******************************************************
5階建ての新築分譲マンション「アドヴァンス・ヒル」。近くの日の出公園には、古くから設置されている河馬のアニマルライドが在り、「自分の治したい部分と同じ部分を撫でると回復する。」という都市伝説が在る。人呼んで“リカバリー・カバヒコ”。アドヴァンス・ヒルに住まう人々は、其れ其れの悩みをカバヒコに打ち明ける。
高校入学と同時に家族で越して来た宮原奏斗(みやはら かなと)は、急な成績不振に自信を無くしている。偶然立ち寄った日の出公園で、クラスメートの雫田美冬(しずくだ みふゆ)に遭遇。彼女からカバヒコの伝説を聞いた奏斗は、「頭脳回復」を願って、カバヒコの頭を撫でるが・・・。(第1話「奏斗の頭」)
出産を機に仕事を辞めた樋村紗羽(ひむら さわ)は、ママ友達に馴染めずに孤立気味。アパレルの接客業をしていた頃は、表彰された事も在った程なのに、上手く言葉が出て来ない。カバヒコの伝説を聞き、口を撫でに行くと・・・。(第2話「紗羽の口」)
******************************************************
青山美智子さんの小説「リカバリー・カバヒコ」は、「公園に置かれたアニマルライドのカバヒコに、助けを求める人々の姿を描いた作品。」だ。カバヒコは唯乗るだけのアニマルライドで在り、古びてボロボロの状態。そんなカバヒコには不思議な都市伝説が在り、日々の生活に疲れ果てた人々が、“彼”に縋る。5つの短編小説から構成された1冊だ。
青山さんの作品を読むのは今回が初めてだったけれど、此方に記された受賞歴の数々を見ると、高い評価を受けて来た作家なのが判る。「過去に著作が、本屋大賞で『2位、2位、5位』選ばれているというのは、本当に凄い。
巫山戯たタイトルと愛らしい表紙のイラスト“だけ”に惹かれ、「全く期待しないで読み始めた作品だった。」が、読み進めて行く内にどんどんとストーリーに引き込まれて行った。自分が好きなタイプの“ハートウオーミング系”で在り、だからと言って「読者を泣かせ様!」とする著者の“計算”が感じられないのが良い。特に良かったのが第5話「和彦の目」で、乾燥した心に潤いを与えて貰える事だろう。
話数を重ねるに連れ、登場人物達の“横の繋がり”が明らかとなって行く。彼等の中心には或る店舗の女性店主が居り、最後の最後で彼女がメインとして描かれるというストーリー運びは、憎らしい程に上手い。
総合評価は、星3.5個とする。