⑪ アキレス腱切った
「因みに、アキレス腱断絶後の数日の次第を振り返ると、切れた瞬間の痛みはどんなものだろうと、経験の無い方は思うだろうが、瞬間の痛みはそうでもない。人間というのは、体の重要組織を毀損するような大けがの瞬間は、痛みを感じる神経がそれに反応できず、意外に痛みを感じないらしい。戦場で片手を切り落とされた侍が、気が付かずしばらく片手で戦ったというような話もある。すぐ後には現実を理解することになるが、私の場合すぐに救急車に乗せられて、救急病院で固定処置をしてもらったので、間断なく事態が進むので身を任せていたいただけだった。しかし、当日夜と数日は、ふとした時にずきずき痛みを感じた。結局激痛に襲われる事はなかったが、現在でも、足の置き場によって痛みを感じることはある。でもすぐに少しの痛みで安定する。むしろ松葉杖の生活は、腕・肩・首などの負担が相当辛い。自分の体重を足ではなく腕で支える事の大変さを思い知る。加えて、転倒の恐怖感があって移動には常に緊張感が伴うので、精神的な疲労は半端ではない。結果、さしたる労働を何もしていないのに、夜はバタンキューと寝てしまう。痛みは、足ではなく、将来への不安に対して襲って来る。再び元気に歩けるのだろうか。再び会社に行けるだろか。その時まで会社があるだろうか???」