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医学生ゲヴァラは友人ピョートルとおんぼろバイクに跨がり、南米大陸を駆け巡る。放埒な人妻、偉大な詩人、抑圧された人々、病に苦しむ患者と接し、次第に目覚めて行く・・・。
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アルゼンチンに生まれ、フィデル・カストロ氏と共にキューバ革命を指揮したチェ・ゲヴァラ氏。彼の顔が描かれたTシャツが販売される等、今でも有名な政治家の1人と言って良い。今年90歳になったカストロ氏に対し、俳優の様な顔立ちのゲヴァラ氏は、若々しいイメージの儘。キューバ革命以降も“戦場”に身を置き続けた彼は、ボリヴィアにて39歳の若さで殺害されたからだ。
彼が殺害されたのは1967年10月9日で、来年2017年は、彼が亡くなってから50年目となる。「没後50年(2017年)」及び「生誕90年(2018年)」という節目の年を前にして、「チーム・バチスタの栄光」等、数々の作品を生み出して来た海堂尊氏が、ゲヴァラ氏を描く4部作の第1弾が、今回読んだ「ポーラスター ゲバラ覚醒」だ。
「日本史はそこそこ知っているけれど、アメリカの歴史は余り知らない。」という日本人は多い事だろう。もっと言えば、他の地域の歴史を詳しく知る日本人は数少なく、南米の歴史なんていうのは殆ど知られていないのではないだろうか。斯く言う自分も、そんな1人。「キューバ革命」や「フィデル・カストロ」、「チェ・ゲヴァラ」といった固有名詞は知っているものの、「ゲヴァラ氏が医学生だった。」という事実すら、今回の小説で初めて知った程だから。
ブエノスアイレス大学の医学生だった頃、ゲヴァラ氏は年上の友人アルベルト・グラナード氏と共に、オートバイで南米を回る放浪旅行をしている。此の旅の中で“激しい貧富の差が存在する現実”を目にし、マルクス主義へと傾倒して行ったとされている。「ポーラスター ゲバラ覚醒」は南米を旅するゲヴァラを描いているが、共に旅するピョートルはグラナード氏をモデルにしているのだろう。
フアン・ペロン元大統領や其の夫人エヴァ・ペロン(通称:エヴィータ)さん等、南米の歴史に詳しく無い自分でも知っている者も登場するが、其の多くは存在すら知らない歴史上の人物達。そんな彼等がこうも上手く、“学生のゲヴァラ氏”と絡んで来るなんていう事は無かったろうから、脚色された部分は少なく無いのだろうけれど、「『チェ・ゲヴァラ』という人物の成り立ち」と「南米の歴史」をざっくり知るには、悪く無い本だと思う。逆に言えば、そこそこ知っている人達にとっては、「読むに値しない本。」という事になるかもしれないが。
沢木耕太郎氏の紀行小説「深夜特急」を思い起こさせる雰囲気が在り、小説としては面白い。でも、「史実に忠実で無ければ駄目!」という考え方だと、興醒めしてしまうのかも。ネット上の評価が大きく分かれているのも、そんな所が影響していそう。個人的には「こういった小説でざっくりと捉え、歴史書等で詳細な“肉付け”をして行けば良いのでは?」と考える。
総合評価は、星3つとする。