大島渚監督が昨日、肺炎にて80歳で亡くなられた。「青春残酷物語」や「愛のコリーダ」、「戦場のメリークリスマス」等、彼が作って来た作品のタイトルは少なからず頭に浮かぶが、個人的には「映画監督の彼」よりも、「『朝まで生テレビ!』(動画)のレギュラー・パネリストとして、『馬鹿野郎!』と叫んでいる彼。」や「自身の結婚30周年パーティーで祝辞を述べた野坂 昭如氏にぶん殴られ、切れて殴り返した彼。」(動画)のイメージの方が強い。
1996年、脳出血で倒れて以降、ずっとリハビリを続けていた大島監督。本人も然る事乍ら、介護されて来た御家族も嘸かし辛い17年間だった事だろう。
思えば、彼と殴り合った野坂氏も、同じ脳の病気(脳梗塞)に倒れ、可成りの時が経つ。リハビリに励んでいるとされる野坂氏は、“盟友”の死に思う所も結構在るだろう。合掌。
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「僕は何処で、人生を間違えてしまったのだろうか?」
トップセールスマンだったエリート課長・坂戸宣彦(さかど・のぶひこ)を“パワハラ"で社内委員会に訴えたのは、歳上の万年係長「八角(はっかく)」こと八角民夫(やすみ・たみお)だった。一体、坂戸と八角の間に何が在ったのか?
パワハラ委員会での意外な裁定、そして役員会が下した不可解な人事。急転する事態を収束させる為、役員会が指名したのは、万年二番手に甘んじて来た男、原島万二(はらしま・ばんじ)だった。
何処にでも在りそうな中堅メーカー「東京建電」と、其の取引先を舞台に繰り広げられる生きる為の闘い。だが、其処には誰も知らない秘密が在った。
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「『企業小説』、其れも『中小企業を舞台にした小説』を書かせたら天下一品。」と高く評価しているのが、小説「下町ロケット」で第145回(2011年上半期)の直木賞を受賞した池井戸潤氏。冒頭に記したのは彼の小説「七つの会議」の梗概で、此の作品は中堅メーカー「東京建電」と、其の親会社「ソニック」(“大手総合電機の雄”という設定。恐らくは、パナソニックをモデルにしているのだろう。)、そして東京建電の取引先で行われる様々な「会議」を舞台に、或る“大きな秘密”を巡って繰り広げられる「人間模様」が描かれている。
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・コストダウンといわれても、ネジはもともとの受注単価が安い上に、長くやっていれば安くできるという性質のものでもない。結局のところ、下請けの儲けを大企業が吸い上げ、単に利益を付け替えるだけの構造を強いられているに過ぎないのではないか。大企業を儲けさせるために下請けが赤字になる。こんなことをしていたら、日本のものづくりは根底からダメになると思うのだが、サラリーマンである調達担当者にそれをいったところで始まらない。
・客を大事にせん商売は滅びる。
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「誰からも好かれる、人当たりの良い、優秀な人物。」、「“駄目社員”を具現化した様な人物。」、「上には阿り、下には厳しく。“社内政治家”と呼ばれている人物。」、「可も無く不可も無しといった人物。」、「“モーレツ社員”を地で行く人物。」等々、様々な社員が此の小説には登場するが、後になって「其の人物の人格は、如何なる歴史(半生)の下で作り上げられて行ったのか?」が次々に明らかにされて行く。「憎らしいだけの存在。」と思っていた人物の意外な歴史を知り、其の人物に共感を覚えたり、其の逆に「好感の持てる人物」の意外な顔を知って、複雑な思いになる等、キャラクター作りの上手さ&ストーリーの起伏の絶妙さは最早、唸るしか無い。
「『自分だけ儲かれば良い。』という考えでの商売は長続きしない。商売に関わる人間の多くが幸せになれる遣り方は、仮令『目先の利益』が大きくなくても、結局は長続きする物。」というのは、亡き父親が子供だった頃の自分に良く言っていた言葉。当時は「そんな物なのかなあ。」という程度で聞いていたけれど、社会人になって其の言葉の意味合いが良く判る様になった。「七つの会議」に出て来る「客を大事にせん商売は滅びる。」という記述も、同じ方向性に在る考え方だろう。
最初は無関係に思われていた人物達が、ストーリーの展開と共に、次々とリンクして行く上手さ。「『働く』事の意味合いとは、一体何なのだろうか?」を、若い人程考えさせられる作品でも在るだろう。
総合評価は、星4つ。
「たかがネジで、そんなに大騒ぎするなんて・・・。」と、少なからずの人は瞬間的に思うかもしれませんね。しかし読み進めて行く中で、ネジの不具合が何れだけ恐ろしい事態を引き起こし兼ねないかを知り、ぞっとする事でしょう。
インターネットが普及する前ならば、企業にとって不都合な情報は結構隠蔽出来たでしょうが、今では其れも難しい。「客に喜んで貰える商売を、誠心誠意行う。」、ビジネスの基本を忘れた企業の未来は、決して明るくない。