「早稲の香や 分入右は 有磯海」
昨日紹介した芭蕉が奥の細道で富山湾を詠んだ句です。
5月中旬、
まだまだ大阪では
田植えも行われていませんが、
このあたりの水田には
ほぼ苗が植えられており、
風にざわざわ揺れ、
水の中で蛙がゲコゲコ鳴いていました。
昨夜のあれしきの酒で、
二日酔い気味のわしに、
「下戸、下戸」といってるみたいでしたな。
大阪よりはかなり早く田植えも済んでいて、
このあたりでは
7月くらいには早稲が実るようです。
芭蕉がこのあたりを通過したのは
7月13日~14日。
梅雨末期の蒸し暑い頃で、
早稲の香も
むせるような香りだったかもしれません。
そんな香りを感じながら、
芭蕉は有磯海を右に見ながら
通過したようですが、
「奥さんの細道」は逆行しているため、
左に有磯海、
右に立山連峰を見ながら、
宇奈月へと向かいました。
早稲の香はもちろん季節が早くてありません。
宇奈月からは、
トロッコ電車に乗ります。
乗られた人もいるかもしれませんが、
このトロッコ電車が走る路線は、
黒部峡谷鉄道といいます。
総延長は20.1km。
ハーフマラソンより短い距離ですね。
その「宇奈月」と
終点「欅平」の間に
駅はそれら二つをいれて全部で10あります。
中には出口のない駅もあります。
今回の目的地は
「黒薙」
ここには出口がひとつありますが、
その出口は温泉に通じています。
「黒薙温泉」
宇奈月の温泉街の
源泉となっている温泉で、
切り立った渓谷の
わずかな緩地にへばりつくように作
られた温泉宿が1軒だけあります。
ここへ行くのには、
今は黒薙駅から山中を
20分ほど歩いていくしか方法がありません。
写真は、その温泉へと続く山道にて。
岩をくりぬいた道でした。
今は、というのは
10年前には別のルートがあったんです。
黒薙駅のすぐ横にある大きなトンネルに入り
しばらく歩くと、
トンネルの壁にひとりがやっと通れるくらいの
小さなトンネルが掘ってあって、
その入り口に
「ようこそ黒薙温泉へ」
という看板がつけられていました。
その小さなトンネルは
下方に向かってかなり長く続いており、
まるで地獄へ下っていくような
感じだったのを覚えています。
出口を出たらそこは
天国のような温泉だったけどね。
まるでモグラの巣のような
トンネルの中に掘られた
細い枝のようなトンネル。
まさに「奥の細道」ではありませんか。
今回もその経路をたどっていこうと
ヘッドランプまで用意していたのですが、
3~4年前に通行禁止になったとのこと。
残念!
これが大きなトンネルの入り口
この先の右の壁に、温泉への
小さなトンネルがありました。
(黒薙駅から撮影しました)
そして、これが黒薙温泉側の
小さなトンネルの出口
(温泉から撮影しました)。
温泉には数人の客がいました。
温泉の建物前の小さなテーブルに陣取り、
先日の雨で轟音をとどろかせている
渓流の音を聞きながら、
自前の食事を作りました。
もちろん、食後のコーヒー付です。
迫力のある渓流沿いに作られた
露天風呂にも入り、
たっぷり遊んで温泉をあとにしました。
駅にもどって、
まず駅員に
「帰りのトロッコには乗れそうですかね」
と聞いてみました。
というのも、宇奈月で往復切符を買う際に、
「帰りのトロッコが満員の場合は乗れませんよ」
と駅員が言ってたのです。
「ま、だいじょぶでしょう」という
駅員の言葉どおりに
やがて、やってきたトロッコには
結構空席もあり、無事に乗車することができました。
やれやれ。
さて、無事に黒部の旅も終えて、
ここからは、
まっしぐらに帰省です。
金沢によって旧友を訪ねようと
思っていたのですが、
温泉で遊びすぎて
余裕がなくなってしまいました。
声だけ聞こうと、
電話をすると、
昔の学生の頃の友人の一人が
亡くなったことを知りました。
奥の細道でも、
芭蕉は金沢に住んでいた
「一笑」という愛弟子に会おうと
思って訪ねたら
半年前に亡くなっていたことを知り、
こんな句を読んでいます。
「塚も動け 我泣声は 秋の風」
(つかもうごけ わがなくこえは あきのかぜ)
芭蕉の生涯で
最も感情むき出しの一句だと言われています。
長い間音信不通の友人だったので、
塚を動かすほどの泣き声はでませんでしたが、
たくさんの月日の流れを
しみじみ感じた出来事でした。
奥さんの細道は、
このあと敦賀まで同じ道をたどってゆきますが、
高速道路でさっと通過しただけでした。
旅の終わりは、
なんとなく心急くもんですが、
琵琶湖あたりから
高速道路の集中工事で大渋滞に会い、
へとへとになって帰宅したのは
午後10時すぎでした。
あ~、疲れた。
でも150日の芭蕉の苦労に比べたら、
へのようなものですね。
「奥の細道」が世に発表された当時、
俳人たちはこぞって
この道に出かけて入ったそうです。
それは現在に至るまで連綿と続いています。
昔の人が歩いた道をたどって旅する
という懐古趣味はありませんが、
自分の旅を少し重ねてみるだけで、
味わい深い旅になったな
と思ったdoironでした。
「奥さんの細道」
これにて
完
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