後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔58〕NHKプレミアム「国宝・源氏物語絵巻」を見て考えました。

2015年11月29日 | テレビ・ラジオ・新聞
 NHKプレミアム 「国宝・源氏物語絵巻」を録画で見ました。
 そもそも源氏物語絵巻が、名古屋の徳川美術館と東京の五島美術館にあるということは知っていても、喜び勇んで見に行こうという気にはなれませんでした。五島美術館には足を運んだことはあるのですが、その時は源氏物語絵巻は見られませんでした。常設展示ではなかったように記憶しています。まして、はるばる徳川美術館までは行く気にもなれませんでした。正直に言って、美術に関して全くの素人の私から見れば、源氏物語絵巻が国宝に値するような作品とは思えないのです。「伴大納言絵詞」、「信貴山縁起絵巻」、「鳥獣人物戯画」(いずれも国宝)などの個性的で描写力が秀逸な作品群と同列に並ぶとは到底私には思えないからです。人物表現が類型化していることが気になるのです。でも専門家から見れば一般人には計り知れない価値があるのでしょうね。探求したくなりますね。
 ウイキィペデアで「源氏物語絵巻」を検索したら次のような記述が見つかりました。
「(「伴大納言絵詞」、「信貴山縁起絵巻」、「鳥獣人物戯画」「源氏物語絵巻」は)…日本四大絵巻と称される。なお、日本四大絵巻には「鳥獣人物戯画」の代わりに「粉河寺縁起絵巻」をあげる見解も存在する。」
 私なら、日本四大絵巻には「源氏物語絵巻」をはずして「粉河寺縁起絵巻」を入れますけどね。

 ただ今回の放送は、いろいろ考えさせられる番組であったことは事実です。
 まずは白石加代子さんの朗読が秀逸でした。少し気持ちを入れすぎる傾向にはあり、少々重い感じはするのですが、しかしながら彼女のことばがリアルに私の心に張り付いてくるのです。文章をしっかりイメージできる力を備えた女優さんならではの朗読の凄さでした。 
 さらに瀬戸内寂聴さんのコメントがいいですね。戦争には良い戦争と悪い戦争があるのではないということ、平安時代という平和な世の中だからこそ、源氏物語は男女の恋愛模様を描けたのではないかという指摘でした。まさに世界的文学の誕生と言っていいのでしょう。なるほど、源氏物語の翻訳者ならではの貴重な指摘でした。
 今回の公開に先立って、大修理が施され、下書きの存在など、新たな発見があったと言います。とりわけ「柏木」の修正箇所をクローズアップしていました。妻の女三の宮の不義により生まれた子を抱く光源氏は、他には見られない正面からのショットでした。光源氏の複雑な表情や、子を抱く腕の位置は修正されたもののほうが遙かに優れていると思うのですが、子どもが手を引っ込めてしまった図はあまりにも平穏で、静かすぎる感じがするのです。何も知らない赤ん坊が、本当の父親でない者に無意識に手が伸びるという悲劇性を感じさせる下絵のほうが私にはおもしろいと思うのですがどうでしょうか。
 見逃した人には再放送を見ることを勧めたいです。

●900年の秘めごと~国宝・源氏物語絵巻~(2015.11.26放送、NHKサイトより)
 いま名古屋市にある徳川美術館で、900年前に製作された国宝「源氏物語絵巻」が公開され話題を集めている。国宝絵巻は、絵の具の剥落や料紙の損傷が激しかったため、4年に及ぶ大修理が施された。その過程で下書きが見つかり、謎に満ちた絵巻の製作過程が浮かび上がってきた。作家の瀬戸内寂聴さんと画家の山口晃さんとともに修理を終えた絵巻を見つめ、平安絵師たちが絵筆に込めた情熱に思いをはせながらみやびな世界を堪能する。
【出演】瀬戸内寂聴,山口晃,黒崎めぐみ,【語り】白石加代子

〔48〕日曜美術館「まど・みちおの秘密の絵」-まどさんの新しい発見がありました。

2015年09月28日 | テレビ・ラジオ・新聞
 2015年9月27日は法事があり、孫たちと芋掘りで遊んでいたので、日曜美術館は録画して見たのですが、まど・みちおさんの絵の世界にスポットをあてて、なかなか秀逸でした。まどさんをよく知る谷川俊太郎さんの語り口とコメントに心がふるえました。
まずはNHKの番組サイトでその概要を知ってもらいましょう。

 「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「ふしぎなポケット」。日本中で愛される童謡の産みの親、詩人まど・みちお(1909-2014)。今からおよそ50年前にひそかに描きためた100枚以上の絵がある。
 その絵は、短く、平易なことばでつくられるまどの詩とはまるで似つかない。画用紙一面を細い線で塗りつぶしている。紙の地肌は削れ、波を打っている。何を描いたのかさえわからない不思議な絵。そこには一体どのような思いがあったのか・・・。
 まどが絵に没頭し始めたのは50歳を迎えたころ。戦後、児童雑誌の編集者と童謡作家の二足のわらじの生活を続けながら、「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「ふしぎなポケット」などを生み出してきた。それは、童謡の創作に専念するため、退職してまもなくのことだった。「描いても描いても絵が描きたい。なんということだろう。」そんな言葉を残したほど、絵にのめり込んだ。しかし、それらの絵は完成した後、押し入れにしまわれた。長いあいだ誰にも見せないままだった。
 絵に没頭したのは3年半のあいだ。そののち、まどは童謡を離れ、自由詩に活動をうつした。そして、独自の宇宙観にあふれる詩の世界をつくりあげた。詩人は絵を描くことを通して何をつかみとり、そしてどこへたどり着いたのか。
100枚におよぶ秘密の絵から、まど・みちおの知られざる姿を見つめていく。

 まどさんの絵といえば、数年前に確か川崎の美術館で鑑賞したことがありました。私は象の絵が一番気に入っていて、学級通信などにカット絵として使わせていただいたものでした。
 今回のまどさんの絵は、研究者の谷悦子さん(梅花女子大学名誉教授)が発掘したものと言っていいようです。谷さんは、かつて小学校の教師をしていた時期があって、新美南吉や、阪田寛夫などの研究者としても知られているようです。彼女の著作です。

『新美南吉童話の研究 文学教育の実践をめざして』くろしお出版 1980 大阪教育大学国語教育学会双書
『まど・みちお詩と童謡』創元社 1988
『まど・みちお 研究と資料』和泉書院 近代文学研究叢刊 1995
『阪田寛夫の世界』和泉選書 2007
『まど・みちお 懐かしく不思議な世界』和泉選書 2013

  谷さんの本とともに読んでみたいのが、『続 まど・みちお全詩集』理論社、6,500円(税込7,020円)です。谷川さんが番組で教えてくれたものでした。続編が出ていたのですね。亡くなった名編集者の伊藤英治さんはこれを手がけていたということはお連れ合いの手紙で知ってはいたのですが、市河紀子さんが引き継いだんですね。この刊行にはびっくりでした。
 手に入れたいけど高価なのでどうしようかな、と思案しているところです。(下掲の文は、理論社のサイトより)

 「身近な生き物から宇宙まで、この世界の不思議を100歳まで詩に詠み続け、昨年104歳で亡くなった詩人まどさん。1990年代以降の詩500編余に、新たに見つかった若いころからの詩約200編を補遺として収録。詳しい年譜、著作目録、総索引も収録。」
●編集者コメント
「ぞうさん」で知られる詩人 まど・みちお『全詩集』待望の続篇。1992年刊行の『まど・みちお全詩集』と今回の『続 まど・みちお全詩集』の2冊で、まどさんの約80年間にわたる詩業の全貌を伝えることを目指しました。(伊藤英治/市河紀子 編、サイズ A5変型 発行 2015年9月 576ページ)
〔参考〕『続 まど・みちお全詩集』発刊の記事、「まど・みちおさん流 20代のシュール」朝日新聞、2015.9.29(夕刊)
     「まど・みちおを遊ぶ」、拙著『実践的演劇教育論』(晩成書房)に収録。

〔28〕 BS朝日「黒柳徹子のコドモノクニ」は未知のことを発見できる番組ですね。

2015年05月20日 | テレビ・ラジオ・新聞
 現在、BS朝日開局15周年記念ということで「黒柳徹子のコドモノクニ」が放送されています。毎週水曜日、午後10時からの1時間番組です。『コドモノクニ』は戦前に出された雑誌なので、私が知らないことも多くて、おもしろく毎回見ています。
 番組のサイトに次のような〔番組概要〕が出ていました。

黒柳徹子がBS民放初のレギュラー番組に挑戦!
藤田嗣治、竹久夢二、野口雨情、北原白秋…
大正から昭和にかけて愛された絵雑誌『コドモノクニ』を
つくった芸術家たちの人生をたどり、未来へ伝えたいメッセージをひもとく。
藤田嗣治、東山魁夷、竹久夢二、野口雨情、北原白秋、西條八十、中山晋平…。
絵画、詩、童謡…さまざまなジャンルで子どもたちのために本気になった大人たちの思いとは? 
黒柳徹子が今、未来へ続くメッセージを届ける。
現代の芸術家・著名人が『コドモノクニ』からインスピレーションを得て生み出す新作にも注目!

 まだ見ていない人のために、18回目までのメニューも紹介しましょう。

⑴片岡鶴太郎が巡るサトウハチローの世界
僕は不良少年だった…
童謡詩人が母に捧げた愛の詩
⑵児童文学者・村岡花子の命を懸けた物語
『赤毛のアン』 誕生の秘密
⑶奇跡のコラボ!村岡花子と中原淳一
発掘秘話!美智子さまとの出逢い…
⑷美智子さまが愛した童話作家・新美南吉
名作『でんでんむしのかなしみ』誕生秘話
⑸美智子さまが愛した詩人 まど・みちお
名作『ぞうさん』"幻の楽譜"を発見!
⑹日本画の巨匠・東山魁夷 
若き日に描いた童画の世界
⑺風景画の天才・東山魁夷
川端康成との交流秘話
⑻夏目漱石が絶賛した漫画家
コミック漫画の草分け・岡本一平
⑼芸術は爆発だ!岡本太郎 「太陽の塔」に込めたメッセージ
⑽子どもの心を見つめ続けた
絵本作家・いわさきちひろ
⑾子どもたちに夢を!
"童画の父"武井武雄
⑿伝説の絵雑誌を創った
編集者・鷹見久太郎
⒀竹下景子が巡る大正ロマン!
美人画の天才・竹久夢二
⒁竹下景子が巡る感動の旅!
名作童謡の作曲家・中山晋平
⒂安田祥子が巡る!
北原白秋 童謡の世界
⒃安田祥子が巡る!山田耕筰
「からたちの花」の秘密
⒄よみがえった幻の童謡詩人・金子みすゞ
⒅戦後70年特別企画
倍賞千恵子が読む、哀しみの戦争絵本!
⒆戦後70年特別企画
「原爆の図」を描いた女流画家・丸木俊!
⒇大正モダニズムを描いた画家・岡本帰一
㉑いわさきちひろが愛した童画家・初山滋
㉒加藤登紀子が巡る
日本のアンデルセン・小川未明
㉓加藤登紀子が巡る童謡詩人・野口雨情の世界
㉔やくみつる感激!躍動する動物たちの世界
「シャボン玉」「赤い靴」…

 『コドモノクニ』は1922年(大正11年)1月に創刊、1944年(昭和19年)に23巻3号をもって休刊されるまで通算287冊発行されました。
 「既に発行されていた各雑誌でそれぞれ専属的に活動していた画家たちを集め、個性豊かな童画を載せることにより、芸術的な絵雑誌として高い評価を得た。大判・多色刷で、創刊期の大正モダニズムを背景とした芸術性、デザイン性を重視した作りは子供向けという範疇を超えて新たな芸術総合雑誌ともいえるものであった。」(ウィキペディア「コドモノクニ」より) 

 番組で紹介された詩などを調べてみたらおもしろいことがわかりました。現在私たちが知っている作者名と異なる表記にびっくりしました。明らかな誤植もあり興味深かったですね。(国立国会図書館国際子ども図書館のサイトによる)

   風
       ニイミ・南吉(ママ)

風は煙を
とつてゆく
ふとい汽船の煙筒から

風は口笛
とつてゆく
後かんぱんの水夫から

風は帽子を
とつてゆく
ブリツヂの上の船長から

風は旗をば
とつてゆく
尖つてたかいマストから
*10巻10号(1930年9月1日)

  竹とんぼ
       金子みす(ママ)

キリリ、キリリ、竹とんぼ、
あがれ、あがれ、竹とんぼ。

二階の屋根より まだ高く、
お寺の松より まだ高く、
桂木山より まだ高く、

私のこさへた 竹とんぼ、
私のかはりに、あアがれ。

キリリ、キリリ、竹とんぼ、
あがれ、あがれ、竹とんぼ。

お山の煙より まだ高く、
雲雀の唄より まだ高く、
かすんだ空より まだ高く。

けれども、きつと忘れずに、
ここの小みちへ かアへれ。
 *15巻7号(1936年6月1日)


  雨ふれば
        まど・みちを(ママ)

雨ふれば
お勝手も
雨の匂してゐる。
濡れた葱など
青くおいてある。

雨ふれば
障子の中、
母さんやさしい。
縫物される針
すいすいと光る。

雨ふれば
通りのもの音、
ぬれてゐる。
時をり
ことり などする。
  *13巻14号(1934年12月1日)