今、この場所から・・・

いつか素晴らしい世界になって、誰でもが望む旅を楽しめる、そんな世の中になりますように祈りつづけます。

残酷な歳月 12 (小説)

2015-12-03 13:55:01 | 小説、残酷な歳月(1話~15話話)


残酷な歳月
 (十二)

(愛する人は)
加奈子がどんな男とつきあおうが、年下だから,どうだと言うのだ!、
加奈子はもう立派な大人だ!
ましてや、物事の分別をわきまえている人間だ!

ジュノの中で、マークへの反発さえ感じた。
昔から、マークは何かと、加奈子に興味を抱いていたではないか!

ふと、そんな事さえ、思い出して、あらぬ邪心まで抱く、ジュノには、マークの好意は、ありがたいが、もう今は、沈黙して、見てみぬ振りが、友としての、友情ではないかと心の中で、反発していた。

無意識の中でつけていたテレビに映る、バレーダンサーの舞う姿、
「ラヴェルの、ボレロ」
のリズムに、ジュノは言い知れぬやすらぎを感じて、引き込まれるように観ていた。

そういえば、いつだったか、加奈子とニューヨークを旅した時、加奈子がこのバレー公演を観たがったが、ジュノは、別の、今では何のミュ―ジカルだったかさえ思い出せないが、お互いの欲から、ふたりで軽いけんかになった。

だが、結局は、ジュノの希望する、ミュージカルを観たのだったと、「ボレロ」を舞うダンサーの姿に、加奈子への思慕なの、懐かしさなのか、判別のつかない感情に、ジュノは苦しいような心が揺れる事に違和感を抱いていた。
「そんな、ジュノ自身に戸惑いながら!」

そんな思いがよぎる中で、いつも、気になり、心が痛む事、妹は今何処で、どうしているのだろうと思うだけで、いたたまれない思いに駆られてしまう。

どうしても、大杉さんにもう一度会う必要があると、以前訪ねた場所には、もう住んではいなかった。
ソウルの両親に聞き、その場所を尋ねても、大杉さんは、そこにも大杉さんは住んではいなかった。

穂高のガイド、佐高さんは、大杉さんと、あの事故以来、何度も会っていて、時には一緒に事故現場を訪れては、母と妹の手がかりをさがし歩いたと聞いていたので、ジュノは、佐高さんにも、大杉さんの居場所を問い合わせたが、おしえられた場所には、やはり大杉さんは住んではいなかった。

ジュノの周りにいる人間は、誰も、今の大杉さんを知る者がいない事になる!
ふと、ソウルの両親は、まだ、ジュノに対して、すべての事!
『真実を話してはくれていない!』

あの優しい、養父母にまでも、不信感を持ってしまう事が、ジュノは悲しかった。
誰も信じられない、そんな思いが、ジュノを不安にして、疑問を抱かせてしまう!

ふと、ジュノは子供の頃、まだ、寛之だった頃に、一度も父の故郷、岡山へ連れて行ってもらった事も、父から自分の故郷の話を聞いた事がない!
『父の両親!、祖父母に、逢ってみたいと思った!』

このような、とても大切な事に今まで、なぜ、気づかなかったのだろうと、ジュノは思った。
寛之は祖父母に会ったことがなく、何も、祖父母の事を話してはくれない父だった。

大杉さんから、岡山に「おじいさま、おばあさま」がいると、何かの話の中で聞いた事がある、そんな程度だった事が、今になって、ジュノは、とても不思議に思える事だ!
写真すら見せてもらえず、岡山の祖父母の、又、母の韓国の両親!

ジュノには、祖父母に当たる人がいることさえ、十歳まで、ソウルで暮らすまで、はっきりとは知らされていなかったのだ。

ジュノの韓国の祖父母にも、十歳までの寛之の頃も、今も、会う事も、話を聞くこともなく、だが、その頃は、母は、おそらく、韓国の両親とは頻繁に連絡を取り合っていたことは、今のジュノにも想像がつくのだが。

なぜ! 事故を境に、すべての関係を断ち切らなくては、生きて行く事が出来ないほどの事があったのかが理解出来ない、その事がジュノには、疑問と不安をつのらせた。

穏やかで、優しい母と、無口で音楽を愛していた父、暖かな家庭として、大人になってからのジュノは、寛之として育った頃が何よりも大切な事として、記憶していた事が、もろく、くずれて行く恐しさを感じていた。

そして、母と大杉さんの関係が、どのような事で、繋がっていたのか、実の父と今の父と大杉さんの三人、親友としての、信頼さえも、断ち切る事ほどの出来事があったとは!

あの奥穂高山荘で、いったいどんな話が、父と大杉さんの間であったのだろうか?
たとえ、どのような事があろうとも、すべての事を、明らかにして、妹の行方をさがさなくてはと、心あらたに、ジュノは思うのだった。

たとえ、どんな真実があったとしても、父と母のあの優しい笑顔!

そして、大杉さんの大きな背中を思い出しながら、なぜ、母は、日本人である、大杉さんを知っていたのだろうと、漠然とした思いがよぎった。

遠い過去が今そこに来る
美しき人の知らない歴史
それは避けようのない決まり事
どんなに逃れようとしても
つきまとう運命のいたずら
いく千の時が過ぎても
美しき人の力を超えた
愛の大きさを物語る
今はじまる道は夢想のごとく
醜さとぎまんにみちて

今のジュノには、人を恋する想いが苦痛になってしまったのだろうか、それでいて、心の虚しさがますばかりだ。

大杉さんに会わなくては、何も解決できないと、思いながらも、一向に大杉さんの居所がわからず、ジュノは、焦る気持ちと、疑念だけが膨らむ。

そんなある日、穂高のガイド、佐高さんがジュノの勤める病院に訪ねて来た。
なんでも、ガイド協会の集まりがあるので、上京して来たのだと!、
大杉さんの行方の事も気になるし!

今回は、ジュノさんにお願いしたい、大事なことがあるので、夜にでも、時間をつくってほしいと、言って、ふたりは一旦は別れて、その夜に、佐高さんの泊まっているホテルにジュノが出向いた。

待ち合わせの時間よりすこし早かったので、ジュノは久しぶりに、ひとり、このホテルの、スカイラウンジでワインを飲んで、気持ちを落ちつかせていると、ジュノのいる席からすこし離れた場所にひとりの女性がいた。
ジュノはあの女性をどこかで見覚えがあった!

なん度か、ちらっと、見て、目をそらせては、思い出そうとしたが、その時は、思い出せなかった。

だが、佐高さんの「個人的な話なので部屋」で、会いたいと言う事で、ジュノは部屋を訪ねて、驚いた、さっきのあの女性がいるのだ。

佐高さんの紹介した、この女性は、信州、安曇野で、実家は観光事業などを手広くやっている。
佐高さんのごく親しい友人の娘さんで、ご自身は今、養護施設の仕事をしているのだと言った。

だが、今、胃がんにおかされて、地元の病院で、早急に手術する事になったのだが、出来れば、ジュノにお願いできないだろうかとの、相談であった。
三人で話しながら、この女性には、何処で会っているのだろうと、思い出そうとして・・・
そうだ、確か、アメリカの大学時代に、学部こそ、ちがうが、一年先輩にいた!

しかも、加奈子とは、親しかったように、思い出された。
同じ、日本人同士と言う事で、学部が違っていても、この女性
「田神りつ子は」

自分から親しげに、加奈子に近づいて来たと、そんなふうに聞いていた。
今、目の前にいる雰囲気とは違う、いつも振る舞いが横柄で、男子学生に囲まれて、マドンナ的存在のすこし、派手な目立つ存在の女性だった。


  つづく



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