半表半裏」まで侵入されてしまいます。
その場合、表+半表半裏を守る方剤(柴葛解肌湯)が選択され、
これはスペイン風邪(1918-1919年)の際に使用されて活躍しました。

数年後にはウイルスの勢いが減少するため、
表証で終わるふつうの風邪と同じような経過になり、
これが季節性インフルエンザです。

新型コロナはどうでしょう。
発生当初の武漢株の時期は、肺炎で亡くなる人が相次ぎました。
これは表証とほぼ同時に半表半裏まで侵入し、さらに裏証に達すると捉えます。
漢方家はスペイン風邪同様、柴葛解肌湯を使用し一定の効果がありました。
数年経った今、新型コロナはふつうの風邪に近くなってきました(同じとは言えませんが)。
つまり表証で終わることが多くなったのですね。

スペイン風邪 → 季節性インフルエンザと同じ経過です。
上記のことを漢方的に解説した記事が目に留まりましたので紹介します。


▢ 「総合COVID-19漢方薬」はどうコロナと闘うか
竹田 貴雄(北九州総合病院麻酔科部長)
2020/05/13:日経メディカル)より抜粋(下線は私が引きました);
・・・
▶ 重症化の徴候があれば=総合COVID-19漢方薬

患者さんの状態を病位(びょうい)で診断する

 漢方では、病原体は身体の表面から入って、次第に身体の中心部に侵入すると考えます。細菌やウイルスが身体のどの部位に侵入しているかにより病位(ステージ分類)を診断します。
 通常の感染症では、
 太陽病(身体の表面)→ 少陽病(身体の中間地点)→ 陽明病(身体の中心部)
と病期が進行していくと考えられていますが、新型インフルエンザやCOVID-19のような強力なウイルスは、体の表から裏に進んでいくスピードが速く、初期から一気に身体の中心部まで炎症を起こすと考えられています。時に強力なウイルスを排除しようとして、あまりにも強い炎症が急激に起こり、サイトカインストームが起こります。陽明病とは、酸素化が数時間以内に低下して急変するような状況です。

※1 太陽病(たいようびょう)
表裏:表
症状:頭痛、関節痛、悪寒、発熱
免疫系:Tリンパ球によるウイルス貪食
神経内分泌系:交感神経系亢進、ノルアドレナリン分泌
治療法:解表(げひょう:汗をかかせる)
漢方薬:麻黄剤

 樹状細胞は病原体の断片を見つけると、抗原提示能を発揮してナイーブT細胞に情報を伝えます。ナイーブT細胞はヘルパーT細胞に変化し、全身に警告信号を発します。これにより免疫システムが立ち上がり、病原体への総攻撃が始まります。ヘルパーT細胞から放出されるサイトカインにより指令を受けたキラーT細胞が、ウイルスに侵された細胞を丸ごと破壊します。マクロファージもヘルパーT細胞による刺激を受けて活性化し、キラーT細胞によって攻撃された細胞やウイルスを貪食します。

※2 少陽病(しょうようびょう)
表裏:半表半裏
症状:弛張熱(1日の中で、高熱と平熱が交互に表れる状態)、味覚障害、嗅覚障害、胃腸障害、咳が止まらない
免疫系:Bリンパ球による抗体産生
神経内分泌系:コルチゾール分泌
治療法:和解(身体のバランスを整える、過剰な炎症を抑える)
漢方薬:柴胡剤(小柴胡湯、柴陥湯)

 ヘルパーT細胞から放出されるサイトカインにより指令を受けたB細胞が、抗体を作ってウイルスに侵された細胞を攻撃します。病原体の侵入から数日経ってインターフェロンが作られ、ウイルスに侵された細胞を攻撃します。

※3 陽明病(ようめいびょう)
表裏:裏
症状:高熱、肺炎、便秘、意識混濁
免疫系:過剰な生体防御反応(サイトカインストーム
神経・内分泌系:ストレス反応破綻
治療法:清熱、瀉下
漢方薬:清熱剤、承氣湯類(下剤)

▶ 表も裏もいっぺんにやられるCOVID-19
 上気道粘膜(半表半裏)にレセプターを有するインフルエンザと異なり、レセプター(アンジオテンシン変換酵素2[ACE2])が肺や腸(裏)に発現しているCOVID-19は症状に乏しく、気が付かないうちに重症化して治療時期を逸する可能性があります。気が付いた時には肺や腸でひどい炎症を起こしています(裏熱)ので、発熱を認めた時点で、麻黄湯や葛根湯では治療が追い付かなくなります。この場合、表も裏もいっぺんに治療する総合COVID-19漢方薬である柴葛解肌湯(さいかつげきとう)や清肺排毒湯(せいはいはいどくとう)が適応になります。

日本版総合COVID-19漢方薬:柴葛解肌湯
表から裏まで広くカバーする日本版総合COVID-19漢方薬
柴葛解肌湯(さいかつげきとう)=葛根湯(かっこんとう)+小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)
もしくは柴葛解肌湯=葛根湯(かっこんとう)+小柴胡湯(しょうさいことう)+桔梗石膏(ききょうせっこう)
方意:温める麻黄剤+小柴胡湯+清熱剤

 柴葛解肌湯は、1918~1920年にスペイン風邪(インフルエンザ・パンデミック)が流行した際、初期から高熱を出す患者に処方して多くの人命を助けたと言われている漢方薬です。
 エキス剤では葛根湯(太陽病:かぜの初期の薬)、⼩柴胡湯(少陽病:かぜの亜急性期の薬)、桔梗⽯膏(陽明病:清熱剤)を組み合わせて一緒に服用します。もしくは、葛根湯と⼩柴胡湯加桔梗⽯膏(少陽病と陽明病にまたがった病態に有効な⽅剤)を組み合わせて一緒に服用するのもいいでしょう。
 柴葛解肌湯は初期から一気に身体の中まで炎症を起こすような強いウイルスに有効とされています。発熱の勢いが強く、麻黄湯や葛根湯では解熱しない場合、小柴胡湯加桔梗石膏を追加した柴葛解肌湯(さいかつげきとう)が適応となります。

柴葛解肌湯
構成⽣薬:葛根(かっこん)・⿇⻩(まおう)・桂枝(けいし)・⽣姜(しょうきょう)・⼤棗(たいそう)・芍薬(しゃくやく)・⽢草(かんぞう)・柴胡(さいこ)・黄芩(おうごん)・人参(にんじん)・半夏(はんげ)・桔梗(ききょう)・石膏(せっこう)
 麻黄と桂枝で身体を温めながら悪寒を改善し、葛根で頭痛、関節痛を改善する葛根湯(かっこんとう)と、和解剤としての気道の炎症を取りながら、過剰な免疫反応を抑える効果と、清熱剤としての身体を冷やす効果がある小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)を合わせた構成生薬となります。

中国版総合COVID-19漢方薬:清肺排毒湯
軽症から重症を広くカバーする中国版総合COVID-19漢方薬
清肺排毒湯(せいはいはいどくとう)=麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)+小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)+胃苓湯(いれいとう)
方意:冷やす麻黄剤+小柴胡湯+清熱剤+胃薬+利水剤

 清肺排毒湯は、COVID-19に対する中医薬として創薬されました。

構成⽣薬:⿇⻩(まおう)9g、炙⽢草(しゃかんぞう)6g、杏仁(きょうにん)9g、⽣⽯膏(しょうせっこう)15〜30g、桂枝(けいし)9g、沢瀉(たくしゃ)9g、猪苓(ちょれい)9g、⽩朮(びゃくじゅつ)9g、茯苓(ぶくりょう)15g、柴胡(さいこ)16g、⻩芩(おうごん)6g、姜半夏(きょうはんげ)9g、⽣姜(しょうきょう)9g、紫菀(しおん)9g、冬花(とうか)9g、射⼲(やかん)9g、細⾟(さいしん)6g、⼭薬(さんやく)12g、枳実(きじつ)6g、陳⽪(ちんぴ)6g、藿⾹(かっこう)9g

 石膏を15gにしたとしても、合計196gもの生薬を煎じて内服します。日本人が内服するとしたら、3分の1くらいの量でよいのではないでしょうか。
 小川恵子氏によると、清肺排毒湯(せいはいはいどくとう)を日本で処方が可能なエキス剤で作ると、

清肺排毒湯(せいはいはいどくとう)=麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)+小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)+胃苓湯(いれいとう)

となります。全身の熱を下げ、サイトカインストームと臓器障害を予防しながら炎症を抑え、肺で大量に発生する分泌液を痰や尿として排出させる処方と考えられます。ちなみに、胃苓湯(いれいとう)は平胃散(へいいさん)と五苓散(ごれいさん)の合剤です。

【麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)】
構成⽣薬:⿇⻩(まおう)・杏仁(きょうにん)・⽢草(かんぞう)・石膏(せっこう)
昔から喘息の治療薬として有名な方剤です。麻黄は身体を温める生薬ですが、身体を強烈に冷やす石膏と合わせると、身体を冷やし、気道の炎症と浮腫を取る効果が出ます。また、麻黄は杏仁と合わせると、痰を取り除いて鎮咳作用を示すようになります。

【小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)】
構成⽣薬:柴胡(さいこ)・黄芩(おうごん)・人参(にんじん)・半夏(はんげ)・生姜(しょうきょう)・大棗(たいそう)・⽢草(かんぞう)・桔梗(ききょう)・石膏(せっこう)
少陽病と陽明病にまたがった病態に有効な方剤です。気道の炎症を取りながら過剰な免疫反応を抑える和解剤としての効果と、身体を冷やす清熱剤としての効果があります。

【平胃散(へいいさん)】
構成⽣薬:朮(じゅつ)・厚朴(こうぼく)・陳皮(ちんぴ)・生姜(しょうきょう)・大棗(たいそう)・⽢草(かんぞう)
いわゆる漢方胃腸薬です。胃もたれを改善します。

【五苓散(ごれいさん)】
構成⽣薬:沢瀉(たくしゃ)・朮(じゅつ)・猪苓(ちょれい)・茯苓(ぶくりょう)・桂皮(けいひ)
利水剤の代表薬です。水分の分布異常(水滞:すいたい)に対して、余った場所から不足した場所に水を移動させます。アクアポリン(水輸送蛋白)を介して循環血漿量を保つ効果があります。

【胃苓湯(いれいとう)】
構成⽣薬:朮(じゅつ)・厚朴(こうぼく)・陳皮(ちんぴ)・生姜(しょうきょう)・大棗(たいそう)・⽢草(かんぞう)・沢瀉(たくしゃ)・朮(じゅつ)・猪苓(ちょれい)・茯苓(ぶくりょう)・桂皮(けいひ)
平胃散(へいいさん)と五苓散(ごれいさん)の合剤です。

▶ ショック状態になった場合=茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)
 人工呼吸やECMOなどの治療の甲斐なく、全身状態が悪化していく臨死期を、漢方では厥陰病(けっちんびょう)と言います。四肢が冷たくなり、脈が沈んでとても弱くなった状態、Aラインなどとても入れることのできない状態が、厥陰病です。西洋薬ではカテコラミンを使用する時期ですが、漢方薬にも「カテコラミン」的な働きをする茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)というお薬があります。茯苓四逆湯はエキス剤にはないので、

 茯苓四逆湯=人参湯(にんじんとう)+真武湯(しんぶとう)

で代用します。「寒い、寒い」と言いながら急変し、挿管管理となっている患者さんには、経鼻胃管や経管栄養チューブから人参湯(にんじんとう)+真武湯(しんぶとう)を投与することで延命効果が得られる場合があります。

▶ COVID-19に対する漢方治療 まとめ
1. 予防が原則
罹患したらいち早く免疫システムが立ち上がる準備状態を、補剤で作っておく。

【補剤(ほざい:エネルギー補給)】
・補中益氣湯(ほちゅうえっきとう)
・十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)
・人参養栄湯(にんじんようえいとう)
・加味帰脾湯(かみきひとう)

2. 軽症患者(肺炎症状なし)の重症化予防
患者さんの状態を八綱(はっこう)で診断する。ただし、発病したときには既に肺炎が始まっていることがあるので、要注意。

・悪寒があれば=麻黄剤(麻黄湯[まおうとう]、葛根湯[かっこんとう]、麻黄附子細辛湯[まおうぶしさいしんとう]、香蘇散[こうそさん])
・胃腸の不調があれば=胃薬(香蘇散[こうそさん]+平胃散[へいいさん])
・倦怠感が主な症状で悪寒を伴わない発熱があれば=清熱剤(黄連解毒湯[おうれんげどくとう]、清上防風湯[せいじょうぼうふうとう]、荊芥連翹湯[けいがいれんぎょうとう])

3. 罹患したら総合COVID-19漢方薬
発熱を認めた時点で、麻黄湯や葛根湯などの解表剤ではウイルスの増殖に間に合わないことがある。総合COVID-19漢方薬で免疫システムを立ち上げ、炎症の役目が終わったら、過剰な炎症を素早く鎮め、荒廃した組織を修復する。

・日本版総合COVID-19漢方薬
柴葛解肌湯(さいかつげきとう)=葛根湯(かっこんとう)+小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)=葛根湯(かっこんとう)+小柴胡湯(しょうさいことう)+桔梗石膏(ききょうせっこう)
・中国版総合COVID-19漢方薬
清肺排毒湯(せいはいはいどくとう)=麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)+小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)+胃苓湯(いれいとう)・・・

<参考>
・小川恵子. COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方(改訂第2版). 日本感染症学会特別寄稿.
・有田龍太郎ほか. 中国におけるCOVID-19に対する清肺排毒湯の報告. 日本感染症学会寄稿.
・渡辺賢治ほか. 【緊急寄稿】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する漢方の役割. 日本医事新報. 2020;5008:44

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

呼吸器疾患(風邪・咳)の漢方2024

2024年09月27日 12時51分42秒 | 漢方
WEBセミナーで上記の講演を視聴しました。
解説がわかりやすくよい復習になりました。

また、「芍薬は汗を止めるブレーキであり、これが入っていると虚証用の方剤になる」「太陽病期の虚実を判定する際、咽頭痛の有無がポイントとなる」という目からうろこが落ちる箇所もあり、そういう視点があったかと感心しました。
講師は井上博喜Dr.(飯塚病院)です。

▢ 陰陽と体力・病毒の量的消長関係

経過 初発 →  →  →  →  →  →  →  → 死   
     表  半表半裏   裏
体力   強         弱
病毒   弱         強
     ①   ②     ③④⑤⑥

<陽証> 熱がある
① 太陽病期
② 少陽病期
③ 陽明病期
<陰証> 冷えがある
④ 太陰病期
⑤ 少陰病期
⑥ 厥陰病期

・・・ここで気づいたのですが、③陽明病期は陽証でありながら裏なのですね。
私は開業小児科医なので、診療範囲は①②くらいであり、③以降は病院に紹介するスタンスです。

▢ 表裏
・生体の部位を表す概念
・病気の進行方向は、表 → 半表半裏 → 裏

(体表部):皮膚、筋肉、四肢、頭部
半表半裏:肺、肝、上部消化管など横隔膜周辺
(体深部):臓腑(特に下部消化管)

▢ 太陽病
【病位】表
【脈候】浮
【症候】頭痛、発熱、悪寒、関節痛、筋肉痛、上気道炎症状(咳、咽頭痛)
 実証:自然発汗(ー)
 虚証:自然発汗(+)
【治療原則】発汗
【代表方剤】桂枝湯、麻黄湯

▢ 浮脈=太陽病ではない
・浮脈とは、触れ始めが一番強い脈。
・太陽病以外で例外的に浮脈になる場合;
✓ 食後、運動後
✓ ステロイド内服中
✓ 妊娠中

▢ 太陽病に使用する方剤

(虚実) (方剤)    (自汗)(咽痛)   (特徴)
 実   大青竜湯     ー   +    煩燥、口渇
     麻黄湯      ー   +    関節痛
     葛根湯      ー   +    項背強ばる

 虚   桂枝二越婢一湯  +   +    熱多く寒少なし、口渇
 実   桂枝麻黄各半湯  +   +    熱多く寒少なし、不渇
 間   小青竜湯     +   +    水毒(寒)

 虚   桂枝加葛根湯   ++  ー    項背強ばる
     桂枝湯      ++  ー    上衡(表虚証の代表)

・・・麻黄湯・葛根湯・桂枝湯が代表的ですが、井上先生は上記8つの方剤を使い分ける必要があると仰います。
自汗はわかるのですが、咽痛(咽頭痛)が鑑別ポイントとなるのは初めて知りました。

・・・汗に関しては、肌を触った感覚で鑑別可能:
 実証  → サラサラ
 虚実間 → しっとり
 虚証  → ベトベト

虚実間の方剤(桂枝二越婢一湯と桂麻各半湯)はメジャーではありませんが、小青竜湯はよく処方しますね。
ただ、虚実間を意識するというより、水様鼻汁があれば小青竜湯、という視点ですが。

▢ 太陽病における虚実の判断
① 自汗の有無・・・自汗あり → 虚証、無汗 → 実証
② 脈の力強さ・・・弱 → 虚証、強 → 実証
※ 舌や腹の所見は無視してよい。

・・・漢方的には「汗を出して解熱させる」ことが感冒初期治療のポイントですが、「汗を出さずに熱を上げられる」体力を実証と捉えます。逆に「汗が出てしまい熱が上げられない」人は虚証です。

▢ 桂枝湯
・聚方の祖:いろいろな方剤の元になっている
・ポイント:脈浮弱、自汗、上衡
・構成生薬:桂皮3-4;芍薬3-4;大棗3-4;生姜1-1.5;甘草2
桂皮・・・発汗、気をのびやかに巡らす(上に上がった気を下げる)
芍薬・・・収斂、血をのびやかに巡らす(汗を止める)
甘草、生姜、大棗・・・3つで生姜煎(しょうきょうせん)胃腸を守るトリオ

君薬は汗を出すのに臣薬は汗を止めるベクトルと逆であるが、これ如何に?
 → アクセルとブレーキが入っているので、バランスが取れるという視点で考えるとわかりやすい。桂枝湯は虚証に使用される方剤であり、汗が出すぎるとまずい。

▢ 葛根湯
・ポイント:無汗、後頚部のこり
・構成生薬:葛根4-8;麻黄3-4;大棗3-4;桂皮2-3;芍薬2-3;甘草2;生姜1-1.5
桂皮・麻黄・・・発汗(発表)
芍薬・葛根湯・・・筋緊張(とくに首の後ろ)を緩める
麻黄・葛根湯・・・発汗、頭痛を治す

・・・実証用の方剤ではあるが、芍薬というブレーキが入っているので、実証の中でもやや虚証寄りの構成と考えられる。

▢ 麻黄湯
・ポイント:無汗、関節痛、筋肉痛
・構成生薬:麻黄3-5;桂皮2-4;杏仁4-5;甘草1-1.5
桂皮・麻黄・・・発汗、解表作用
麻黄・杏仁・・・鎮咳・去痰作用

・・・桂皮麻黄の発汗作用にブレーキをかける芍薬が入っていない点がポイントであり、純粋に実証用の生薬構成となっている。また、胃腸薬3兄弟のうち生姜と大棗も消えており、車に例えるなら身軽にしてスピードを追求する「F1カー」。

▢ 大青竜湯(≒麻黄湯+越婢加朮湯)
・ポイント:無汗、口渇、煩燥(熱がこもって身の置き場のない苦しさ、じっと寝ていられない)
・生薬構成:麻黄;桂皮;石膏;杏仁;甘草;生姜;大棗
桂皮・麻黄:発汗・解表作用
石膏:強力に熱を冷ます、口渇・煩燥に対応
麻黄・杏仁・・・鎮咳・去痰作用

・・・桂皮麻黄の発汗兄弟に強力に熱を冷ます石膏が仲間入り、かつブレーキの芍薬なし、と最強の生薬構成になっている。石膏が胃に来るので胃腸薬3兄弟が復活している。麻黄湯でも間に合わないくらい熱がこもっているときに選択。

▢ 太陽病(浮脈、悪寒、発熱)に使用する実証用方剤まとめ

(強い脈+無汗)+(煩燥・口渇)   → 大青竜湯(麻黄湯+越婢加朮湯)
        +(関節痛・筋肉痛) → 麻黄湯
        +(後頚部凝り)   → 葛根湯

・・・より実証の症状があれば強い方剤を選択するそうです。
(例)後頚部凝りを訴えるけど節々も痛い → 葛根湯ではなく麻黄湯を選択

▢ 桂枝二越婢一湯(≒桂枝湯+越婢加朮湯)
・ポイント:自汗、咽頭痛、口渇
・構成生薬:桂皮・芍薬・麻黄・甘草各2.5-3.5;大棗3-4;石膏3-8;生姜1
桂皮・麻黄:発汗・発表
石膏:清熱
芍薬:収斂
生姜・甘草・大棗:胃腸薬3兄弟
蒼朮:おまけ

・・・大青竜湯(麻黄湯+越婢加朮湯)に芍薬(ブレーキ)が入っているイメージ。

▢ 桂枝麻黄各半湯(≒桂枝湯+麻黄湯)
・ポイント:自汗、咽頭痛、不渇
・構成生薬:桂皮3.5;芍薬2;生姜0.5-1;甘草2;麻黄2;大棗2;杏仁2.5
桂皮・麻黄:発汗・発表
芍薬:収斂
杏仁・・・鎮咳・去痰
生姜・甘草・大棗:胃腸薬3兄弟

・・・桂枝二越婢一湯との違いは石膏の有無、つまり、
石膏あり(桂枝二越婢一湯) → 口渇
石膏なし(桂枝麻黄各半湯) → 不渇
で使い分けるとのこと。

▢ 桂麻3兄弟と喉チクの風邪
<陽証期>
桂枝二越婢一湯 ・・・熱>寒、自汗(自覚するかしないか程度)+口渇
桂枝麻黄各半湯 ・・・熱>寒、自汗(自覚するかしないか程度)+不渇
(桂枝二麻黄一湯)
(桔梗湯)   ・・・咽頭痛のみで他の症状に乏しいとき(虚実不問)
<陰証期>
麻黄附子細辛湯 ・・・「直中の少陰」、強い冷え、脈沈細弱、倦怠感

・・・麻黄附子細辛湯だけ陰証で違和感あり・・・どういうこと?

▢ 麻黄附子細辛湯
・高齢者や疲れがたまって弱っている人(直中の少陰)に適応
・陰証(冷え症)の咳嗽
・手足の冷え、顔色不良
・強い倦怠感(座っていたい、寝ていたい)
・沈弱脈
・水溶性喀痰に → +小青竜湯(19)
・慢性期の胃腸障害に → 桂姜棗草黄辛附湯

・・・太陽病期の“悪寒”は熱が上がると解消して逆に「暑い暑い」というが、少陰病期の“悪寒”は熱が上がってもずっと「寒い寒い」と言い続ける、とのこと。

▢ 桂姜棗草黄辛附湯麻黄附子細辛湯+桂枝湯
・陰証(冷え症)の長引く咳嗽
・胃腸が弱い
・心理的ストレス(腰が痛い、痛みがある・・・)
・中脘付近(剣状突起と臍部の間)の抵抗・圧痛
・冷えが強ければ、麻黄附子細辛湯+桂枝加朮附湯

▢ 麻黄附子細辛湯の適応を考える際は“冷え”を見抜く必要がある
✓ いつもより冷えるか?
✓ 冷えるとイヤな感じがするか?
✓ 手足が冷たいか?
✓ 温かい飲み物を好むか?
✓ 強い倦怠感があるか?

▢ 小青竜湯
・ポイント:自汗、水様鼻汁、水様痰
・構成生薬:麻黄2-3.5;芍薬2-3.5;乾姜2-3.5;甘草2-3.5;桂皮2-3.5;細辛2-3.5;五味子1-3;半夏3-8
細辛・桂皮・麻黄:発汗・解表作用
芍薬:収斂
半夏・五味子:鎮咳作用、利水作用
乾姜・甘草・大棗:胃腸薬

▢ 風邪の“漢方的“養生
1.体を冷やさない
・薬は温めて飲む(エキス剤は湯に溶く)
・ふとんなどで覆う
2.しっとり汗が出るまで繰り返し漢方薬を服用
・就寝前まで3-4時間毎に服用
・流れるほど汗をかくのはダメ!
3.胃腸に負担のかかる食事は控える
・エネルギーの無駄遣いを防ぐ

・・・処方箋には「1日3回、食前に内服」と書かざるを得ませんが、この飲み方では十分な効果を期待できません。
「しっとり汗をかくまで3-4時間毎に内服」が一番効果的な飲み方です。
この“しっとり”がポイントで、サウナに入ったときのようにダラダラ流れるほど出るまで飲んではいけません。
脱水になってしまいます。
上記方法に従えば、2日分を1日で飲んでも問題ない、と講師はコメントしていました。

▢ 麻黄 ・・・効果も強いが副作用も出る生薬
【主成分】エフェドリン
【薬理作用】交感神経興奮、中枢興奮、鎮咳、気管支拡張、発汗、抗炎症、抗アレルギー作用
【薬能】
1)発汗:急性熱性疾患初期を改善
2)止咳:咳嗽や喘息症状を改善する
3)利水:浮腫や腫脹を改善
【慎重投与】胃腸虚弱、体力低下、著しい発汗、狭心症・心筋梗塞、重症高血圧、甲上腺機能亢進症、排尿障害
【注意すべき副作用】胃腸障害、不整脈、不眠、尿閉

▢ 太陽病期 → 少陽病期への移行を示すサイン
・悪寒が目立たなくなる
・項部のこわばりなし、頭痛なし、発汗なし
・微熱
・口が苦い(ねばつく)、食欲不振、味覚障害
“咳嗽”は少陽病期の症状
・舌苔(厚い)
・脈が浮 → 弦(ギターの弦を触っているような感覚)

▢ 咳嗽に使用する漢方薬
      急性期  亜急性期  慢性期
        (1-2週間)(3-4週間)
(粘稠痰)  麻杏甘石湯 清肺湯
(湿性咳嗽) 小青竜湯  半夏厚朴湯
(強い咳込み)越碑加半夏湯
(乾性咳嗽) 麻黄附子細辛湯 滋陰降火湯
             麦門冬湯

▢ 麦門冬湯(29)
適応
・空咳、咽頭乾燥感
・少量の粘稠痰
・こみ上げてくる連続咳嗽・顔面紅潮
・咽喉のつかえ感(咽喉不利)
・Sjogren症候群に伴う咽頭乾燥感
作用:末梢性鎮咳作用
コツ:
・炎症が残っているときは効かない → 柴胡剤と併用

▢ 半夏厚朴湯(16)
適応
・湿性咳嗽
・咽喉のつかえ感(咽中炙臠)、梅核気
・神経質、几帳面(メモ魔、マーカー魔)、用意周到
・不安感、予期不安
・胃食道逆流に伴う咽喉・食道部の異物感
作用:嚥下反射の改善作用(サブスタンスPを介する)
応用:
・胃腸障害を合併 → 茯苓飲合半夏厚朴湯
・胸脇苦満・微熱 → 柴朴湯(小柴胡湯+半夏厚朴湯)

▢ 麻杏甘石湯(55)
適応
・ねばりのある痰
・口渇、熱感、自汗傾向
・連続性咳嗽
応用
・水溶性喀痰  →  +小青竜湯
・胃腸虚弱   →  +二陳湯
・激しい咳嗽  →  +桑白皮( → 五虎湯)

・・・石膏が入っているので“口渇”が入る。

▢ 上記3剤使用の際、炎症が残っていたら柴胡剤と併用
(実)  基本処方    鎮咳漢方薬
 ↑   柴陥湯     麻杏甘石湯(55)
 ↓   小柴胡湯 +  半夏厚朴湯(16)
(虚)  柴胡桂枝湯   麦門冬湯(29)

▢ 清肺湯(90)
適応
・色の濃い黄色がかった痰
・粘っこくて痰の喀出が困難なとき
作用
・清熱・滋潤・利水・鎮咳・温剤の生薬が揃って入っている。
・COPD患者の呼吸器症状を改善する。
・下気道病変に対する清熱作用(抗炎症)
応用
・気道の滋潤作用(水分量増加) → 口腔乾燥症に応用可能?
副作用
・黄岑(肝機能障害、間質性肺炎)、山梔子(腸間膜動脈硬化症)、甘草(偽アルドステロン症)

・・・“抗生物質を使いたくなるような汚い痰“がキーワード。

▢ 越碑加半夏湯
適応
・目脱状(もくだつじょう、目の玉が飛び出しそうなほど激しい咳)
・咳嗽後に嘔吐
・百日咳
症候
・脈浮大
応用
激しい乾性咳嗽 → 越婢加朮湯+麦門冬湯
激しい湿性咳嗽 → 越婢加朮湯+半夏厚朴湯

・・・この方剤、結構使っています。
他の治療(抗生物質、抗喘息薬)に反応なく、咳込みがつらい場合に処方しています。
有効率は高く、8割くらいでしょうか。

▢ 滋陰降火湯(93)
適応
・粘稠で切れにくい痰(麦門冬湯様)
・麦門冬湯より乾燥状態が強い
・咳は比較的強め、夜半〜早朝に頻発
・咽頭後壁の乾燥、舌乳頭の消失(鏡面舌)と乾燥
・皮膚は浅黒く乾燥
・やや便秘傾向

・・・まだ使用したことがありません。
“乾性咳嗽ではあるが麦門冬湯でも今ひとつ”の場合に処方してみようと思います。
でもその場合は越碑加半夏湯(越婢加朮湯+麦門冬湯)を使ってしまうかなあ・・・。

▢ 桂枝加厚朴杏仁湯
適応
・通常より咳が残りやすい人に
・ふとんに入ってから咳嗽増強
・キャンキャン、犬の遠吠え様
・虚弱体質
・胃腸虚弱で麻黄を受け付けない人に

・・・小児科医は“犬の遠吠え様”と聞くと「クループ症候群」を想定してしまうのですが、
嗄声・犬吠様咳嗽にも効くのかな?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

漢方医学では「こころ」をどう捉えるのかーその2

2024年09月13日 07時00分32秒 | 漢方
前回も同じ題で書きました。
その内容は…

・漢方医学では「脳」という臓器の設定はない。
・その機能「こころ」を五臓に分配した。
・主な機能「怒り」は肝、「不安」は心に振り分けた。
・その他の喜怒哀楽は各臓器に振り分けた。

というもので、なかなか頭の中で整理できませんでした。

こちらの記事に、私が知りたいことが書いてありました。
要約&引用させていただきます。

<ポイント>
・東洋医学では「こころ」の働きを「心」と「肝」の2つに分けて考える。
・心は神志を主り、意識、知性、理性(大脳新皮質)と関係する。
・肝は情志を主り、感情、本能(大脳辺縁系)と関係する。
・心血は虚しやすく(心血虚)、精神神経活動の抑制、低下状態を招く。治法として補う。
・肝気は失調、亢進しやすく(肝気鬱結かんきうっけつ)、精神神経活動の亢進状態を招く。治法として調整する。
・こころの治療に使われる方剤を使い分ける際には、その方剤が心と肝のどちらに作用するのかを覚えておくことが大事である。

(例示)
・心血虚に対する方剤
加味帰脾湯 -心血虚による精神神経活動の低下に対する方剤-
・肝気鬱結に対する方剤
▶ 加味逍遙散 -肝気鬱結による熱証に対する方剤-
▶ 抑肝散加陳皮半夏 -肝気鬱結による肝陽上亢に対する方剤-

この文章を書いた薬剤師さんは「対薬理論」を活用しています。
これは2つの生薬の組み合わせを1つの単位として構成生薬を捉え、
方剤のベクトルを考える手法です。


▢ 臨床での活用対薬理論でみてみましょう!松橋漢方塾
第2章 こころと体の弁証論治 ~分けたらわかる神志と情志~
※ (下線は私が引きました);

「こころ」の考え方
 東洋医学では「こころ」の働きを「心」と「肝」の2つに分けて考える心は神志を主り、意識、知性、理性(大脳新皮質)と関係する肝は情志を主り、感情、本能(大脳辺縁系)と関係する。気血の観点からみると、心血は虚しやすく(心血虚)、精神神経活動の抑制、低下状態を招く。一方、肝気は失調、亢進しやすく(肝気鬱結かんきうっけつ)、精神神経活動の亢進状態を招く。それぞれの治法として心血は虚しやすいので補い肝気は失調しやすいので調整するこころの治療に使われる方剤を使い分ける際には、その方剤が心と肝のどちらに作用するのかを覚えておくことが大事である。それぞれの代表的な方剤について対薬理論を使って解説する。

(例:心血虚に対する方剤)
加味帰脾湯 -心血虚による精神神経活動の低下に対する方剤-
 心血を補う代表的な方剤として加味帰脾湯があげられる。ただし、方剤名の「帰脾」に示されるように、心血だけでなく脾を補う作用が中心にある。このため人参、白朮、茯苓など脾虚に使われる六君子湯や補中益気湯に重なる生薬が多い。
対薬:黄耆と当帰
 補中益気湯の中で黄耆は、気を補う生薬として人参との対薬で考えたが、加味帰脾湯では血を補う生薬として当帰との対薬で考えるとよい。補血を目的とした方剤である「当帰補血湯」は黄耆と当帰の2薬で構成されていることからも分かるように、黄耆は気を補うことで、当帰の補血作用を補う。また潤燥の観点からは、当帰は補血により潤す、黄耆は利水により乾かす、という性質があり、両者で平衡をとっている。
木香
 補う生薬を多く使うと必ず流れが悪くなり、胃がもたれる、腹がはるといった自覚症状が現れやすくなる。補うだけの四君子湯よりも、理気作用のある陳皮と半夏を加えた六君子湯が頻用されているのはこのためである。補気薬に理気薬はつきものである。同じ理由から、多くの補う生薬を配合している加味帰脾湯には理気薬として木香が配合されている。
薬連:竜眼肉と酸棗仁と遠志
 これらは心血を補う薬連である。3薬とも「寧心安神※1」といって心血を補う作用は同じであるが、それぞれ心とともに補う臓が異なる。竜眼肉は「脾」を平補※2する。脾では水穀の気から血が作られる。この血が肝に蔵され、やがて心血を補う。酸棗仁は「肝」を平補する。特に肝が蔵する血を補うことで、心血を補う。遠志は「腎」を平補する。腎は精を蔵する。肝腎同源※3の考えから肝血を補う上で、腎精を補うことが重要である。
 このように、心とともに、脾、肝、腎を分担して平補することで心血を補うのがこれら3つの生薬による薬連である。
※1 こころを穏やかにすること。
※2 穏やかに補うこと。
※3 肝血と腎精は相互滋養の関係にあること。
対薬:柴胡と山梔子
 加味帰脾湯の「加味」の部分の生薬である柴胡と山梔子について解説する。どちらも清熱作用のある生薬であるが、柴胡は「肝」、山梔子は「心」の熱を冷ます。心血虚になると、血が不足するため、相対的に気の機能が過剰になる。気は陰陽で考えると陽に属するため、陽の症状であるほてりや動悸が現れやすくなる(虚熱)。これを冷ますために柴胡と山梔子が配合されている。また五行論の考えから、相生※4関係にある心と肝は互いに熱が移行しやすい。そのため、心と肝を同時に冷やす柴胡と山梔子の対薬が必要となる。また熱証が明らかでなくても、虚熱は潜在的にあると考えられるため、予防目的で用いてもよい。
※4 相生:五行の一つが、相手に対し、促進、助長などの作用をすること。
 まとめると、加味帰脾湯は心血虚とそれに伴う熱証に配慮された方剤で、精神神経活動の抑制、低下状態に用いるとよい。

図2-1. 加味帰脾湯の生薬構成


(例:肝気鬱結に対する方剤)
▶ 加味逍遙散 -肝気鬱結による熱証に対する方剤-
 肝を治療する2つの方剤について解説する。肝の治療方法にはいくつかの原則があり、肝を治療する方剤はその原則に従って構成されている。

肝の治療原則
① 気と血を同時に治療する
② 木克土に配慮し、脾胃を調整する
③ 熱証への配慮をする
 加味逍遙散に配合されている各生薬の役割を対薬理論と肝の治療原則に則って解説する。

対薬:柴胡と薄荷
 どちらの生薬にも疏肝理気、つまり肝の気を流して整える作用があり、対薬として考えることができる。
対薬:当帰と芍薬
 肝の治療原則①を考慮すると、柴胡と薄荷で肝気を調整するだけでなく、同時に血の治療も必要となる。そこで、肝血を調整する生薬として当帰と芍薬が配合されている。当帰には補血と活血作用がある。血虚には必ず血瘀を伴うため、補血するときには活血もする。特に芍薬は補血作用しかなく、流れが滞りやすいので、当帰の活血作用が必要となる。また当帰と芍薬はどちらも補血作用がある一方で、当帰は発散性、温性であるのに対し、芍薬は収斂性、寒性と逆の作用を有しており、互いにその部分の作用を相殺している。つまり、不要な作用は相殺させ、肝の治療で必要となる補血作用だけを増強させ合って取り出す、非常に合理的で、美しい対薬であるといえる。
 このように肝気を調整する柴胡と薄荷の対薬と、肝血を調整する当帰と芍薬の対薬とで、肝に入る2つの対薬がさらに対薬対を構成している。
対薬:白朮と茯苓   対薬:生姜と甘草
 白朮と茯苓、生姜と甘草は肝の治療原則②に基づいた対薬対である。木克土、つまり肝気が失調して亢進すると、五行論の考えから肝と相克関係にある脾が障害されやすくなる。これを防ぐために健脾して脾胃を強めておく必要がある。これに対して、健脾燥湿により脾を補うのが白朮と茯苓の対薬である。また生姜と甘草の対薬は、辛甘扶陽で中焦の気を補い、胃を調整する。
 これら脾に入る2薬と、胃に入る2薬とで対薬対をつくり、木克土から脾胃を守っている。
対薬:牡丹皮と山梔子
 加味逍遙散の「加味」の部分の生薬である牡丹皮と山梔子は肝の治療原則③に依拠している。肝の熱証の要因としては2つ考えられる。一つは、停滞したものは熱をもつため、肝気鬱結で停滞した気自体が熱をもつことである。もう一つは、肝血の不足によって気(陽)を制御していた血(陰)の力が弱まり、陽の過亢進によって、ほてりなどの熱証が現れやすくなることである。
 牡丹皮と山梔子は共に清熱作用があるが、牡丹皮は「肝」、山梔子は「心」を清熱する。この対薬が肝気鬱結から進展した肝の熱証を取り除く。

図2-2. 加味逍遙散の生薬構成


(例:肝気鬱結に対する方剤)
▶ 抑肝散加陳皮半夏 -肝気鬱結による肝陽上亢に対する方剤-
 同じく肝の治療に使われる抑肝散加陳皮半夏は、生薬構成が加味逍遙散とよく似ているが、これはどちらも肝の治療原則に従って作られているからである。
対薬:柴胡と釣藤鈎
 肝気の調整薬として、柴胡は両方剤に共通であるが、加味逍遙散の薄荷は、抑肝散加陳皮半夏では釣藤鈎に入れ替わっている釣藤鈎には「肝陽上亢」、つまり子供の夜泣きや痙攣、感情の高ぶりなど、肝の失調による過亢進を抑える作用がある
対薬:当帰と川芎
 肝血に配慮した生薬も同様に配合されている。当帰は両方剤に共通であるが、加味逍遙散の芍薬は抑肝散加陳皮半夏では川芎に入れ替わっている。抑肝散加陳皮半夏が使われるような病態では、肝気鬱結が強いため、気をより強く流すための生薬が必要となる。そのため、気の流れを停滞させてしまう芍薬ではなく、発散性の生薬で、気を流す作用の強い川芎が用いられている。
 抑肝散加陳皮半夏の肝の調整薬についてまとめると、柴胡と釣藤鈎が肝気を調整する対薬当帰と川芎が肝血を調整する対薬である。これら肝を調整する2組の対薬がさらに対薬対を構成している。
対薬:陳皮と半夏
 肝の治療原則②に基づき、脾胃の調整薬も同様に配合されている。脾に入る対薬として白朮と茯苓は共通している。一方、胃に入る対薬として、加味逍遙散の生姜と甘草は、抑肝散加陳皮半夏では陳皮と半夏に入れ替わっている。胃の降濁作用が低下すると、嘔気や胃もたれなど上向きの症状が出やすくなる。陳皮と半夏は胃の降濁作用、つまり下向きの方向性を助けることで、これらの症状を改善する胃の調整薬である。
 抑肝散加陳皮半夏の脾胃の調整薬についてまとめると、白朮と茯苓が脾を調整する対薬、陳皮と半夏が胃を調整する対薬である。これら脾胃を調整する2組の対薬がさらに対薬対を構成している。
 加味逍遙散と抑肝散加陳皮半夏はどちらも肝気を調整する方剤であるが、両者の違いとしては、加味逍遙散は肝気鬱結からの熱証に配慮された方剤であるのに対し、抑肝散加陳皮半夏は肝気鬱結からの肝陽上亢に配慮された方剤である。肝気(陽)は滞ると上昇し、頭痛、イライラ、手足の振るえ、不眠、眼瞼痙攣、BPSD、精神症状の行動化などの症状を起こす抑肝散加陳皮半夏はこのように肝陽上亢の証がある場合に適した方剤である。

図2-3. 抑肝散加陳皮半夏の生薬構成
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

風邪のphaseを考慮した咳の漢方

2024年09月04日 13時55分41秒 | 漢方
前項に引きつづき、風邪の経過(phase)を考慮した漢方を考えてみます。
今回は咳・咳嗽。

それを参照させていただきます。

初期(熱のある急性期:太陽病期)は麻黄湯(26)入りの方剤が適用になります。
代表は小青竜湯(19)。

【小青竜湯】《傷寒論》:麻黄2-3.5;芍薬2-3.5;乾姜2-3.5;甘草2-3.5;桂皮2-3.5;細辛2-3.5;五味子1-3;半夏3-8



その後、咳が止まらずこじれてきたとき(熱が上がったり下がったり:少陽病期)は、柴胡剤を使用します。
柴胡剤とは、柴胡・黄岑入りの方剤です。
代表は清肺湯(90)、竹筎温胆湯(91)。

【清肺湯】《万病回春》:黄芩2-2.5;桔梗2-2.5;桑白皮2-2.5;杏仁2-2.5;山梔子2-2.5;
【竹筎温胆湯】《寿世保元》:柴胡3-6;竹茹3;茯苓3;麦門冬3-4;陳皮2-3;枳実1-3;黄連1-4.5;甘草1;半夏3-5;香附子2-2.5;生姜1;桔梗2-3;人参1-2

初期は麻黄剤、亜急性期は柴胡剤、という原則は鼻汁の項目と共通ですね。

回復期は人参入りの方剤を選びます。
代表は麦門冬湯(29)

【麦門冬湯】《金匱要略》:麦門冬8-10;半夏5;粳米5-10;大棗2-3;人参2;甘草2


風邪のphaseではなく、咳の性質により使い分ける方法もあります。

透明な痰 → 小青竜湯(19)
白色の痰 → 竹筎温胆湯(91)
黄色の痰 → 清肺湯(90)
乾性の咳 → 麦門冬湯(29)


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

風邪のphaseを考慮した鼻水〜ちくのう症(副鼻腔炎)に対する漢方

2024年09月01日 11時19分58秒 | 漢方
風邪に使われる漢方薬は数多くあります。
西洋医学と異なる点は、
① 風邪の経過(起承転結)
② 症状の性質 
により処方が変わること。

①は漢方独特の「六病位」という考え方ですが、
毎日風邪患者を診療している小児科医の視点から見ても、肯けます。

②については、
例えば咳なら湿性(痰が多い)か乾性(痰が少ない)かで薬が異なりますし、
鼻水でもその性状が水様性か黄色性か粘膿性かで薬が異なります。

そしてそれらを使いこなすと、有効率がぐっと上がります。

小児科開業医である私のクリニックには、
ちくのう症(副鼻腔炎)で抗生物質漬けにされた患者さんが、
耳鼻科から逃げてくる例が時々来院します。

それらの患者さんに対して、
試行錯誤をしながら漢方薬を工夫して処方し続けてきましたが、
最近ようやく解決できる例が増えてきました。

ここでは風邪漢方の解説でわかりやすかった谷川聖明先生のレクチャー内容を紹介します。

まずは、風邪の経過(phase)による使い分けを。
漢方医学では、熱性疾患の起承転結を「六病位」という概念で捉えます。

太陽病期 → 少陽病期 → 陽明病期 → 太陰病期 → 少陰病期 → 厥陰病期

外来では主に最初の二つ(太陽病期と少陽病期)を扱います。
陽明病期以降はこじれて重症化した状態であり、
病院に紹介して要すれば入院治療するレベルです。

さて、最初の二つをより具体的に表現すると以下のようになります;

太陽病期:急性期〜亜急性期:悪寒・発熱、頭痛、咽頭痛、鼻閉・鼻汁
少陽病期:亜急性期〜慢性期:上気道炎・気管支炎、鼻炎・副鼻腔炎、扁桃炎

新型コロナを思い出してください。
咽頭痛から始まり、熱が出てその後に咳が始まりますよね。
マイコプラズマも初めは咽頭痛で数日後に咳が始まることが多いです。

なんとなくイメージできたでしょうか。

そして、太陽病期と少陽病期では使う漢方薬が異なります。

太陽病期 → 麻黄含有製剤
少陽病期 → 柴胡剤

麻黄という生薬は、強力に身体を温める作用があります。
つまり熱を上げるのです。

え、熱が出ているのにさらに上げるの?
それって余計につらくなるのでは?

という素朴な疑問が生まれますよね。

はい、そうなんです。
説明の前に、発熱って何?
という話をします。

風邪を引いて熱が出るのは、
病原体(主にウイルス)に負けて出ているのではありません。

病原体をやっつけるために人の免疫システムが熱を作って対抗しているのです。
熱が上がるときにガタガタ震える悪寒という現象があります。
あれは震える → 運動して熱を作る動作なのです。

熱が上がりきると、悪寒は止まります。
発熱のピークですね。
その後に汗ばんでその気化熱で熱が少し下がりますが、
病原体が生き残っているとまた発熱システムが作動します。

発熱は基本的に人の身体の味方なんです。
そう、漢方薬は人の免疫システムをサポートしてさらに発熱させ、
病原体を追い出すという考え方なのです。

免疫力の低下した高齢者は十分に発熱することができません。
だからこじれやすい、重症化しやすいのですね。
「高熱でなくてもこじれて入院した」
という現象はこういう背景です。

一方の西洋薬はどうでしょうか。
せっかくの発熱を解熱剤で下げてしまい、
病原体をやっつける力を弱めています。
解熱剤を頻繁に使い続けると、発熱期間が長引くという動物実験のデータもあります。
ですからつらくなければ解熱剤で下げる必要はないのです。

太陽病期に発熱を補助して汗をかいて解熱し、そのまま治ってくれればOK。
しかし追い出しきれずに炎症が身体の表面から身体の奥に入り込む phase を少陽病期と呼びます。

少陽病期に移行すると、熱が長引くとともに、鼻水・鼻閉、咳で悩まされるようになります。
診断名もかぜから副鼻腔炎(ちくのう症)、気管支炎と変化します。

西洋医学では、この辺で抗生物質が処方されることが多いですね。
抗生物質(近年、抗菌薬と呼ぶようになりました)は細菌(バクテリア)をやっつける薬です。
残念ながら、ウイルスには効きません。

新型コロナ・パンデミックの始まりの頃を思い出してください。
こじれて肺炎で重症化する人が後を絶ちませんでした。
でも抗生物質で治ったという話も聞かなかったでしょう?
肺炎の原因がウイルスだったからです。

漢方薬では、風邪がこじれつつあるときに柴胡剤を使います。
これは柴胡・黄岑という二つの生薬を含んでいる方剤のこと。

この二つの生薬には抗炎症効果があります。
漢方薬にはウイルスや細菌を直接やっつける力はありません。
でもウイルスや細菌が身体の中で暴れて生じた炎症を鎮める力があります。
病原体ではなくヒトの身体の免疫システムに作用するのです。

パンデミック(新興ウイルス感染症)は新型コロナ以前にもありました。
有名なのはスペイン風邪(1918-1919年)。
これは新型インフルエンザによるパンデミックでした。

当時の日本では、漢方薬で治療しました。
柴葛解肌湯という薬が有効であったと記録されています。
同じ名前の方剤は現在保険収載されているエキス剤にはありませんが、
葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を併用することにより、
同じ生薬構成となるため、この2剤が使用されて有効であったと報告されて、
一時期、市場からこの2剤が消えました。

葛根湯は麻黄含有製剤で太陽病期の方剤、
小柴胡湯加桔梗石膏は柴胡剤で少陽病期の方剤です。

太陽病期と少陽病期の薬を併用するなんて、邪道では?
という意見もあるかもしれませんが、
これはウイルスの勢いが非常に強く、
身体の奥にすぐに進行して重症化するため、
両者を併用する手段を取ったのです。

・・・前置きが長くなりすぎました。

では具体的な方剤を紹介します。
風邪の初期(太陽病期)に使われる鼻汁・鼻閉の代表薬は小青竜湯葛根湯加川芎辛夷です。


そして少しこじれてくると(少陽病期)、
具体的には透明だった鼻水が白っぽくなったり、青っ洟になった状態ですが、
辛夷清肺湯がよく効きます。
辛夷清肺湯には柴胡剤の生薬“黄岑”が含まれています。


さらに経過が長引くと荊芥連翹湯の出番です。
同じく少陽病期の方剤ですが、
慢性疾患に適応する“四物湯”の構成生薬が入っているのです。


さて、漢方薬には色々な尺度がありますが、
六病位」ではなく、
陰陽虚実」で方剤を分類したイラストを紹介します。


」は弱児のイメージ、
」は体力充した健康児というイメージですね。
こんな使い分けも頭の片隅に入れておくと、有効率がアップします。

さて、急性期〜亜急性期を過ぎ慢性化してしまうと、
耳鼻科では「ちくのう症」という診断名の元に抗生物質が投与されます。
良くならないと数種類の抗生物質を1週間単位でグルグルつなげて処方する耳鼻科医が多いこと多いこと。
西洋医学では他に手段がないので、しかたないのかもしれませんが・・・。
中には下痢したり、抗生物質をずっと服用することが心配になって小児科に駆け込む患者さんが居るのは前述の通りです。

そんな患者さんに私が処方する漢方薬を紹介します。




あれ、一つ前のグラフとほぼ同じですね。
そう、これらの方剤をうまく使い分けると、
ちくのう症の患者さんも治療可能です。

最後に私の風邪の鼻水に対する漢方診療を紹介します。

 小青竜湯、あるいは葛根湯加川芎辛夷
  ⇩ 
(良くならない場合)
  ⇩
 葛根湯加川芎辛夷+小柴胡湯、あるいは辛夷清肺湯
  ⇩ 
(良くならない場合)
  ⇩
 辛夷清肺湯+葛根湯加川芎辛夷

これでだいたいの患者さんが軽快します。
症状がガンコでも、2週間〜4週間投与すると一旦落ちついてくれることが多いです。

一旦よくなるものの、またすぐ風邪を引いて青っ洟になりやすい患者さんには、
荊芥連翹湯の弟分である柴胡清肝湯という方剤を定期内服してもらいます。
(荊芥連翹湯は有効だとは思うのですが、とてもまずいので飲んでくれないのです)
すると不思議、風邪で通院する回数が激減します。

ただし、柴胡剤に含まれている黄岑という生薬は副作用が出ることがあるため、
長期投与を希望する患者さんには血液検査を受けてもらっています。

最後に谷川聖明先生が方剤の特徴をまとめた表を紹介します;


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする