後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔320〕戦争を炙り出す、六草いちか『いのちの証言』(晶文社)は著者の独自性が際立っています。

2020年12月17日 | 図書案内
 このブログは前ブログの続編とも言えるものです。
 六草いちかさんはドイツ人と結婚されてベルリンに1988年から住む日本人です。今や森鷗外研究には欠かせない2冊のノンフィクション『鷗外の恋 舞姫エリスの真実』『それからのエリス-いま明らかになる?外「舞姫」の面影』については先日このブログで紹介しました。「舞姫」を特定するまでのはらはらどきどきの追跡が実に興味深かったのを思い出します。

 さて、『いのちの証言』は是非手にしたいと思っていましたが、期待を裏切らない、戦争を深く掘り下げたノンフィクションになっていました。迫害を受け窮地に陥ったユダヤ人になった心境にさせられました。
 前2冊と同様、ドイツ語が堪能で文章力に恵まれた彼女にしか書けないような本でした。何かに憑かれたような執念みなぎる取材が彼女の真骨頂です。
 いまは高齢になった、ヒトラー統治下に暮したユダヤ人にインタビューを試み、当時の切羽詰まった社会的政治的情況をリアルに伝えてくれるのです。客観的事実を忠実に積み重ねることによって生み出される説得力には舌を巻きます。インタビューに応えてくれたユダヤ人はよくぞ生き残ったと思わざるを得ません。
 この本には日本人も登場します。ユダヤ人を助けたのは杉原千畝だけではなかったのです。私たちはもっと歴史を知らなければならないとつくづく思うのです。

■六草いちか『いのちの証言』(晶文社)ソデ
 ナチ政権下、ホロコースト時代をどのように生き延びたのか──。生存ユダヤ人と日本人たちの記憶と証言が70年以上の歳月を経て明かされる。生死を分けた一瞬の偶然。市民がなぜあのような非道に同調することができたのかという人間性への問い。そしてヒトラー政権の同盟国であった日本人がユダヤ人に助けの手を差し伸べた新事実……。ベルリンに暮らし、数年にわたって丹念に取材を続けた著者が、悲劇の時代に生きた人間の姿をありのままにつづる、渾身のノンフィクション。

  2020年12月19日(土)、ベルリンからのリモートで、彼女の話を聞くことになっています。どんなセミナーになるのか、楽しみです。

〔追伸1〕演題テーマは「鷗外のベルリン『舞姫』のBERLIN」でした。以下の感想を主催者に送りました。
「連れ合いの福田緑と拝聴しました。『舞姫』当時のベルリンを良くここまで調べ上げたなと思いました。写真一枚の発掘にどれだけの時間を費やしたか、感嘆している自分がいました。そしてその語りの熱量が半端ではないと思いました。 実は、エリス関係のご著書2冊のあと、『いのちの証言』を読んだばかりでした。こちらも素晴らしい本でした。ブログに認めましたので読んでくだされば嬉しいです。
 再来年にはドイツに行って鷗外の足跡を訪ね、中世ドイツの彫刻行脚をしたいと切望しています。ありがとうございました。福田三津夫」

〔追伸2〕2020年12月18日(金)の朝日新聞夕刊にこんな記事が掲載されました。杉原千畝が発行した「命のビザ」をもって来日したユダヤ人を日本人が面倒を見たというお話です。一面に大きく取り上げられています。六草さんの本をこのブログで紹介した翌日のことでした。不思議な縁を感じます。しかも明日は六草さんのセミナーがあるのでした。

■「命のビザ」、神戸が支えた 4600人が迫害逃れ滞在、住民と交流 「異人館街」の共同体跡地に案内板
 異人館街として知られる神戸・北野の一角に11月、1枚の案内板が設置された。「『神戸ユダヤ共同体』(神戸ジューコム)跡地」と記されている。第2次世界大戦中に迫害から逃れて神戸にたどり着いたユダヤ人たちと、地域の人々との間に交流があったことを伝えたい。そんな思いで地元の有志が設置した。(以下略)