徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

続・現世太極伝(第百二十四話 決別せよ!)

2007-08-05 17:01:00 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 緊急事態…とは言っても相手は子供ひとりきり…。
それもエナジーたちの怒りを買ってほとんど自滅寸前…とあって…執行部も各組織もすでに普段の落ち着きを取り戻していた。

 HISTORIANが再び動き出した…という情報に当初は色めき立った連携組織も、状況がはっきりするにつれて少しばかり余裕を見せ始めた。
ノエルの空間壁を支える能力者は…あえて増員の必要なし…と判断された。

 無論、HISTORIANが絶対に動かないという保証はなかったし、子供とはいえマーキスが侮れない力の持ち主であることも確かで、警戒を完全に解除するまでには至らなかったが…。

「さて…どうする…かな…? 」

前に居並ぶ執行部面々の緊張した面持ちを他所に…いかにも興味深そうに宗主が言った。

 宗主の眼には…滝川の特別な部屋…に作られた空間内の様子がはっきりと見えている…。
仲根の第一報が御使者に届いたその時から…ずっと成り行きを見守っている…。

 血族の中でも最も宗主に似ている…と言われる西沢の言動には意識せずとも興味が湧く…。
宗主が魅かれるのは…西沢に内在する光と闇の二面性…。
まるで…自分自身を見ているようだ…と思う…。

「時には…驚かせてもくれるが…概ね…分かるな…。 」

 異なる環境に育ちながらも…何かしら身の内に同じものを持っているらしい…。
血とは不思議なものだ…。

 宗主は西沢に対して…マーキスを生かせ…とも…殺せ…とも…はっきりした命を下してはいない…。
事あれば…然るべき措置をせよ…と指示したに過ぎない…。

マーキスを操っていた首座兄弟を情け容赦なく消した時にも、特にどうしろと命じてあったわけではなかった。
そうなるだろう…と…思ってはいたが…。

 穿った見方をすれば…宗主は自ら手を汚すことを避け…西沢の闇の力を利用しているともとれる…。
西沢を本家の登録家族…息子と呼んで特使を名乗らせたのも…同じ主流の血を引く者への情愛からというよりは…宗主や本家が直接傷を受けないように生きた楯とするためだと…。

「まぁ…それも…ないとは…言わないが…。
紫苑に任せておいた方が…何かと融通が利くのでな…。 」

口さがない者の噂に…苦笑する…。

情愛がないわけでは…ない…。

如何に抜きん出た手柄があっても、心が求めたのでなければ、当然、家族などにはしない…。
息子と呼ぶのは…可愛いと思えばこそ…だ…。

裁定人の宗主などというお役目は…情愛だけでは…務まらぬものがあるのさ…。
 
 利用できるものは感情抜きに利用はするが、知らぬ顔で置くわけではない。
すべての責任を宗主が負い…西沢の処置は裁定人の宗主命令によるものだ…と同族にも他の家門にも言明してある…。
それゆえに…誰もが西沢の力を恐れはするが…その人となりを悪く言う者はない…。

「少なくとも…あいつが…二度と問題を起こさないように…もしくは…起こせないようにしてもらいたいものだ…。 」

動き始めた西沢の姿を眺めながら…宗主はそう…呟いた…。



 終わりだ…とマーキスは思った…。
目の前で見た首座兄弟の死…それが今…自分にも訪れようとしている…。

西沢は気付いている…。
誰が…あの女を殺したかを…。

磯見の無意識下の能力を使って三宅を操り…あの女の息の根を止めた…。
どれほど敏感な能力者でも…あの現場に僕の気配など微塵も感じ取ることはできなかったはずだ…。

それでも…多分…。

西沢の気配を…触れるほど近くに感じながら…マーキスは考えた…。
恋人を殺された男が…犯人に対して好意的であろうはずがない…と…。

「紫苑…この子を殺しても…麗香は喜ばない!
犯した過ちを悟らせることが…天爵ばばさまの務めなんだから…! 」

智明が必死に訴える…。
そのことに…マーキスは少なからず驚いた…。

何故…?

大切な姉を殺した犯人と薄々は気付きながら…智明はマーキスを庇おうとする…。

その顔を冷ややかに西沢が見返す…。

「誰を殺したか…なんてことはどうでもいい…。
問題は…こいつが何れ…この世界の崩壊因子になりかねないってことだ…。」

そう…今は過去のことなど頭にはない…。
考えるべきは未来…。
それが…裁定人の有り方…御使者の務め…。

御使者…西沢…の心が呟いた…。

「それなら…こいつの力を封印すれば事足りる…。
力さえ使えなければ…何もできやしない…。 
殺す必要などない…と…エナジーたちに執り成してくれ…。 」

壁のエナジーたちから再びブーイングが湧き起こった…。
キャッキャと笑う吾蘭の声がする…。

別に…こいつの命乞いをしてるわけじゃない…。

滝川は…西沢の背中に見えている黒い翼に眼を向けた…。

紫苑の心が…悲鳴をあげるのを聞きたくないだけだ…。
宗主がどう責任を取ろうと…実際に手を下した紫苑の痛みが軽くなるはずもない…。

「封印は…一時凌ぎに過ぎない…。
それでことが済むなら…執行部のお偉い衆が…庭田に渡す前にそうしている…。
尤も…こいつの成長を考えての配慮でもあったわけだが…無駄だったな…。 」

 そう…マーキスがまだ子供であることを考慮して…執行部としてはできる限り厚遇してきたつもりだった…。
敢えて過ちを咎めることもなく…力の封印もせず…普通の中学生たちと変わりない生活ができるように気を配ってきた…。

 けれども…マーキスは普通の子供として生きるより…HISTORIANの最高指導者として生きることを望んだ…。
その望みは最早…HISTORIAN側から一方的に絶たれてしまったのだが…。

何だと…言うんだ…こいつらは…。

へたばっているマーキスの頭の上で…理解し難い会話が飛び交う…。

能力者たちの善意と厚意に背いた崩壊因子マーキス…。
敵対と看做し処分しようとする西沢…天爵ばばの務めとして誤った道から更生させようとする智明…治療師として為すべきことを為さんとする滝川…。

何れもマーキスひとりのことで躍起になっている…。
まさか…と思う…。
マーキスの乏しい経験からすれば…問題となるような者は…いつの間にか組織の中から消えてなくなる…。
誰もその者の過去や未来など真剣に考慮してはくれない…。

これまでずっと…そうだった…。
力のある者…役に立つ者だけが…残る…。

不意に…空間壁を支えていたエナジーたちが静かになった…。
離れたところでエナジーたちと話をしていた吾蘭がちょこちょこ駆け戻ってきた…。

紫苑が行かせたんじゃなかったのか…?
吾蘭を動かしているのは…王弟の記憶と呼ばれるプログラムの方なのか…?

 王弟の記憶…その言葉が滝川の脳裏をかすめた瞬間…信じられない素早さでマーキスの腕が吾蘭を捕らえた…。
今にも息絶えそうなくらい衰えているはずのマーキスの身体が…俊敏に跳ね起きた…。

「おまえだけは…消さねばならん…。
我々にとっては…おまえこそが…破滅のプログラム…。 」

なんということを…。

智明は言葉を失った。
思わず…西沢の顔色を探った。
表情は変わってはいない…。
ただ…じっと…見つめている…。

判断つきかねて…滝川に眼を向ける…。
滝川の引きつった顔を見れば…容易ならざる事態だ…ということがはっきりと分かる…。

滝川には…大きく広げられた闇の翼が見える…。
マーキスが吾蘭に手を出した瞬間…すべての希望が崩れ落ちた…。

あのまま…転がっていてくれればよかったものを…。
もう…僕等には…どうしようもない…。
紫苑の出方を見守る以外に…打つ手はなくなった…。

「我々…とは…誰のことだ…? 」

吾蘭の唇から再び王弟の記憶が語りかける…。

「おまえには…もう…我々と名乗るべき仲間は居ない…。
奴等は…おまえを見捨てたのだ…。

今更…奴等の為に何をしようと…誰も喜びはしない…。
奴等にとっては最早…私という存在も…天啓宮女の魂も…どうでもいいことなのだから…。 」

怯えもせず…泣きもしない…。
初めて王弟の言葉を語った時のように気を失うこともない…。
マーキスの腕の中から…淡々と父親…西沢を見ている…。

「決別せよ…。
いつまでも過去に拘ることはない…。
おまえの方から…奴等を断ち切れ…。

未来は…ある…! 」

断言するかのように…王弟の言葉はそこで途切れた…。

同時に西沢の周りに幾つものエナジーの触手が集まり始めた…。
探るように西沢に触れては離れていく…。
マーキスを閉じ込めようとしていた檻は今や形を変え…細く鋭いエナジーの矢となっている…。

西沢が手を差し出すと矢は、その手に引き寄せられるように自ら移動した。

太極はマーキスを還元すると言っていた…。
エナジーの矢で粒子レベルに破壊するつもりなのか…。
ちょっと待て…やばいぞ…それは…。

滝川は焦った…。

アランは…どうなる…?
下手をすりゃぁ…一緒に粉々になっちゃうぞ…。

「紫苑…やめろ…。 アランが…。 」

聞く気がないのか…聞こえていないのか…西沢は止まらない…。
魔物の気配が全身から漂う…。

うぅっ…紫苑じゃねぇ…あいつ眠ってたんじゃなかったのか…?

触手の一部が滝川目掛けて突進し、滝川を押しのけ、押さえつけた…。

「仲根! 紫苑の脳に直でストップをかけろ! 
アランが危ねぇ! 」

身をよじりながら滝川が叫んだ。
仲根は即座に西沢に直接…呼びかけた…。

「だめです…。 何かが妨害していて…僕の力じゃ…。 」

万事休す!
仲根でだめなら…誰の声も届かねぇ…。
滝川は唇を噛んだ。

見かねて智明が前に出ようとした…が…エナジーの触手がそれを遮った…。
壁のあちらこちらから伸びた触手が智明の全身に纏わりつき…動きを止めた…。

「放せ! こらっ! 」

智明が吼えたその時…エナジーの矢は西沢の手を離れた…。







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