ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ ~扉子と空白の時~」

2020年09月24日 | 書籍関連

************************************************ビブリア古書堂に舞い込んだ新たな相談事。其れは、此の世に存在していないの本‐横溝正史の幻の作品が、何者かに盗まれたという奇妙な物だった。

何処か様子がおかしい女店主と訪れたのは、元華族に連なる旧家邸宅。老いた女の死を切っ掛けに、忽然と消えた古書其の謎に迫る内、半世紀以上絡み合う一家の因縁が浮かび上がる。

深まる疑念迷宮入りする事件。解けなかった糸は、長い時を超え、軈て真相紡ぎ始める。
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三上延氏の小説ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ」は、「古書に関して並外れた知識を持つ古書店の店主・篠川栞子(しのかわ しおりこ)が、客が持ち込んで来た古書に纏わる謎を、アルバイトの五浦大輔(ごうら だいすけ)と共に解き明かす。」という内容。第7弾は恋人同士という関係だった栞子と大輔が、第8弾では結婚していて、娘の扉子(とびらこ)が登場。そして、今回読んだのは第9弾の「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ ~扉子と空白の時~」で在る。

此の作品は、3つの時代を舞台にしている。2012年、2021年、そして“もう1つの時代”だ。2012年は扉子が誕生した年で、此の年に「横溝正史の幻の作品が、何者かに盗まれたので捜して欲しい。」という依頼が舞い込む。結局、此の“事件”は完全解決せず、9年後の2021年に事件の真相が明らかになる訳だが、大輔が“備忘録”として記した内容を、扉子が読んでいるのが“もう1つの時代”。彼女は「今、高校生。」と記されているので、時代としては「2027年~2030年の間」と思われる。

2年前の記事「雪割草」の中で、「『横溝正史氏の作品に、埋もれた長編小説が在る。』事を知り、二松學舍大学文学部山口直孝教授は其の作品を捜し続けていた。二松學舍大学所蔵の資料の中に『雪割草』なるタイトルの草稿11枚が存在していたが、何に掲載されていたのかも含め、謎多き作品だったが、苦心惨憺の結果、1941年6月12日~12月29日迄『新潟毎日新聞』、『新潟日日新聞』に連載された物と判明。199回分全ての内容が手に入り(隣接している記事が切り取られている影響で、最終回に関しては冒頭から28行分の上部数文字が欠落していたが。)、初刊行の運びとなった。」と記したけれど、其の「雪割草」が、「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ ~扉子と空白の時~」で“幻の作品”として取り上げられている。2012年の時代では、詳細が明らかになっていなかったからだ。

横溝作品と言えば、金田一耕助作品等に代表される探偵小説が余りにも有名だけれど、「雪割草」は恋愛小説部類に入る。横溝作品としては、非常に異質な存在と言って良い。

非常に幼き頃、当時住んでいた愛知県から1人で新幹線に乗り、関東地方に住む祖母の家に遊びに行った事が在る。「幼くても、男なら1人で動ける様にならないと駄目。」という父の考えによる物だったが、「新幹線内で退屈しない様に。」と、父が買ってくれたのが「金色の魔術師」という本だった。非常に面白い作品だったので、夢中になって読んだのを、今でもはっきり覚えている。

此の本、大事に保管し続けている。13年前の記事「押入れの中から・・・」の中で、表紙の写真を載せているが、絵柄もストーリーも、江戸川乱歩氏の少年探偵団シリーズに凄く似ている。でも、実際には横溝正史氏が著し金田一耕助作品なのだ。金田一耕助作品と言えば、「旧家で発生するおどろおどしく血腥い殺人事件。」というイメージが強いのだけれど、「金色の魔術師」は「不気味さは在るものの、少年探偵団シリーズの雰囲気が強い。」という点で、ずっと違和感を持っていた。

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横溝は様々なジャンルの作品を書きこなすストーリーテラーでしたが、少年少女ものの作家としても非常に長いキャリアを持っています。初めての少年向け小説『怪人魔人』は昭和2年・・・1927年に連載されています。それから30年以上にわたって、60作以上も執筆しているんです。。(中略)「そうなんです。乱歩が初めての少年もの『怪人二十面相』を書き始めたのは昭和11年。横溝の方が10年も前ですね。」。つまり少年向けのジャンルでは横溝の方が先輩というわけだ。

大人向けの作品から探偵役を流用するのは、乱歩の少年ものでも行われています。ただ、横溝の少年向け作品で探偵役を務めるのは、戦前の大人もので活躍した由利麟太郎が多く、金田一が登場する作品はあまりないんです。そのせいかこのシリーズでは、由利麟太郎を金田一に差し替えたものが収録されています。『夜光怪人』や『鑞面博士』などがそうですね。。「差し替えって・・・全然違うキャラクターですよね。」。「もちろんです。そのせいで不自然な展開になった作品もありますが・・・細かなことは気にしない、大らかな時代だったんでしょう。(後略)。」。
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「探偵役が同じ金田一耕助でも、『金色の魔術師』は我々が良く知る金田一耕助シリーズとは雰囲気が全く異なる。」のは、ジュヴナイル物として著され、「同じ金田一耕助が登場した作品でも、他の作品と異なる雰囲気になっても気にしない。」という大らかな時代が在ったからなのだという事が判った。

“金田一耕助最後の事件”として知られる「病院坂の首縊りの家」は、「昭和28年に発生した殺人事件に金田一耕助が探偵として乗り出すも、事件は迷宮入り。でも、其れから20年が経過した昭和48年、昭和28年に発生した殺人事件の関係者が殺害され、金田一が全ての謎を解き明かす。」という内容。名探偵・金田一耕助をして、謎解きに20年の月日を必要とした訳だ。「2012年に発生した事件が、9年後の2021年に解決する。」という「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ ~扉子と空白の時~」は「病院坂の首縊りの家」、延いては金田一耕助シリーズに対する三上氏のオマージュ的作品

「ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ」を読んで毎回感じるのは、三上氏の古書に対する深い知識と愛情だ。今回の作品も例外では無く、又、ストーリー自体も面白いので、一気に読み終えてしまった。

総合評価は、星4つとする。


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