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巨大な犬張り子が何匹も現れて、人間の腸に噛み付き、振り回し、叩き付けて、殺す。事件現場となった小学校で刑事・夏木誠一(なつき せいいち)が見たのは、そんな地獄絵図だった。警察は其の犬張り子を操る女・“アリア”の逮捕に成功するが、其れ等は夏木以外の捜査員には見えていない、思念物体だと判明する。科学的に証明出来ない殺人を、法廷で裁く事は出来るのか!?
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第18回(2019年)「『このミステリーがすごい!』大賞」の隠し玉に選ばれた小説「犬の張り子をもつ怪物」(著者:藍沢今日氏)は、「巨大な犬張り子が次々と人を襲い、惨殺して行く。」という超常現象を扱った作品。「目の前で多くの人間が惨殺されて行くのだけれど、其れを行っている巨大な犬張り子の姿は、夏木を含めた少人数の者しか見る事が出来ない。」というのが重要なポイントで、「一般には見る事が出来ない犯行者、其れも1人の女性によって操られている巨大な犬張り子の犯罪を、どう法廷で裁けば良いのか?」という話になって来る。又、巨大な犬張り子を見る事が出来る者と出来ない者の違いというのも、作品の鍵となっている。
一部ネタバレになってしまうが、アリアは自身の口の中から決まった数の犬張り子を吐き出す事が出来る。そして、彼女が殺害を命じる事で、“彼等”は対象を殺すのだ。口の中から自由に吐き出す事が出来るのだから、法廷で吐き出されてしまえば、大量殺人が可能となってしまう。何しろ一般人に彼等の姿は見えず、犯行を防ぎ様が無いのだから。従って、「法廷に入る前のアリアは、夏木によって全ての犬張り子を吐き出させられ、彼等を“閉じ込められた”上で。」という設定になっている。そうなると、「アリアは何故、素直に全ての犬張り子を吐き出すの?吐き出すのを拒めば、法廷に出される事も無いのに。」という疑問が出て来る。でも、其の疑問も最後になって、「そういう事か。」と腑に落ちる。超自然現象を扱っているが為の不自然さも含め、「納得のさせ方が上手いなあ。」と感じた。
スプラッター映画を思わせる惨殺シーン、苦手な人は苦手だろう。自分も苦手なので、読んでいて不快な気持ちになった。「どういう理由が在るにせよ、無関係な人間を殺害する。」というのは理解出来ないし、又、物語の終わり方も嫌な感じしか残らなかった。
総合評価は星3つ。