後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔187〕妻・福田緑の新著『新・祈りの彫刻 リーメンシュナイダーと同時代の作家たち』がついに完成しました!

2018年07月26日 | 図書案内
  7月25日(水)、我が家に待望の新著『新・祈りの彫刻 リーメンシュナイダーと同時代の作家たち』が届きました。一冊の本を生み出す「格闘」は妻のブログ(「リーメンシュナイダーを歩く」https://blog.goo.ne.jp/riemenschneider_nachfolgerin)に詳しく書かれていますので、興味ある方は覗いてみてください。最新のブログは到着したときの悦びの文章です。

 最初に本の表紙と裏表紙を見ていただきましょう。
 まずはこの本がどんな本なのか紹介してみましょう。多少長いのですが、とりあえず「まえがき」を読んでみてください。なぜ今、3冊目の『祈りの彫刻』を出版する必要があったのかが書かれています。



■まえがき・福田緑

 2016 年秋、14 回目に訪れたドイツで、今まであまり重要視してこなかったティルマン・
リーメンシュナイダーの徒弟、ペーター・デル( 父) ( Peter Dell der Ältere ) や、
リーメンシュナイダー周辺作家、フランツ・マイトブルク( Franz Maidburg ) 、また同じ
頃に中世ドイツを生きてきた彫刻家の作品や祭壇を見て回った。

 中でも印象に残った作品の一つにペーター・デル( 父) のアンナ・ゼルプドリット像  
(43 ~ 46 頁)がある。リーメンシュナイダーは聖アンナが大きく膝を開いて座り、その
膝に娘の聖母マリアと孫のイエスがちょこんと座っている像( 63 ~ 65 頁) を彫って
いるが、このペーター・デル( 父) の像はマリアとアンナがイエスをはさんで座り、ごく
普通の家庭の団欒のような雰囲気を醸し出していた。マリアの表情はふんわりして可
愛らしく、温かさを感じる。アンナといえば、町で見かけるおばあちゃんのようにせっ
せと孫の世話を焼いている。イエスも「ねぇ、ママ、このぶどう食べてもいい? 」と、マ
リアに甘えているようだ。思わず微笑みがこぼれる作品だった。一方、リーメンシュナ
イダーのアンナ・ゼルプドリット像といえば、静かな中にも深い悲しみを湛えた表情
が定番だ。それだけに、弟子の手になるこの像の持つ雰囲気に、ぐっと親近感が湧
いてきたのだ。〔註・1〕
 この作品はへルシュタイン( Hörstein ) という町のマリア被昇天教会にある。この
像を見るために、フランクフルト( マイン) 郊外に住むトーマス・メスト( Thomas
Möst 、20 年来の友だち) は2014 年にも車を走らせ、最初の情報で得ていた聖ヴィル
ゲフォルティス礼拝堂を探してくれた。ようやく探し当てた礼拝堂は、小さな野原の    
真ん中にひっそりと建ち、長いこと締め切られたままのように古びて無人だった。こ
の日は中に入るのを諦めて帰ってきたのだったが、「この中に本当に彫刻があるの
だろうか」といぶかしんだトーマスは、その後、独自に調査をして現在この彫刻を保
管しているマリア被昇天教会を突き止めてくれたのだった。こうして2016 年にフラン
クフルトを訪ねたおりにトーマスの車でマリア被昇天教会に行き、普段は鍵のかかっ
た小さな部屋の中に招き入れられ、この彫刻を自由に撮影させていただいたのであ
る。ようやくこの作品にたどりつけた喜びはひとしおだった。

 また、ケルン郊外のカルカーにある聖ニコライ教会に入ったとき、あまりの祭壇の
多さに圧倒された。中でも真っ正面に立つ主祭壇は人物と馬がひしめきあい、いな
なきさえ聞こえてきそうな迫力で、思わず時間を忘れて写真を撮りまくった。そのうち
の1 枚が前頁に掲載のものである。教会のパンフレットによると、祭壇は大小取り混
ぜて10 点もあり、主祭壇には212 体の彫刻が刻まれているという。とても数えきれる   
とは思えないのに、根気よく数えた人がいたものだ。夫、福田三津夫は、『世界美術
大全集14 巻』(小学館)で岡部由紀子氏のドイツ木彫祭壇についての記述を読んで
以来、ケルンまで行くことがあったら近くのカルカーにも足を延ばして是非この祭壇
を見たいと言っていた。そのため、2016 年に初めて旅のルートに入れたのだった
が、非常に印象的な祭壇であった。〔註・2〕
 
 私たちの旅は、フランクフルトのトーマス、ルース夫妻に報告をして締めくくるのが
習いとなっている。トーマスの家がフランクフルト国際空港から車で30 分ほどのとこ
ろにあり、帰りがけに数時間でもいいから寄って欲しいと言われているからだ。彼の
家でカルカー聖ニコライ教会の祭壇について話をすると、なんとカルカーはお連れ
合いのルースの故郷だったことがわかった。二人は「今度お姉さんのところに行った
ら、是非この教会を見てみなくちゃね」と目を輝かせていた。
 
 リーメンシュナイダーのキリストはいつもやせ細っているが、ハンス・ラインベルガ
ーの「苦悩するキリスト」(186 ~ 188 頁)では筋骨隆々としてたくましい。そのガッシリ
とした足に私は見惚れた。リーメンシュナイダーの「悲しむマリア」( 『祈りの彫刻リ
ーメンシュナイダーを歩く』59 頁)は深い悲しみを湛えて静かに佇むが、ミヒャエル・
パッハーの「悲しむマリア」(110 ~ 112 頁)の後ろ姿からは荒野を吹き荒れる風の音
が聞こえるようだ。そんな風の中を歩いて行こうとするマリアの凜とした強ささえも感
じる。ファイト・シュトースの「二枚の紋章を持った婦人像のアントラー式シャンデリ
ア」(159 ~ 160 頁、裏表紙)は、当時サロンかレストランにかかっていたものだろう
か。人々の会話を天井から眺めて愉しんでいるような表情がうかがえて面白い。
 こうした作品をいくつも見た体験から、リーメンシュナイダーの作品には深い感動
を引き起こす力があるが、同じ中世ドイツの時代に活躍していた他の作家にもまた、
それぞれの個性と魅力があるということに気づかされた。しかし、彼らの存在は日本
ではまだ十分知られていない。ほぼ同時代にイタリアで活躍していたルネサンスの
作家たち、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ・ブオナローティ、ラファエロ・サ
ンティなどは大変有名で、日本で開かれる展覧会でも多くの観客を集めてきた。
 「中世ドイツでも同じ頃にこうした作家があちらこちらで活躍して独自の作品を遺して
いるということを、もっと日本に知らせたいんだよ」
と、夫は何度も私に言い、だから3 冊目の写真集をまとめてはどうかと促してきた。し
かし、その都度「エネルギーがまだ湧かない」と答えていた私だったが、ようやくこの
旅の半ばで「よし、まとめてみようか」という気持ちになった。リーメンシュナイダー、
及びその関係者の作品のみに「必見」のラベルを貼ってまっしぐらに突き進んできた
私に対して、三津夫は以前からもっと幅広い作家や絵画などに興味を持ち続けて
いる。夫と一緒に旅する中で、私の作品を見る目も少しずつ広がってきたからに違
いない。親切なドイツの友人・知人、私の意欲を引っ張り出してくれた中世ドイツの
作家たち、そして誰よりも三津夫に助けられ、促されて、ようやくこの『新・祈りの彫刻
リーメンシュナイダーと同時代の作家たち』を出版することを決意した。
 
 本書は、中世ドイツの彫刻家、ティルマン・リーメンシュナイダーの作品を紹介した
『祈りの彫刻リーメンシュナイダーを歩く』( 丸善プラネット2008 年) 、『続・祈りの
彫刻リーメンシュナイダーを歩く』( 丸善プラネット2013 年) に続く3 冊目の写真
集となる。本書にはリーメンシュナイダー、彼の工房、及びその弟子の作品のみなら
ず、同時代のドイツを生きた彫刻家の作品も多数紹介している。

 私がリーメンシュナイダーを追いかけるきっかけとなったのは1998 年のドイツ旅行
だった。初めてドイツの地を踏んでからちょうど10 年後に「祈りの彫刻の写真集を作
る」というライフワークをスタートし、20 年後にその締めくくりができたことを大変うれ
しく思う。どうか本書を手にされた方は、私たちとご一緒に中世ドイツの旅を楽しんで
いただきたい。
             2018 年8月




表紙:ベルリン、ボーデ博物館、庇護マントの聖母像

    ミッヒェル・エアハルト、またはフリードリッヒ・シュラム作

 Vorderdeckel Maria mit dem Schutzmantel
Michel Erhart oder Friedrich Schramm, Bode-Museum, Berlin




裏表紙:ミュンヘン、バイエルン国立博物館 
    二枚の紋章を持った婦人像のアントラー式シャンデリア、ファイト・シュトース作

Hinterdeckel Geweihlüster: weibliche Figur mit zwei Wappenschilden
Veit Stoss, Bayerisches Nationalmuseum, München


 少し私の感想も補足しておきましょう。
〔註・1〕について、ペーター・デル( 父) のアンナ・ゼルプドリット像撮影にはもちろんトーマスと私も立ち合いました。私たちだけの拝観のために特別の部屋を設け、撮影を許可してくださったのです。それから1,2年後に、この作品がドイツでのある展覧会の目玉になっていたことを知ることになりました。本の表紙の候補にも挙がったくらいの作品ですので、是非ご覧いただきたいと思います。

〔註・2〕かつてケルン郊外のカルカーに原発を作ったのですが、チェルノブイリ原発事故があり一度もそれを稼働させることなく遊園地に転用してしまったのです。タクシーで見学してから聖ニコライ教会に向かったのでした。ここはまさに中世美術の宝庫と呼べるところです。写真集に収録した主祭壇だけでなく、様々な祭壇や彫刻が目白押しです。もう一度かならずここを訪れたいと思っています。

 あっ、私の新著『地域演劇教育論-ラボ教育センターのテーマ活動』も遠からず完成を報告できることでしょう。


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