ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「失踪都市 所轄魂」

2014年10月06日 | 書籍関連

未知作家の作品を読むのは、心浮き立つ物が在る。詰まらない内容にガッカリさせられる事も在るが、予想外に面白かったりすると、埋蔵金を掘り当てた様な喜びが在り、他の人に其の作品を教えたくなる。今回読了した小説も、そんな1つだ。

 

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江東区亀戸の空き家から、完全に白骨化した死体が2体発見された。其処には3年前、老夫婦が住んでいたが、近所の人の話では「息子夫婦の世話になる、引っ越す。」と夫が言っており、実際に3年前の夜中、息子夫婦らしき2人が家の中に入って行くのを見掛けたと言う。空き家だったなのに、何故?

 

病で寝た切りになっていた妻と、其の妻を介護していた夫。家に留まっていた理由は不明なれど、事件性が感じられない白骨死体からは、「病気で急死した夫。そして、介護する人がなくなった為、衰弱死した妻。」、そんな都会では珍しく無い「老老介護の末の孤独死」と思われた。だが・・・。

 

検視官一筋20年のヴェテラン・室井義正(むろい よしまさ)警視臨場し、「2人共、他殺された。」と断定。白骨化した死体から、他殺を窺わせる痕跡が見付かったからだ。しかし、監察医務院は自然死と結論し、捜査一課管理官・倉田邦康(くらた くにやす)も事件性を認めなかった。「室井と確執抱えた倉田にとって、室井の主張は受け容れ難いという事情が在る。」とも囁かれた。

 

他殺を疑う城東署の葛木邦彦(かつらぎ くにひこ)は、息子の警視庁特命捜査対策室管理官・俊史(としふみ)の協力を得て捜査に乗り出す。捜査の過程で「白骨化した死体が、住人で在る矢上幹男(やがみ みきお)・文代(ふみよ)夫婦で無い可能性。」が出て来た許りか、「『転出先の住所が江東区で、現在は行方不明になっている高齢者世帯。』という、矢上夫婦と余りにも似通った2世帯の存在。」が明らかとなる。

 

此れは、大きな事件に結び付いているに違い無い。」と直感する邦彦達。しかし、本庁サイドの動きは何故か鈍く、本来なら立ち上げるべき捜査本部一向に設立し様としない許りか、捜査自体を取り止めさせる様な動きが。

 

事件を葬り去ろうとする動きが、邦彦達の“所轄魂”に火を点ける軈て浮かび上がった巨大な敵に、葛木父子と捜査陣は震撼する。

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笹本稜平」という作家は、恥ずかし乍ら全く知らなかった。今年で63歳を迎える彼は、文壇デビューが2000年(48歳の年)というから、“遅咲き”の部類に入るだろう。4ヶ月前、「春を背負ってという映画が公開されたが、此れは彼の連作短編集が元になっているのだとか。

 

今回読了した「失踪都市 所轄魂」は、「所轄魂シリーズ」の第2弾。主人公は葛木父子で、共に警察官。「父・邦彦は捜査一課にを置く刑事で、家庭を顧みずに日々捜査に当たっていたが、3年前、妻をクモ膜下出血で失ってしまう。『自分は妻の為に、何もして遣れなかった。』という慙愧や深い喪失感から、彼は自ら希望して所轄への異動を申し入れ、其れが認められる。そんな邦彦に息子の俊史は『母さんは、死ぬ迄親父のファンだった。刑事としての親父のね。親父が責任を感じて潰れちゃったら、却って母さんを哀しませるよ。』と言い、自分自身もそんな父親を尊敬していると明かす。そして俊史は国家公務員Ⅰ種試験に合格し、警察庁キャリア組として採用され、警察の腐った部分を取り除こうと奮闘している。」という設定。

 

登場人物達のキャラクター設定が光っている。1人1人がキャラ立ちしており、「此奴本性は、一体何なんだ!?」と思ってしまうが何人か居るのも、興味を惹かれる。

 

「白骨死体が2体発見される。→最初は自然死と思われたが、どうも殺された様だ。→余りにも似通った条件での行方不明者が、次々に見付かる。→其れでも何故か、警察の上層部は捜査を妨害し様としている。」といった展開に、読み手はグイグイと引き込まれて行く事だろう。

 

「刑事として必死で事件の解決に当たって来たものの、警察の腐った部分には何もし様として来なかった。」という忸怩たる思いを持つ邦彦が、息子・俊史を始めとした若い連中が、必死で腐った部分を取り除こうとしている姿に心を動かされ、共に闘う。そして俊史に対し、「借金=警察の腐った部分を知り乍ら、何もして来なかった事。投資=警察の腐った部分を取り除こうとしている事。」という譬えで、次の言葉を吐く

 

おれの場合は借金の返済だが、おまえのほうは未来への投資だよ。おれが半生捧げた警察がまだ心底腐ってはいないと信じたい。若宮も山井も橋川も、もちろんおまえだって俺にとっては虎の子の希望なんだ。

 

読み応えが在り、一気に読了してしまった。面白い!総合評価は、星4.5個とする。


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