かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞  296

2021-08-27 18:58:57 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究36(16年3月実施)
    【ポケットベル】『寒気氾濫』(1997年)120頁~
     参加者:石井彩子、泉真帆、M・S、曽我亮子、船水映子、渡部慧子
     レポーター:鈴木 良明 司会とテープ起こし:泉 真帆


296 酔い痴れてわれらスナック去りしあとタガログ語にて罵倒されいん

        (レポート)
 残業が続いたある日、職場の同僚たちと、フィリピン人が働くスナックにでも立ち寄ったのだろう。酔い痴れて日ごろの不満やうっぷんを吐くうちに座が荒れてくる。たどたどしい日本語しか話せないフィリピン人のホステスは座をうまくとりもつことができずに、店の雰囲気を壊した客のわれらを帰してしまったことで、今頃店長からタガログ語で罵倒されているだろうと、作者は帰路、回想している。(鈴木)


          (当日発言)
★タガログ語を話すホステス達が、酔い痴れて帰った客を罵倒していると読みました。
   (慧子)
★そう思います。(M・S)(船水)
★「いん」って推量ですよね。(船水)
★私もそう取りました。おそらく酔い痴れてなにか上司の悪口言ったり、好き勝手なことを
 したんですね。でもフィリピン人のこのホステスは、うまく取り繕い、うまく対応した。
 その鬱憤を「われら」が帰った後に、母国語であるタガログ語で、ホステス同士、あの客
 は変だったね、おかしかったね、嫌だったねと、罵倒してると想像したんですけれど。
   (石井)
★「罵倒されいん」という言葉が強いものだから、いないところで人を罵倒するってあるだ
 ろうか、という感じも強かった。酔い痴れてそこで不満ばかりならべて、結局酒はたいし
 て飲まないで帰っちゃったので、店長から「この責任誰が取るんだ」とそこに残された人
 (ホステスさん)たちが罵倒されたのかと。慧子さんが読まれるように、そこに登場して
 ない人を出しちゃいけないかもしれない。いろんな体験を思い出すと、どれに納めていい
 いかということもある。(鈴木)


       (後日意見)
 おそらくホステス達は酔い痴れた客の馬鹿らしい言動に耐えてうまく取りなしたのだろう。しかし客が帰った途端なんという酷い奴らだと口々に客を罵倒している。そんな様子を客であった〈われ〉が「今頃ホステス達からわれわれは罵倒されているだろうなあ」と想像している。〈われ〉にはそれだけ酔い痴れた自覚や後ろめたさがあるのだろう。
 レポーターの「今頃店長からタガログ語で罵倒されているだろう」は考えられない。店長はフィリピン人とは考えにくいし、フィリピン人のホステスを雇っている日本人経営者が相手を罵倒できるほどタガログ語が達者だとも思えない。(鹿取)

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