小児漢方探求

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

未病の漢方:花粉症

2025年01月16日 10時45分15秒 | 漢方
喜多敏明Dr.の未病シリーズ、今回は「花粉症」を視聴しました。
すでに患者さんに漢方を多用している私ですが、
それでも勉強になりました。

未病シリーズなので、症状だけでなく、アレルギー体質を変える養生についても触れています。
その中で「乾布摩擦」が登場して驚きました。

私はアレルギー専門医なので、
今から四半世紀前までは、重症小児喘息患者は学校併設の総合病院小児科に入院治療していた時代を知っています。
そこで当たり前のように行われていた健康づくりが乾布摩擦です。

しかしそのエビデンスが不十分であり、
上半身裸になることも時代に逆行しており、
今では姿を消しました。

そして今、乾布摩擦は漢方医学由来であることを知りました。
その理論的背景は「肺(体の表面=皮膚)に刺激を与えて免疫力を活性化する」というもの。

花粉症を気血水で解説し、
免疫力を五臓論(肺・腎)で解説している今回の内容も、
私には腑に落ちました。

西洋医学の概念「アレルギー性炎症」は漢方医学では「冷え・水滞」である、
 アレルギー性炎症=寒証
 化膿性炎症=熱証
とわかりやすく対比して見せてくれました。

講義メモを備忘録として残しておきます。

▶ 花粉症の概要
アレルギー体質+アレルゲン(花粉)
 → アレルギー炎症
 → 症状:鼻(くしゃみ、鼻汁)、眼結膜(かゆみ、充血)
漢方医学的に考えると、
 アレルギー炎症=病気
 アレルギー体質=未病

▶ 慢性鼻炎の病態を二次元グラフで位置づける

          (化膿性炎症)
             ⇧
               辛夷清肺湯(104)
               荊芥連翹湯(50)
(冷え・水滞あり)⇦       ⇨(冷え・水滞なし)
   小青竜湯(19)
  麻黄附子細辛湯(127)
             ⇩
         (アレルギー性炎症)

▶ “アレルギー炎症“は“冷え・水滞“
・炎症(アレルギーを含)=免疫系の反応
・免疫系は漢方医学的には肺と腎が関係する。
・アレルギー性炎症(西洋医学)は冷え・水滞(漢方医学)である。
・鼻汁は透明・水様である。
・小青竜湯(19)と麻黄附子細辛湯(127)は冷え・水滞を改善することにより症状をやわらげる。
・「冷え・水滞」は漢方理論、すなわち仮説であるが、実際に小青竜湯などが有効であることから実証されている。

▶ “化膿性炎症”は“熱”
・化膿性(感染性)炎症は熱証であり冷え・水滞はない。
・化膿性炎症による鼻炎には辛夷清肺湯(104)や荊芥連翹湯(50)が使用される。
・鼻汁は黄色・粘稠である。

▶ 鼻炎に“養生”が必要な理由
・小青竜湯(19)・麻黄附子細辛湯(127)には麻黄という生薬が入っており、
急性期・有症状期は問題ないが、長期に使用することは好ましくない。
・麻黄を使い続けないために“養生”が必要になる。
・鼻炎の病態には薬>養生、鼻炎の体質改善には養生>薬が重視される。

▶ 五臓理論上、免疫をつかさどるのは肺と腎
・漢方医学が確立した2000年前には免疫学はなかった、当時考えた仮説が五臓論。

▶ 肺の陽気(衛気)の働き
1.表を温めて、防衛する。
・表とは、皮膚・上気道(鼻〜のど)・下気道(気管〜肺)を含む。
2.表に水を巡らせる。
・リンパの流れ、発汗の調節。

▶ 肺の陽虚
1.体表面の冷え
2.防衛力の低下
3.体表面の水滞 → 水様鼻汁・水様喀痰 ← 乾姜・細辛(小青竜湯)で改善

▶ 肺の陽気を活性化する養生
・乾布摩擦
・冷水シャワー(風呂上がり、朝シャワー、滝壺修行)
・リンパマッサージ

▶ 腎の陽気の働き
1.熱を産生する
・深部体温(37℃)の維持
2.排尿
・老廃物(水毒)の排泄

▶ 腎の陽虚
1.下半身が冷えやすい(ヒトの身体は上熱下寒という状態になりやすい)
2.下半身には水毒が停滞しやすい
   ⇩
 腰から下の冷えと痛み ← 苓姜朮甘湯(118):茯苓・白朮で水滞を治し、乾姜で陽虚を治す。

▶ 腎の陽気を活性化する養生
・半身浴:38〜40℃のお湯に20〜30分間、ジワジワと発汗するまでつかる。
・インターバル速歩:3分/3分×5回(合計30分)を週に4〜5日


<参考>
未病の漢方:花粉症(喜多敏明Dr.の未病シリーズ)
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未病の漢方:頭痛

2025年01月15日 13時49分42秒 | 漢方
未病(健康と病気の中間)をテーマにした喜多敏明Dr.のレクチャー動画
今回は“頭痛”編を見てみました。

喜多Dr.の解説は歯切れがよいので、私はファンの一人です。
啓蒙に熱心な漢方専門医は大きく二つのタイプに分かれ、
漢方用語を使わないでわかりやすく説明することを目標にする先生と、
漢方理論をわかりやすく整理して解説する先生に分かれます。

初心者は前者の方が入りやすいのですが、
ある程度慣れてくると、壁にぶつかります。
このエキス剤が紀奈ない場合、次の一手は?
・・・その背景の理論を知らないと複数の漢方方剤の使い分けができないのです。

喜多Dr.は後者です。
今回も気血水理論を用いて明快に解説しています。
さらに、現代医学の要素も取り入れているので、
西洋医学を学んで医師免許を取得した世代の私でも、
頭に入りやすいです。

その中で「なるほど!」と感じたこと;
・西洋医学の痛み止めを飲むと血流が悪くなるので頭痛の頻度が増える。
・漢方薬を飲むと気血水バランスがよくなるので頭痛の頻度が減る。
という目からうろこが落ちるコメントでした。

だから漢方薬をベースに流し、鎮痛剤を併用、その使用頻度が減っていくのが理想的、
を目標にするという理由がわかりました。

▶ 慢性頭痛の種類と頻度
・頭痛の有病率は39.6%(15歳以上)、片頭痛が8.4%、緊張型頭痛が22.4%、残りはその他(群発頭痛、三叉神経痛など)

▶ 頭痛の分類
1.一次性(機能性):片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛、三叉神経痛など
・部位:こめかみ、目の奥
・性状:拍動性、ズキズキ
・随伴症状:閃輝暗点(8.4%のうち2.6%にあり、5.8%にはない)、吐き気・嘔吐
2.二次性(症候性):くも膜下出血、脳腫瘍など
・部位:後頭部、頭全体
・性状:締め付け感、重い感じ
・随伴症状:肩こり、めまい

▶ 頭痛の誘因
【片頭痛】
① 肩こり(72%)
② ストレス(71%)
③ 睡眠(58%)・・・睡眠不足、睡眠過多
④ 月経(51%)・・・月経前、月経中
⑤ 天候(49%)・・・雨の前日、低気圧、台風接近
⑥ におい(16%)・・・香水、洗剤、タバコ
【緊張型頭痛】
① 悪い姿勢、骨格の歪み
② 肩こり、首の痛み
③ 歯のかみ合わせ
④ 目の疲れ
⑤ ストレス、睡眠障害
 → 対策として、姿勢を正す、ほぐす、リラックス、適度な運動など

▶ 緊張型頭痛の非薬物療法(慢性頭痛の診療ガイドライン2013より)
・・・ストレスの関与しない慢性頭痛はない → 心身医学的アプローチが必要
A. 精神行動療法
1.筋電図バイオフィードバック
2.認知行動療法
3.リラクゼーション
4.催眠療法
B. 理学療法
1.運動プログラム(頭痛体操)
2.マッサージ、頚部指圧
3.超音波、電気刺激
4.姿勢矯正
5.顎部の機能異常に対する治療
6.温冷パック
C. 鍼灸

▶ 頭痛体操
・1日2分で効果あり
【片頭痛】「コマ体操」


【緊張性頭痛】「肩回し体操」




▶ 片頭痛に影響する食品
A.  片頭痛を誘発する食品(誘発する成分)
① 赤ワイン(ヒスタミン、チラミン)
② チョコレート(チラミン)
③ チーズ(チラミン)
④ 柑橘類(チラミン、オクトパミン)
⑤ 加工肉:ハム、ソーセージ(亜硝酸ナトリウム)
⑥ ファストフードのうま味調味料(グルタミン酸)
B.  片頭痛によい食品(よい成分)
① 緑黄色野菜:ほうれん草(マグネシウム)
② 海藻:ヒジキ(マグネシウム)
③ 大豆食品:納豆(マグネシウム)
④ ナッツ類:アーモンド(マグネシウム)
⑤ うなぎ(ビタミンB2)
⑥ レバー(ビタミンB2)

▶ 片頭痛の治療薬(西洋医学)
(急性期用)
1.アセトアミノフェン:カロナール®
2.非ステロイド系抗炎症薬:バファリン®、ロキソニン®
3.トリプタン系片頭痛薬:イミグラン®、ゾーミッグ®ほか
4.エルゴタミン製剤:クリアミン®配合錠
(予防薬)
5.カルシウム拮抗剤:ミグシス®
6.抗てんかん薬:デパケン®
★ 市販薬のみ使用者:56.9%!

▶ 緊張型頭痛の治療薬(西洋医学)
1.アセトアミノフェン:カロナール®
2.非ステロイド系抗炎症薬:バファリン®、ロキソニン®
3.筋弛緩薬:テルネリン®
4.抗不安薬:デパス®
5.三環系抗うつ薬:アミトリプチリン®

▶ 治療経過の比較:西洋薬 vs. 漢方薬
A.  西洋薬
・鎮痛剤による頭痛治療を続けていると、血流が悪くなる(漢方的には“瘀血”)。
・薬の効果が減弱してくるため、頭痛の回数が増え、鎮痛剤の使用回数が増える悪循環に陥る(薬物乱用頭痛)。
・1か月に10日以上の服用を3か月以上続けると危険。
B.  漢方薬による頭痛治療
・続けていると、体質(気血水の異常)が改善され、頭痛の回数が減ってくる。
・機能性の頭痛に対しては漢方薬が第一選択薬。
・ただし、体質改善の漢方薬はゆっくり効いてくるので、鎮痛剤との併用が現実的。

▶ 頭痛の漢方医学的病態分類
・気血水の巡りが悪いと頭痛が発生する(誘因)
 → 気血水の異常を改善すれば頭痛が出現しなくなる。
A.  気の異常
① 気逆タイプ → 発作的(≒片頭痛)
② 気うつタイプ → 持続的(≒緊張型頭痛)
B.  血の異常
③ 瘀血タイプ → 生理前後、肩こり
C.  水の異常
④ 水滞タイプ → 雨の前日、低気圧(=天気痛)
★ 天気痛:気圧の変化によって頭痛が出現する。気圧の変化に対する自律神経による調節が破綻する。

▶ 頭痛に頻用される漢方薬
① 気逆タイプ(≒片頭痛) → 呉茱萸湯(31)
② 気うつタイプ(≒緊張型頭痛) → 釣藤散(47)
③ 瘀血タイプ → 桂枝茯苓丸(25)
④ 水滞タイプ(=天気痛) → 五苓散(17)


<参考>
未病と漢方:頭痛(喜多敏明Dr.)

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未病の漢方:快眠

2025年01月14日 07時52分09秒 | 漢方
漢方医学には「未病」という概念があります。
健康と病気の中間のグレーゾーン、
天気に例えれば、快晴と雨の中間の曇り状態。

そしてそれをちょうどよい状態(中庸)に戻そうと考えます。
絶対的な健康ではなく、その人の一番よい体調というイメージです。
そこで登場するのが養生・薬膳・漢方薬。

薬を飲む前にもできることがたくさんあります。
養生・薬膳を実行しても病的状態に近づいたら、漢方薬を飲むという思想。

私は学校健診の診察をこなしている最中、
この“未病”をよく思い出します。

学校健診でスクリーニングする病気は、
「症状がないけど病的状態が疑われる」
という、まさに“未病”状態なのです。

(これは怪しい、問題がかくれていそうだ・・・)
と判断して医療機関への受診勧告を発行しますが、
せっかく拾い上げても実際の医療機関受診率は30%程度と低率です。

教育委員会は、
「規則に基づく学校健診を実施」
することには熱心ですが、
「受診率〇〇%を維持する」
という規定がないため、スルーしています。

建前だけなんですね。
これでは参加する医師のモチベーションが上がりません。
おっと、愚痴モードになってきました。
話を元に戻します。

YouTubeで喜多Dr.による「未病:快眠」というテーマの動画を見つけました。

自分自身も不眠症気味である私は興味深く視聴しました。
一口に「眠れない」といっても、様々な原因・要因があります。
西洋医学では「入眠困難」「中途覚醒」「早朝覚醒」と分類されることが多いのですが、
漢方医学では気血水というものさしでその人を評価・分析し、
その人に合った方剤を選択します。

簡単に云うと、
・疲れているのに眠れない → 気虚・血虚 加味帰脾湯(137)、酸棗仁湯(103)
・緊張して眠れない → 気うつ(肝気欝血)抑肝散(54)、加味逍遥散(24)
・興奮して眠れない → 気逆 黄連解毒湯(15)
等々。

メモを残しておきます。

▶ 睡眠の基礎知識
・睡眠-覚醒サイクル
(覚醒)動く:疲労・壊れる
 ↓↑     ↓↑
(睡眠)休む:回復・修復する
・REM睡眠
 ✓ 浅眠状態、夢見状態
 ✓ 速い眼球運動
 ✓ 体は動かない
・non REM睡眠
 ✓ 熟睡状態 ・・・最初の90分間
 ✓ 成長・若返り ← 成長ホルモン↑
 ✓ 疲労回復 ← 副交感神経↑

▶ 睡眠の役割
・体や脳の休養、記憶の整理、定着
・体の発育・修復、ホルモンバランスの調整
・脳の老廃物を除去、免疫を高める

▶ ビジネスマンの生活時間(シチズン意識調査、2000年)
       通勤時間  勤務時間 (睡眠時間)平日  休日
(1980年)  1:43    8:36     7:01     8:36(平日+95分)     
(2000年)  2:03    9:30    6:08     7:57(平日+109分)
 増減    +20分   +54分    −53分    −39分

▶ 睡眠の調節メカニズム
1.体内時計機構
・眠気の概日リズム・・・メラトニンが重要
・夜になると睡眠を発現させる
2.睡眠恒常性維持機構(ホメオスターシス)
・長時間の覚醒・睡眠不足は・・・大脳皮質の疲労・睡眠物質の蓄積を招く
・深く、長いノンREM睡眠
3.覚醒保持機構
・覚醒が必要とされるときに睡眠を抑えるメカニズム
・オレキシンが活躍

▶ 体内時計機構(サーカディアンリズム)の調節
・規則正しい生活が最重要 ・・・同じ時刻に毎日起床
・メラトニン↑  ⇒  眠気↑
 ✓ 起床後約14時間後から分泌、太陽光によりリセット
 ✓ 就寝前には強い光を避ける(スマホ、タブレット、テレビなど)
・交感神経活動↓、深部体温↓、抗重力筋弛緩  ⇒  眠気↑
 ✓ 就寝前4時間のカフェイン摂取を控える
 ✓ 2時間前までの入浴、軽い読書、音楽、香り、筋弛緩トレーニングを取り入れる

▶ 睡眠恒常性維持機構(ホメオスターシス)
・脳疲労を回復する
・長時間の昼寝は睡眠物質を低下させるため、浅く短い睡眠になりがち
 → 昼寝をするなら15時前に20〜30分程度がお勧め
・日中の適度な活動は睡眠物質を増やし、深く長い睡眠を得られる
 → 運動週間は熟睡を促進
・必要な睡眠時間は個人差が大きい
 ✓ 朝起きられない、日中眠い  → 睡眠が足りていない
 ✓ 休日に(平日より)2時間以上長く寝る  → 睡眠が足りていない
 成人の約4人に1人が睡眠不足を感じている(2008年)

▶ 覚醒保持機構
・覚醒が必要とされるときに睡眠を抑えるメカニズム
 大脳辺縁系      → 情動的な興奮
 情動調節系      (不安、緊張、怒り、怖れなど)
   ⇩
 視床下部       → 交換神経興奮、身体的緊張状態
 オレキシン
   ⇩
 覚醒系の興奮     → 目がさえて寝付けない、
           入眠後も睡眠が不安定

▶ 不眠に対する漢方治療
1.日内時計機構の乱れ
2.恒常性維持機構の障害 → 気虚・血虚
・疲れているのに眠くならない
 → 加味帰脾湯(137)、酸棗仁湯(103)
3.覚醒保持機能の活性化 → 気うつ・気逆
気うつ:緊張して眠れない
 → 抑肝散(54)、加味逍遥散(24)
気逆:興奮して眠れない
 → 黄連解毒湯(15)、甘麦大棗湯(72)

★ 緊張と興奮はどう区別するか?
 → 緊張は持続する、興奮は持続しない。

喜多Dr.は気血水理論で使い分けを説明してくれました。
他の漢方専門家達も、さまざまな視点で解説している情報があります。
ちょっと覗いて比較してみましょう。

▶ 西洋医学的な「入眠障害」「中途覚醒・熟眠障害」による使い分け一覧表
(入眠障害)
 ✓ 黄連解毒湯(15)
 ✓ 抑肝散加陳皮半夏(83)
 ✓ 竹筎温胆湯(91)
 ✓ 酸棗仁湯(103)
(中途覚醒・熟眠障害)
 ✓ 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
 ✓ 加味帰脾湯(137)
 ✓ 酸棗仁湯(103)
・・・喜多Dr.も「酸棗仁湯は万能で第一選択薬」とコメントしていましたが、
ここでも入眠障害・中途覚醒の両方に名前がありますね。

▶ 虚実で使い分け
(実証)
 ✓ 大柴胡湯(8)
 ✓ 黄連解毒湯(15)
(中間証)
 ✓ 抑肝散(54)
 ✓ 抑肝散加陳皮半夏(83)
 ✓ 半夏厚朴湯(16)
 ✓ 温経湯(106)
(虚証)
 ✓ 柴胡桂枝乾姜湯(11)
 ✓ 加味帰脾湯(137)
 ✓ 帰脾湯(65)
 ✓ 酸棗仁湯(103)


陰陽虚実による使い分け(谷川聖明Dr.)
紹介されている4方剤はすべて虚証+陽証に分類されているので、
使い分けが難しいですね。

こちらの表の方が五臓(肝と心)で分類されている分、わかりやすい。
酸棗仁湯(103)は入眠困難に、
加味帰脾湯(137)は中途覚醒・熟眠障害に使うよう提唱されています。
う〜ん、これだけだと使い分けがよくわからない。



・・・ここまで読んだ方、ご苦労さまでした。
どの解説がわかりやすかったですか?
私は喜多Dr.に一票!
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漢方の「六病位」=「急性感染症のステージ分類」

2025年01月11日 13時44分02秒 | 漢方
・・・え、そうでしょう。
と以前から思っていたことが記事になっていましたので紹介します。

風邪をたくさん見てきたアラ還小児科医の自分のイメージとちょっと異なる部分もありますね。

<ポイント>
・六病位とは、平たく言えば急性期疾患のステージ分類。
・時系列で並べてみると、太陽病、少陽病、陽明病、太陰病、少陰病、厥陰病。実際の患者さんでは途中のステージが欠けていることがあり、六病位の順番についても諸説あってややこしい。
(インフルエンザを例にとって)
【陽病期】
太陽病:病邪たるウイルスが体表から体の中へと進行を始め、それに対して体の免疫が「水際作戦」を行っている状況。インフルエンザに罹患すると、頭痛や咽頭痛、悪寒、節々の痛みといった症状が出ることが多い。これらの症状は、比較的体表部で起こるという共通点がある。
 太陽病では体表に病邪がいるので、汗とともに病邪を体の外に追い出してしまう(発表)のが合理的。
少陽病:病邪たるウイルスが体表からもう少し深部に侵入しており、消化管にまで及び始めている状態。発汗とともに追い出すという作戦が使えないため、代わりに、体の中で炎症とともに病邪を解きほぐすような治療(和解)を行うのが合理的。
陽明病:体が病邪に屈服してはいないものの、病邪の影響が腸管にまで及んでしまい、体の芯に熱がこもって様々な症状を起こしてしまっている状況。陽明病に対しては「体の芯にある熱を排便とともに外に出す」「体の中に冷たいものを入れて冷やす」という2パターンの治療がある。
【陰病期】
 免疫が落ちて(≒虚証)、病邪たるウイルスや細菌に体の免疫が負けてしまって、病気のさらなる進行を許してしまう状態。
太陰病:太陰病は、体が病邪に押し負けているものの、局所の敗戦に留まり、全身の敗戦には至っていない状況。お腹が張ったり、吐いてしまったり、腹痛があったり、下痢したりといった腸管症状が特徴的。お腹は冷えているけれども、全身はそこまで冷えていない。使う漢方薬は、腸管を起点に全身を建て直してくれるもの──本連載で言うところの「お腹に優しい」漢方薬がよい。
少陰病・厥陰病:腸管だけでなく、体全体が冷えてきてしまい体温を維持することもだんだんと難しくなった状態。生命の危機が近づいていることを示す状況を少陰病、それを通り越した生命の危機を厥陰病と呼ぶ。この病気では西洋医学的治療が優先される。少陰病に対して漢方治療を行う場合は、体を芯からしっかり温める漢方薬を使う。

ふだん自分がカバーする病期は太陽病〜少陽病であることがわかります。
陽明病は病院へ紹介、陰病期は入院治療が必要です。

開業医の役割は、少陽病 → 陽明病に至らないよう治療することですね。
するとやはり柴胡剤が活躍することになります。

六病位の陽病期では「侵入してきた病原体を追い出す」という概念が底にあります。
まあ、西洋医学でも咳や鼻水は身体に入ったウイルスを排出するため、発熱もウイルスを失活させるための武器と説明されますから、一部共通しています。
太陽病期(風邪の初期)は体表面が戦いの場であり、発汗で追い出す(発表)、それができずに体深く侵入を許した陽明病期(風邪がこじれた状態)では消化管が戦いの場となり、排便で追い出す(瀉下)という発想が興味深いです。
そして太陽病期と陽明病期の間、少陽病期では追い出すのではなく「和解」するという概念が誠に興味深く、そこに柴胡剤を当てたのは歴史的大発見だと思います。
この柴胡剤、熱性疾患に使われますが、ストレス反応で体調が悪くなったときのメイン生薬でもあるのですから。


▢ 「急性期疾患のステージ分類」とも言える六病位って?
伊東 完(東京医科大学茨城医療センター総合診療科)
監修:伊藤亜希(横浜薬科大学漢方薬学科)
2025/01/09:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

・・・太陽病は、感冒初期に多くの患者さんが経験する状態を指していますが、「太陽病=感冒初期」としてしまうと、やや正確性に欠けるという問題があります。また、柴胡剤を取り上げた第9回では「感冒進行期」という表現を無理やり使っていましたが、これも「少陽病」という言葉を当てはめることができます。・・・そろそろ陰陽の概念を学ぶ潮時ではないかとも考え、今回は、陰陽に含まれる急性期疾患の重要概念である六病位について説明していきます。
 六病位とは、平たく言えば急性期疾患のステージ分類です。悪性腫瘍は、深達度や転移の状況に応じてステージが進んでいきますが、漢方医学の世界でもそれと似たような概念が存在するわけですね。そして、その順番を時系列で並べてみると、太陽病、少陽病、陽明病、太陰病、少陰病、厥陰病となります。細かい話をすると、実際の患者さんでは途中のステージが欠けていることがありますし、六病位の順番についても諸説あってややこしいのですが1~3)、本連載では今挙げた順番で話を進めます。ここから先は、インフルエンザに罹患した患者さんをイメージしながら読み進めると分かりやすいかもしれません。

▶ 太陽病
 インフルエンザに罹患すると、頭痛や咽頭痛、悪寒、節々の痛みといった症状が出ることが多いかと思います。これらの症状は、比較的体表部で起こるという共通点があります。病邪たるウイルスが体表から体の中へと進行を始め、それに対して体の免疫が「水際作戦」を行っているこの状況を太陽病と呼びます。なお、インフルエンザに罹患した患者さんのすべてが太陽病になるわけではなく、例えば、体の免疫が損なわれていて「水際作戦」を実施できない場合は、一気に病邪が体の中になだれ込んで、後述する少陰病から始まることもあります(このようなものを「直中(じきちゅう)の少陰」と呼びます)。
 さて、太陽病では体表に病邪がいるので、汗とともに病邪を体の外に追い出してしまう(発表)のが合理的でしょう。そこで、汗の出にくい実証の患者さんに対しては、汗を出す麻黄湯や葛根湯が使われることになります。汗の出やすい虚証の患者さんの場合は、汗が出すぎて脱水を起こさないように、汗の量をほどほどに調整する必要があります。そこで、麻黄湯でなく桂枝湯を使用するのが良いという話になってくるわけです(参考:第5回)。

▶ 少陽病
 インフルエンザに罹患してしばらくの間は、頭痛や咽頭痛、悪寒、節々の痛みが目立ちますが、時間がたつとこれらの症状が改善していき、代わりに咳が出始めたり、気分不快になって吐き気を催したり、倦怠感が残ったりします。しっかり問診をしていると、口の中が苦いと訴える患者さんがいることにも気付かされます。また、「日中は平熱なのに夜だけ熱が出る」といった具合に、発熱の日内変動を訴える患者さんも現れます。このような状況を少陽病と呼びます。
 少陽病では、病邪たるウイルスが体表からもう少し深部に侵入しており、消化管にまで及び始めているので、発汗とともに追い出すという作戦が使えません。代わりに、体の中で炎症とともに病邪を解きほぐすような治療(和解)を行うのが合理的です。ここで活躍するのが柴胡剤という漢方薬のグループで、便秘になりがちな実証であれば大柴胡湯などが、そうでもない虚実中間証では小柴胡湯などが使われます。太陽病と少陽病の過渡期であれば、桂枝湯と小柴胡湯の間となる柴胡桂枝湯を使うのもありです。

▶ 陽明病
 インフルエンザに罹患した患者さんの多くは外来での治療で間に合いますが、それでも一部の患者さんは、インフルエンザそのものによる肺炎や肺炎球菌などの細菌による二次性肺炎などを合併してしまうことがあります。そうすると、入院治療を余儀なくされるわけです。ある程度免疫がしっかりしている患者さんの場合は、入院下で抗ウイルス薬や抗菌薬などを使っている中で徐々に元気になってくるものですが、廃用症候群が進行してしまって、すぐに退院できないことがありますよね。
 そういった亜急性期の患者さんの病棟管理をしていると、便秘になってしまうことが往々にしてあり、よく看護師さんから下剤としてセンノシド(商品名プルゼニド他)などの処方を求められます。さらに、不眠やせん妄といった問題が生じてしまうこともよくあります。このように、体が病邪に屈服してはいないものの、病邪の影響が腸管にまで及んでしまい、体の芯に熱がこもって様々な症状を起こしてしまっている状況を陽明病と呼びます。
 陽明病に対する漢方薬は今まで解説していませんでしたが、代表的なものとしては承気湯類や白虎湯類が挙げられます。残念ながら、これらに対応するエキス製剤は少なく、わずかに調胃承気湯や白虎加人参湯などが使用可能です。調胃承気湯は、大黄、甘草、芒硝(硫酸ナトリウム)で構成される漢方薬で、西洋医学に例えるなら、センノシドと酸化マグネシウム(マグミット他)を合わせたようなイメージです。排便とともに体の芯にある熱を外に逃がすわけです。また、白虎加人参湯は、石膏、粳米(こうべい)、知母(ちも)、甘草、人参で構成される漢方薬で、体全体を潤しつつも、ひんやりとした石膏の力で体の芯にある熱を冷やす力があります。
 ここまでの説明を語弊を恐れずに簡略化すると、陽明病に対しては「体の芯にある熱を便とともに外に出す」「体の中に冷たいものを入れて冷やす」という2パターンの治療があるということになります。

▶ 太陰病
 インフルエンザや肺炎球菌性肺炎に罹患した患者さんで、免疫が落ちている場合(≒虚証)、病邪たるウイルスや細菌に体の免疫が負けてしまって、病気のさらなる進行を許してしまうことがあります。このような患者さんにはもう発熱するだけの余力はなく、体温も平熱に留まったり、下がっていったりするわけです(体温の低い敗血症は予後が悪いというのは、西洋医学ではよく知られるところです)。このような状態を陰病と呼び、太陰病、少陰病、厥陰病(けっちんびょう)という順番で進んでいきます。
 まず、太陰病は、体が病邪に押し負けているものの、局所の敗戦に留まり、全身の敗戦には至っていない状況を指します。具体的には、お腹が張ったり、吐いてしまったり、腹痛があったり、下痢したりといった腸管症状が特徴的です。お腹は冷えているけれども、全身はそこまで冷えていない。このような時に使う漢方薬は、腸管を起点に全身を建て直してくれるもの──本連載で言うところの「お腹に優しい」漢方薬がよいでしょう。これに該当するのが、桂枝加芍薬湯や建中湯類(例:小建中湯、当帰建中湯、黄耆建中湯)といった漢方薬です。

▶ 少陰病・厥陰病
 免疫が落ちている患者さんの中には、インフルエンザに合併した肺炎球菌感染症が肺炎だけに留まらず、菌血症、敗血症にまで至ってしまうことがあるかもしれません。こうなってしまうと、これはもう局所でなく全身の問題です。腸管だけでなく、体全体が冷えてきてしまうわけですね。体温を維持することもだんだんと難しくなっていきます生命の危機が近づいていることを示すこの状況を少陰病(図5)、それを通り越した生命の危機を厥陰病と呼びます。
 現代では、重症敗血症の患者さんに対しては、抗菌薬に加えてノルアドレナリンなどの昇圧薬や人工呼吸管理などを組み合わせて集中治療を行うことになるかと思いますので、漢方医学の入り込む余地はほとんどありません。ただ、もし少陰病に対して漢方治療を行う場合は、体を芯からしっかり温める漢方薬を使います。具体的には、四逆湯のように乾姜や附子(トリカブトの塊根)を含む漢方薬が選択肢です。
 乾姜を含む漢方薬としては、人参湯などがあり、人参の作用も相まって胃などの上部消化管から全身を温めてくれます(太陰病期から使用できます)。また、人参湯に附子を加えた附子理中湯という漢方薬もあります。こういった漢方薬を使用する目安として、口角から少し唾液が出ていることも参考になります。また、附子を含む漢方薬として真武湯(しんぶとう)も有名で、歩行時のめまいや下痢の時によく使います。人参湯とは対照的に、下部消化管から全身を温めるイメージがあります。さらに、太陽病の時に簡単に触れた「直中の少陰」(陰病から始まる、冷えを伴った感冒)に対しては、麻黄附子細辛湯が使われます。
 ここまで六病位をまとめてみましたが、漢方薬の種類がたくさん出てきて驚いた方も多いかもしれません。太陽病と少陽病、太陰病のところに出てきた処方はこれまでも触れてきた処方ですので置いておくと、皆さんには今回、新規に真武湯を覚えていただくのがよいかと思います。「陰病における葛根湯」と呼ばれるくらいには、応用範囲の広い漢方薬だからです。人参湯や麻黄附子細辛湯も時々使うので、余力があればどうぞ。


表1 六病位の治療コンセプトと代表的な漢方薬

<参考文献>
1)藤平健 『傷寒論』で少陽病篇が陽明病篇のあとに位置する理由. 日本東洋医学雑誌 1986;37(1): 9-17.
2)田原英一ら 日本で傷寒論の順が太陽, 少陽, 陽明となった理由の一考察. 日本東洋医学雑誌 2021;72(4):452-9.
3)山崎正寿ら 「日本で傷寒論の順が太陽, 少陽, 陽明となった理由の一考察」の問題点. 日本東洋医学雑誌 2022;73(3):347-8.

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こころの不調(気逆・気うつ)の漢方 〜心と肝〜

2024年12月30日 16時39分48秒 | 漢方
喜多先生のWEB配信されているレクチャーを視聴しました。
彼の解説は曖昧なところが少なく、頭の中の整理に役立ちます。

ポイントを列記します;
・こころの不調に対する漢方は、五臓の心と肝に属する。
・人間がストレスを受けたときの反応は、急性期(キャノン学説)と慢性期(セリエ学説)の2種類に分けられる。
・漢方医学的には急性期反応が“気逆”、慢性期反応が“気うつ”と捉えられる。
・気逆は「怒り・闘争・攻撃反応タイプ」と「恐れ・逃走・防御反応タイプ」の2種類に分けられる。
・攻撃反応タイプには黄連解毒湯(15)、三黄瀉心湯(113)、防御反応タイプには桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、柴胡桂枝乾姜湯(11)が適応となる。
・気うつは「悲しみをガマン・憂慮過多タイプ」と「怒りをガマン・緊張過多タイプ」の2種類に分けられる。
・憂慮過多タイプには半夏厚朴湯(16)、香蘇散(70)、緊張過多タイプには抑肝散(54)、加味逍遥散(24)が適応となる。
・抑肝散と加味逍遥散は適応となる精神状態が似ており、性格特性で使い分ける。抑肝散加陳皮半夏(83)は「打ち解けにくい」「精神的に強い」傾向があり、加味逍遥散は「打ち解けやすい」「精神的に弱い」傾向がある。
・こころの不調に対する漢方薬は、抑うつ・不安・興奮のどれがメインかで使い分けるが、性格特性も参考になる。

明快なのはよいのですが、これを理解して使いこなすにはちょっと時間がかかりそうです。
講義メモを備忘録として残しておきます。

***********************************

▶ 気の働き
1.生命活動を成業する:シグナルとしての気
2.生命活動を駆動する:パワーとしての気、エネルギーとしての気

▶ 二種類のストレス反応
1.キャノンの「闘争・逃走反応」 → 短期戦、交感神経系亢進 → 気逆
2,セリエの「ストレス抵抗反応」 → 長期戦、副腎皮質ホルモン分泌 → 気うつ

▶ 二種類の気逆と代表的方剤
1.攻撃反応タイプの気逆
・キーワード:怒り(闘争)、タイプA行動(虚血性心疾患になりやすい行動特性、ワンマン社長のイメージ)、顔面紅潮・のぼせ、血圧上昇、不眠
・代表的方剤;黄連解毒湯(15)、三黄瀉心湯(113)
2.防御反応タイプの気逆
・キーワード:恐れ(恐くて逃げる、逃走)、パニック発作、動悸発作、腹部の動悸、手足の発汗
・代表的方剤:桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

▶ 三黄瀉心湯の“心”は五臓の心
・心は覚醒・睡眠プロセスを司る
・心は中枢神経系と循環器系の日内リズムを作る
 ・心の陽気:動的活動・・・昼・覚醒し、心拍数多・血圧高い
 ・心の陰液:静的活動・・・夜・睡眠し、心拍数少・血圧低い
・心の異常
 ・心の陽気が過剰 → 気逆、興奮して眠れない → 黄連解毒湯(15)、三黄瀉心湯(113)
 ・心の陰液が不足 → 血虚、安らかに眠れない → 酸棗仁湯(103)、加味帰脾湯(137)

▶ 二種類の気うつと代表的方剤
1.憂慮過多タイプ
・キーワード:悲しみをガマン、憂鬱な気分、訴えが執拗、心気症的、胃気失調(※)を認める
・代表的方剤:半夏厚朴湯(16)、香蘇散(70)
2.緊張過多タイプ
・キーワード:怒りをガマン、イライラした気分、肩こり・頭痛、過緊張による症状、肝気鬱結を認める
・代表的方剤:抑肝散(54)、加味逍遥散(24)

※ 胃気失調:気の巡りが悪くて消化器症状(食欲がない、腹部膨満感、排ガス、ゲップ、腹部の鼓音)がみられる。

▶ 肝気鬱結:覚醒・睡眠プロセスの異常
・肝の働き:自律神経系+内分泌系の日内リズムを形成(陽気 → 陰液 → 陽気)
 ・肝の陽気:動的活動を担当、昼・覚醒、筋:緊張、肝:異化
 ・肝の陰液:静的活動を担当、夜・睡眠、筋:弛緩、肝:同化
・肝気鬱結とは動的活動から静的活動への移行がストレスのために障害された病態
 → 精神的&身体的な過緊張状態を呈する。

▶ 抑肝散(54)と加味逍遥散(24)の比較
・両方とも肝気鬱結に使用する方剤:高山Dr.の赤本のイラストを見ると似ている。
・適応となる精神状態は類似しているが、性格特性が異なる。
・16PF人格検査(★)による性格特性の比較
  (抑肝散加陳皮半夏) (加味逍遥散)
N: 如才ない       如才ない
O: 自信がない      自信がない
L:  疑り深い       疑り深い
Q4: 固くなる       固くなる
C: 情緒不安定      情緒不安定
H: 物おじする      物おじする
A: 打ち解けない     打ち解ける
I:   精神的に強い     精神的に弱い

▶ 性格特性から見た抑肝散加陳皮半夏(83)
・自己主張的:精神的に強い、打ち解けない
 → 協調性が必要な状況・人間関係がストレスになる

▶ 性格特性から見た加味逍遥散(24)
・他者依存的:打ち解ける、精神的に弱い
 → 自立性が必要な状況・人間関係がストレスになる

▶ こころの不調に有効な方剤の16PF因子A得点分布
           (4点以下)  (5-6点) (7点以上)
           打ち解けない  ジレンマ  打ち解ける

抑肝散加陳皮半夏(83)  10      1      1
柴胡桂枝乾姜湯(11)    7      2      0
桂枝加竜骨牡蛎湯(26)   5      3      0
柴胡加竜骨牡蛎湯(12)   2      8      2
香蘇散(70)        0      7      0
補中益気湯(41)      3      5      2
加味逍遥散(24)      2      6      16
半夏厚朴湯(16)      0      1      12
加味帰脾湯(137)     1      4      5

★ 16PF人格検査
  (低得点)  (高得点)
A:打ち解けない  打ち解ける
B:知的に低い   知的に高い
C:情緒不安定   情緒安定
E: 謙虚     独断 
F: 慎重     軽率
G:責任感が弱い  責任感が強い
H:物怖じする   物怖じしない
I:  精神的に強い  精神的に弱い   
L: 信じやすい   疑り深い
M:現実的     空想的
N: 率直     如才ない
O:自信がある   自信がない
Q1:保守的    革新的
Q2:集団的    個人的
Q3:放縦的    自律的
Q4:くつろぐ   固くなる

▶ 心の不調に有効な方剤の精神状態・性格特性
         (抑うつ・無力) (不安・緊張) (興奮・焦燥) (性格特性)
加味帰脾湯(137)           △       △     打ち解ける
補中益気湯(41)   ◎         △       ✖️     中間
香蘇散(70)              〇       ✖️      中間
半夏厚朴湯(16)   〇         〇       ✖️     打ち解ける
柴胡加竜骨牡蛎湯(12)〇         ◎       〇       中間
桂枝加竜骨牡蛎湯(26)△               △      打ち解けない
柴胡桂枝乾姜湯(11) △         〇       △     打ち解けない
加味逍遥散(24)   △        〇        〇      打ち解ける
抑肝散加陳皮半夏(83)△        〇        ◎     打ち解けない
酸棗仁湯(103)   ✖️        〇        ◎      ー


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「五臓六腑に染み渡る」の“五臓”を漢方医学的に解説

2024年12月29日 10時00分34秒 | 漢方
YouTube上の「Dr.喜多 公式チャンネル」から、
【Dr.喜多の漢方入門講座】五臓の働きとその異常シリーズ(1-6)
を見つけました。

漢方における五臓の概念は「陰陽五行説」の一部で、
西洋医学を中心に学んだ日本の医師には、
ちょっと入りにくいハードルとなっています。

でも、漢方薬を使い始めると、
この概念を理解しないと先に進めない壁でもあります。
急性熱性疾患の経過を表す六病位や、
体のバランスを表す気血水がなんとなくイメージできるようになると、
その次に現れるのが五臓論なのです。

とくにこころの不調に対する漢方を調べていると、
“心”と“肝”に作用する方剤の名前が出てくるのですが、
この心と間の違いが今ひとつイメージできなかった私です。
このシリーズの中で、
「心は精神運動機能をつかさどり、肝は心の働きをコントロールする」
という興味深いフレーズが登場しました。

また、心のシステムを肝が制御し、
肺のシステム(衛気)を腎が制御するという説明も新鮮でした。

噛みしめて理解したいと思います。

この五臓論、なんとか突破できないものか・・・
以下に講義メモを備忘録として残しておきます。

***************************

▶ 五臓は気血水を産生する
脾(消化器官) → 気の産生(エネルギー源)
肝(代謝器官) → 血の産生(有機資源)
腎(泌尿器官) → 水の産生(無機資源)

▶ 気には2つの働きがある
・パワーとしての気 → 機能を発現する働き(モーター)
・エネルギーとしての気 → 機能を維持する働き(電池)

▶ パワーとしての気は3系統に分類される
脾に宿る胃気 → 消化吸収機能発現
心に宿る神気 → 精神運動機能発現
肺に宿る衛気 → 生体防御機能発現
・・・そしてこの3つの気にエネルギーとしての気が供給されるが、
 その気は「水穀の気」「後天の気」つまり食べ物の栄養である。

▶ 身体器官の機能を超えた五臓システム
循環器官 → システム → 精神運動機能
呼吸器官 → システム → 生体防御機能
消化器官 → 脾胃システム → 栄養補給機能
代謝器官 → システム → 神気の活動制御
泌尿器官 → システム → 衛気の活動制御
つまり、心と肝は密接につながり、肺と腎も密接につながっている。

▶ 脾胃の働きと異常
・脾胃の働き
食物を消化吸収し、水穀の気を生成する。
②血の流通をなめらかにし、血管からの漏出を防ぐ。
③筋肉の形成と維持を行う。
食欲を調節し、栄養産生を制御する。
・脾胃の異常(を示唆する症候)
①食欲の低下、消化不良、悪心・嘔吐、胃もたれ、腹部膨満感、腹痛、下痢
②皮下出血
③脱力感、四肢が思だるい、筋萎縮
④考え込む、抑うつ

▶ 漢方の血液循環の中心は心臓ではなく“肝”
(西洋医学)
心臓 → 酸素(動脈血) → 全身→ 二酸化炭素(静脈血) → 心臓
(漢方医学)
肝臓 → 有機資源(営血・栄血) → 全身→ 有害物質(汚血・血毒) → 肝臓

▶ 肝の異常と血虚・瘀血の病態
有機資源の不足 → 血虚
有害物質の過剰 → 瘀血
・・・漢方医学は肝を中心に理解する。

▶ 肝と骨格筋における肝陽・肝陰の働き
肝陽(肝の陽気)
・肝臓における蛋白質代謝:分解・異化へ
・骨格筋における筋繊維トーヌス:亢進・緊張へ
肝陰(肝の陰液)
・肝臓における蛋白質代謝:合成・同化へ
・骨格筋における筋繊維トーヌス:低下・弛緩へ

▶ 肝の働き=自律神経系+内分泌系
前項の肝陽・肝陰は1日のサイクルで循環している(日内リズム)。
夜は肝陰で静的活動:睡眠、筋弛緩、たんぱく質同化
昼は肝陽で動的活動:覚醒、筋緊張、たんぱく質異化

▶ 肝陽・肝陰の日内リズムがストレスでブロックされた病態が肝気欝血
肝陽(動的活動) → 肝陰(性的活動)への移行が、
ストレスのために障害された病態。
 → 精神的・身体的な過緊張状態を呈する。

▶ 肝の働きとその異常
肝の働き
①精神活動を安定化する。
②栄養素の代謝と解毒をつかさどる。
③血を貯蔵して全身に栄養を供給する。
④骨格筋のトーヌスを維持し、運動や平衡を制御する。
肝の異常(を示唆する症候)・・・精神的・身体的過緊張
①神経過敏、易怒性、イライラ
②じんま疹、黄疸
③月経異常、貧血
④頭痛、肩こり、めまい、筋肉のけいれん、腹直筋の攣急
⑤季肋部が腫れて痛い

▶ 心の働きとその異常
心の働き
意識レベルを保ち、意識的活動を統括する。
覚醒・睡眠レベルを調節する。
③血を循環させる。
④熱の産生を盛んにし、汗を分泌し、体温を調節する。
心の異常(を示唆する症候)
①焦燥感、興奮、集中力低下
②不眠、嗜眠、眠りが浅い、夢が多い
③動悸、息切れ、徐脈、結代、胸内苦悶
④発作性の顔面紅潮、熱感

▶ 心に宿る「神気」の働き
・血液循環機能を発現する
  ↓
 酸素や栄養素を脳や骨格筋に供給する
  ↓
・精神運動機能を発現する

▶ 精神活動は漢方的には気の流れ
・気の流れとは、生命活動のプロセスを維持する情報の流れである。
・精神活動の入力から出力には、
①認知プロセス
②思考プロセス
③感情プロセス
④行動プロセス
を経て発現する。
・神気の失調により気うつ・気逆状態になると、
①認知機能障害
②思考機能障害
③感情機能障害
④行動機能障害
等が発生する。

▶ 脳の活動を制御するのは肝と心のシステム
脳がストレス(心理・社会的因子)を受けると、
①生体恒常性維持機能(自律神経・内分泌・免疫系)が障害される
  → 身体症状
②心の恒常性維持機能(認知・情動・意志のプロセス)が障害される
  → 精神症状

▶ 神気の活動を制御する肝システム
神気
脳内ドーパミン系を介して精神運動機能を発現させ、
心臓・血管系を介して血液循環機能を発現させる。
肝陽
脳内ノルアドレナリン系を介して精神運動機能発現を促進し、
交感神経系を介して血液循環機能発現を促進する。
肝陰
脳内セロトニン系を介して精神運動機能発現を抑制し、
副交感神経系を介して血液循環機能発現を抑制する
・・・以上が24時間のサイクルで日内リズムを形成している。

▶ 血・水の流れと肝・腎の働き
・血の流れは肝を中心に理解する
肝 → 有機資源(栄血・営血) → 全身→ 有害物質(汚血・血毒) → 肝
・水の流れは腎を中心に理解する
腎 → 無機資源(浄水・津液) → 全身→ 有害物質(汚水・水毒) → 腎

▶ 腎の異常と津虚・水滞の病態
前項目における、
無機資源の不足 → 津虚
有害物質の過剰 → 水滞

▶ 腎と細胞における腎陽・腎陰の働き
腎陽 → (腎臓)尿排泄
   → (細胞)アポトーシス
腎陰 → (腎臓)水液再吸収
   → (細胞)新生・増殖
さらに、
腎臓 → 浄水・津液 → 細胞 → 汚水・水毒 → 腎臓
というサイクルがある。

▶ 腎の働きとその異常
・腎の働き;
成長、発育、生殖能をつかさどる
骨・歯芽を形成・維持する
③泌尿機能をつかさどり、水分代謝を調節する。
④呼吸能を維持する。
⑤思考力、判断力、集中力を維持する。
・腎の異常(を示唆する症候)
①性欲低下、不妊
②骨の退行性変化、腰痛、歯牙脱落
③浮腫、夜間尿、目や皮膚の乾燥
④息切れ
⑤健忘、根気がない、恐れ、驚き
⑥白内障、耳鳴り

▶ 腎虚:加齢により腎の働きが低下した状態
・視力・聴力の低下
・思考力・判断力の低下
・呼吸能の低下
・生殖能の低下
・姿勢維持能の低下
・排尿する能力の低下

▶ 肺の働きとその異常
肺の働き;
①呼吸により宗気を摂取し、全身の気の流れを統括する。
②水穀の気の一部から血と水を生成する。
皮膚の機能を制御し、その防衛力を保持する。
肺の異常(を示唆する症候)
①咳嗽、喀痰、喘鳴、鼻汁、呼吸困難、息切れ、胸の塞がった感じ
②気道粘膜の乾燥
③発汗異常、かゆみ、カゼを引きやすい
④憂い、悲しみ

▶ 衛気(肺に宿る)の働きとそれを制御する腎システム
衛気の働き(免疫担当細胞、リンパ系)
①生体防御機能を発現(貪食・破壊・炎症・発熱)
②リンパ環流機能を発現する
腎陽(炎症性サイトカイン)は①と②を促進し、
腎陰(抗炎症性サイトカイン)は①と②を抑制する。


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カゼは風邪(ふうじゃ)

2024年12月28日 15時01分27秒 | 漢方
YouTube上に喜多先生の漢方レクチャーを見つけました。
喜多先生は漢方薬の背景をわかりやすく解説してくれる、
私の尊敬する専門家です。

まず、カゼについてのレクチャーを視聴しました。
風邪という漢字の由来から説き起こし、
五行説を引用し、
その背景を知ることができました。

また、西洋医学的解析も併用して、
西洋医学を学んで資格を得た日本の医師も納得しやすい内容です。

風邪のレクチャーを視聴して、
発汗(発表)と解肌の概念の違いがわかり、
知識の整理ができました。

以下に講義メモを残しておきます;
※ この項目では、普通感冒をカゼ漢方用語のふうじゃを風邪と表記することにします。

****************************

カゼは漢字で風邪と書く。

これ、漢方用語が由来であり、
漢方医学では“かぜ”ではなく“ふうじゃ”と読む。

風邪の“風”は気候を表す六気(りっき)の一つで、
その六気とは、
風・寒・暑・湿・燥・火
(ふう・かん・しょ・しつ・そう・か)
から成る。

風邪の“”は邪気の略で、病気を起こす邪悪な気。
反対語は“生気”で自然治癒力・免疫力を意味する。
外から来る邪気を“外邪”と呼ぶ。

つまり、「外から風に乗って運ばれてくる邪気=風邪(ふうじゃ)」ということ。

カゼの原因になるのは主に風邪と寒邪とされ、
カゼには2種類存在することになる。

風邪によって引き起こされる病気を中風(風に当たる)といい普通感冒を意味する。
寒邪によって引き起こされる病気を傷寒(寒邪により傷(やぶ)られる)といい、
現在では悪寒・発熱が強いインフルエンザに例えられる。

さらに中風と傷寒の特徴として、
寒気があるときに汗が出ているのが中風
寒気があるときに汗が出ていないのが傷寒
という違いがある。

寒気・悪寒は熱を産生するための体の運動だが、
汗が出てしまうと気化熱で熱が下がってしまうので、
汗が出てしまう中風では熱が十分上がらず、
闘病反応が弱いという見方もできる。

▶ 傷寒の治療麻黄湯(27):発汗
・作用:体を温めて(温熱薬)発汗させ、結果的に熱を下げる。
 → 表(=肌、バリア)を傷(やぶ)って体内に侵入した寒邪を汗とともに外に追い払うイメージ。
・構成生薬
✓ 麻黄(エフェドリン):交感神経を刺激して代謝を亢進させ、熱を産生する(温熱薬)。
✓ 桂枝(シナモン):体を温める(温熱薬)。 

▶ 中風の治療桂枝湯(45):解肌(げき)
表(=肌)を守っている生気には衛気(※)と営血の2種類があり、風邪の侵入を阻んでいるが、衛気と営血がうまく働かない状態(営衛不和)になると侵入されてしまう。寒邪は強いので表が正常でもそれを傷って入ってくるが、風邪は強くないため営衛不和状態の時、つまり体調が悪いときに入ってくる
営衛不和(えいえふわ)を解決するのが解肌であり、桂枝湯(45)は体を温めながら営衛不和を整える作用がある。
桂枝湯(45)
 桂枝・生姜で温めて衛気を活性化し、
 芍薬・大棗で営血を補い(栄養補給)、
 甘草は上記2つの働きを調和させる
 (営衛不和を調和させる)。

汗が出ている中風に汗を出す麻黄湯(27)を使うと汗が出すぎてしまうので、少し作用の弱い桂枝湯(45)を使う。

※ 衛気を補う生薬が黄耆。

▶ 麻黄湯と桂枝湯の中間が葛根湯(1)
葛根湯の構成は桂枝湯+麻黄・葛根であり、
麻黄湯と桂枝湯の両方の生薬が入っている(いいとこ取り!)。
傷寒でも中風でも対応できる。

▶ 麻黄湯と桂枝湯の中間が桂麻各半湯(037)
葛根湯と桂麻各半湯の使い分けのポイント;
寒気から始まる・頭痛・肩こり → 葛根湯
咽痛から始まる(寒気は強くない) → 桂麻各半湯

▶ カゼの経過の漢方的捉え方(六病位)
陽証:強い邪気と戦っている状態、
どこで戦っているかで3つに分けられる
 表証:体表面(筋肉痛・関節痛・肩こり・頭痛)
  → 発汗・解肌汗と一緒に邪気を追い払う
 半表半裏:表裏の中間 (気管・肺・咳と痰・咽頭扁桃炎)
  → 和解
 裏証:消化管まで侵入(腹部膨満、便秘、高熱)
  → 瀉下便と一緒に邪気を追い払う
陰証:生気が弱まり反応できない、邪気と戦えない(負け戦)
 寒気はあるが熱が出ない(せいぜい微熱)、倦怠感、横になりたい
  → 温補:麻黄附子細辛湯(127)

▶ 胃腸が弱い(麻黄が使えない)人のカゼ薬
香蘇散(70):カゼの初期
参蘇飲(66):急性期以降・慢性期

▶ 風邪を引きにくくなる漢方薬:参耆剤(人参+黄耆)
生薬の人参と黄耆はともに“補気薬”。
例)
補中益気湯(41):気虚
十全大補湯(48):気血両虚
人参養栄湯(108):気血両虚:乾燥タイプに適応(気道が乾燥するとカゼを引きやすい)

▶ 「カゼを引きやすい」「治りにくい」=未病
「カゼを引きにくい」「治りやすい」=健康(自然治癒力が働いている)
“健康”な状態に気血水の異常があると“未病”状態になる
気血水の異常を改善すると未病 → 健康が手に入る。
その方法は、養生と漢方薬。

▶ 養生(健康的な生活)とは?
ふつうの生活・・・痛みを避けて快楽を求める → 短期的幸福 → 長期的苦痛(自業自得)
養生の目的は長期的幸福。
本能・欲求に身を任せるのではなく、理性でコントロールしなければ健康は手に入らない

▶ 自業自得=自因自果
自業自得:“業”とは“行い”で3種類ある。
 身:行動
 口:話す
 意:思考
自因自果:原因 → 結果(には3種類ある)
 短期結果:痛みを避け、快楽を求める
 中期結果:病気・健康、不幸・幸福に結びつく
 長期結果:病気・健康、不幸・幸福に結びつく
 → 中期・長期結果はわかりにくいので、結果が悪い場合、人は「他因自果」(自分が悪いのではなく自分以外に悪い原因を求める)に陥りがちだが、それは言い訳に過ぎない。
 → 因は自分に帰する(自分が種をまいている)、縁は他人に帰する。

▶ 健康という花を咲かせるために良い種(養生)をまこう。
種をまく(因) → 花が咲く(果)
良い花を咲かせるためには良い種をまく必要がある。
因には、太陽の光・水・空気・土・(縁 ※)などがある。
“健康”という花を咲かせるためには、良い行い(業)を心がけ、中・長期的に待たなければならない。
良い行いをしたからといって、すぐ健康になるわけではない。

※ 縁は周囲の人;
・良い縁:自分の健康に協力してくれる人。

▶ 健康の定義(WHO)
身体的+精神的+社会的な well-being(幸せ)


・悪い縁:悪い欲望へ誘導・誘惑する人。

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不眠治療と漢方

2024年12月24日 06時05分48秒 | 漢方
不眠治療と漢方…いろいろな専門家が解説していますが、
その内容は少しずつ異なります。

一番わかりやすいのは、
入眠障害
中途覚醒
熟眠障害
早朝覚醒
で使い分ける方法です。

しかし、簡便に4つに分けても、
その人その人により病態(漢方的“証”)は異なります。
そこまで追求しないと有効率は上がりません。

手元の資料では以下のように睡眠障害の種類と対応する漢方薬がまとめられています。

入眠障害+(頭がさえて眠れない、つまらないことが気になる、のぼせる)
 → 黄連解毒湯(15)
入眠障害+(イライラ、頭痛、認知症の不眠)
 → 抑肝散加陳皮半夏(83)
中途覚醒・熟眠障害+(動悸、イライラ、夢・悪夢が多い)
 → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
中途覚醒・熟眠障害+(不安感、体質虚弱、認知症)
 → 加味帰脾湯(137)
入眠障害・中途覚醒+(疲れているのに眠れない)
 → 酸棗仁湯(103)
入眠障害+(咳・痰、いろいろ考えすぎて眠れない)
 → 竹筎温胆湯(91)
不眠+(喉のつかえ、不安感)
 → 半夏厚朴湯(16)
不眠+(月経関連・更年期の不眠、イライラ)
 → 加味逍遥散(24)
不眠+(神経過敏、冷え、抑うつ)
 → 柴胡桂枝乾姜湯(11)

杵渕先生の不眠治療に関する記事が目に留まりましたので、
読んでみました。
前編では西洋医学の不眠治療の問題点、特にベンゾジアゼピン系のリスクを指摘し、
後編で漢方医学の考え方を解説しています。

漢方の使い分けのポイントを抜き出すと、

入眠障害:興奮していて眠れないもの(心熱
 → 黄連解毒湯
「不眠の原因がイライラや興奮であったりする時の症状は、入眠障害(寝つきが悪い)が多い」
熟眠障害:不安で眠れないもの(胆虚
 → 柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、加味逍遙散、半夏厚朴湯
「不眠の原因が不安の場合は、熟眠障害(ぐっすり眠れない)が多い、神経質で体格が良い人には柴胡加竜骨牡蛎湯、体力のない、華奢な虚証の人には補剤を使うことが多い」
入眠&熟眠障害
1.心熱胆虚の混在
 → 抑肝散加陳皮半夏
「イライラ・興奮と、不安が両方あって不眠の原因となっている場合もある」
2.虚労:疲れすぎ、体力低下で眠れないもの
 → 十全大補湯・補中益気湯・酸棗仁湯
「心身ともに過労の状態、入眠・熟眠ともに障害がある場合が多い」

あれ、加味帰脾湯(137)が入ってませんねえ。
でも手元の資料より、選択理由がはっきりしていて使いやすい印象もあります。
抑肝散加陳皮半夏の選択ポイントは、手元の資料では、
入眠障害+(イライラ、頭痛、認知症の不眠)
ですが、杵渕先生の解説では、
心熱と胆虚の混在(イライラ・興奮と、不安が両方あって不眠の原因となっている場合)
とイメージしやすいです。


▢ 前編:“眠れないから睡眠薬”はもう古い? 現在の不眠治療と漢方
杵渕 彰(漢方医学研究所 青山杵渕クリニック 所長)
2023.02.10:QLife漢方)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
▶ コロナ禍で「不眠」を訴える人は増えている
 多くの人が新型コロナウイルスへの不安、生活習慣の変化などから、多大なストレスを感じざるを得ない状態である昨今、不眠を訴える患者さんが増えていると杵渕先生は言います。
 「2021年に発表されたOECDの国際調査の結果1)によると、コロナ前の2013年で7.9%とだった日本国内におけるうつ病やうつ状態にある人の割合は、2020年時点では17.3%と、およそ倍増しています。それに伴って、不眠の訴えも増えているというのが現在の状況です。感染の恐怖や周囲への気遣い、外出自粛・在宅勤務による生活リズムの変化、仕事や将来への不安…このようなストレスが重なり、『疲れているのに眠れない』『すぐ目が覚めてしまう』『眠りが足りないような気がする』と訴える方は多いです」(杵渕先生)
 不眠は、寝入るのに30分以上かかってしまう「入眠障害」、夜中に何度も目覚めてしまう「中途覚醒」、通常より2時間以上早く目が覚めてしまう「早朝覚醒」、眠りが浅くて満足感のない「熟眠障害」の4つの症状に分けられます2)。このような症状が長く続くと、まず自律神経が乱れ、各臓器や分泌系に異常が起こり、さらには倦怠感、意欲低下、集中力の低下、日中の眠気、頭痛、めまいなど、多岐にわたる不調が出現します。
 このような「長期間にわたり夜間の不眠が続くこと」、「日中に精神や身体の不調を自覚して生活の質が低下すること」の2つが認められたときに「不眠症」であると診断されます。

▶ 不眠(睡眠障害)の分類
 不眠には「睡眠障害国際分類」(ICSD)という国際分類があり、最新の第3版(ICSD-3)3)では慢性不眠障害、短期不眠障害、その他の不眠障害という3つのシンプルな分類になっていますが、「不眠症については、ひとつ前の第2版(ICSD-2)4)のほうが詳細な分類がなされており、患者さんへの説明の際は、こちらを使うことが多いです」(杵渕先生)。
今回もICSD-2を用い、原因やタイプなども含めて詳しくお伺いしました。

不眠症(ICSD-2) ※特定不能な不眠症を除く
・適応障害性不眠症(急性不眠症):緊張や興奮などがある時、一時的に眠れなくなるもの。数日で解消する。
・精神生理性不眠症:睡眠に対する不安、こだわりが強く、眠ろうと意識しすぎて眠れない状態。
・逆説性不眠症:実際は長時間眠っているが、本人には眠った実感がない。睡眠状態誤認。
・特発性不眠症:ほかに原因のない原発性の不眠。
・精神疾患による不眠症:うつ病、統合失調症のそう状態などで眠れないもの。
・不適切な睡眠衛生:暑い場所、寒い場所、騒音問題などで眠れないもの。
・小児期の行動性不眠症:しつけ不足や入眠時の行動、夜泣きなどで眠れないもの。
・薬物または物質による不眠症:覚醒作用のある薬物、アルコールなどによる不眠。
・身体疾患による不眠症:呼吸器疾患、消化器疾患などが原因で眠れないもの。

 若い世代~働き盛りの年代では「精神生理性不眠症」が多く、定年を過ぎて高齢になってくると「逆説性不眠症」の人が増えると杵渕先生は解説します。
 「一度経験した『眠れなかったこと』を気にして、睡眠に対する不安が大きくなってしまい、余計に眠れなくなるのが『精神生理性不眠症』です。寝ることを過剰に意識して緊張してしまったり、ベッドに早く入りすぎたりして、なおさら不眠が悪化するという悪循環に陥ります。また、健康な人でも年齢とともに睡眠時間は減ってくるもの。『逆説性不眠症』で『もっと寝なければ』と訴える人も多いですが、昼間の活動に支障がなければ、睡眠は足りています。睡眠時間の確保にこだわらず、起床時の満足感や、日中のパフォーマンス具合で判断するといいと思います」(杵渕先生)

▶ 不眠の原因はさまざま
 このような不眠に陥る原因は、ひとつとは限らず、複数の要因が重なっていることが多いそう。大きく分けると以下のようなものがあります。

不眠を引き起こす主な原因
・環境要因:寝室の温度や湿度、騒音、明るさの影響など。
・身体要因:熱がある、かゆみがある、冷えやほてりを感じる、コリや痛みが辛いなど。加齢による体力の低下や頻尿など。
・心・精神の要因:悩み、イライラ、極度の緊張、仕事や人間関係のストレスなど。「早く寝なければ」と自分を追い詰めてしまうことも原因に。
・生活習慣要因:アルコール、カフェイン、交代勤務による体内リズムの乱れ、運動不足など。飲酒後は眠くなるものの、深い睡眠ではないのですぐ覚醒してしまう

 「コロナ禍では特に、発散できないストレスや不安、リモートワークによる生活リズムの乱れ、運動不足が原因になることが多いです。通勤・通学がなくなり、頭が疲れても身体が疲れていない状態では深い眠りに入れません。また、寝る前のパソコンやスマホも、脳が興奮するので眠れなくなってしまいがちです」(杵渕先生)

▶ 「不眠症=睡眠薬」の問題点
 現代医学での不眠治療は、睡眠薬を用いた薬物療法が中心です。そして、日本人は不眠に対する関心が非常に高く、睡眠薬の世界有数の消費国であることがわかっています。2013年に行われた調査では、年齢別の睡眠薬の処方割合は、40~44歳で4.6%、45~49歳で5.2%、50~54歳で6.3%、55~59歳 6.9%、60歳~64歳 7.5%、65~69歳で9.4%と、加齢とともに高くなることが報告されています5)。この日本における睡眠薬の処方量の多さには、杵渕先生もずっと問題意識を持っていたそうです。
 「特に依存性のある『ベンゾジアゼピン系睡眠薬』の大量処方は海外からも批判されることが多いです。本来は、患者さんからよくお話を聞いて、睡眠に関する教育や指導をしたり、仕事や生活の仕方を改善したりするのが先。睡眠薬はあくまでも補助として、必要な時に使い、必要がなくなればやめるべきお薬なのです」(杵渕先生)
 特にベンゾジアゼピン系の睡眠薬や抗不安薬は、高齢者に対しては、飲み続けると転倒や骨折、認知機能の低下を招きやすいとして、できるだけ使用を控えるべきだとされていますが、実態は65歳以上により多く処方され、ピークは80代だということも明らかになっています6)。そして、そのような状況で問題となるのは「転倒」であると杵渕先生は警鐘を鳴らします。
 「この薬には筋弛緩作用があるので、転びやすくなってしまうのが危険なのです。特に英国での転倒事故が注目され問題になったことで、スベンゾジアゼピン系睡眠薬と転倒の関連について検討する研究7)が各国で行われるようになりました。近年は日本の住居も、転倒時の衝撃を分散させる力が強い『畳』から『フローリング』に変わったことで、転倒から骨折する事案が増えています」(杵渕先生)

▶ 「もっと自然に眠れるように」という希望が多くなってきた
 最近では、オレキシン受容体拮抗薬など、非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬も開発されていますが、未だ睡眠薬の主流はベンゾジアゼピン系なのが実情です。しかし、ベンゾジアゼピン系睡眠薬への批判や健康被害が相次いでいることから、国もこれらの薬の処方を制限するような政策を導入し始めています。
 「最近は、国の政策により処方が減り始めたようですが、まだまだ多い印象です。でも、『やめられなくなる』『認知機能が低下する』ということが世間でも盛んに言われるようになり、患者さんからも、ベンゾジアゼピン系以外の治療を求められるようになりました。もっと自然に眠れるように、という希望も多いです」(杵渕先生)
 そのような希望に応えるのが漢方治療であると杵渕先生は説明します。
 「漢方薬は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬にすぐとって代わることができるものではありませんが、不眠治療にとても効果的です。睡眠薬の減量や離脱のために漢方薬を併用することはもちろん、最初から睡眠薬は服用せず漢方薬のみで治療する人も増えています」(杵渕先生)

<参考>
  • OECD│OECD Policy Responses to Coronavirus (COVID-19) Tackling the mental health impact of the COVID-19 crisis: An integrated, whole-of-society response<2023年1月12日閲覧>
  • 厚生労働省 │e-ヘルスネット 「不眠症」<2023年1月12日閲覧>
  • American Academy of Sleep Medicine. International Classification of Sleep Disorders 3rd ed, Darien, 2014
  • American Academy of Sleep Medicine. International Classification of Sleep Disorders: 2nd ed. Diagnostic and Coding Manual; American Academy of Sleep Medicine, Westchester, 2005
  • 株式会社インテージテクノスフィア│ビックデータ解析により、知られざる睡眠薬の処方実態が明らかに<2023年1月12日閲覧>
  • 朝日新聞デジタル│高齢者にリスク高い薬、80代処方ピーク 睡眠・抗不安<2023年1月12日閲覧>
  • Marron L, et al. QJM 2020; 113(1): 31-36

▢ 後編:不眠に悩む人、睡眠薬を減らしたい人に、漢方薬がおすすめの理由
杵渕 彰(漢方医学研究所 青山杵渕クリニック 所長)
2023.02.13:QLife漢方)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
▶ 不眠治療に漢方薬を使うメリット
 不眠症の治療は、睡眠薬などの薬物療法が主となっているのが現状です。しかし、前編で見てきたように、睡眠薬は倦怠感やふらつきなどの副作用が生じるリスクがあるほか、長期的に見れば耐性(だんだん効かなくなる)や依存性(やめられなくなる)が問題となることもあります。そのため最近は「なるべくお薬を使わずに治したい」「いま飲んでいる薬をやめたい」と希望する患者さんが増えてきているといいます。そして、そんなときに役立つのが漢方薬であると杵渕先生は話します。
 「漢方は不眠の原因となるストレスや不調を取り除き、自然な眠りにつく手助けをしてくれます。イライラや興奮、不安や緊張、心身の疲れなどを和らげることによって、眠りに入りやすくなる、という感じです。睡眠薬のように脳を強制的に鎮静させたり筋肉を弛緩したりする作用は持っていないので、即効性はありません。その代わり、ふらつきや転倒、せん妄や日中の眠気などの副作用を心配することなく服用できるのがメリットです」(杵渕先生)
また、依存性の高い睡眠薬においては、自己判断で薬を急に中断することなどによる「離脱症状」が出てしまうことも問題となっていますが、漢方薬にはそのような心配もありませんむしろ、睡眠薬を減らしたいときには、漢方薬を併用するとうまくいく場合もあるそうです。
「特にベンゾジアゼピン系睡眠薬は、長期間飲んでいる場合、急にやめてしまうことで不眠、動悸、イライラや不安感などの離脱症状が起きる可能性があります。ゆっくり時間をかけて少しずつ減らしていく必要があるのですが、この時に漢方薬を併用することで、離脱症状が和らぐこともあります」(杵渕先生)

▶ 不眠に対する漢方医学的分類と処方
では、不眠の治療に用いられる漢方薬は具体的にどのようなものがあるのでしょうか。以下、漢方医学的分類と、実際の処方をお伺いしました。

〇 興奮していて眠れないもの(心熱
「不眠の原因がイライラや興奮であったりする時の症状は、入眠障害(寝つきが悪い)が多くなります」
  • 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
〇 不安で眠れないもの(胆虚
「不眠の原因が不安の場合は、熟眠障害(ぐっすり眠れない)が多くなります。神経質で体格が良い人には柴胡加竜骨牡蛎湯、体力のない、華奢な虚証の人には補剤を使うことが多いです」
  • 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
  • 桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
  • 加味逍遙散(かみしょうようさん)
  • 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
心熱胆虚の混在
「イライラ・興奮と、不安が両方あって不眠の原因となっている場合もあります」
  • 抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
〇 疲れすぎ、体力低下で眠れないもの(虚労
「心身ともに過労の状態。入眠・熟眠ともに障害がある場合が多いです」
  • 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
  • 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
  • 酸棗仁湯(さんそうにんとう)
▶ 睡眠への正しい理解、生活習慣の改善も大切
しかし、いくら漢方薬を飲んでいても寝る前にカフェインを大量に摂取したり、長く昼寝をしたりするなど、不眠を悪化させるような行動をしていては症状は改善されていきません。不眠の症状を緩和させたいときは、「睡眠についての正しい知識を得て、生活改善も同時に行うことが大切」と杵渕先生は指摘します。
以下、杵渕先生が患者さんへ睡眠に関する指導を行う際に参考にしているという、睡眠障害対処の12の指針1)をご紹介します。

1. 睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分
睡眠の長い人、短い人、季節でも変化、8時間にこだわらない
歳をとると必要な睡眠時間は短くなる
2. 刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法
就床前4時間のカフェイン摂取、就床前1時間の喫煙は避ける
軽い読書、音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレーニング
3. 眠たくなってから床に就く、就床時刻にこだわりすぎない
眠ろうとする意気込みが頭をさえさせ寝つきを悪くする
4. 同じ時刻に毎日起床
早寝早起きでなく、早起きが早寝に通じる
日曜に遅くまで床で過ごすと、月曜の朝がつらくなる
5. 光の利用でよい睡眠
目が覚めたら日光を取り入れ、体内時計をスイッチオン
夜は明るすぎない照明を
6. 規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣
朝食は心と体の目覚めに重要、夜食はごく軽く
運動習慣は熟睡を促進
7. 昼寝をするなら、15時前の20~30分
長い昼寝はかえってぼんやりのもと
夕方以降の昼寝は夜の睡眠に悪影響
8. 眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに
寝床で長く過ごしすぎると熟睡感が減る
9. 睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意
背景に睡眠の病気、専門の治療が必要
10. 十分眠っても日中の眠気が強い時は専門医に
長時間眠っても日中の眠気で仕事・学業に支障がある場合は専門医に相談
車の運転に注意
11. 睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
睡眠薬代わりの寝酒は、深い睡眠を減らし、夜中に目覚める原因となる
12. 睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全
一定時刻に服用し就床
アルコールとの併用をしない

▶ 睡眠状態を自分でモニタリングしてみるのもおすすめ
 また、眠りに関して悩みを持つ人は、自分の睡眠状態を記録してみるのもおすすめだと杵渕先生は言います。最近は、眠るときにスマートウォッチを装着するタイプだけでなく、枕の横にスマホを置くだけで眠りを記録できるアプリもあり、手軽さが増しています。睡眠時間と深さが確認できるもの、呼吸音やいびきを録音するもの、眠りの浅いタイミングでアラームを鳴らすものなど、機能の種類も豊富です。
 「アプリの多くは、体の動きをスマホのセンサーが感知して、データとして記録するもの。脳波や呼吸などを細かく計測する専門機関のデータほど正確ではないですが、ある程度は信頼できると思います。私も毎日アプリを使って睡眠データをとっていますよ。グラフ化されると確認しやすいですし、睡眠を改善したい患者さんにも使ってもらっています」(杵渕先生)
 理想的なのは「“少し浅い眠りから入って、深い眠りになり、また浅い眠りになる”という1~1.5時間のサイクルを一晩に何回か繰り返す」という波形の睡眠だといいます。十分寝ているはずなのに朝起きるのがつらい、などという人は、一度自分の睡眠状態を客観的に見てみるのもよいかもしれません。

▶ 受診の目安は不眠が2週間以上続く場合
 最近は「睡眠負債」(毎日の睡眠不足が少しずつ蓄積すること)という言葉が盛んに使われていることもあり、どんな世代の人も睡眠に関するトラブルに対して過敏に反応する傾向があると杵渕先生は感じるそうです。
 「必要な睡眠時間は人それぞれ。体力がある人ならば、2~3日眠れなくても、そんなに心配することはありません。『睡眠負債が心配で…』という患者さんもいるのですが、睡眠不足はそこまで蓄積しないので心配しなくて大丈夫。むしろ、眠れないことを気にしすぎて、睡眠に対して恐怖を感じてしまうことがよくありません。夜になると緊張したり不安になったりして、さらに不眠の悪化に繋がってしまうからです」(杵渕先生)
 杵渕先生が受診の目安とするのは、不眠で日常生活に支障が出る状態が2週間以上続いたとき。眠れないことにプラスして、日中の眠気がひどくなったり、集中力が低下したり、めまいや立ちくらみが起きたりすることがあれば、迷わず受診してほしいと訴えます。
 「不眠症は精神科や心療内科で扱いますが、精神科へ行くのは気が引けるという人はまずかかりつけ医に相談してみるといいでしょう。私のような漢方医でもよいです。最近は、睡眠専門外来というのもできていて、睡眠に関する医療技術はすごく進化しています。睡眠薬だけではない、さまざまな治療方法があるので、ぜひ相談してみてください」(杵渕先生)

<参考>
・内山真編:睡眠障害の対応と治療ガイドライン第3版, じほう, 東京, 2019

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舌を見てわかること(舌診)

2024年12月15日 09時15分11秒 | 漢方
漢方の診察では「舌診」があります。
舌の色、大きさ、形などをくわしく観察して、
その人の健康状態を把握する診察方法。

何回も解説を読むのですが、
・舌が赤いと
・舌に亀裂があると
・舌が白っぽいと
・舌の裏の静脈が太いと瘀
・舌に小さな黒点があると瘀
・舌が大きく歯痕(歯の跡)があると
・舌に白苔(白い苔)が厚くついていると少陽病
・舌に黒苔(黒い苔)がついていると陽明病
・「舌を出して」と指示し、たくさん出せると加味逍遥散証、震えて出せないと抑肝散証
・・・くらいしか思いつきません。
漢方医学的には、寒熱、気血水、六病位などが評価できることになります。
あ、ここには陰陽が入っていませんね。

舌診の概要を解説した記事が目に留まりましたので読んでみました。

<ポイント>
・舌は内臓病変だけでなく精神状態も反映する。
・舌診では「色」「形」「苔」の状態を観察し、これによりさまざまなことがわかる。
 【色】寒熱、瘀血
 【形】水滞、肝の異常、気血両虚
 【苔】脾虚、六病位、気血両虚、津液不足
・正常な舌は淡紅色で湿潤、苔はなく、あっても薄く白い程度。
▶ 舌の色
・色が白っぽい「淡白」は寒証、気虚、血虚 → 乾姜や附子といった体を温める作用のある生薬を用いる。
(例)代表的な処方は人参湯、他にも四君子湯や六君子湯、補中益気湯、四物湯など補気剤や補血剤
・赤みが強い「」は熱証、熱証には実熱と虚熱がある。
 実熱は熱がこもる状態で黄連、山梔子、石膏などの生薬を用いる。
(例)黄連解毒湯や白虎加人参湯
 虚熱は体内の血不足、刺激不足により空焚きのような状態になり体表が熱くなる。
(例)地黄などを含む六味丸や八味地黄丸など
・暗い赤みを呈する「暗紅」は瘀血の中でも特にがこもったタイプ
(例)駆瘀血剤の中でも加味逍遙散
・色が「」だと冷えのある瘀血のタイプで、
(例)駆瘀血剤の中でも当帰四逆加呉茱萸生姜湯など、温めて血行を改善するような処方
★ 瘀血の舌所見:瘀血の場合、暗紅、紫といった色の傾向のほかに、特徴的な所見が見られる。舌の縁に紫色の点が現れる「瘀点」や、まだらに紫色が浮かぶ「瘀斑」、舌下静脈怒張は瘀血の所見であり、血行不良や冷え、動脈硬化、女性であれば月経不順がある場合にこれらの所見を呈することがある。
▶ 舌の乾湿
乾いた舌熱証と考えられ、白虎加人参湯などを選択。
・舌の乾きは「少陽病期」にも現れ、この場合は柴胡剤などを用いる。
湿っていても唾液が溜まってあふれるような状態は寒証であると考えられ、人参湯などを用いる。
▶ 舌の形
・「腫大(胖大)」は水滞・気虚
(例)五苓散などの利水剤または補気剤
・・・ほかに水滞の所見として現れるのが「歯痕」である。舌の縁に歯の痕が付く状態で、舌がむくんでいる場合は利水剤
★ 最近ではそれほど舌がむくんでいなくても、歯ぎしりや食いしばりなどにより歯痕がしっかりと残ることがある。この場合は、交感神経の過緊張など自律神経の異常、漢方医学では「肝の異常」と考えられ、抑肝散や柴胡加竜骨牡蛎湯などの柴胡剤を選択する。
・舌が痩せた状態になる「痩薄(そうはく)」や、縦じわが深く入る「皺裂(すうれつ)」は体力が落ちている気血両虚、津液不足であり、参耆剤や補血剤、滋潤剤を選択する。
▶ 舌苔
・べったりと白苔が付いている「(厚)白苔」の場合、胃腸が弱っている脾虚が考えられ、六君子湯など胃の動きを改善する処方を選択。少陽病期にも白苔は厚くなるため、この場合は柴胡剤。
・黄色みのある「黄苔」は、体の内部に熱が入り込み便秘になったり、慢性期の状態では体に熱がこもったりする「陽明病期」に起こりやすく、白虎加人参湯や黄連解毒湯などの清熱剤、桃核承気湯や大黄牡丹皮湯などの大黄剤を。
・黒っぽい苔が現れる「黒苔」は発熱極期、あるいは重篤な状態に起こりやすく、大黄剤や附子剤などを選択。
・舌苔がまだらに剥がれている「地図状舌」も気虚に現れる異常で、参耆剤を処方する。臨床では抗うつ剤、ステロイドの長期服用患者によく見られる。
・表面がてかてかと光る「鏡面舌」は気血両虚津液不足と考えられ、十全大補湯や八味地黄丸を用いる。
▶ 味覚異常
・口の中が酸っぱく感じる場合は肝の異常と捉えて竜胆瀉肝湯。
・苦みを感じる場合は柴胡剤のほかに、心の異常と捉えて半夏瀉心湯を。
・味がしない場合は脾の異常と捉えて補中益気湯を。
・しょっぱく感じる場合は腎の異常と捉えて八味地黄丸を。

・・・舌を観察するだけでこれだけの情報が得られるのですね・・・多すぎて頭の中が整理できません。
ゆっくり&コツコツ学習する必要がありそうです。


▢ 漢方医学の診察法~舌診について~
第39回日本耳鼻咽喉科漢方研究会学術集会(2024年10月12日)
教育講演「漢方医学の診察法~舌診について~」
五野 由佳理 先生
北里大学医学部 総合診療医学 診療講師・外来主任
2024.12.11:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
▶ 舌は内臓病変だけでなく精神状態も反映する
 内科では、脱水、鉄欠乏やビタミンB12欠乏による貧血、麻痺、口内炎、カンジダ症の診察などの際に、また耳鼻咽喉科では舌炎や舌がんの判断などの際に舌の診察が行われる。漢方医学独自の診察方法「四診」のうち「望診」に含まれる舌診、「切診」に含まれる脈診や腹診は特徴的な診察方法であり、耳鼻咽喉科の診療においては特に舌診は普段の臨床に活かしやすい。
 舌診は古代中国医学で発展した方法で、「舌は臓腑の鏡」「舌は心の苗」といわれ、内臓病変だけでなく精神状態も反映すると考えられている。西洋医学でも1981年にFaber(ドイツ)は「舌は胃の鏡」と述べた。
 『敖氏(ごうし)傷寒金鏡録』(1341年)は中国医学の最古の舌診と脈診の専門書といわれる。日本漢方でも1835年に舌診と腹診、脈診についてまとめた専門書『舌胎図説』が発刊された。舌診は心身の状態、バランスを診るのに役立ち、重視されてきた。

舌診では「色」「形」「苔」の状態を観察する
 舌診を行う際は、自然光または明るい場所で行う。舌を出してもらう際は力を入れないことがポイントとなる。力が入ると舌の色が濃くなったり、静脈の怒張が強調されたりしてしまうためである。加えて、舌を長く出していると色が変化しやすくなるため、舌診は数秒で終えるように心がける。診察前には、舌に色が付くなどの影響が考えられるコーヒー、紅茶、牛乳、みかん、タバコなどの飲食品や嗜好品は控えてもらう。また、舌苔の状態も観察対象のため、診察当日は舌そうじを行わないように患者に伝える。
 舌診により「色」「形」「苔」の状態を観察することでさまざまなことがわかる。
 【色】寒熱、瘀血
 【形】水滞、肝の異常、気血両虚
 【苔】脾虚、六病位、気血両虚、津液不足

▶ 色の異常、鼻汁の状態で寒熱の状態がわかる
 正常な舌は淡紅色で湿潤、苔はなく、あっても薄く白い程度である。本来、漢方薬の処方は舌診だけでは決められないが、典型的な舌診の症例と色、形、苔の異常に対応する生薬や処方について紹介する。
 色の異常は大きく4つに分類される。色が白っぽい「淡白」は寒証、気虚、血虚がある状態で、乾姜や附子といった体を温める作用のある生薬を用いる代表的な処方は人参湯で、他にも四君子湯や六君子湯、補中益気湯、四物湯など補気剤や補血剤を用いることがある。
 淡紅色と比べると赤みが強い「」の場合、熱証が該当する。熱証は実熱と虚熱に分けられ、実熱は熱がこもる状態で黄連、山梔子、石膏などの生薬を用いる。具体的には黄連解毒湯や白虎加人参湯を処方する。対して虚熱は体内の血不足、刺激不足により空焚きのような状態になり体表が熱くなる。この場合、地黄などを含む六味丸や八味地黄丸などを用いる
 暗い赤みを呈する「暗紅」は瘀血の中でも特に熱がこもったタイプで、駆瘀血剤のうち加味逍遙散を用いる暗い赤みを呈する「暗紅」は瘀血の中でも特に熱がこもったタイプで、駆瘀血剤のうち加味逍遙散を用いる色が「」だと冷えのある瘀血のタイプで、駆瘀血剤の中でも当帰四逆加呉茱萸生姜湯など、温めて血行を改善するような処方を用いる
 鼻炎の寒熱の違いについても紹介する。寒証の場合、水様性鼻汁があり舌の色は淡白であることが多く、有用な処方に小青竜湯、麻黄附子細辛湯、苓甘姜味辛夏仁湯がある。熱証の鼻炎の場合、膿性鼻汁や鼻閉があり、舌の色は紅色であることが多い。有用な処方に熱を冷ますような生薬を含む越婢加朮湯、葛根湯加川芎辛夷がある。

▶ 表面が乾いている、色のむらにも注目
 舌診では舌の乾湿にも注目したい。正常だと舌は湿っているが、乾いた舌は熱証と考えられ、白虎加人参湯などを選択する。舌の乾きは、例えば風邪を引いた後、口の中が乾いて苦く感じたり、食欲がなくムカムカしたり、1日の中で熱が上がったり下がったりする「少陽病期」にも現れ、この場合は柴胡剤などを用いる。体の水分が少ない津液不足には六味丸や八味地黄丸といった地黄剤を用いる。他にも、交感神経が過緊張状態にある、ストレスの多いタイプは唾液が不足し舌が乾いたような所見が見られることがある。一方で湿っていても唾液が溜まってあふれるような状態は寒証であると考えられ、人参湯などを用いる
 瘀血の場合、暗紅、紫といった色の傾向のほかに、特徴的な所見が見られる。舌の縁に紫色の点が現れる「瘀点」や、まだらに紫色が浮かぶ「瘀斑」、舌下静脈怒張は瘀血の所見であり、血行不良や冷え、動脈硬化、女性であれば月経不順がある場合にこれらの所見を呈することがある

▶ 舌の形状に加えて舌の出し方からわかることも
 形の異常は、大きく4つに分類される。口角まで舌が腫れる腫大(胖大)」は水滞、気虚に見られ、五苓散などの利水剤または補気剤を用いる。同じく水滞の所見として現れるのが「歯痕」である。舌の縁に歯の痕が付く状態で、舌がむくんでいる場合は利水剤を用いる。しかし最近ではそれほど舌がむくんでいなくても、歯ぎしりや食いしばりなどにより歯痕がしっかりと残ることがある。この場合は、交感神経の過緊張など自律神経の異常、漢方医学では「肝の異常」と考えられ、抑肝散や柴胡加竜骨牡蛎湯などの柴胡剤を選択する。舌が痩せた状態になる「痩薄(そうはく)」や、縦じわが深く入る「皺裂(すうれつ)」は体力が落ちている気血両虚、津液不足であり、参耆剤や補血剤、滋潤剤を選択する
 舌の出し方によって、気剤を鑑別する方法もある1)。舌を出すように促した際、口唇からほんの少し舌先を出す程度、あるいは舌に力が入って震えを呈する場合は、交感神経の過緊張が考えられ、抑肝散を選択することが多い。対して、舌の先端に力を入れ逆三角形状にして鋭く出し、舌尖が赤い場合は加味逍遙散を用いる。舌はスムーズに出せるが形状がぼてっとしていて白から黄色みがかった苔がある場合は四逆散を選択する。

▶ 舌苔の量や色、付き方、舌の表面の状態を丁寧に観察
 舌苔は正常の場合はない、あるいは薄白苔であるが、べったりと白苔が付いている「(厚)白苔」の場合、胃腸が弱っている脾虚が考えられ、六君子湯など胃の動きを改善する処方を選択する。また、少陽病期にも白苔は厚くなるため、この場合は柴胡剤が適する。黄色みのある「黄苔」は、体の内部に熱が入り込み便秘になったり、慢性期の状態では体に熱がこもったりする「陽明病期」に起こりやすく、白虎加人参湯や黄連解毒湯などの清熱剤、桃核承気湯や大黄牡丹皮湯などの大黄剤を処方する。黒っぽい苔が現れる「黒苔」は発熱極期、あるいは重篤な状態に起こりやすく、大黄剤や附子剤などを選択する。臨床では抗菌薬の長期投与や抗がん剤投与の患者に見られる。
 舌苔がまだらに剥がれている「地図状舌」も気虚に現れる異常で、参耆剤を処方する。臨床では抗うつ剤、ステロイドの長期服用患者によく見られる。表面がてかてかと光る「鏡面舌」は気血両虚、津液不足と考えられ、十全大補湯や八味地黄丸を用いる

▶ 五行説と舌
 「五行説」とは、人体の機能を「五行(木・火・土・金・水)」に分類する考え方で、五行に分類された臓器、感覚器、感情、味は相互に影響・抑制し合う。五臓を舌の部位に当てはめると図のように考えられている。舌痛症や舌の違和感を訴える場合に、詳しく診察すると特に自律神経系に関連するに該当する、舌の縁に症状が現れていることが多いと感じる。また、舌尖に赤みがある場合は、睡眠不足が考えられ、症状がある舌の部位からも対応を考えることができる。


図 舌の部位と五臓

 味覚異常も五行説に当てはめて考えることができる。例えば口の中が酸っぱく感じる場合は肝の異常と捉えて竜胆瀉肝湯を用いることがある。他にも、苦みを感じる場合は柴胡剤のほかに、心の異常と捉えて半夏瀉心湯を味がしない場合は脾の異常と捉えて補中益気湯しょっぱく感じる場合は腎の異常と捉えて八味地黄丸を使っていく。・・・

【文献】

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百日咳の咳を漢方で止められるか?

2024年12月10日 07時46分56秒 | 漢方
現在、マイコプラズマが流行しています。
小児科である当院では、
兄弟が同じような咳込みで受診される例が後を絶ちません。

私はこんな風に説明しています。
「ふつうの風邪の咳は3〜4日目がピークで、その後だんだん治まってきます」
「3〜4日目以降も咳がどんどん悪化する勢いがあるときはマイコプラズマなどを疑います」
「熱が出ない場合もありますので、咳の勢いが強いと感じたらまた来てください」
そして再診時、マイコプラズマをターゲットにした抗菌薬を処方します。

ずっとこんな感じでやってきました。
マイコプラズマの迅速診断も用意してありますが、
いかんせん陽性率が5〜6割と低いため信頼できず、
あまりお勧めしていません。
もちろん、強い希望があれば検査しています。

咳嗽が強くてつらい場合は漢方薬の併用を提案します。
乾いた咳、痰の切れない咳なら麦門冬湯
痰がらみの咳、ゼロゼロ感があるときは五虎湯

顔を真っ赤にして咳き込む、咳き込んだ勢いで嘔吐する場合は、
乾いた咳なら、越婢加朮湯+麦門冬湯
湿った咳なら、越婢加朮湯+半夏厚朴湯
を処方します。
この組み合わせは「越碑加半夏湯」と呼ばれ、
ある漢方専門家は“最強の漢方咳止め”と紹介していました。

さて、頑固な咳は百日咳の場合もあります。
“咳嗽発作”と呼ばれる止まらない連続咳嗽と(staccato)、
咳が終わった後に息を吸い込むときにヒューッと音がする(whoop)が特徴です。

実は、マイコプラズマと百日咳に有効な抗菌薬は共通しており、
マクロライド系という種類です。

百日咳の咳嗽発作に効く漢方薬の記事が目に留まりましたので紹介します。

<ポイント>
・百日咳の咳嗽を止める治療法として確立されているものは、世界的に見ても皆無で、西洋薬の気管支拡張薬、去痰薬、中枢性鎮咳薬(コデインリン酸塩など)などは無効。AZMとコデインリン酸塩の併用では咳は止まらない。
・咳が出始めてからの抗菌薬投与は、他者への感染予防にはなっても、患者本人の咳を止めることはできない。
・漢方薬治療(竹茹温胆湯を基本とし、必要に応じて麦門冬湯を併用)によって、発症1週間以内であれば1週間で、発症10日を超えた場合でも2週間以内には、百日咳の咳嗽を止めることが可能。
・漢方薬は咳が完全に止まるまで内服を継続しないと再発してしまう。
・発症1週間以内の百日咳の場合、60~70%の症例では竹筎温胆湯とAZMだけで3日以内に咳を3/10以下にすることができ、1週間以内に内服を終了させることができている。不思議なことに、麦門冬湯を最初に投与した場合には薬効を認めず、竹筎温胆湯の効果が限定的な時に麦門冬湯を追加することで、その薬効が初めて発揮される。
・発症から10日以上経過した症例では、最初から竹筎温胆湯と麦門冬湯の漢方2剤とAZMを併用する。
・2歳以上5歳未満の症例では麦門冬湯単独で治療が可能で、5歳以上~成人では竹筎温胆湯が主流。

紹介記事では、竹茹温胆湯を提案しています。
これは「咳が続いて不眠状態になったとき」に使用するイメージの方剤です。
ポイントは「気分が落ち込んで不眠状態」です。
子どもではあまり使用経験がありません。


▢ 漢方で百日咳の咳嗽を1週間以内に止める!
松田 正(みさとファミリークリニック院長)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 現在、百日咳の咳嗽を止める治療法として確立されているものは、世界的に見ても皆無です。西洋薬の気管支拡張薬、去痰薬、中枢性鎮咳薬(コデインリン酸塩など)などは無効です。カタル期のマクロライド系抗菌薬の投与がほぼ唯一の治療法ですが、咳が出始めてからの抗菌薬投与は、他者への感染予防にはなっても、患者本人の咳を止めることはできません
 現在使用されている百日咳ワクチンの効果減弱によって、百日咳は先進国においても再興感染症となっており、0歳児にとってはいまだに致死的疾患であることに留意が必要です。当院の研究では、百日咳は決して特殊な珍しい疾患ではなく、コモンディジーズといえるレベルで流行していることが判明しています(関連記事:発熱外来の受診患者、最も多いのは百日咳!)。
 当院では、百日咳抗体IgM(M抗体)と百日咳抗体IgA(A抗体)を用いて百日咳を早期診断し、早期治療に結び付けています。その際に使用する漢方薬が竹筎温胆湯で、必要に応じて麦門冬湯を併用します。漢方薬治療によって、発症1週間以内であれば1週間で、発症10日を超えた場合でも2週間以内には、百日咳の咳嗽を止めることが可能です。
 なお、百日咳は聴診上の著変がないため、咳の鑑別診断には呼吸機能検査を行います。東北大学教授の黒澤一氏らが開発した(強制)オシレーション法のモストグラフや、呼気一酸化窒素濃度測定器が有用で、これらはいずれも重宝している呼吸機能検査です。「開業医の必須アイテムは漢方薬とモストグラフ」というのが私の持論です。
・・・
 発症1週間以内の百日咳の場合、60~70%の症例では竹筎温胆湯とAZMだけで3日以内に咳を3/10以下にすることができ、1週間以内に内服を終了させることができています。・・・3日目までに十分な薬効を認めない場合には、麦門冬湯を追加すると相乗効果で咳がすぐに止まります。
 不思議なことに、麦門冬湯を最初に投与した場合には薬効を認めず、竹筎温胆湯の効果が限定的な時に麦門冬湯を追加することで、その薬効が初めて発揮されます。言わずもがな、AZMとコデインリン酸塩の併用では咳は止まりません
 発症から10日以上経過した症例では、最初から竹筎温胆湯と麦門冬湯の漢方2剤とAZMを併用します。咳嗽が1カ月以上続いている百日咳(PT-IgG抗体が100EU/mLを既に超えているような症例)では、既に百日咳菌はいないためAZMは使用せず、竹筎温胆湯と麦門冬湯のみを処方します。まれに(約5%程度の症例では)コデインリン酸塩の併用が必要な場合もあります。
 最近1年間の百日咳の漢方治療においては、2歳以上5歳未満の症例では麦門冬湯単独で治療が可能で、5歳以上~成人では竹筎温胆湯が主流となっています。5、6年前までは成人の百日咳でも、麦門冬湯単独での薬効をある程度認めていたのですが、最近の百日咳には全く効果を認めなくなっており、百日咳菌の変異(約3年ごとに起こるとされています)を疑っています。菌の変異に対しても漢方薬治療が対応できていることは、漢方薬が決して古くさい薬ではなく、現代にも十分適応できている証左かもしれません。
 家族内感染の場合、1人の確定診断が付いていれば、その後に発症した家族などには検査をせずに、AZMと漢方薬による治療をすぐに開始できます。この場合も、「漢方薬によるprobing technique(探りを入れる方法)」(関連記事:急性期こそ漢方の出番!治療的診断も可能)を用いることができ、薬効があれば百日咳と推定することが可能です。
 なお、0歳児で百日咳の疑いがある場合、開業医で診るのは難しいため、親御さんや兄弟が百日咳と診断された後に0歳児に感冒症状が出たら、すぐにその情報を基に地域基幹病院の小児科に紹介しています。0歳児の鼻汁・鼻閉には麻黄湯(まおうとう)がとても効果があり、周囲の百日咳感染が不明な場合、麻黄湯を2日間使用するというprobing techniqueを用いています。改善がなければ、ただのかぜではないという判断で病院に紹介します。0歳児への漢方の飲ませ方にも裏技があり、例えば生後1カ月で鼻が詰まっておっぱいが飲めない場合、麻黄湯を頬の内側に付けて母乳を飲ませることで強制的に内服させるという方法があります。麻黄湯の詳しい使い方は、また別の回でご紹介します。
 長引く咳の患者で百日咳の可能性が疑われる場合は、ぜひ竹筎温胆湯による診断的治療を試してみてください。読者の先生方との議論を通して漢方治療をより良いものにしていきたいと思っていますので、試してみたら奏効した、うまく使いこなせなかったなど、どんなご意見でもコメントいただければ幸いです。

▶ POINT
・発症1週間以内の百日咳の場合、竹筎温胆湯とアジスロマイシン(AZM)で1週間以内に咳を止められる。
・3日目までに十分な薬効を認めない場合には、麦門冬湯を追加する。
・発症から10日以上経過した症例では、最初から竹筎温胆湯と麦門冬湯の漢方2剤とAZMを併用。
・咳嗽が1カ月以上続いている百日咳では、竹筎温胆湯と麦門冬湯のみを処方する。

【参考文献】
1)松田正. 竹筎温胆湯を用いた百日咳のせき治療, および百日咳の早期診断法の実践. 漢方と最新治療. 2020;29(3):187-94.
2)松田正. 発熱トリアージ外来(発熱外来)における百日咳流行と「咳のない百日咳」に関する報告. 感染症学会誌第95巻臨時増刊号 2021;95:313.
3)Matsuda, T. Early Detection of Bordetella Pertussis and Bordetella Parapertussis Infection with Pertussis Antibody Ig-M, Ig-A, and IgM/IgA Ratio. Am J Respir Crit Care Med. 2019;199:A6161.
4)Matsuda, T. Kanpo medicine (Japanese Traditional Medicine) Could Terminate Coughing Induced by Bordetella Pertussis and Bordetella Parapertussis Infection Within 2 Weeks. Am J Respir Crit Care Med. 2020;201:A3908.
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