ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「苦役列車」

2011年03月07日 | 書籍関連

独特な存在感を示していた役者・岸田森氏。古くからの特撮ファンならば、「帰ってきたウルトラマン」(動画)での坂田健役辺りが印象深い事だろう。食道癌にて43歳の若さで鬼籍に入ってしまったのが本当に悔やまれ、今でも「此の役は岸田氏が演じていたら、もっと映えたろうに。」と思う事が良く在る。

 

ウルトラマンA」(動画)で南夕子役を演じていた星光子(旧芸名:堤光子)さんが「星光子のブログ」というブログを運営されているのだが、3月5日に「岸田さん」という記事を書かれている。其処には一人の高齢の男性の写真がアップされており、其の男性の名前は「岸田蕃」氏。岸田森氏の実の御兄様という事で、そう言われると目元等が似ている。岸田森氏が御存命ならば今年で72歳で、「御兄様の様な雰囲気になっていたのかなあ。」と思うと感慨深い物が在る。

 

閑話休題

 

先月発表された第144回芥川賞(2010年下半期)は2人が受賞となったが、両人プロフィールが余りに異なる事に注目が集まった。「きことわ」を著し朝吹真理子さんは「華麗なる文学一族の才媛にして美女。」で在るのに対し、「苦役列車」を著した西村賢太氏は当人メディア公言されている様に「性犯罪で逮捕歴の在る実父を持ち、中学卒業後は専ら肉体労働で日銭を稼いで来た。」という経歴で、見た目は申し訳無いが其処いら居るおっちゃんといった感じ。「人付き合いは殆ど無い。」といった事を話していたが、「然も在りなん。」と思えてしまう雰囲気。

 

************************************

 友も無く、女も無く、一杯のコップ酒を心の慰めに、其の日暮らしの港湾労働で生計を立てている19歳の貫太。或る日、彼の生活に変化が訪れたが・・・。

こんな生活とも言えぬ様な生活は、一体何時続くので在ろうか。

*************************************

 

「苦役列車」は、西村氏が実際に経験した事柄を題材にして書かれた「私小説」と言って良いだろう。主人公の寛太の日常を読めば読む程に、西村氏の公表されている経歴と重ね合わさってしまう。「物書きは自身の身を削って行く事で、素晴らしい作品を生み出して行く。」とも言われる。作品に記された全てが事実という訳では無く、其処虚構が加えられているケースが普通だろうが、自身の過去の経験を赤裸々曝け出す事によって、作品により深い味わいと現実感を与えるというのは確か。

 

寛太から感じられるのは、「強い劣等感」や「他者への妬み僻み」といったオーラ。そういった事から、他者に対して方向違いな“口撃”を再三し、相手は寛太から離れて行ってしまう。寛太に残るのは「自己嫌悪」と「更なる他者への妬み&僻み」というのだから、全く非生産的で在る。

 

「自身の駄目さ加減」を描いた名作は過去にも無い訳では無いけれど、此の「苦役列車」には残念乍ら心に響く物が皆無に等しい。他者への妬み&僻みばかりが鼻に付い陰鬱な思いになるし、野卑な表現が少なくないのを嫌う読者も少なくないかもしれない。「自分も幸せとは言い難い状況だけれど、寛太に比べたら未だ増し。」、そんな細やかな優越感を持てとでも言うのだろうか?読む前の期待度が高かっただけに、余りにもガッカリな内容。

 

総合評価は星2つ


コメント    この記事についてブログを書く
« 人の口に戸は立てられぬ | トップ | 「他者に厳しく、自分には甘... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。