かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 34

2023-05-02 13:51:02 | 短歌の鑑賞
 2023年版渡辺松男研究5(13年5月実施)
    『寒気氾濫』(1997年)橋として
     参加者:崎尾廣子、鈴木良明、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター  鈴木良明 まとめ  鹿取 未放


34 背を丸め茂吉いずこを行くならん乳房雲(にゅうぼううん)はくろぐろとくる

         (レポート)
 乳房雲とは、雲底からこぶ状の雲がいくつも垂れさがっている様子から名付けられている。雲底で下降気流や渦流が発生しているときに生まれ、その高度によって乳房雲の形も印象も異なるが、この歌では、「くろぐろとくる」とあるから、雨や雷、雹の前触れのようなおどろおどろしい雲だろう。その下を背を丸めて行く茂吉の姿は、たぶん戦後の晩年の姿だろう。圧倒的な生の力の前に、背を丸めてあてどなく歩く茂吉。そのうち折から雨が降り出して、〈沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨ふりそそぐ〉と、思わず詠んでしまったわけである。(鈴木)


       (当日意見)
★戦後大石田に引きこもった晩年の茂吉が、体調も悪くて精神もうつうつとして背
 を丸めていくほかになかった姿が良く出ている。(慧子)
★渡辺さんはお母様を早く亡くされているけど、乳房雲はお母さん助けてっていう
 イメージかと思っていたら、違うんですね。乳房雲をネットで調べたら面白いこ
 とに世界共通の呼び名が「マンマ」、おっぱいが垂れ下がった形をしているから
 です。それでアメリカなどではこのマンマが出たら竜巻の前兆だから即、地下の
 シェルターへ逃げ込めっていうんだそうです。そういう恐ろしい雲なんですね。
 鈴木さんが書かれているように戦争責任とか問われないように戦後の茂吉は自ら
 蟄居していたんだけど、黒き葡萄に降り注ぐ雨同様、乳房雲も茂吉を脅迫するも
 のとして渡辺さんは描いているんでしょうね。「いずこへ」ではなく「いずこを」
 であるところに空間の広がりが感じられて含蓄がある。(鹿取)
★乳房雲って渡辺さんのどこから出てくる言葉なんでしょうね。すごいなあ。これ
 が雷雲だったら全然歌にならない。(鈴木)
★乳房雲だから茂吉の人間的な弱さが生きる。渡辺さん、雲が好きだからこういう
 名前もみんな自然に頭に入っているんでしょうね。何かでこの名前見つけたから
 歌に使おうじゃなくて。木や花や鳥の名前もそうだけど。(鹿取)


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